かくして幻想へと至る 作:虎山
奇跡
『次は~』
電車のアナウンスが耳に響く。随分と遠くまで来たが、今回は宇佐見さんからの依頼ではない。だが宇佐見さんに聞いた噂ではある。今から行く地域で熱心に信仰を集めている少女がいるとのこと。不思議なのはその少女と関わった人が口にする「奇跡」という言葉。
奇跡を操る少女。かつて幻想郷にそのような存在がいたというのを聞いたことがある。幻想郷に行くための手がかりになり得る可能性は高い。
駅のホームに立ち、辺りを見渡す。田舎といっても遜色ない場所だが、意外にも人が多い。若い人が多い気がする。キョロキョロと辺りを見ていると、女の人が話しかけてきた。
「あなたももしかして奇跡を見に来たんですか?」
あなたもということはこの人は実際に奇跡とやらを見に来たのだろう。あんまり期待してはいないという感じだが。
「そんなところです。奇跡といってもあなたは何を期待しているのですか?」
「まあ、何というか。出会いかな。」
そういうと少し照れているようだ。・・・面倒だな。少し惹かれている。人より霊力を感じる人間は呪いを受けている自分に惹かれることがある。自意識過剰というわけではないが、ある一定の人にはかなり目立つようになっている。
菫子や妖見ほどの強さを持っていても、二人とも初見でそれなりに興味を持っていたようだったからな。
「あなたは何か叶えたい事でもあるんですか?」
「俺は奇跡が起こる瞬間を一目見たいだけですよ。」
適当に話を合わせながらよく現れるという場所に向かう。山の麓にある小さな公園で不定期で演説をしているとのことだ。
目的地に着くとちらほら人が見える。駅で見た顔がほとんどだ。
「結構噂って広がっているんですね。」
「そうみたい。やっぱり本当に奇跡ってあるのかな。」
「さあ。けどこの人集りを見るに嘘というわけでもなさそうだ。」
十人近くが田舎の小さな公園に集まっている。周辺住民はどう思っているのだろうか。ここに来るまでの道中であまり現地の人には会っていない。
山道から少女が現れる。菫子よりも少し幼い少女だと思われる。
よく目立つ緑色の髪、霊力の質、僅かに感じる神力。間違いなく人間以外の血が入っている。
手に大麻を持ち、小走りでやってくる少女。
ゾワリと右腕に不気味な感覚が走った。神の呪いが強くなったような気がした。
(・・・気のせい、ではなさそうだが一先ずは置いておこう。それにしても少女一人で山から来たか。この辺りの住人だろうが親は何をしているんだ。平日の昼間だっていうのに、学校には行っていないのだろうか。)
いろいろとおかしな点はある。というか学校に行っていない子供が多い気がする。やはり強い霊力、能力を持った人間は適応が難しくなるのだろうか。
「今日もたくさんいますね!こんにちは!」
元気の良い少女の挨拶が響く。挨拶を返しているもの、戸惑っているものなど各々に纏まりはないようだ。
少なくともサクラのような奴らは居なさそうだ。
「あのー、君が奇跡を叶えてくれる子かい?」
壮年の男性が問いかける。興味本位で見に来たにしては真剣な表情に見える。
「はい、そうです!何か悩み事や困った事がありますか?」
「・・・家内、奥さんなんだけど、少し前から入院しててね。もう目を覚まさないかもしれないんだ。医者はもう長くはないと言っているのだけれど、諦められないんだ。だから、奇跡を頼りに来た。」
最後の頼みの綱というわけか。人の生死を操るなんて無理だろう。神でもない限り。神といっても死に特化しているやつもいるが。
「・・・それがお願いですか?」
「そうだね。お嬢ちゃんに奇跡を起こしてほしい。できるかい?」
「頑張ってみます!」
手を合わせて目を瞑る。祈りに近い様だが、神に願いでも届けているのだろうか。
(・・・待てよ。こいつ対象の名前どころか依頼者の名前すら分かっていないはずだ。どういうものかは分からないが、術の対象がいない状況でなぜできると言える。それとも本当に奇跡を起こすという単純な能力なのか。)
奇跡を操るといわれ、対価を支払い願いを叶える系の術、もしくは能力かと考えた。
だが、違うようだ。ただ純粋に奇跡を起こすだけの能力。故に制限がない。
壮年の男性の携帯が鳴った。全員の視線が一点に集まっているのが分かる。
「はい、、、ちょっと遠くにいますんですぐには、、ほんとですか!いえ、すぐに向かいます。電話はかけてもよろしいのですか?、、はい、分かりました!」
電話を切り、少女に向き直る。
「・・・君のおかげかな。奇跡というのを信じてよかったよ。」
「奥さんからでしたか?」
「病院からでね。意識を取り戻したそうなんだ。」
「よかったですね!早く行って上げてください!」
「お礼でもしたいのだけれど、君はまたここに来るのかい?」
「でしたら、山に神社がありますので、そこに来ていただけると嬉しいです!」
また後日お礼をさせてくれと言って壮年の男性は立ち去る。
そのやり取りを見て、数人が寄っていった。奇跡がその場で叶うものもいれば、時間が立って分かるものもいる。どちらにせよ、少女は自信満々に応えている。
一人一人と去っていくなかで、共に話していた女性も少女の元に寄って願いを叶えてもらうようだ。
「出会いですか?」
「できますか?」
「うーん、やってみましょう!あなたが望む相手を思い浮かべてください。」
同じような祈りを捧げる。どんな奇跡であっても変わらないか。
「・・・すぐに見つかると思います!出会った時は二人で神社に来てください!」
「どこで会えたりとかって分かりますか?」
「そこまでは分からないです。けど、普段通りにしてるとどこかで必ず会えます。信じてください!」
「・・・分かりました。」
女性はこちらを向いて頭を下げて帰っていった。
「えーと、最後の方ですかね。あなたも何か望みがあって来たんですか?」
少女がこちらに向かってきた。
「望みは特にないかな。ただ、奇跡を少し見に来ただけでね。少し聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
「何でしょうか?」
「幻想郷と言う言葉を知っているかな?」
「・・・私は分かりませんが、諏訪子様や神奈子様が話しているのを聞いたことがあります。どこかの場所の事なんですか?」
様と呼ぶのか。人ではない可能性が高いな。それにこの子が近づいてきてから呪いが強くなった。
嫌な予感だ。
「そうだね。遠い場所だと思う。詳しくは知らなくて聞いたんだけど、その二人とは会えるかい?」
「えーと、神社に来ていただければ、会えるかもしれないです。」
含みを持たせた言い方だ。幼い子だろうが、色々と経験はしてきているだろう。
存在が認知されなかったと考えるのが妥当か。神様はここにいると見えていても、誰もが信じてくれない状況。奇跡という分かりやすい結果での信仰集めは、彼女なりの考えか。
「安心してほしい。こう見えて霊力の扱いには長けている。元々は神社の仕事もしていたから、神様がいるかどうかくらいは分かるよ。」
そう言うと、驚いた顔をした。
「ライバルですか!私の秘密でも探りに来たんですね!」
「・・・そういう訳じゃないよ。それに今は関わりがないからね。ただの興味だけだよ。神社に連れていってくれるかい?」
少し思い込みの激しい子なのかもしれない。
「そういうことですか。では、神社に行きましょう!」
嬉しそうにこちらの手を引き、歩きだそうとした。
手が触れた瞬間、本能に死の警告が響いた。かつて受けた呪いが頭に呼応する。
咄嗟に手を離す。少女も何か感じ取ったのか、振り払われた手を見ていた。
「・・・この感じ、まさかあなた!」
ハッとしたようにこちらを真っ直ぐに見つめる。
(あの神の末裔だったか。もう少し幻想郷で調べておくべきだったか。)
「運命の相手ですね!」
「・・・は?」
「いやー実は見たときから胸がドキドキしてたんですけど、この感じは恋ですね!」
おそらく違う。呪いを受けた俺はこの少女からすると天敵のようなものだ。だが、まだ幼いこの子にとってはその衝動を理解できないのだろう。
(よりによってそう思うのか。騙しているみたいで悪い気がするな。)
「手を繋ぐと胸が爆発しそうになりそうでしたし、もう少し大人になってからですね。今日は私に付いてきてください!」
より嬉しそうに歩きだした。変に誤解されるよりはよかったか。
早苗は現代過去で出したかったキャラです