かくして幻想へと至る 作:虎山
地面を蹴り、起き上がりながら距離を取る。だが、それが通らない。
念動力でこちらの動きを抑制してくる。
「ぐぅ、うら!」
気力で全身を強化し、抵抗する。気を抜くと菫子の良いようにやられる。だが、抵抗するだけで精一杯だ。
こちらの様子を見ると、握った手を離し押し出す。その動作で体が飛ばされる。
菫子の霊力が一瞬で背後に回る。霊力が乗った回し蹴りを受け止める。腕から身体中に衝撃が走る。
「場所を変えようかしら。」
一瞬で景色が変わる。背後には先程までの道路ではなく、石垣が広がっていた。回し蹴りを受け止めた体勢で蹴り落とされ、石垣に叩きつけられる。
「ぐぁ!」
霊力で重ねて強化してなかったら背骨が砕けていた。何とか無事に状況確認を行う。水平線には大海原が広がり、何処かの島だと分かる。
本土が辛うじて見えるが、この距離を二人分で瞬間移動したのか。
「やっぱり頑丈ね。あんたを潰すにはあそこじゃ動きづらいし、全力発火なんてしたら流石に死人がでる。ここなら全力をだしても問題ないわ。」
辺りを見渡す理性は残っているのか。俺への怒りで暴走状態には入っているが、目的が俺をここに留めるというなら確かにあそこで暴れるのは得策ではないか。
菫子の全力での能力行使が大規模の災害クラスの被害を与えてしまえば、どうなるかは分からない。
(こちらから動いていても、瞬間移動で裏を取られる。受けに回らざるを得ないが、さっきのような菫子の猛攻を防ぎきれるとは思えない。それにこいつの異常なまでの威力は菫子自身の身体が持たない。)
危険性は言ってきたつもりだが、こうなった以上は考える余地はない。
小傘を地面に置く。妖見にはよかったが菫子相手には部が悪い。不意を突かない限りはこいつに攻撃は当たらない。
菫子の姿が消える。背後に感じる気配。肘で突き上げるが反応がない。同時に正面に現れ掌底を叩き込もうとしている。防御で弾く瞬間にまた消える。
側面からの衝撃で弾け飛ぶ。岩壁にぶち当たり、体から嫌な音が聞こえる。
(く、速いな。感知で追える速さではない。一方的な防戦、いや蹂躙だな。手も足もでないと思ったのは久しぶりだ。)
「考え事してる暇なんかあるの。」
いつの間にか目の前にいる菫子。下から突き上げるように蹴り込む。腕で防御するも上空に投げ出される。
上に弾かれるだけなら問題ではないが、こいつ相手には意味がない。
引っ張られる感覚と共に菫子に引き寄せられる。手に霊力を集中させ殴り込む気か。
霊力の砲撃を引っ張られながら放つ。瞬発的移動を鍛える必要の無い菫子が避けるには瞬間移動するしかない。
「ちっ、ふん!」
霊力を纏った拳で砲撃を消し飛ばす。少しでも拘束が緩めば振り払える。
「逃がすか!」
「逃げねえよ。」
拘束を振りほどいても引っ張られた感覚のまま距離を詰める。距離を取ることに意味はない。それに動いてさえいれば瞬間移動で一方的にやられる事はない。
懸念点が一つある。こいつの能力を俺が把握しきれていないことだ。次から次に新しい超能力を発現させるこいつの限界を俺は知らない。
(だが、考えている暇はない。接近戦に持ち込めば俺の方が有利。)
格闘術の手解きを受けても菫子が妖見の様に素の戦闘能力が格段に高くなることはなかった。そもそも護身術程度で十分だった。
霊力を乗せた一撃は重い。身体能力はそこまで高くなく、戦闘スタイルはよくて俺の劣化版と言っていいが身体能力を補うだけの霊力を持ち、護身術は必殺の拳に昇華している。
だが、当たらなければいい。
懐に潜り込む。
「接近戦ならいけると考えるほど弱気になったの?止まらないなら止めるまで!」
手を突きだし握る。その瞬間体が硬直する。抵抗するも全く体が動かない。だが菫子も全力でこちらを拘束しているのか両手を握っている。
「ぐ、いちいち抵抗が強い!」
完全な硬直状態。こちらからは仕掛けることができない。
(瞬間移動と拘束の外れはほぼ同時。姿が消えた瞬間に菫子に対応するのが一番だが、普通の俺なら無理だな。、、、幻想郷まで取っておくつもりだったんだが使わざるを得ないな。)
菫子の姿が消える。と同時に拘束は解かれたが、後ろに気配を感じる。先ほど同様、瞬間移動での撹乱をしてくるだろうな。
袖から札をだし、起動させる。
(『
菫子の拳を掴む。俺の動きで当たる直前に瞬間移動する算段だったかもしれないが、止めてしまえば問題ない。
「なっ!止められるはずないのに!」
「・・・俺は魔法使いに成れなかったと言ったが魔法が使えないとは言っていない。まあ、ここで使うつもりはなかったんだが。」
がら空きの胴に掌底を叩き込み弾き飛ばす。手応えに違和感を感じるが、すぐに答えが出る。
吹き飛んだ菫子が途中で止まった。まともに当たれば強化していても通るはずの攻撃、落とす気で打ち込んだが。
「はぁ、はぁ、やっぱり奥の手を隠していたわね。準備しといて正解だったわ。少しでも隙があったら絶対ここに打つはずと思ってたわ。」
腹を叩くと金属音がなった。局所的に防御策を講じていたか。全部でないにしろ衝撃を抑えたか。
「・・・戦闘を様々な物で補うか。教えたことに忠実で何よりだ。」
左手に持った札が光を失う。紙自体が力を蓄える性質を持つものだが、一度きりの代物。また組み直せば使えるが魔力を造りだし蓄えるまでに時間がかかる。
古物店に立ち寄った際に交渉の末三枚ほど買うことができた。
三回分の魔法だがそれなりに制限はつく。時間変換は倍速が限界、他二つも威力は抑えられている。
(他の二つは直接使うには危険すぎる。できるなら使いたくないが、、無理だろうな。だが簡単には使わない。)
気力を足に集中させる。菫子の不意を作る手段はまだある。まだこいつに見せていない技はある。
高速で詰め寄る。瞬間移動で背後に来る。気力を爆発させて加速し、側面から掌底を叩き込むが消える。
(ここだ!)
菫子が蹴り込みをする瞬間に消え、足が頭を通過した。だが俺の姿は煙のように散る。
「ちっ残像か!」
瞬間移動でその場を離れるが遅い。俺と一緒で後ろに下がる癖までついてしまったならこいつが当たる。
瞬間移動の直前に霊力の砲撃を移動線上に放つ。
砲撃は姿を現した菫子に直撃した。たいした威力ではないが、隙を作るには十分。
(今なら落とせる!)
首筋を手刀で叩きつける。見えない今なら瞬間移動での回避もままならない筈だ。
手刀がピタッと止まった。手刀を掴まれた。セメントで固めたようにピクリとも動かない。尋常じゃない霊力の強化。
鋭い眼光がこちらを覗く。僅かに赤くなった頬が怒りの形相を強調させる。
「乙女の顔を傷付ける男は嫌われるわよ、タラシ野郎。」
霊力の乗った拳が腹に突き刺さる。まともにもらい転がりながら吹き飛ぶ。胃の中の物が吐き出て、咳き込む。何とか立ち戻るが、目の前に菫子がいない。
(どこに飛んだ!)
辺りに姿が見えない。感知範囲も少し前から維持できていないこともあり見失った。
直感が命の危機を伝えた。咄嗟に上を向くと巨大な炎の壁が迫り来る。回避が間に合わない。
「燃え尽きろぉ!」
爆炎の主は高らかに叫んでいる。叩きのめすことを忘れ、殺すことに全力を出している。
辺りが火の海に包まれた。
・・・
「・・・呆気ないものね。」
勝敗は決した。一応、少しだけ手加減はしたが、無抵抗でくらって死ぬことはないだろうという算段のもとに放った火炎だ。
「死んでないわよね?」
火の海に近づく。生きていたら拾って病院に連れていってやるかという程度にしか思っていなかった。
炎の中から爆音が鳴り響き、蒼い炎が中心から広がる。自分の炎ではないその色は戦闘続行を意味していた。
「・・・そうよね。この程度であってもあんたは倒れないわよね。」