かくして幻想へと至る   作:虎山

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お注射の日が近づいてきたため更新です


協力者

「どこほっつき歩いてたのよ。やられたかと思ったじゃない。」

 

 神社に戻ると階段を上がったところに仁王立ちの巫女がいた。

 

「悪いな、人里で少しのんびりし過ぎた。一応、夕方には帰って来ただろう。」

 

「夕方までに帰ってこいって言ったのよ。流石にその怪我で妖怪とバッタリ会いでもしたらあんたも無事じゃないでしょ。」

 

 心配してくれているのだろう。あんまり人に干渉しない方かと思っていたが、甲斐甲斐しく夕飯の準備をしている。

 手ぶらでは悪いと思ったので帰り際に貰った食料を渡す。今度からも何かしら持ってくるようにしよう。

 

 

 

・・・

 

 電灯などは勿論無いため、日が暮れたら寝ざるをえない。十六夜であるためやや明るいが電気があった外の世界と比べると心許ない。一応、蝋燭はあるが勿体ないので使わないだろう。

 

「で、人里に行ったってことは住むつもり?」

 

 食事が終わり、お茶を飲みながら話す。基本的にこんな時間に食べることはないらしい。俺が遅くなってしまっただけに申し訳ない。

 

「そういうわけではないが、出ていって欲しいか?」

 

「それは好きにしていいけど、あんたに人里は合わないと思うわよ。勘だけど。」

 

 その勘は正しい。別に人が嫌いなわけではない。人里も悪い感じではなかった。

 

 脳に刻み込まれた光景、張り付けにされた少女を見せしめにしていた未来の人間達。それが一種の退治方法であると理解はしている。だがそれが俺が人里を受け入れきれない原因だ。

 

(分かっている。この時代では関係ない事だ。あの時いた人も一人一人向き合えば酷い人ではなかった筈なんだ。)

 

 憎み合うのが常の世界だった。少なくとも今はあの時代ほど過激ではないが、現在の幻想郷に慣れるまでは人里に移住はしないな。

 

「まあ私もなんだかんだで話し相手がいるとありがたいわ。それに組み手相手も欲しかった事だし。相手が妖怪ばっかりで飽きてきたところなのよ。」

 

 乾いた笑いが出ている。人もほとんど来ない、やることもないとすると何をしていたんだろうか。

 

 俺が博麗の御子をしていた時代は妖怪退治と修行、休息で暇だったという記憶はない。最初の方の結界管理後では特に疲労で寝ていた気がする。

 

 この巫女は霊夢とは違い、どちらかと言えば俺に近い。特に気力が研ぎ澄まされており、修練を怠っていないことがわかる。実力を見ておきたいところだ。

 

「そういうわけだから早く怪我を治しなさいよ。」

 

「・・・善処する。」

 

 さっさと寝ろと言わんばかりに見つめられ、寝床に向かう。

 

 

 

 

・・・

 

 

(・・・気力が穏やかになったな。眠りについたとみていいか。)

 

 巫女が寝静まったのを確認し、神社の外に出る。満ち足りない月明かりが照らす。

 

「少し話がしたい、八雲藍。」

 

 虚空に話しかける。今日一日中付きまとってきた視線の主に目を向ける。

 

「・・・なぜ分かった。それに私の事を何処で知った?少なくとも今日お前が回った処で私の話はなかった筈だが。」

 

「その事も含めて、話がある。八雲紫が冬眠している間に済ませておきたい事だ。」

 

 警戒が強くなる。知り得ない情報を開示すればそうなるか。

 

「そこまで警戒しないで欲しい。俺は幻想郷に害を成しに来たわけではない。その逆だ。」

 

「逆とはどういう事だ?」

 

「幻想郷の未来を救いに来た。俺は八雲紫によって過去に跳ばされた人間だ。ここでは霊吾と名乗っているが、未来では博麗霊吾と名乗っていた。」

 

「博麗だと!博麗の巫女を男に任せる事はない!」

 

「過去に一度あるだろ。短命だったこともあり、男を博麗の巫女にしなくなった理由と聞いていたが。」

 

「・・・その事情まで知っているのか。」

 

「教えてくれたのは藍さん、あなただ。」

 

「そうか、、お前が結界を通り抜ける事ができたのはその経験からか。」

 

「五年近く結界を管理していれば、同化くらいはできるようになりますよ。」

 

 警戒は解いていないが、敵意は無いといった感じになった。少し考え込んで口を開いた。

 

「・・・それで話とはなんだ。」

 

「俺に協力して欲しい。協力といっても俺の事をある程度見過ごして欲しいというものです。」

 

「幻想郷を救いたいなら紫様に頼めばいいと思うのだが、何故私なんだ?」

 

「紫さんは俺を受け入れない。今の紫さんは幻想郷が何でも受け入れると思っている。この認識に間違いはないか?」

 

「ああ、残酷な事も含め全てを受け入れる。常々そう仰っている。」

 

「幻想郷は受け入れても、紫さんが受け入れる事ができない事が起こったから俺はここにいます。絶望を知ったからこそ、紫さんは気づいたという訳です。今の紫さんに何を言おうとあの人はそれが運命と言う筈。滅び行く妖怪の運命を歪曲させているのに可笑しい話だと思いませんか。」

 

 愉快な話だ。何でも受け入れると言っていても絶対不変ではない事くらい理解している筈なのに。

 

 親友の裏切りと死、信頼する従者の死は疲弊した紫さんにとっては受け入れる事などできなかった。伊吹萃香、八雲藍の両方とも幻想郷で居なくなることはないと思っていたことだろう。

 大妖怪の中でも上位に来る二人を消せる存在など限られてくるほどであり、その者達が争うことはない。

 

「何が、あったんだ?」

 

「幻想郷の壊滅まで後一歩というところまではいってたと思います。何とか防ぐことはできましたが、それなりに犠牲はありました。」

 

「・・・それでも紫様が幻想郷を否定するとは思えないな。これまでの幻想郷の異変でも失ったものは少なくない。」

 

「そうですね。あなたや友人の死なんかじゃなければ耐えられたでしょうね。」

 

「・・・なるほどな。詳しく聞きたいところではあるが、今夜は少し整理したい事が多い。今の状況では判断できない部分もあるがお前の事は外から来た術師とでも伝えておく。紫様から敵視されても庇うまではしないぞ。」

 

「いえ、十分です。今の紫さんなら何でもかんでもは否定しないでしょう。」

 

 それに紫さんには一応対策がある。

 

「後、最後になりますが藍さんを選んだ理由は信頼です。未来では紫さんが不安定だったこともあり、主に藍さんが動いていましたので。俺もお世話になってましたし、唯一頼りにできる。」

 

 これは俺の本音だ。衰弱している紫さんと長く関わっていたのもあるだろうな。

 

「・・・紫様を知った上で私が頼りになると言われたのは初めてだ。厄介事は引き受けてきたが紫様には敵わない。それにだ、九尾の狐を従えるほどの力を持つという、一種の牽制にもなる。まあこれは私が勝手に思っていることだが。」

 

 少し表情が緩んだ。藍さんの悩みというよりは愚痴に近いものだろう。九尾の狐として恐れられた存在でもここでは従者として見られる事が多い。

 

 紫さんの存在に霞むほど弱い存在ではない。だが、どこかでそう思っているのか。大妖怪としての誇りと従者の瀬戸際で苦労しているのだろう。

 

 どの時代でも苦労することには変わりない人だ。少し張り詰めた気を解く。

 

「明日、少し俺を監視しててください。運が良ければ面白いものが見れるかもしれません。」

 

「何をするつもりだ?あまり不穏な事をされると私も協力はできないが。」

 

「今日中俺をつけてたのは藍さんだけじゃないんですよ。そいつに会いに行きます。まだ俺が未来から来たと信じきれていないなら、良い判断材料になると思います。」

 

 神社に戻ってくる頃には身を引いていたが、それまでは感知され続けていた。

 

「お前に気づいた奴が私以外にいたのか。それも私が気づかないとなると一人思い付く。だがそいつが一人の人間に固執するとは思えんな。まあ、見させてもらうよ。ではまた明日に。」

 

 そう言って隙間に消えた。気配も共に消えたことから戻ったのだろう。

 

(さて、これで明日の保険は打てたとみていいか。あいつの機嫌次第ではあるだろうが。)

 




ちなみに未来幻想郷での霊吾の信頼度(上から3人)

魔理沙(老) > 美鈴 > 藍 

何かあった時に頼る順ならこんな感じになるかも
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