かくして幻想へと至る   作:虎山

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遠い家族の為に

 他の家屋に比べて一回り大きい家、霧雨商店という看板が目立っていた。

 

「ここですよ。少し店内でお待ち下さい。」

 

 玄関を開け、案内される。未来の人里では見たことがなかったが立派な店だ。生活に必要なものから雑貨まで揃っている。流石に外の世界の物は無いが。

 

 真理菜さんは奥にすいすいと消えていった。待てとは言われたが生憎幻想郷の通貨など持ってはいない。そもそも未来では見たことがない。

 

「・・・真理菜さんのご主人さんですか。」

 

 机で肩肘ついてこちらを忌々しく見ている男性。

 

「そうだが、あんたは誰だ。真理菜が人を連れてくるのは珍しくてな。それも若い男を連れてくるのは初めてだ。」

 

 少しだけ不機嫌な感じはする。俺も逆の立場なら分からない事はないが。

 

「外の世界から来た霊吾と言います。いろいろあって連れてこられましたが、霧雨さんが心配することは無いですよ。」

 

「どうだかな。まあ、あいつもああ見えて人を見る目はあるし、そこまで疑ってはねえよ。」

 

「ならよかったです。真理菜さんがいない間に少し聞きたい事があるのですがよろしいでしょうか?」

 

「何だ、あいつが居ちゃ話せないのか。」

 

「そういうわけではないですが、真理菜さんは話したくなさそうにしていたので。娘さんの事です。」

 

「・・・あんたには関係ないだろ。」

 

 露骨に嫌そうな顔をする。まあ余計な詮索とは理解しているが知っておきたい。

 余計なお世話かもしれないが、力になれることがある。決めるのは俺ではないが。

 

「言ってしまえばそうですが、気になったので。真理菜さんにお子さんの事を聞いたら悲しそうにしていたので止めたのですが、一言、『元気にしていると思う』ということから一緒に暮らしているわけではないのでしょう?」

 

 この時期には既に魔女の道に向かっていたのは想定内ではある。菫子、早苗ちゃんの例に幼くして頭角を現す存在を見てきた以上不思議ではない。

 

「・・・そこから先を聞かなかった事は素直にありがてえな。お前も分かっているかもしれんが娘は家出中だ。人里を離れて魔法の森に居るらしい。」

 

 居るらしい。確定的な情報ではないのか。だとしても何処から情報が来ているんだ。今の霧雨魔理沙が素直に人里に顔を出すとは考えづらい。

 

「その言い方だと誰かに見てもらってはいるんですね。」

 

「一時期家で働いてた奴に頼んでな。顔を出した時に聞くくらいだ。」

 

 香霖堂の主だろうな。頼りになるかは一切分からないが半妖であるならそれなりの力はあるだろう。

 その人から定期的に報告してもらっているというところか。その報告もどのくらいの頻度かは分からないが。

 

「・・・娘さんが出ていった理由は真理菜さんのためですか?」

 

「何でそう思った?」

 

「1つ目が真理菜さんの会話から彼女が悲しくかつ自分を責めているような感じがした。母親としての責任かとも考えたが、2つ目でその考えが消えた。勿論母親としての責任もあるとは思いますがね。」

 

 真理菜さんの気力を探った際に気づいてしまった。

 

「真理菜さんの病気。それを治すためにも出ていったと考えると腑に落ちる部分がある。いくら頼み込んだとしても魔法の森にいる娘を放置はしない。霧雨さん、あなたも託しているのでしょう?」

 

「・・・あんた、何者だよ。医者でもしてたのか?」

 

「期待に応えられなくてすみませんが、人の気力が感じ取れるのでそう判断しただけです。年齢に比べて気力が消え入りそうになっているのを見ると病気、それも幻想郷では治せないようなものだと。」

 

 病気が分かるわけではなく、生命力が著しく低いことが分かるだけだ。だからといってどうすることもできない。

 

「まあ、だいたい合ってるよ。元々体は弱かったんだが、娘を産んだのを境に年々悪くなっていきやがるもんでな。何処から聞いたか知らねえが、娘がそれで魔法の森に行ったって訳よ。変な能力を持って産まれただけに可能性を棄てきれなかったんだろうよ。止めなかった俺も一緒だ。」

 

 主人も責任を感じているだろうな。娘に押し付けてしまった罪悪感と何もできない自分の無力感に苛まれている感じがした。

 それでも気丈に振る舞っている。真理菜さんが無理しているようにこの人もだ。難しい問題だな。

 

 

 

 

「お茶を持ってきましたよ。二人共何で険しい表情をされているのかしら?」

 

 ややどんよりとした雰囲気の中、その雰囲気を壊すように穏やかな声が響いた。

 聞こえてはいないと思うが、怪しまれている感じはする。どう誤魔化すか。霧雨さんに少し悪いが合わせてもらおう。

 

「・・・霧雨さんから怪しまれましてね。年頃の男は警戒されてしまいますから。」

 

「あら駄目よ、あなた。」

 

「・・・ああ、悪かったな。ちといい兄ちゃんだったんでな、色目でも使われてんじゃねーかと。」

 

 気まずそうに目線を真理菜さんから逸らしている。合わせてもらって何だが、演技ではなく、本当に何処かにそう思っている部分があるのかもしれない。

 霧雨さんも悲しみを抱えているのが分かった。

 

 

 

 

 

・・・

 

 

「一つ聞きたい事がある。」

 

 長く話した疲れもあるのか、真理菜さんによりお開きになった後、帰り際に呼び止められる。

 

「何でしょう?」

 

「・・・真理菜は後どのくらい持つ?」

 

 真実を知りたくはない。だが、知っておかなければならない。そんな思いを感じる。

 気力はあくまでも経験則にしかならないが、それでも弱っている人間なら残酷なまでに理解させられる。

 

「・・・正直に言うと半年持てば良い方だと。」

 

「そうか、、そうか。」

 

 深く考え込んでいる。葛藤しているようにも思える。少し経ち顔を上げる。その目には覚悟が見えた。

 

「俺の頼みを聞いてくれないか?」

 

「事によりますが引き受けましょう、それで何をすれば?」

 

「娘に帰って来てもらうように説得してもらいたい。半妖の奴に頼んでも良かったが、何時ここに訪れるか分からねえ。俺が魔法の森に行ったところで妖怪どもに襲われるだけだがあんたは違うだろ。」

 

「・・・そうですね、妖獣程度なら対処できます。」

 

「やってくれねえか。今すぐにとは言わないが近い内に帰って来てもらいたい。真理菜の最期にはいて欲しいんだ。会ったばかりのあんたに頼む事じゃないのは分かってる。」

 

 頼む。そう言って頭を下げる。

 

「・・・父親が家族のために下げる頭っていうのは特別なものなんです。立派ではないと自覚し、絶対家族の前では見せられない姿。それでも必要だからこそ恥も誇りも捨てる事ができる。」

 

 外の世界でも見てきた姿。

 

「・・・まさか、あんたもいたのか。」

 

「もう会うことはできませんがね。それに外の世界でもあなたみたいに娘に振り回されていた父親を見てたもので、少し安心しました。人は変わらない。」

 

 どの時代であっても家族を守るために悩む人はいる。自分の力ではどうすることもできないものでも諦めきれない人達。誰が悪いわけでもないが背負い込む。

 

 俺の手が届く範囲であれば手を伸ばして力になってやりたい。

 

「声はかけます。ですが選択するのは娘さんだということは承知していただきたい。」

 

「分かってる。あいつがそう判断したとしても構わない。それがあいつの決断なら俺は何も言えない。」

 

「分かりました。なるべく早く見つけて話します。」

 

 俺に頼むのは間違いだと言っているが、一番適任なのかもしれない。何処にも所属していない自由で妖怪が蔓延る場所でも行ける存在はいない。人に友好的な存在は特にだ。

 

「ありがとう。」

 

「気にしないでください。お礼は娘さんが戻ってきた時にお願いします。」

 

 家族の最期に立ち会えないというのは後々に後悔する。本来なら霧雨魔理沙が戻ってくることはない。未来が変わる可能性もある。スペルカードルールで博麗霊夢と同格の人間が居なくなるかもしれない。

 

 それでも俺はこの家族に悲しみだけを背負わせて終わらせたくはない。この二人は血が繋がっていなくとも俺にとったら曾祖父母にあたる方々、力になってやりたい。

 

 




原作キャラ死亡タグで忌避されている方も見ていただいるようで、ありがたい限りです

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