かくして幻想へと至る 作:虎山
菫子からの打撲、妖見からの切傷、それと純粋な疲労で思ったよりボロボロだ。満身創痍の中、電車に揺られながら目的地を目指す。
小傘の神力が体に纏わり付く。気休め程度にしかならないが力を分けているのだろう。
「・・・大丈夫だ、小傘。」
それでもなお、戻そうとしない。小傘から流れる寂しい、悲しいという感情。
「・・・あいつらならまた会えるさ。」
そう遠くないうちにきっと幻想郷にたどり着く。何時になるかは分からないが。
長いこと電車に揺られてやっと目的地に着いた。博麗神社までは距離があり、時間的には思っていたより余裕はあるが、歩いて行くのは辛いものがある。
ただ現代には便利な物がある。 使わない手はない。
・・・
「兄ちゃん、止めといたがいいと思うぞ。何の目的かは知らないけど、この時期にあそこの神社は行かない方がいい。というか病院に行った方がいい。」
タクシーの運転手からそう言われる。宇佐見さんの話ではそう言った曰く付きの事はなかった筈だが、地元特有のものだろうか。
病院に関しては電車でも散々言われてきたからもういい。
「病院は大丈夫です。あの神社って何かあるんですか?この時期にと言いましたし、冬はあまり人が寄り付かない場所ですかね?神社にしては珍しいと思いますが。」
「・・・何だ、兄ちゃん、訳アリか。知ってるのか?」
この感じは当たっているか。紫さんの寝惚けで結界が不安定になる時がある。普通なら結界を越えることがないものでも飛び越える事がある。
一般的に幻想入りと言われる現象の一つだろうな。それも込みでこの時期にしている。
バックミラーでチラッと俺の表情を見てくる。怪訝で呆れたような目。何人か噂を聞いて行ったことがあるのだろう。この人が全員と関わっているわけではなさそうだが、周知の事にでもなっているのか。
「いえ、人の通りも少なくないと聞いているので。この時期に少ないということなら寒い時期はよろしくないのかなと思いまして。」
「・・・そういうことにしといてやる。本当にいいんだな?」
「行けるとこまででいいのでお願いします。」
簡単には回復しない傷だが、電車内での睡眠と小傘から力をもらったことで少しだけ回復した。
完治するにはそれなりに時間はかかるが、ある程度動けるくらいにはなった。タクシーでも少し寝させてもらうか。
「兄ちゃん起きな、着いたよ。本当に病院に行かなくていいのか?」
運転手の声で目が覚める。建物が広がっていた駅周辺から山の麓に来ていた。
「・・・ありがとうございます。」
「ちと高くなってるが手持ちはあるのか?」
「これくらいで足りるでしょうか?」
「多すぎだ。その半分くらいだよ。」
「まあ、もらってて下さい。迷惑料も兼ねてるんで。」
お代を残してタクシーから降りる。運転手は何とも言えない表情でこちらを見ていた。どうせ向こうでは使えないものだ。
山の麓まで来ても懐かしい感じはしない。まあ、まだ境界じゃないか。舗装された山道を歩いて神社に向かう。
・・・
「・・・小綺麗だな。」
博麗神社に着いた。鳥居から周辺の木々に至るまで、間違いなく幻想郷の博麗神社と同じだ。不思議な感じだ、博麗神社一帯を切り取ったのかと思うほど類似している。
どこかに境界がある筈だ。一通り探してみるか。
やはり幻想郷と結界の場所は微妙にずれている。境内の奥で管理していたが、ここは鳥居から正面の間に結界が感じられる。霊力を感じ取れる人間なら境界を通った時に違和感を感じるがほとんど素通りで終わる。
その境界を絞り込み、手を付ける。
(俺を受け入れてくれ、幻想郷。)
結界の霊力と自分の霊力を同調させて、同化する。そのまま進んでいけば中に入れる筈。
歩き続ける。視界はやや歪んでおり、境界にいるという事が理解できる。
足場が消え、何かに落ちる。
(!何だ、異空間にでも入ってしまったか。いや、この感じは水?)
底に足がつき、起き上がると視界が安定していた。どうにか中に入ることが出来たか。神社の側にある池に落ちたようだ。
裸の女性と目が合う。黒髪の麗人、所々に傷跡が見られるが、それが気にならないほどの神秘性を感じる。少なくとも結界に触れる前にはいなかった存在。
達成感と疲労でぼーっとしていたが、向こうも呆気にとられている。
「・・・堂々とした覗きね!」
女性が突っ込んでくる。自分の身の事など考えずに蹴り込んでくる。嫌な方向で勘違いされたか。
身を屈んで躱し、足を突き上げて転ばす。水場であるから多少の衝撃は大丈夫だろう。
「あんまり激しい動きをしない方がいいぞ。いろいろ見える。」
「ええい、うるさい!覗き魔!」
立ち上がり格闘を仕掛けてくる。実戦で鍛えられたような攻撃、霊力の質もそうだが、ここで水浴びをしているならこいつは間違いない。
博麗の巫女だ。それと同時にここが幻想郷であると確信できる。
(時期的にも博麗霊夢の先代か。霊夢の記憶にも出てきたのを見たことがない。おそらくそれ以前に亡くなっている。)
博麗の巫女は代々で引き継ぐことは希だと聞いている。当代の巫女が亡くなった段階で探し始め、新しい巫女を育てる。詳しい事情は分からないがパワーバランスの関係上とのこと。
巫女の素質に共通するものは他者を拒絶する力。かよもそうだったように結界が外からの干渉を弾くような性質になっていたりする。戦闘においてどのように使われるかは代々違うが、霊夢のように術を主体とする巫女がほとんどで妖気を弾き祓うような術を使うとあった。
術主体ではあるが、ほぼ全員が妖怪と太刀打ちするために武器を持っていたらしい。
(霊夢の先代、藍さんの話によれば接近戦で妖怪と戦うタイプだった筈。博麗の巫女の中でも珍しく武器を持たなかったとあるが、必要なかったと考えるのが妥当。下手に流そうとして接触しない方がいい。)
気力が掌底に集まっている。霊力だけじゃなく気力まで扱えるのか。
とっさに小傘で防ごうとするが背中にある筈の小傘がない。落とした感じはしなかったが忽然と消えている。
(結界内で弾かれたか!)
道具なら俺と一緒に入り込めると思っていたが、小傘は付喪神として認識されたか。幻想郷に入ったかも確認できない。
その隙に拳をもらう。霊力で強化していない拳とはいえ、今の体では受けきれない。気力強化でも十分すぎる威力だ。
「うっ、がはぁ!」
バシャッと水が舞う。地に手を付き、嘔吐する。痛覚を浮かしていなかったのもあるが、受け身の体勢を取れなかった。
内出血や折れた骨が暴れだす。少しは回復しかけたがまた振り出しに戻ってしまった。
「当たり処が悪かったかしら、、、ちょっと、そこまで強くやってないわよ。」
こちらの様子を見て冷静になったのか、心配そうに声をかけられる。
「て、あなたよく見たら怪我してるじゃない!」
「・・・とりあえずこいつを羽織ってくれ。」
自分の姿を確認したのか、こちらの上着を取り急いで羽織った。
「・・・えーと、自分で立てるかしら?」
「何とかな、それより、落ち着いたか?」
「・・・あー、悪かったわね。ちょっと取り乱してたわ。流石に怪我人をどうこうすることはないわ。」
ばつが悪そうに顔を背ける。この人から見るといきなり池から上がってきた男だ、警戒して当たり前だ。
「とりあえず中に上がって。まともな治療はしてやれないけど、少しは休めると思うわ。」
「分かった。こっちもすまなかった。」
慣れ親しんだ神社に上がる。何年も生活していたはずなのに懐かしくも何処か別の場所のように感じた。