かくして幻想へと至る   作:虎山

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休みが終わってナイーブになったので更新です


未来の名残
面影


 幻想郷に来て翌日。体の痛みは抜けないが活動に支障は無い。

 

「大人しくしてた方がいいんじゃないの。」

 

「動けるから問題はない。それに幻想郷の事を知っておきたい。夕方までには戻る。」

 

「せっかちね。分かってるとは思うけど満月の後だから妖怪に気をつける事ね。不安定な状況で積極的に人間を襲ったりなんてよくあるから。あんたなら大丈夫でしょうけど。」

 

 

 

・・・

 

 

 

 未来と今の違いを探すのだが、霊夢が巫女になるまでがどのくらいの時期なのか全く分からない。現状分かっている事の整理と調査が必要だ。

 

(分かっているのはリボンの事からルーミアはまだ封印前だということくらいか。知っておきたいのは紅魔館の有無、人里についても少し調べてみるか。)

 

 未来の幻想郷が崩れかけた原因としては古明地こいし、洩矢諏訪子あたりだが、古明地こいしは居場所の特定が困難、洩矢諏訪子については幻想郷に来ていない。

 現状この二人については手のつけようがない。それに前提としてある大きな要因をどうにかする必要がある。

 

 博麗霊夢への依存。スペルカードの衰退もその影響だと思われる。紫さんも例外無く囚われていた。

 実際の影響度を見ておきたいため、不在時期の紅魔館と人里を知っておく。魔法の森は特に変化は無いと思われるため後回しだ。

 

 先ずは紅魔館の方を行く。神社から紅魔館までの道は過酷ではなく、途中で遭遇するのも妖獣、妖精といった存在だろう。

 それに妖精であれば会いたい奴もいる。

 

(たとえ、覚えていなくとも俺にとって大事な存在は会いたいな。幻想郷の未来に関わらなくとも仲良くしていきたいものだ。)

 

 

 

・・・

 

 

「まだ紅魔館は幻想郷に来ていないか。もうすぐ幻想入りする頃だと思うが、、下手に近づかない方がいいかもな。」

 

 魔女の空間転移でやって来るだろうが、正確な時期は把握していない。霊夢が巫女になる前に吸血鬼異変は起こっている事を考えると近い内に吸血鬼はやって来るとは思うが。転移した瞬間に目を付けられると厄介だ。

 

 

 人里に向かう前に湖周辺を歩く。未来では妖気で嫌な空気を醸していたが、その気配はなく、霧に隠れて綺麗な水と草木が広がっている。

 

「おい、人間!ここに何しに来た!」

 

 声がかけられる。振り向くと小さな少女がいた。水色の短髪で同じ色のワンピースを着ており、涼しい印象を受ける。小さな氷の羽が彼女が人間ではないことを表している。

 

 チルノだ。俺の記憶にある大人びた感じはなく、幼い少女そのものだ。霊夢の記憶で少し覗いたくらいか。

 

「散歩かな。君は何をしているんだ?」

 

「あたいは怪しい奴がいるって他の妖精が言ってたから来た!なあ、怪しい奴いなかった?」

 

「・・・たぶん俺の事だと思うけど。」

 

「何!お前、悪い奴か!でもそんな感じはしないな。」

 

「そうなのか?」

 

「そう!他の人間や妖怪みたいに妖精をバカにした感じがしない。良い奴っぽい!」

 

 妖精は人の感情を機敏に感じとることができると言っていたが、けっこう鋭いな。

 

(未来のチルノは妖怪に近くなっていたためか、その能力は突出していなかったが、人や妖怪を的確に判断する観察眼はあった。もとからよく見るタイプだったのかもな。)

 

 二人で湖の畔に座り談笑する。姿は変わっていても久しぶりに会う友人、少しだけ気分が上がる。

 

「人間がここを通るのは珍しいな!それにあたいをバカにしない人間も初めてだ!」

 

「・・・妖精っていうのは下に見られるのか?」

 

 未来では妖精がほとんどいなかったため、ここら辺の事情はよく分からない。

 

「下?」

 

「悪い言い方をすると、バカにされやすいのかい?」

 

「そうなんだ!妖怪も人間もちょっと弱いからってバカにするんだ。みんなあまり力がないから強い抵抗ができない。だからあたいがやっつけるんだ!」

 

 賢くは無いかもしれないが、弱いものや友達のために戦うところは変わっていない。

 それが彼女の強さだ。妖精にしては強い力を持つという部分ではなく、諦めること無く抵抗する精神力こそチルノの真骨頂。そこに大妖怪も惹かれるのだろうな。

 

「強いんだな、君は。」

 

 頭を撫でる。まだ俺がチルノより小さかった頃にしてもらっていた。低い体温でも暖かい気持ちになる不思議なものだった。

 

「だってあたいはサイキョーだから!」

 

 少し照れ臭そうにそう言った。霊夢の記憶では自信満々に叫んでいた気がするが、あれは一種の鼓舞だったのだろうな。

 無邪気な笑顔。可愛いものだ。できればその笑顔が曇ることの無いような未来を。

 

「頑張れよ、最強。」

 

 撫でていた手を止めて、立ち上がる。夕方までには神社に戻るため、次の目的地に向かう。チルノと会えてよかった。

 

「あ、待って!名前、何て言うの!あたいはチルノって言うんだ。」

 

「霊吾だ。博麗神社にいるから会いたかったら来るといい。」

 

「分かった!じゃあね、レイア!今度遊びに行くから!」

 

「ああ、楽しみにしてるよ。」

 

 目一杯に手を振る少女に見送られながら人里に向かう。

 

 

 

・・・

 

「あんちゃん、外来人か?」

 

「そうですね。巫女さんにこちらに人がいるとのことなので訪ねて来ました。中に入ってもよろしいでしょうか?」

 

「神社から一人で来たのか?あんちゃん、けっこう強いだろ?」

 

 単体で妖怪と渡り合える人間は珍しいのか。確かに未来では凶くらいしかいなかったが、この時代でもそこは変わらないのか。

 

「俺だけじゃ判断ができねえから、ちょっとここで待っててくれ。」

 

 門から見た感じでは人里は未来と差程の違いはない。文明としてほとんど変わっていないのもあるが、妖怪の出入りが全く無い。霊夢の時代の産物だっただけにまだ人里が好意的に妖怪を受け入れてはいない。

 

(人間と妖怪の関係性としては悪くはない。本来なら馴れ合う事はない。例外的存在はいるがな。)

 

 その例外的存在が近づいてきている。白髪の中に青が混じった長い髪を揺らしている。人里の守護者と言われている半妖だ。判断を任せられているほど信頼されている。

 

「珍しい外来人と聞いて来てみたが、本当に外来人か?」

 

「外来人が結界の外から来た人間だとすると合っています。そんなに変ですか?」

 

「すまない。失礼かもしれないが普通の人間には見えなかっただけだ。それにしても傷一つ無くよく来れたものだな。」

 

「慣れてますし、不思議と妖怪は寄ってこないんですよ。」

 

 伊吹の残り香が妖怪を遠ざけてくれている。力のある妖怪なら関係ないが本能で動く妖獣などは寄ってこない。

 

「ほう、珍しいな。外の世界から来た人間で妖怪に慣れているのか。」

 

「妖怪もいろいろいますしね。貴方みたいな妖怪もいることですし。」

 

「分かるのか。」

 

「見た目もそうですけど、妖力を感じ取れるので分かりますよ。」

 

「・・・巫女でもない人間で君のような存在がいるとは。外の世界にもいろいろあるのだな。自己紹介が遅れたな、上白沢慧音と言う。よろしく頼む。」

 

 手を差し出してくる。随分と人間味のある妖怪だ。手を握り返す。

 

「ええ、こちらこそ。霊吾と言います。」

 

「ああ。それで何しに人里に来たんだ。こっちに住むつもりで来たのか?」

 

「考え中です。しばらくは博麗神社に居させてもらう事になっているんですけど、流石に長居するのは迷惑になると思うので探してるところです。」

 

 何時までも巫女に頼るわけにはいかないからな。だが、巫女の死は遠くない未来に来る。その時までは神社に居て巫女の死を回避できないだろうかと考えている。

 

「ここに住むのであれば声をかけてくれ、少しは力になってやれるぞ。力のある人間が人里にいてくれると私も助かる。」

 

「その時が来たらお世話になります。」

 

 

 

・・・

 

 

 

 入る許可もおりて人里を見て回る。人の様子も未来からすれば随分と生き生きしているように見える。俺が嫌われていたのもあるかもしれないが、人里の守護者がいなかったのもあるだろうな。

 

 人間達だけで人里を守っていく中で緊張状態になっていたのかもしれない。それに比べればずっと良い環境だ。人の通りも少なくなく、外から来た人が珍しいのか声をかけられることもある。

 

 一人の女性とすれ違った時に懐かしい感じがした。見た目や匂いではなく直感だった。

 ばっと振り返り、手を握った。咄嗟の行動だった。すぐに離して謝罪する。

 

「すまない、いきなり失礼な事をした。」

 

「・・・あらら、少しビックリしただけよ。女性に手を出すのが早い殿方かしら。でもごめんなさいね、こう見えても私母親なのよ。」

 

 振り返り顔を見る。どうみても子を生んだ女性のようには見えないが、少女にはない落ち着いた雰囲気がある。

 

 それにこの雰囲気や表情を俺は知っている。子供ながらに恋した恩人にそっくりだった。そして姿も心なしか若かりし時に似ている。

 

「いや、そういうわけではない。知り合いに似てたから咄嗟に手が出てしまった。本当に申し訳ない。」

 

 自分の中でも動揺していたのか素の言葉が出てしまっていた。

 

「まあ、そういうことにしておきましょう。それにしても見ない顔ね、外の世界から来られた方かしら?」

 

「・・・そうですね。」

 

「あ、じゃあ外の世界の事を少し聞かせてくれるかしら。この後用事がなければどうかしら?家に来ない?」

 

「・・・不審な男を家に上げない方がいいと思いますが。」

 

「大丈夫よ。勘ですけど、あなたは悪い人では無いと思うわ。それに私は主人一筋ですので。」

 

「そうですか。それで何処に行くのですか?」

 

「よかったのかしら?」

 

「ええ、まあ特にこれから用事があるわけでないですし。」

 

「よかった。じゃあ、行きましょうか。お名前は何て言うのかしら?」

 

「霊吾です。あなたは?」

 

「霊吾さんとお呼びしますね。私は霧雨真理菜と言います。以後お見知りおきを。」

 




霊吾君もチルノの前では心を全開にしてます
警戒の必要性もないし、心のあり方が変わっていないため、現状霊吾君の癒しを担っている感じだと
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