かくして幻想へと至る   作:虎山

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更新が少し遅れぎみになります


幼き魔女

「そうか、この時代ではここは違うんだったな。」

 

 香霖堂という看板が見える。俺が人の温もりを知った場所。過去では半妖が商売をしていたとは聞いていたが詳しい話を聞いていたわけではなかった。

 まだ霧雨魔理沙はここに住んではいないのか。

 

 ドアを開けるとごちゃごちゃとした雑貨が辺り一面に散らばっている様子が見て取れる。幻想郷では少し珍しい物も多い。使えない物も多いが。

 奥に本を読んでいる白髪の男性が見える。本から目を離し、興味深そうにこちらを見た。

 

「おや、人間がここに来るのは珍しいな。人里から来られたのかな?」

 

「いえ、神社に住まわせてもらっている者です。霊吾と言います。」

 

「ご丁寧にどうも。僕は森近霖之助、ここ香霖堂の店主をしているよ。といっても客はほとんどいないけどね。」

 

 立地もそうだが、扱っている物が物だけに人里では役に立たない物が多いことから普通の人が来ることは無さそうだ。

 

「君は外から来た人かな?」

 

「そうです。最近来たばっかりですね。」

 

「へえ、珍しい。人間が一人で来るには少し面倒なところだけどよく来れたね。それなりに力のある人かな?」

 

「まあそれなりにですがね。」

 

 やっぱりあまり人が来ないとこか。商売というよりは趣味といった感じかもしれない。いきなり訪問して頼み事というのもどうかと思うが、情報収集に力を貸してもらいたい。

 

「早速で悪いんですが、とある人物、、、霧雨魔理沙について教えていただきたい。両親から依頼を受けて探しているんですけど、何か知らないですか。」

 

「親父さんから言われてるのかい?僕も魔理沙が何処にいるかまでは分からないよ。あの娘は気分屋だからね。」

 

「周辺にはいると思うけど、僕も彼女がどこに住居を構えているかは知らないんだ。力になれなくてすまないね。」

 

 前の住みかについては俺も知らない。ここに頻繁に来ているわけでもないのか。

 

「いえ、ありがとうございます。」

 

「・・・何かあったのかい?」

 

「真理菜さんが長くない。あの人のためにも呼び寄せたいんでしょう。」

 

「・・・なるほどね。」

 

 納得しているようだ。彼も知らないわけではないはず。

 

「探しにいくのかい?」

 

「そうですね。結果がどうであれ、早めに伝えておきたいので。」

 

「・・・僕からも一つお願いがある。」

 

「お願いですか。」

 

「あの子を見るように言われているけど、僕には荒事を教えられるほど強くはなくてね。もし君がよければだけど彼女にいろいろと教えてやって欲しい。ここにくる度に傷を増やしてくるあの子を見たくはないんだ。」

 

 彼も悩みを抱えている存在であったか。関わりのある少女の傷付いた姿を見たくないのは人妖関係ないか。

 

「分かりました。その子次第にはなりますがね。」

 

 

・・・

 

 

 

 魔法の森では感知が難しい。霊気、妖気が入り交じってる感じだ。ここに関しては未来とあまり変わらない。

 だが、動き回る気配なら感知できる。

 

(飛び回っている気配、、妖怪かどうかは分からないが、近づいてみるか。)

 

 こちらに気づいたのか近づいてきた。箒に跨がりこちらを見下ろしている。白黒のエプロンドレスに大きなとんがり帽子。服装は俺が知っている霧雨魔理沙と同じ。

 ただ一回り小さく幼い。それでもなお気高さを感じる。俺の先入観もあるだろうが。

 

(・・・また会えたな。)

 

 会えた歓喜、脳裏に甦った別れ、変わることのない憧れ。複雑に入り乱れた感情を押し殺す。冷静になれと自分に言い聞かせる。

 

 よく見るとあちこちに生傷がある。彼女もまだここでの生活に苦労しているのだろうということが分かる。

 

 互いに硬直している。こちらから声をかける。

 

「霧雨魔理沙で合ってるよな。」

 

「あんたは誰だ?見たこともないから、人里の人間じゃないのは分かる。」

 

「外の世界から来た人間だ。お前の両親から連れ戻して来て欲しいと言われたからな。」

 

「・・・まだ私は戻れない。母さんを救う手立てがまだ無いから戻れない。」

 

 背負った植物は何かしらの研究材料か。魔法を扱う能力があるとはいえ、ほとんど独学のはず。この時期から手探りでやっていたか。

 

「どの程度でできる?」

 

「分からないけど、魔法なら不可能じゃないんだ!」

 

「それはそうだ。魔法というのに不可能はない。準備や代償さえあればできないことはない。それを含めた上でどの程度進んでいるのか聞いている。」

 

 残酷な事を聞いている自覚はある。俺もどう説得するか悩んでいた。

 現状確認だけで十分だ。目を逸らさせずに直視させる。酷なやり方だと理解しているが、納得させるにはこれしかない。

 

「・・・進んで、ない。」

 

 悔しそうに呟く。

 

「だろうな。人の生死を左右するには時間がかかるはずだ。それこそ人の身なら絶対に叶えられないほどの時間がな。別にお前の努力が無駄だった訳ではない。だがその努力は報われない。」

 

「じゃあ、私はどうすればいいんだ!どうすれば母さんを救えるんだ!」

 

「一緒に居てやってくれ。傍に居ることは確実にできるだろ。誰かに見届けながら終わりを迎えたのなら、悪くない終わり方かもしれんな。」

 

「・・・」

 

「まあ、よく考えてみることだ。親父さんの希望は言ったが決めるのはお前だ。最後まで諦めること無く足掻くのも一つの道だ。俺の提案としては定期的に帰ってやってくれ。容態が急変しても気づけるくらいにはなってて欲しい。」

 

「・・・私がここで諦めたら絶対に助からないんだ。もし戻って母さんから一緒にいようと言われたら私はたぶん自由に動くことはできない。」

 

 親の願いには弱いと理解しているから戻りづらいのであろう。弱さを見せられて強くでれるほど非情な子ではない。悩んでいるのだろう。戻ることは諦めることと同じと思っている。

 

「真理菜さんは持って後半年だと思う。もし戻るなら早めに決めた方がいい。」

 

 後は彼女がどう決断するかだ。難しい決断なのは分かる。

 

「なあ、あんたは何者なんだ。魔法の森でそんなに余裕でいられるのは普通の人にはできない。」

 

 さて、この子にはなんと言おうか。森近霖之助にお願いされたのもある。少しでも俺に興味を持つようにしておくか。

 

 

 

 考えている最中に近寄る気配。妖獣のそれだ。魔理沙が気付く様子はない。

 

「魔理沙、避けろ!」

 

「え、」

 

 背後から妖獣が襲いかかる。俺ではなく魔理沙の方から飛び出してきた。飛んでいる状態から突然の襲撃にバランスを崩して落下しようとしている。

 

(まずい!近づくまで気付けなかった俺の落ち度だ。あの状態でもらえば今の魔理沙なら耐えきれない。)

 

 妖気の小さい妖怪であれば魔法の森では気付けない事はある。だが、この妖獣は違う。この瞬間まで隠していたように妖気が膨れ上がった。

 

(魔理沙を食うためだったか。油断するまで耐えていた奴とすればそれなりに頭が働く。後に面倒事になる前に消す。)

 

 1枚の札を取り出す。

 

(『時間変換(タイムドライブ)』)

 

 魔理沙と妖獣の間に滑り込む。そのまま妖獣の頭を叩きつける。魔理沙を抱え着地する。妖獣は立ち上がる。本当に知恵がある奴なら逃げるはずだが、こちらを威嚇している。

 痛みと怒りで感情的になっているのか。ここでも強い部類と見ていいか。勢いで殺れると思っているのだろうな。

 

「・・・何が起こったんだ。あんたの技か?」

 

 一瞬の出来事で混乱している様子だ。

 

「そうだ。俺が何者かについてだが、一つの答えがこれだ。」

 

 もう1つの札を取り出す。牙を剥き出し、こちらに突っ込んでくる。手が塞がっていると思ったのだろうか。

 

「霊吾。魔法使いに成れなかった人だ。」

 

 札の輝きと共に巨大な閃光が放たれる。

 

 飛び込んできた妖獣が閃光にのまれ消し飛ぶ。パラパラと塵になった物だけが残った。

 

「・・・すごい。」

 

 それはかつて自分が思った事と同じものだったのかもしれない。

 

 腕から魔理沙を下ろす。ここで放置するのは怖いが彼女はこれまで一人で生きてきた。俺との会話で少し油断していただけだろう。

 

 彼女には考える時間が必要だ。そこに俺は介入できない。

 

「またここらに来る。その時にここに君が居ないことを願うよ。今日は酷い言い方をしてすまなかった。」

 

 そう言い残した。できれば彼女が家族と共にいられますように。

 

 




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