かくして幻想へと至る 作:虎山
天に上る煙が死者の旅路を表すようにうねっている。八枝に会ったとき何て言えばいいのかよくわからない。この手にある赤いリボン、、、ルーミアの頭からほどけたこれでも渡せばいいのだろうか。
「・・・聖者は十字架に磔にされました、だったかの。」
隣で火を見つめる魔理婆さんが口ずさんだ。
「どういう意味なんだ。」
「さーての、よくはわからん。ただルーミアが両手を広げて言った言葉だったか。」
「・・・縁起でもないことだな。」
本当に磔にされるとは思ってもいなかっただろうな。ルーミアにそこまでの危険性があったのだろうか分からない。それでもあのようにするのは間違っている気がする。それは自分がまだ幻想郷についてよく知らないからなのか。だから、、、
「なあ、魔理婆さん。」
「なんだい霊吾。」
「妖怪と人間が争うことがない幻想郷にまたできると思うか?」
魔理婆さんに率直に聞いてみるのが一番だろう。
「どうだろうかの、かつてはなりかけたんじゃがの。今となっては昔より厳しいじゃろう。知性のない狂暴な妖怪も増えとる。そもそもなぜあれほど良好だった関係が崩れたのか解っとらんからの。」
否定的な意見を並べる。上海と似たような事を言っているあたり本当に無理なのだろうか。
「・・・けど、無理とは思っとらん。」
魔理婆さんの力強い声に強い意思、強烈な願望を感じた。
「妖怪の中にも未だに人間に敵対しないものもおるじゃろうし、きっと人間の中にも妖怪に理解のある者もおるじゃろう。それらの者達がいて、協力しあえば、きっとできると私は信じとる。」
八枝と凶を思い浮かべた。人間の中でも変わった考え方を持った者達。八枝にいたっては妖怪を友達としていたくらいだ。彼らなら何とか協力してくれるだろうか。
「霊吾ならもしかしたらできるかもしれんの。」
「・・・まだそこまでの力はないと思うが。」
いずれはやるつもりだが、なんだか魔理婆さんが過大評価してる気がする。
「なんじゃろな、お前さんからときどき霊夢に似たようなものを感じるんじゃよ。霊夢に比べれば才能なんて無いに等しいんじゃがの。まあ何かを成し遂げそうな、そんな感じじゃ。」
ここでも霊夢かと思う。見たような名前だけで全く違うと思うが。
「・・・絶対やってみせるよ。」
・・・
「ねえ!安静にしてって言ってるでしょ!」
ぺちぺちと小さな手で叩かれる。
「そうは言うけど、多少は動かないと体が固まってしまう。」
あれから数日、傷が癒え始めるくらいだろうか。まだ痛みが残っているが、寝っぱなしはあまり良くないと思い、朝軽くあたりを走っていると上海に見つかり怒られた。
「大きな傷も無いんだし、大丈夫だよ。」
「それでも重症だったんだからね。一昨日まで満足に動けなかったくせに。」
あの翌日、傷の痛みだけでなく、体の酷使による筋肉痛と霊力の消費による疲労でボロボロだった。一人で歩けるようになったのも昨日からだ。
「ちょっとだけで終わるから、お願い。」
「まったく、少しだけだからね。早く戻って来るんだよ。」
そういって家に戻っていった。小さいがまるで姉のようだ。また怪我をしないか心配しているのだろうか。
(年的にはもうだいぶ一人立ち出来るくらいだと思うんだけどな。)
それでも家族がいると思えるのは幸せなことだった。だからまあ当分はお姉さん面をさせてやろう。
軽くあたりをジョギングして調子を確かめる。切り傷の方は問題ない。右手の火傷がまだ痛む。痕が残るのはもうしょうがない。それと胸がときどきズキッと痛む。
肋骨の方はまだ回復してないらしい。折れていたから当然か。
(しかしまあ、一日で随分とズタズタになったな。やっぱり妖怪相手に無傷とはいかないもんだな。)
ルーミアの件で聞いた話によれば人に近い見た目の妖怪の方が強いらしい。
(狂暴とは言え、知性のない妖怪に満身創痍じゃまだ話にならないかもな。そういえば、あの白い少女は何だったのだろうか。)
ここに帰る道中、会った白い少女。雰囲気的に間違いなく妖怪だと思った。
(魔理婆さんなら知ってるかもしれない。聞いてみるか。)
・・・
「それはこいしじゃ。‘古明地こいし’という覚妖怪じゃ。しかし、地底は塞がれとると聞いたが地上に残っておったか。」
「どういう妖怪何だ?覚妖怪と言うと心を読む妖怪なのか?」
有名な妖怪ではあるが、彼女が心を読むといったことはしていないはず。単に読んだことを言っていないだけかもしれないが。
「なんと表現すべきか、覚妖怪を止めた妖怪ってところかの。いかんせんこいしについては誰もよく知らんかったんでの。」
「・・・よくわからない妖怪なのか。」
実際、何しに来たんだろうか。声をかけられるまで、気配がわからなかったのは不思議だが、まだ妖力をよく感じ取れないからなのだろうか。
魔理婆さんからの視線を感じて、そっちに目を向けるとなんだか心配そうな目を向けられている。
「・・・霊吾、焦らんようにの。」
目が合ったのを確認すると、魔理婆さんはそう言った。
「突然どうしたんだ、魔理婆さん。」
「上海が怒っとったからの、無理しすぎは良くはないの。それに私も霊吾は少し休んだ方がいいとも思っとる。まだ回復しきれてないじゃろうし。心がの。」
心、、、確かに多少はまだ悔いに残っているところがある。自分にはどうしようもないことだがなんだがもやもやする。別に無理をしているわけではないが、二人にここまで言われたら流石に自覚しないといけない。
「・・・なるべくは控えるよ。」
・・・
昼に寝過ぎたせいか、夜に眠りにつけない。これがあるからなるべくは活動したいのだが。
(ん、外が意外と明るい。月明かりにしては明るすぎる気もするが。)
気になって外に出てみると、月だけでなく星々も非常に輝いていた。それこそ手に届きそうなほどに。
「ん、起きてきたのか霊吾。どうじゃ、随分と綺麗じゃろ。」
椅子に腰かけている魔理婆さんが空を見上げて言った。隣に寄り添うようにいく。
「・・・幻想郷から見る星は違う気がする。」
コンクリートの世界から見上げるものと変わらない夜空なのに、こうも違うものなのだろうか。
「この時期にこの場所でしか見れない光景じゃぞ。小さい時に連れて行ってもらってから、毎年ずっと見ておる。幻想郷が変わっても変わらない輝きじゃ。」
ふと、魔理婆さんの横顔を見ると、そこにはまるで憧れを抱いている少女のような表情が見えた。星々の光に照らされて輝いているように思えた。
「・・・思えばこれが私が星を目指そうと思ったきっかけだったかの。あの輝きのように私も輝きたかった。じゃが、私より輝いとったものがいたからの。私はきっと霞んで見えるのじゃろうな。」
どこか喪失感が伴う。弱気になっている魔理婆さんは初めて見た気がする。珍しいがあまり見たいとは思えない。
「・・・俺から見たら魔理婆さんは眩しいほどに輝いていた。魔理婆さんにとって星が憧れだというのなら、俺にとっての憧れは魔理婆さんだった。上海もだったけど、俺に家族を教えてくれた二人はずっと輝いていて暖かかった。」
こんな言葉でも元気を出してくれるだろうか。今の俺の偽りのない本音だった。
「・・・ありがとの、霊吾。私にとってもお前さんは家族じゃよ。私にはできすぎたくらい良い孫じゃよ。それにしてもの、下手な告白みたいな言葉じゃったの。」
フフッと笑う魔理婆さん。多少元気になったようだが、そこには突っ込んでほしくなかった。人に対しての感謝の言葉をうまく表現してきてないからよく分からないからしょうがない。
「・・・別に魔理婆さんのことは嫌いじゃないからいいよ。」
「クック、それはお前さんがこれから先に好きな人ができたときに言うんじゃよ。こんな老いぼれに告白なんぞもったいない。私が言うのもなんじゃが老い先の短いものに入れ込まんほうがええぞ。」
・・・もう少し前の時代に来れたらよかったのだろうか。まあ無駄な想像だろう。
後で振り返ればこれは霊吾にとって、初恋だったのだろう。決して叶わない恋であった。
恋に年齢は関係ないけど叶うかは別なんですよね、、、