かくして幻想へと至る 作:虎山
「・・・はい、お茶。」
「ありがとうございます。」
「悪かったわね。ただ、怪我してるならもう少し弱々しくしてなさいよ。」
「無茶言わないでくれ、弱々しくしても一発いれるまでは許さないだろう?」
「怪我人をいたぶる趣味はないわよ。」
一悶着あったが何とか落ち着いてくれた。こっちも万全とは言い難い状況なだけに博麗の巫女から敵と見なされたら厄介だった。それこそ今後の事も考えるとなるべくは友好的にしておきたいところではある。
「何者かしらあの状況でも平然としていたし、ただ者じゃない事は分かるわ。」
「・・・」
幻想入りしてその場に疑問を持たないことは確かに変だ。ここが何処か?どうやって帰ることができるのか?などの質問がないのは不自然か。だからといって勘の鋭い博麗の巫女にあまり嘘を言いたくはない。だが本当の事を言うわけにもいかない。友好的な関係は難しいかもしれないな。
「まさかあなた、男色家!」
「・・・は?」
「私の裸を見て何も反応しないのは可笑しいわ。」
こっちの心配を余所に可笑しな事を言ってきた。
随分な自信だ。そもそも博麗の巫女をやっている身で他の人とほとんど関わりがないはずなのにその評価はどこから来るんだ。
「何でそうなる。別に驚いてただけだ。昼間っから外で堂々と水浴びしてたら誰だってそう思う。」
「そこが可笑しいのよ。たまに来る男の人はいろいろな視線を飛ばし、気を引かせようとしてくるのよ。間違いなく私は男受けがいいはず。そんな私の体で眉一つ動かさず私の体術を捌けるやつは普通じゃないわ。」
人里との交流があるのか。まだ人里に妖怪が自由に出入りしている時期では無さそうだ。人里にとっては重要な存在か。
確かに見た目はいい。というよりも博麗の巫女は基本的に似ている。血の繋がりなど無いというのにだ。俺の記憶にある博麗霊夢とこの先代の巫女も例外無く似ている。あくまでも似ているだけで特に意味はないかもしれないが、人から一目置かれる存在というのはそれなりに容姿端麗になるのだろう。
「とまあ、冗談は置いといて、言いたいことはあるわ。どうやって結界を通ってきたのよ?」
「気づけばここにいた。幻想郷に行く可能性がある場所に来て運良く入れたって感じだと思う。」
「ふーん、嘘ってわけでもなさそうだけど何かが引っ掛かる。まあいいわ、それにしても幻想郷を知ってるとはね。あんた向こうで何やってたの?」
「いろいろだな。」
「・・・無職?」
「せめてフリーターと言ってくれ。無職呼びは辛いものがある。そもそも決まった事をしていたわけではないからな。例えば、、、妖怪退治とかな。」
「・・・へえ、興味深いわね。外には妖怪がほとんどいないと聞いているのだけれど。」
「確かにほとんどいない。外の世界で生き残っている奴らも人目に一切でない妖怪だ。だが、人間がそいつらの領域に侵入すればどうなるかは分かるだろ。」
「なるほどねえ、あんたが怪我したのもその仕事とやらかしらね。」
「まあ、化物相手にしてたという意味では合ってる。」
そこらの妖怪よりも厄介な人間だがな。
「で、何の目的で幻想郷に来たわけ?妖怪の脅威が分かっているのに何で幻想郷にくるのよ。」
最もな疑問。興味本位で幻想郷を目指す人間なら話は分かる。
「・・・すまないが言えない。やるべき事があってここに来た。幻想郷に害する事はないということは信じて欲しい。」
「ふーん、まあいいわ。とりあえず何もしないならいいんじゃない。」
「・・・いいのか?怪しい存在だとは自覚しているが。」
「言ってくれないならしょうがないじゃない。それに怪しいといっても人間が幻想郷に与える影響なんて大したこと無いわよ。紫、、幻想郷を管理している妖怪が何でも受け入れるって言ってる位だから問題ないでしょ。」
興味がないというわけではないがどうしようもないから放置するということか。
「それに妖力やら神力を発する人間を下手にどうこうしたくはないわ。何が起きるか分からないしね。」
「やっぱり分かるか。妖力の方は問題ないが、神力の方についてだがお願いがある。巫女としての力でこいつの封印を強めてくれないか?」
接近戦が主体とはいえ博麗の巫女だ、封印術なども俺より長けているかもしれない。
腕の包帯を捲る。霊力の籠ったリボンに術式を加えて押さえ込んでいるが完全ではない。
「うわぁ、嫌なもんもらったのね。神様にでも喧嘩売ったの?」
「そんなところだ。邪神だったが消滅させてもこの様子だ、完全に押さえ込むことはできなかった。できるか?」
「多少はましにしてやれるけど、私にも無理よ。少し痛むかもしれないけど我慢してね。」
棚から針を持ってきて、リボンを取り、腕に直接何かを刻んでいる。事前に痛覚を浮かしているので何とも感じないが、自分の体に傷ができていくのをじっくり見るのは気持ち悪いな。
霊力を流し込み、刻んだ印が輝く。自分で施した封印よりも効果があり、頭に響く呪詛も小さくなった。
「とりあえずはこれでいいわね。直接腕に刻む封印だから、その布切れは外してていいわよ。たぶんあまり変わらないから。、、ん、それ私の奴と似ているわね。やっぱり赤い布は向こうでも封印術に使われるのね。」
というよりもおそらく同じ物だろう。俺のはかなり汚れているので似てる程度の認識かもしれないが。
「ありがとう。やはり幻想郷の巫女となると術の精度や速さが違うな。」
「他がどうか分からないけど、私は歴代博麗神社の巫女でも術は苦手な方よ。ま、そいつを完全に祓える奴がいるとは思えないけど。」
苦手でこれか。博麗の御子としてやっていたとしても代理だった自分との差か。
「ふぁぁ、少し疲れたわ。私はもう寝るけど、あんたは?一応、ここで寝てもいいわよ。布団はそこに入ってるから勝手に使って。」
いろいろあって日も暮れているのでもう寝る時間か。封印術での疲労もあるだろうが、電気の無い幻想郷では夜にやることもないか。
「じゃあ、おやすみ。」
「ああ、いろいろとありがとう。」
・・・
電車やタクシーの中でそれなりに寝ていたので微妙に寝付けない。勝手にうろちょろするのも悪い気がするが、静かにしておけば問題ないだろう。
縁側に移動して座る。今日は満月ということもあり、真夜中だというのに明々としている。
(それにしても懐かしいな。ここで修行していたし、かよの修行も見ていたな。)
縁側から見える物は変わっていない。未来の事なので変わっていないというのも変だが。
「あんた、まだ寝てなかったの。怪我人はうろうろしないで寝てなさいよ。」
やや寝惚け眼の巫女で近づいてきた。
「少し寝れなくてな。悪い、起こしたか?」
「私も寝れないだけよ。同い年位の男がいたら少しは何かあるかなと思ったけどね。」
「・・・仮に何かしようものなら殴り殺すだろ。」
「そうね。」
我が儘というのか分からんが、面倒な奴というのは分かった。
「で、そんな物思いに耽ってどうしたの。大切な人とか思ってたりしてる?」
「・・・まあそんなところだ。」
「へー、満月の夜に縁側で好きな人を想う。意外にロマンチストね。悪くないわ。」
寝る前に話している時も感じたが、妙に品定めされている気がする。博麗の巫女は基本的に孤独な存在。耐えることはできても慣れることはない。こいつも少しは寂しいのだろう。
自分といてくれる人が欲しいのかもしれない。
「あんた、明日からどうするつもりよ。普通なら外に帰してやるんだけど、ここで何かをするんでしょ。」
「そうだな、図々しいお願いかもしれないがしばらくはここに居ていいか?迷惑にはならないようにするから頼む。」
場所として別にどこでも問題はないが、神社を拠点としていた方がいざという時に対応できる。
巫女の手助けも多少はできるしな。
「いいわよ。えーっと名前聞いてなかったわね。」
「霊吾という。これから世話になる。」