かくして幻想へと至る   作:虎山

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十字架の少女と決意 中

 何とも惨たらしい光景だった。見た感じ幼い少女が血まみれで磔にされていた。

 八枝はカタカタと少し震えているようだった。

 

「うそ、ルーミアちゃん、何で。」

 

「この場を離れよう。ここでもあんまりいると里の連中には気付かれる。それに、八枝ちゃんの気持ちの整理のためにもここにはいない方がいい。」

 

 凶が先頭してこの場を離れる。

 

 

 少し歩くと、ところどころ修理跡がある小屋に着いた。八枝はまだ少し震えている。

 

「あれはなんだ、随分と悪趣味だが、ここの人間はあんなことをするのか。」

 

 人間の所業ではないように思える。

 

「君はあれが何に見えた?」

 

 凶の質問の意図がよくわからない。まるで自分が違うように見えているのだろうか。

 

「幼い少女、俺にはそう見えた。違うのか?」

 

「そうだね、結論からいうとあれは妖怪。人からは宵闇の妖怪と言われている人食い妖怪だね。恐怖心を無くすため、ああやってるんだよ。」

 

「・・・人間と変わらないな。妖怪ってのは化物みたいなやつばかりかと思ってたが、不思議なもの、っ!」

 

 突然、頭が裂けそうな痛みが走る。それと共に脳裏にある光景が写る。

 暗い空に、漂う闇。その闇から金髪の少女が現れる。十字架のポーズをとっている少女が何かを語りかけている。

 

「おい、君、大丈夫か。そういえば手を怪我してるじゃないか。」

 

「・・・ああ、問題ない。それより八枝は大丈夫か。」

 

 あの反応から察するに友達なのだろう。

 

「・・・助けなきゃ。」

 

「駄目だよ。助けようとすれば、間違いなく八枝ちゃんは里では生きにくくなる。」

 

「でも、あのままじゃ・・・」

 

 不安そうな表情を浮かべる八枝。

 

「俺が行っても、たぶん次こそ里の連中から大勢で殺られるだろうな。」

 

 凶はちらっと此方を見る。

 

「君に頼めないかな。俺もあんまりああゆうのは見たくないし、子供たちの教育にも悪影響だしね。これだから人に近い妖怪は厄介なんだよね。」

 

「・・・俺か。顔はばれてないからか。一応隠すが、いずれはわかるだろうな。けど、まあいい。俺もあの少女が苦しんでいるところをみたくはない。」

 

 何故か笑顔の少女が想像される。まるでそれが求めるものとばかりに。

 

「とは言ったものの、どうやればいいんだ。少くともあの十字架から離そうとすれば間違いなく見つかる。壁を越えていこうにもばれる。」

 

「俺と八枝ちゃんで注意を引く。その間に何とか頼む。ちなみに妖怪を連れて壁を越えることはできないよ。何代か前の博麗が結界を張っているからね。」

 

 投げやりもいいところだが、それ以上の策が思いつかない。能力を使えば何とかなるかもしれないと思っていたが、空がダメか。まあいいさ。

 

「じゃあ、やろう。八枝、頼んだ。」

 

 

 門を開けると先程は人がいなかったが、ちらほらと人がいる。自分は咄嗟に家の影に隠れ潜む。それを確認し凶が叫ぶ。

 

「助六!八枝ちゃんを見つけてきたぞ!」

 

 それを聞いて、何人か出てくる。凶は八枝を連れて、里の奥の方に歩いていく。それにつられて人も付いていく。運がいいことに十字架と離れたところが八枝の家だったようだ。

 

「おお、八枝、無事だったか!」

 

「すいません、お父さん。」

 

「今度から遠くへ行くでないぞ。・・・助けたのは貴様か。」

 

「だったら何だ、俺だったらいけなかったか。」

 

 不服そうな顔をする八枝の父親。

 

「チッ、とりあえず礼は言おう。だが、あまりうちの娘には関わらないでほしい。」

 

 周りからもそれと同じ様な事を言われる。「必要以上に里に入るな。」、「うちの子供に変なことを教えるな。」など罵声が飛び交う。

 

 

 

 その間に霊吾は能力で最大限まで気配を浮かせ、それこそ空気のように移動して、十字架の裏までたどり着いた。里の人々も話によると男連中が徹夜だったことからある程度はばれないだろうと思われる。

 

「・・・ヒュー、フー・・・」

 

 微かに呼吸の音が聞き取れるが、明らかに虫の息だ。足はブラブラしていたが手は釘で打ち付けられているため、外せない。

 

(少々荒っぽいがこっちでやるしかない。)

 

 手に霊力を集中させ、手刀で素早く十字架を叩き折る。そして、少女を担ぎ上げ、脱出しようとする。

 

「おい!妖怪が逃げるぞ!」

 

 その言葉で、門の周りにいた人が門を閉めようとする。閉じ込められれば袋叩きだろう。

 

(くそっ、限界の体で人1人背負っての浮遊がうまく出来ない。どっちにしろ壁を越えて脱出しようとするのは無理だったな。門を閉められるとまずい!)

 

 落下するように、跳ぶ。滑空しながら空いている片手でマスタースパークを放ち、閉まろうとする門に滑り込む。

 

(間に合え!)

 

 ドサッドサッと地面に投げられて体を強く打ち、ぼろぼろの体にとどめでも刺すかのような衝撃が回る。着地は考えてなかったが何とか出れたようだ。後ろを向くと、門がまた開こうとしている。

 

(追いかけてくる気か。)

 

 少女を拾い上げ、駆け抜ける。魔理婆さんの結界まで辿り着けば何とかなる。

 

 

 

 だいぶ、走ったせいか、追ってはこない。相変わらず少女は背中で弱々しい呼吸をしている。

 

「しっかりしろ!妖怪なんだから強いんだろ。」

 

「・・・お腹すいた。」

 

 返事ともとれない言葉が返ってきた。

 

(お腹すいたか、こいつは人食い妖怪だったか、、、どうしようか。)

 

 自分の左手を見つめる。

 

(・・・ふー、よし。)

 

 人差し指を少女の口に突っ込む。

 

「食え、多少はましになるだろ。」

 

「・・・あーお肉・・・」

 

 ふにゃふにゃと軽く噛まれた感覚がしたが、指を持っていかれるほどの痛みがこない。

 

「あふぇ、ひゃめない。」

 

 もう噛む力も残っていないのだろう。

 

「・・・仕方ないか。」

 

 唇を少し噛み千切り、背負った少女を前に抱き上げる。

 

「・・・お兄さん?」

 

 頭を抱え込み口移しで直接血肉を流し込む。

 

「んー!」

 

 少し驚いたような声をあげる。

 

「ふー、どうだ。少しましになったか?」

 

 少し苦々しい表情をしたが、無理に作ったような笑顔になった。

 

「・・・情熱的な暖かい味なのだー。いい最後の晩餐なのだぁ。」

 

 絞り出したような声だが、少しは元気が出たのだろうか。

 

「・・・不吉なことを言うな。もう少し待ってくれ、きっと元気になれるから。」

 

 少女を背負い直し、歩き出す。

 

「穏やかな気持ちなのだぁ・・・」

 

 それから静まりかえった。もう寝たのだろうか。

 

 

 昼ではあるが暗い森を歩く。静けさも相まって何ともいえない悲壮感を生み出す。

 

「ねぇ、お姉さん?いや、お兄さん?」

 

 突然後ろから声が聞こえた。振り向くとそこには白い髪の少女がいた。全身にコードの様なものが伸びている。

 

 人ではないと直感で分かる。

 

「・・・妖怪だな。何のようだ。」

 

 不気味な雰囲気をだしているが、敵対心がないように思える。

 

「んーちょっと気になってね。」

 

「じゃあ、後にしてくれ。悪いが今はつき合ってられない。」

 白い少女に背を向けて歩き出す。

 

「・・・何で死体を大事そうに持ってるの?」

 

 ピタッと足が止まる。

 

「もしかして気づいてない。その子もう死んでるよ。」

 

 もう呼吸の音は聞こえない。そんなの気づいてないわけがない。

 

「・・・だからなんだ、死んだからってそこら辺に捨てろと言うのか。」

 

「その子、妖怪だよ。あなたは人間なのにどうしてその子を見捨てないのかなって。」

 

「そんなこと、俺が知りたいよ。」

 

「ん?どういうこと。」

 

「分からないんだよ。会ったこともないこの子の事を知っている気がするんだよ。そのせいか、どうしようもなく悲しくて。」

 

 何故か涙が出る。この感情は自分のものなのだろうか。

 

「・・・優しいんだね、お兄さん。」

 

「どうなんだろう。なあ、あんたは、」

 

 そういって振り返るも少女の姿はない。

 

(・・・なんだったんだ。)

 

 

 

 結界まで辿り着き、中に入る。入るとすぐに上海が家から出てきた。

 

「少年!何処に行ってた、」

 

 上海の言葉が止まる。血まみれの自分と背負っている少女に唖然としている。

 

「ただいま、この子を頼むよ。俺は少し寝る。」

 

「いや、少年の傷も手当てしなきゃ、手の傷もほっといたら大変なことになるよ!」

 

「俺は大丈夫だ。その子を綺麗にしてあげてほしい。」

 

 言い争っている間に魔理婆さんが出てきた。

 

「・・・ルーミアか。」

 

 悲しげな表情を浮かべる魔理婆さん。

 

「知り合いだったのか、魔理婆さん。」

 

「まあの、一番最初の相手だったからの。このご時世、いままでよく生き残ったの。何があったかは後で聞こう。上海、霊吾の手当てを頼むぞ。私はルーミアを何とかせんとな。」

 

 少女、ルーミアを魔理婆さんに渡し、上海に連れられて治療を受ける。

 

 

 

「少年、無理しすぎだよ。今は大丈夫かもしれないけど、明日から痛みがくるよ。切り傷、火傷、それとたぶんだけど肋骨が折れてるよ。何やってたのよ。」

 

 包帯を巻きながら、若干怒った口調で問いかける上海。心配してくれたのだろうか。

 

「人間を助けるため妖怪と戦って、人間からルーミアを助けようとした。今、思えば何をやっているか意味不明だな。」

 

 助けられなかった事に少し自虐的な笑みを浮かべる。

 

「少年にどっちもなんて無理だよ。魔理沙ですらできなかたんだから。無理ならいっそどっちの味方にもならなければいいのに。」

 

 ここで三人でいようよ。上海はそう言っているようだった。

 

「・・・ごめん、上海。たぶん俺はどっちの味方にもなるよ。いやどっちの敵でもいいかな。なんかさ、うまくいえないんだけど、人間と妖怪ってのが殺し殺されるだけの関係ってのが認められないんだ。」

 

 妖怪を殺し、ルーミアが死んだのを見て、何かしら心が動いた気がする。自分とは別の誰かが囁いている気がする。

 

「俺は俺のために戦うよ。どっちかなんて選べないからな。それこそ、不毛な争いがない幻想郷にしたいな。」

 

 上海が呆れたような溜め息をつく。

 

「そんな夢物語を語ってると、次は死んじゃうかもしれないよ。」

 

「けど、そんな時代があったんだろ?」

 

「それは霊夢がいたから成り立っていただけだよ。博麗の巫女でなくて霊夢だったからできたはなしだよ。」

 

 だからといって時代がそんな簡単に変わるわけがない。それに人と妖とを繋ぐものが霊夢だけだったなら増やせばいい。

 

「・・・霊夢じゃなくても、やってみるさ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 ルーミアは好きです。紅魔郷メンバーの中では二番目くらいです。
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