かくして幻想へと至る 作:虎山
迫り来る脚を刀で切り落としながら回避する。同時に二、三ケ所から来る攻撃は今は回避だけで精一杯だ。
大妖怪のなり損ないと言ったが、それでも現在の実力では一気に倒しきれない。
切り落とした脚がすぐに再生する。直前に人を食っていただけあって妖力は高まっているのか、再生が速い。
「うろちょろと動き回ってまるで蝿ね。面倒だ、わ。」
六方向からの突き刺し。敢えて懐に飛び込み、体を捻りながら刀を振り脚を切り落としながら接近する。
人間部分の腹部に掌底を叩き込み、押し飛ばす。それなりに通っている感じだが、辺りの糸を手繰り寄せて木にぶつかる際の衝撃は吸収している。
「ぐぅ、くそが!」
悪態をつきながらも脚を再生させている。妖力を削っていけばそのうち倒せるだろうな。
「あと何回切り落とせば、再生できなくなるのだろうか。」
「なめるなよ、人間!」
激昂しているように見えても、勢い任せに来ることはない。純粋な戦闘では不利と考えているのだろうな。
ふと何かに気づいたように視線を外した。いいタイミングだ。
「よそ見していいのか?」
急接近し首を蹴る。脚で防がれ、反撃をもらう前に距離を取る。
「・・・あんたは囮役か。小賢しい真似してくれるわね。」
「その様子だと無事救出できそうだな。途中であんたが引き返して人質に使われると面倒だったが、これでもう問題ない。」
捉えた人を糸で管理していたのだろう。菫子が瞬間移動で連れ去るのだから、消えたように感じたのだろうな。おそらくこの様子だと二人同時に移動させたか。
(無理はするなと言ったはずなんだがな。いや、一人残っていた時の事を考えると無理して瞬間移動したのは結果的によかったか。)
「・・・もう許さない。全ての力を使ってあなたを殺す。」
妖力が跳ね上がる。蓄えた力を開放した影響か、辺りの糸から妖力を感じなくなった。
感知を捨てて、俺を殺す為だけに力を割いたか。
(これが全力か。脅威ではあるが、絶望を感じるほどのものではない。どちらにせよこいつは詰んでいる。)
これまで以上の速さで動き回り、突き刺してくる。それだけじゃない。糸を戦闘に使い、変則的な軌道で攻撃を仕掛けてくる。
手数も多くなり数ヵ所に傷をつくる。
(くっ、やはり一筋縄ではいかないか。)
「あなたが囮役ってことは戦闘能力が一番高いからとみた。そんなあなたでも防ぐのに精一杯ね。」
僅かな隙をついて相手の下に陣取る。
霊力の砲撃を打ち上げる。幻想郷ほどの力はでなくとも牽制程度にはなる。
だが、なんなく避けられる。
「霊力まで扱えるなんて益々珍しい。あなたを食べる楽しみが増えたわ。」
「簡単に食えると思うなよ。」
手を握り、打ち上げた霊力を拡散させる。爆発音と光が発し、霊力の弾丸が降り注ぐ。
高威力砲撃は出せずとも、高速であれば小さい弾丸であってもこの妖怪の体を貫ける。
「・・・外皮も硬化しているのか。」
刀で切り落とした感覚から十分な威力だと思ってたが妖力の上昇と共に身体を強化したのか、弾丸は外皮に弾かれる。
「強化して正解だったわ。脚の再生は容易いけど、それ以外の再生は面倒だからね。あなたの攻撃はもう通らないわ。」
「・・・一つ誤解をしている。」
「この期に及んで何を言うつもりかしら。辞世の句でもあるとでも。」
「いや、戦闘能力についてだ。お前は俺が一番強いだろうと言ったな。それは間違いだ。純粋な戦闘能力なら俺より強いやつが来てるぞ。」
草木をかき分ける音が響く。その音で注意を向けるがもう遅い。
注意をそらした隙に顔に霊力をぶつける。
「くっ、目潰しか!」
「・・・切れ、妖見。」
鋭い斬擊が妖怪を襲う。見えない状態でも回避しようと跳ぶ。それでも避けられない。
「きゃあぁぁぁ!」
甲高い悲鳴が轟く。蜘蛛の部分が切り裂かれ、内蔵が飛び出す。
間一髪で致命傷は回避したか。残っている脚を木に突き刺し体を支えている。もう少し余力がある様子だが、切られた断面から血や臓物が流れている。しぶとい妖怪だ。
「・・・これが妖怪ですか。」
刀に着いた血を払い飛ばし鞘に納める。
「そうだ。種族は分からんが見た通り蜘蛛の特徴を持っている。さっきの攻撃で蜘蛛の部分の半分以上が切り落とされたがな。」
息が上がり険しい表情を浮かべる妖怪。さっき言っていた通り脚以外の再生は苦手のようだ。強敵との戦闘経験があまり無いのだろうな。
だからこそ大妖怪には成りきれない。
「妖見は人間部分の手を狙え。残った二本の脚では速い移動はできないから狙えるだろ。」
「分かりました。ついでに脚も切っておきます。」
木を伝い急接近し、妖怪を通過した。いつの間にか刀は抜かれており、体を支えていた脚と人間部分の手がズルリと離れ、妖怪は地に落ちた。
「いつの間に、切ったの、よ。」
目で捉えきれない速さからの斬擊。俺の速さに慣れた上でそれ以上の速さに瞬時に対応できるはずはない。糸での感知を続けていれば対処できたかもしれないだろうが。
地に落ちた苦しみのたうち回る妖怪に近づく。
「最後に言い残すことはあるか?」
「取引があるわ!八雲紫って言う妖怪についてよ!幻想郷の管理者の妖怪だからあなたにとっても悪い話じゃないでしょ?だから今回はみの」
「悪いもう知ってる。」
これ以上ベラベラ喋られても困る。霊力の砲撃で頭を消し飛ばす。
少し痙攣した後、動かなくなった。
「・・・容赦無いんですね。」
「悪戯に長く生きながらえさせるわけにもいかない。それに妖怪の相手をする時は確実に仕留めるまでは油断できない。」
「覚えておきます。聞きたいのですが、さっきこの妖怪が言ってた幻想郷って何ですか?」
「俺もよくは知らん。菫子が探してる場所だ。異形の者達が集まると言っていたから聞いてみたが、たいした情報は持っていなかった。」
霊力で妖怪に火をつける。焼き尽くすまではここで見張っておこう。
「・・・さっきの合図といい、今の火を起こしたのも気になるんですが、菫子みたいな超能力ではないんですよね?」
「違う。霊力を変化させるのは後天的にできるようになっただけだ。」
「私も菫子もあなたが何者なのか未だに理解できませんし、何故妖怪との戦闘も慣れているのかも分かりません。教えてはくれないんですか?」
「そうだな、、帰りに少し話すか。」
燃えかすになるまで素朴な話を続けた。
・・・
車に戻ると近くに女性が二人寝かされていた。やや衰弱した様子ではあるが生きているようだ。
車を背にして座っている菫子も少し疲れているようだ。時間が経ったとはいえ、二人を運んだのはそれなりに無理をしたのだろう。
「随分と遅かったわね。」
「後処理をやっていたからな。そっちはどうだった?」
「最悪だったわ。ぐちゃぐちゃの人間なんてもう見たくないわ。」
「そうか。すまなかったな。二人同時に瞬間移動したのも結果的には助かった、ありがとう。」
「どういたしまして。で、この二人どうするの?」
「目を覚めすまで待って説明したいこともあるが、この状態では無理だろう。後の対応は任せるだけだ。」
宇佐見さんを通して警察に来てもらおう。直接警察に伝えても信じてもらえないだろう。
「二人の拘束を解いてやってくれ。」
二人の拘束、糸を切っている間に事のあらましを伝えた。
『そうか、二人だけでも無事だったか。それにしても妖怪の存在か、、、』
「どうしますか?信じてくれるとは思ってませんが、被害に遭った二人の証言や現場の不可解な点を含めると野生動物とは思われない。宇佐見さんに連絡を入れた警察に来てもらえないですか?」
『連絡はしておこう。少し待ってもらうことになるが、その二人は病院に連れていかなくてもいいのかい?』
「衰弱している様子ですが目立った外傷はないので、急いで対応する必要はないと思われます。起きたら水と食料を与えながら様子を見ます。」
『分かった。今回もありがとう。』
「いえ、お互い様ですよ。また後日報告しにいきます。」
電話を切る。二人の様子を見ると目が覚めたようだ。こちらを見渡して困惑している。
「目が覚めたようですね。あなた方二人は助かりました。水と軽い物でも入れてください、話はそれからです。」
二人にペットボトルの水とパンを与える。困惑しながらも状況が分かり始めたのか、おずおずと手にする。
少し食べるのを待ち話に入る。
「どこまで覚えていますか?嫌な事もあるでしょうし、思い出したくないなら構いませんよ。」
旅行の始まりから教えてもらう。大学のサークルらしく、同学年の三人と先輩一人で来たそうだ。山に入る前に危険な場所については聞いていたそうだ。
危険な場所というのも昔からその周辺には行かないようにと近隣では言われていたそうだ。
「・・・最初に先輩が何かいる気がするって言って、行ってはいけない場所に入っていったんです。一人では危ないだろうということで、みんなでついて行ったんですがそこであれに、、、」
苦い表情をする。恐怖で体が強張っている。
「そこから先は大丈夫です。無理させたようですみません。」
(目の前で食われるのも見ただろうし当然か。それにしてもその先輩とやらが少し勘が鋭かったのが原因か。)
普通だったら不気味程度だが、何かがいると直感的に分かるなら、それなりの霊力を持っていたかもしれない。
(始めに食べた人間が力を持っていたとしたら、妖怪が快楽に浸るのも無理はないか。)
霊力の大きい人間ほど食べたときの衝撃は大きいと言うが、今回はとことん運が悪かった。
(・・・ん、この二人の体に宿る妖力はまさか、、、)
自分の妖力を馴染ませる魂胆かと思っていたが、二人の気力が体の妖気の一点に集中している。
「・・・ちょっと失礼。」
「え、あ!」
一人の服を捲り、お腹に手を当てる。集中して、小さな妖気の動きを感知する。
(・・・生きている。あの妖怪、自分の子を産み付けたか。)
「・・・何してんのよ。」
怪訝な目で見られる。いきなり服を捲って触りだしたらそうなるか。
「菫子、透視で今俺が押さえている部分を一点集中で見てみろ。」
「・・・卵?何これ?」
「おそらくは産み付けらたものだ。丁寧に糸で付けられて生半可な衝撃じゃ取れないようになっているな。」
「放っておくとどうなるの?」
「予想でしかないが内側から肉を食い破って出てくる。この様子からして孵化までそう時間はかからないだろうな。」
ここまでの会話を聞いて二人が青ざめる。
「・・・私達は助からないんですか?」
「いや、助けることはできます。早めに取り出さなければいけませんが、病院に行ったところですぐに手術できるとは思えない。あなた方二人とも体力が低下している状況では先ずはそっちを優先するでしょうしね。」
だが、気力を吸われてるのもあり回復は遅くなるか、そもそも回復しないか。
どっちにしてもこの場で処理した方がいいか。
捲った服を戻して、問いかける。
「痛い方法と恥ずかしい方法、どちらが良いですか?すみませんが僕ができる方法は限られてるので。」
「・・・痛くない方法でお願いします。」
「分かりました。この事は忘れてくれるとありがたいです。」
顎を上げ口を開けてもらう。開いた口に自分の口を重ねる。
「んー!」
方法を言わなかったのは悪いが、どっちにしろこの方法が一番負担が少ない。
霊力、気力を与えながら中の妖気を拒絶させて引き剥がす。剥がれたところを吸出して体から出してやる。
口を離し、吸出した卵を吐き出す。微妙にうねっており孵化が近いことが分かる。踏み潰して死滅させる。
女性は顔を赤らめて息を荒くしている。術の都合上感覚を狂わすから仕方ないか。
「・・・お前らもあんまり見るな。」
菫子、妖見の二人からじっと見られる。治療行為とはいえなにも思わないわけではない。
「生で接吻は初めて見たわ。」
「同じく。少し興奮しますね。」
見ないという選択肢はないようだ。
「・・・あんたはどっちだ?」
もう一人に問いかける。
「・・・さっきの方法でお願いします。」
同じようにして妖怪の卵を取り除いた。
とりあえずはこれで一安心ができる。戦闘と治療でそこそこ消耗した体力を回復しながら警察の到着を待った。
当初の作戦→囮:霊吾君 救出:菫子、妖見
変更後→囮:霊吾君 救出:菫子 奇襲:妖見