かくして幻想へと至る   作:虎山

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呪い

 山道を歩く。近づいてはダメだ。勘がそう告げている。

 

(・・・呪いが徐々に強くなってきている。封印で抑えているとはいえ、どこまで耐えられるか。)

 

 封印が解ければどうなるか。すぐに死ぬわけではないだろうが、これ以上の対処ができない現状では時間の問題だ。

 

「霊吾さんと言うんですね。私は東風谷早苗と言います。この先の守矢神社の風祝をしています。まだ見習いなんですけどね。」

 

 こちらの事情には気付いていないようだ。名前を聞かれたが、幻想郷に行くであろうこの子に霧雨というのは言わないでおこう。珍しい苗字ということもある。

 

 風祝、巫女に近いものか。修行でもしているのだろうが、霊力の質が普通の人とは違う。やはり神の血が入っていると独特のものになっているのだろう。

 まるで風祝になるために生まれてきたような、そんな感じがした。

 

(・・・幼い少女で見習いか。かよを想ってしまうな。)

 

 もう会うことはできない。同じくらいの年で似たような境遇。ずっと心にあるが、つい考えてしまう。

 

「・・・泣いているんですか?」

 

 自分でも気付かないうちに涙が出ていたようだ。現代に来てからの疲労、人への隠し事の罪悪感、戻れない幻想郷への想い。それが一気に出たのだろうか。

 

(呪いで死を感じることも影響していたか。我ながら情けないな。)

 

「すまないね。何でもないよ、気にしないで。」

 

「・・・霊吾さん、叶えたい願いとか無いんですか?せっかく来てくれたんですから、奇跡を信じてくれませんか?」

 

「すまないね。僕の本当の願いは絶対に叶わないんだ。それに今の目的にもまだやれることがある。早苗ちゃん、奇跡の価値を考えたことはあるかい?」

 

「価値ですか?」

 

 考えたこともない感じだろう。それもそうだ、奇跡を操れるのだったら、価値も何もないだろう。

 まだ幼いこの子が考える必要はない。これはただの自己満足だ。

 

「これから言うことは君には少し失礼かもしれない。聞きたくないなら大人の嫌な戯言と思って欲しい。」

 

「大丈夫です!嫌なことはいっぱい言われてきました。聞かなくてもいいって言ってくれるだけで十分です。それに奇跡の価値も知りたいです。」

 

 ・・・例に漏れずこの子もきっと苦しい環境で生きてきたのかもしれない。それでも明るく振る舞い、熱心に信仰を集めるのは神のためだろう。

 だからこそ、この子には自分の価値を知って欲しい。これ以上噂が広まってこの子が大々的に利用される前に。

 

「大したことじゃないよ。それにこれはあくまでも僕の考えだからね。奇跡というのは本来、起こるものではない。」

 

 起こらないからこそ奇跡と言われる。

 

「君の能力を見て、奇跡的な確率を手繰り寄せる能力だと思ったけど、それはおそらく副次的なものだと感じたよ。その能力は奇跡そのものを操る神に等しい能力だ。」

 

 実際の神がどんなかは分からないが、この子の能力は人の運命をねじ曲げることができる。

 

「今の段階ではまだ興味本位の人や必死な人しか来てないから分からないかもしれない。君の噂がそれこそ本当の事であると思われてしまった時、どうなると思う?」

 

「・・・いっぱい人が来ると思います。」

 

 自信がないように答える。この子も分かってはいるのだろう。分かった上で人の良い部分を見ようとしているのか。まだ、この子に背負わせるには早すぎる。

 

(本来なら止めてくれる人がいるはずなんだがな。)

 

 これ以上言うのは酷だな。

 

「・・・分かっているようだね。奇跡を思いのままにできるなら人は争うかもしれないね。これ以上は言わないよ。ただ、君のためにもあまり人の願いを叶える事はしない方がいいと思うよ。」

 

「・・・それでも私はお二方のため、、」

 

 小さくボソッと呟く。こちらに聞こえるか聞こえないかどうかと言う声。

 聞こえなかったことにしておいた方がいいのかもしれない。幼いこの子の想いを無下にするのもどうかと考え直す。

 

「そうですね。難しいことはよく分かりませんが、それでも願いを叶えることでみんなが幸せになるのは間違ってないと思います!」

 

 どこまでも真っ直ぐな目。本当にそれを信じている。いろいろと見てきたと思うが、それでも人を信じるようにしているのだろうな。

 

(俺がどうこう言うのも筋違いか。)

 

「まあ、間違ってはないだろうね。一つ付け加えるなら、そのみんなに自分を含めることだね。」

 

 自分の事を顧みずに人の為だけに尽くしているだけでは、いつか壊れてしまう。

 

 

 

・・・

 

 

 鳥居が見えた。そして理解した。

 

 あれをくぐったら死ぬ。

 

「・・・すまない、早苗ちゃん。ここから先は行けない。」

 

「ええ!何でですか?」

 

「理由は言えないけど、ごめんね。君が悪いわけではないよ。」

 

 この子を裏切ることになり、心が痛む。少し無用心だったかもしれない。

 

 ふと鳥居に気配を感じた。人間でも妖怪でもない感じ、神だな。

 目を向けると、大縄を背負った女性が見えた。そちらを見ていると、早苗ちゃんも気づいたのか目を向けた。

 

「あ、神奈子様!」

 

「・・・早苗、その人から離れなさい。」

 

 やや険しい表情。得体のしれない者を見るかのようだ。呪いが分かっているのだろう。

 こちらも早苗ちゃんを説得する。

 

「どうやら僕が元いたところの神様とここの神様は仲が悪かったかもしれないね。君が感じた高揚感はもしかしたら敵対本能だったんだろうね。」

 

「そんな、、でも、霊吾さんはいい人です!」

 

「ありがとう。そう思ってくれて嬉しいよ。だけど今回は運が悪かったみたいだ、あの方が言っている通り僕から離れな。」

 

 渋々と行った感じで鳥居をくぐった。

 

「早苗は諏訪子のところに行ってなさい。私はこの人と少し話があるから。」

 

「分かりました、、、ばいばい霊吾さん。」

 

 悲しそうに手を振って、奥に向かっていった。

 

 

 

 さて、神様とのご対面だ。

 

「お前何者だ。」

 

 毎回聞かれている質問だ。これから先もずっと聞かれることになるだろうな。

 

「何者と言われても人間としか答えられない。」

 

「・・・質問を変えよう。どこでその呪いを受けた?少なくともここ数百年はあいつが人間に呪いをかけたとこは見ていない。何故その呪いを受けている。」

 

 可笑しい。ある程度漏れでてるとはいえ、封印されている呪いが分かるほどではないはずだ。

 

「・・・この呪いがなぜ特定できる?」

 

「あいつがお前の存在を認識できないからだ。私はこの山に早苗と共に不思議な人間がきたと分かったが、相方はお前について何も感知できなかった。もしかしてと思って来てみれば死の呪いを受けた人間がいるとはな。」

 

 呪いをかけた側からしてみれば、死んでいるはずの存在として認識できないか。

 

「・・・下手に誤魔化せないから言うが今から言うことは真実だ。先ずは俺は未来から来た人間だ。」

 

「未来か、些か信じられないな。まあいい続けろ。」

 

「この呪いは未来で受けた。俺が生きている理由はその時に神を殺す事ができたからだろうな。呪いが消えたわけじゃないがな。」

 

「・・・何があった。そもそも我々はいたのか?」

 

「俺が居た未来ではモリヤ神が元凶で異変が起きていた。それを止めるために戦った。あんたはいなかったよ。」

 

「場所はここか?」

 

「いや、幻想郷ってとこだ。知ってるか?」

 

 何か考え込んでいる。幻想郷について知っているようだ。

 

「・・・お前が未来から来たと言うのは嘘ではないようだな。幻想郷に移るかどうかを考え始めていたところだ。おそらくそう遠くない内に移ることになるだろうな。」

 

「あの子のためか。」

 

「それだけではないが、最も重要なのは早苗のためだな。我らを見捨ててくれるならよかったのだが、救おうとしている。普通に信仰を集めるだけならまだよかったのだが。」

 

「・・・なるほどな。神に成ろうとしているのか。」

 

「信仰が我々ではなく早苗本人に向かっている。認識されない我々と早苗ではどちらが人に感謝されるかなど分かりきっている。もう見えないものに想いを馳せる時代ではないのだ。」

 

 悲しそうではあるがそれを受け入れている。

 

「俺から一つ聞きたいことがある。」

 

「何でも答えよう。その呪いについてはこちらの非が大きいのだろう。知っている範囲なら答えよう。」

 

 この神の非ではないのだが、責任を感じているのだろうか。関係ないに等しいと言うのに律儀なものだ。

 

「幻想郷にどうやって行くつもりか聞きたい。」

 

「我々はおそらくだが神社ごと結界の中に転移させる予定だ。」

 

「場所は特定できているのか?」

 

「問題ない。ああ、なるほど。戻り方を知らないのか。人のみではどう行けばいいかはすまないが分からない。一つだけあるとするなら、博麗神社に行き運良く結界内に入るくらいか。」

 

 博麗神社だと。幻想郷にあるものが現代に残っているのか。

 

(境界の境目が博麗神社周辺だとすると、こっちにも同じものがあるのか。分からんが確認する必要がある。)

 

「博麗神社はどこにあるか知っているか?そもそも幻想郷にあったものが現代にあるのか?」

 

「残っているはずだ。迷い込んだ人間が正規の手段で出るにはそこしかないそうだ。詳細な場所は分からないが地名は覚えている。確か、、、」

 

 聞いたことはない地名だ。だが、そこにあるのか。

 

「・・・ちなみにだがその情報は八雲か。」

 

「何だ知ってるのか。大分前に来て誘われた時に話してくれたことだ。」

 

 信憑性はあると思っていいか。

 

「そうか。教えてくれてありがとう。そういえば、名前は何て言うんだ。」

 

「八坂神奈子。今は力なき軍神だがな。お前の名前は何だ?」

 

「霊吾と名乗っている。悪いが上の名前は本来ならない。」

 

「霊吾か。覚えておこう。早苗の事、真剣に向き合ってくれたこと感謝する。ありがとう。次に会うことがあれば幻想郷になるか。それまで生きてることを願っている。」

 

 生きていることを願うか。神様の目でも長くないのが分かるのだろうか。

 

(流石は神様か。だとしても俺は生き残ってみせる。ここに飛ばされた俺だからできることがあるんだ。)

 

 




もう少しで幻想郷に行けそうです
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