かくして幻想へと至る 作:虎山
「・・・虚日・ロイヤルフレア。」
札の光が消える。二枚目の広範囲攻撃を目的とした魔法。純粋に威力を高めることは出来ないが、炎の性質を変えることで強化できた。
より高温を求めた結果、炎は蒼く変わり普通の火さえも焼き尽くすほどのものになった。
(防御に使うとはな。だがこの蒼い炎はまだ俺の制御化にある。)
蒼い炎を集め、炎の波を放つ。
「この程度、防ぐことは出来るのよ!」
菫子の炎と蒼い炎がぶつかり消滅する。菫子の爆炎といい勝負なら改良の結果は出ているな。
「はぁ、はぁ、くそ!」
膝をつき、額から大量の汗を流す。体力の限界が来たか。念動力、瞬間移動、発火といった超能力を短時間で使用している。しかも限界を超えている威力や回数で体が持つわけがない。
「・・・諦めろ菫子。これ以上、戦うな。」
「うるさい!黙れ!」
走りながら詰め寄る。瞬間移動する力も惜しむほど消耗している。
互いに霊力の強化を行っていない格闘戦。菫子だけが消耗しているわけではない。菫子の動きに付いていくための身体強化、時間変換での負荷、菫子からの打撃でこちらも戦闘続行はきつい状況だ。
互いに意地の張り合い。先に体力が底を尽きた方が負け、いや立ち上がる力も無くなった方が負け。
だが純粋な格闘で俺が菫子に負けることはない。だが、互いに打撃を避けることはしない。
俺は最後の菫子の抵抗を受け止めるため。菫子は純粋に負けず嫌いな性格だからだろう。
殴り、殴られ、蹴り、蹴られを繰り返す。どこに当てるかなど関係ない。振るう拳が、蹴り出す足が相手に当たりさえすればいい。互いの拳は二人の血が混ざり合い赤く染まっている。
血反吐を吐き、腹に掌底を打つ。金属の板があろうが通る技はある。
鎧通し。幻想郷では内蔵にダメージを与える技だが、本来の使い方である装甲を無効化するために使う。
「うっ、、、があぁぁ!」
獣のような叫びをあげ、心臓を殴り付けられる。
「ぐっ、うらぁ!」
一瞬、気が飛びそうになりながら気付け代わりに頭突きを頭に叩き付ける。
二人ともフラフラになりながら後方に仰け反る。
「はぁ、はぁ、、、いい、かげん、くたばってよ。」
「悪いな、往生際は悪いんだ。俺との根性勝負は分が悪いぞ。早く家に帰って休め。」
「あんたも!一緒なら!帰ってやるわよ!」
距離を詰めてその勢いのまま蹴り上げる。脇に差し込まれ、肩が外れる感じがした。久しぶりに痛覚を浮かしているため痛みは感じないが、久しい感覚で思うように体が動かせない。
「それは、無理って言ってるだろ!」
体全体で菫子を突き上げる様に突進する。衝撃で無理やり肩を嵌め込み、体勢を整える。
突き飛ばしても、踏ん張って着地する。膝が少し震えているが、腿を叩き動かそうとしている。どこまで意地を張っているんだ。
「・・・これ以上の続行は死ぬぞ。お前がもし幻想郷に行くなら、よく考えろ。ここで朽ちてお前は満足か?」
「何度、言われても、変わらないわ。でも、そう、ね。最後の一撃、受け止めたら、諦めて、あげるわ。」
瞬間移動で距離を取った。
「今まで、やったことはない、けど最高威力の技よ。持てる力、全てをこれに込める!」
両手を前に突き出し重ねる。あたりに爆炎が発生し、重ねた手に集まる。一点に炎を集中し、留めている。
(発火を念動力で無理矢理ねじ曲げているのか。霊力も同じく手に集まっている。あれを解き放ったら凄まじい砲撃になる。二つの超能力の同時使用と平行して霊力を操るか。相当な集中力と精神力だが、負担はそれだけ大きい。)
鼻血を垂れ流しながら、無我夢中で力を集めている。負担やその後の事などどうでもいい。ただただ全力をぶつける。
「・・・いく、わよ!これが私の全てよ!」
力が極太の赤い閃光となり解き放たれる。限界を超えた一撃は、無抵抗で受ければ消し飛ぶな。
最後の札を起動する。札に書かれた文字が目映い光を放つ。
届かない憧れに想いを馳せた起源の魔法。
「悲恋・マスタースパーク!」
極太の黄金に輝く閃光が赤い閃光に衝突する。轟く爆発音と激しい光が辺りを包みこんだ。
・・・
「・・・生きてる。痛っ!」
「目が覚めたか?もう少し大人しくしてろ。」
衝撃で気を失っていた菫子が目を覚ました。戦闘中は麻痺していた感覚が正常に戻ったか。あれだけの攻撃と負荷を受けて痛みがないわけがない。
暫くはベッドの上だろうな。
「威力はほぼ互角だった。ただお前は力を出し尽くして倒れ、俺は立っていられた。たった、それだけの差だ。」
「・・・負けたんだ、私。」
静かに涙を流す。嗚咽する声が聞こえる。初めての敗北、何も感じないわけがない。
敗者は何かを失う。勝者でも失うものが多い事もある。争いっていうのはそういうものだ。一番失ってはいけないもののために削り合うだけの戯曲。
「ねえ、もういいでしょ。本当の事を教えて。」
縋る様に語りかけてくる。
「手紙に書いてあることは本当の事だ。だが、言っていないことはある。この事は宇佐見さんにも妖見にも言っていない。」
「やっぱりまだ言ってない事があるじゃない。何を隠しているの?」
「・・・俺は未来から来ている。そこでの異変を受け入れきれない者によって過去に送られたってところだ。」
「・・・未来ねえ。幻想郷で生まれたってこと?それにしては現代に馴染むのが早いんじゃない。それとも幻想郷って別に現代とあんまり変わらないのかしら?」
「いや、幻想郷の時代の流れはそう大きく変わっていない筈だ。確かに明治以前だった気はする。俺が現代に馴染めたのは俺がもともとはこっちにいたからだ。」
「あんたも幻想郷を目指してたってこと?」
「俺は偶然迷い込んだだけだ。親から捨てられ名前を呼ばれることの無い少年は誰の記憶からも消えたんだろう。」
「・・・あんたがお父さんや妖見さんのお婆ちゃんを大事にしろっていう理由なのね。」
「親であってもその子が異質な存在だった場合、拒絶する事がある。というか多いだろうな。特にお前や妖見なんかはその中でも各別だ。それでもお前らを心配したりするっていうのはその人が真に強い人だからだ。腕っぷしとか経済力とかを抜きにな。それを愛と言うのかもしれないな。」
ただの責任だけじゃそう上手くはいかない。そこに家族への愛が無ければ、いつかは投げ出せる。
「そういう人たちは少ないが確かにいる。俺が少年の頃はいなかったからな。大事にして欲しいんだよ。」
・・・
早朝に出たというのにもう昼前か。早めに向かわなければいけない。問題なく神社に入ることができればいいのだが、別の場所に出た場合はどうなるか分からない。夜に妖怪とかち合いたくはない。
「菫子、少し回復しただろう。瞬間移動できるか?」
「あんたも連れては無理よ。私一人なら何とかいけるけど。」
「できるなら問題ない。やってみたいことがある。とりあえず俺の手を握って駅周辺を思い浮かべろ。」
菫子の手を掴み、霊力を同調させる。気力を分け与えていた分、馴染みやすくなっている。
完全に霊力の流れが一体化した。
「跳んでみろ。」
一瞬で景色が変わる。朝に跳ばされた駅に俺達は戻ったようだ。行先は菫子に一任していたので素直に来れてよかった。
「何をしたの?二人であの距離だったら負担が大きい筈なのに何で感じないの?」
「お前の霊力と俺の霊力を一体化させて一人の瞬間移動としたが上手くいったみたいだな。じゃあ、元気でな。」
背を向けて歩き出す。
「・・・絶対、幻想郷に行ってみせるから!その時、また一発殴らせなさいよ!」
涙ながらに言い残して姿が消えた。最後になることはない。あいつは必ず幻想郷にくる。そういう確信があった。