かくして幻想へと至る 作:虎山
「夜に出歩くなって言ってんのに、何そんなに気合い入れた格好してんのよ。逢い引きにでも行くつもりかしら?」
神社で巫女に小言を言われる。止めないところをみるに小言を言いに来ただけか。嫌な予感がすると言われなければ基本的に自由なのでありがたい限りだ。
「いや、散歩だ。」
白のインナーに黒のコートを羽織る。自分の思い描いた魔法使いとしての格好だが、やっぱり白黒の配色になってしまう。
「そう。まあ無事に帰ってきなさいよ。」
興味がなさそうに手を振って戻っていった。
「ありがとう、少し行ってくる。」
・・・
人里は基本的に夜間は門が閉じている。夜に里の外に出る人間はいないが、昼間に外に行った人が帰ってくることもあるので警備をしている人が門の周辺にいる。
用件を言えば入れてくれる。妖怪でないため人里の結界に弾かれることはないが、後々問題にしたくないので警備に了承を得る。
「こんばんわ。お疲れ様です。」
十代後半から二十代前半と思われる若い男性だ。
「・・・夜に人里に何のようですか。」
警戒の色が強い。外の人間だからという理由もあるだろうが、何より怪しいのだろうな。
霧雨さんところとしか交流がないのもあるだろうが。
「寒い夜ですが、霧雨家の母娘と散歩をしようと思いましてね。今夜は星がよく出ていますので。」
「霧雨の旦那は何も言わなかったのか?」
「任せると言われたので問題ないです。」
「・・・何でこんな余所者を頼りにするんだ。」
「余所者だから頼り易いんですよ。」
「そんなもんかあ?個人的には入れたくはないが、霧雨の旦那に言われてるならしょうがない。入れよ。」
渋々といった感じで門を開けてくれた。
「ありがとうございます。」
・・・
夜の人里は静かだ。街灯などは無いため今日のように星が出ていなければ目の前さえ見えない。
その中で一人の通行人を見つけた。人里の中とは言え、この時間に子供一人で出歩くことはない。
普通の子供では無さそうだ。こちらを見ると声をかけてきた。
「あら、こんばんわ、噂の外来の方。」
「こんばんわ、噂とは?」
良くない噂だとは思う。
「何でも霧雨商店の奥さんを狙う若い男と聞いてます。中々の色男と聞いていたので一目見たいと思っていたところでした。噂通りとはいかないものですね。色男ではありますが、思っていたよりも誠実そうな方じゃないですか。」
「・・・一目見て判断できるんですか?」
「多くの方を見てきたので人を見る目は確かだと思います。」
年からすると魔理沙と変わらない少女のはずだが、纏う雰囲気は妖怪のようだ。長い時を生きてきたであろう雰囲気、人間の少女から感じ取れるわけがない。
俺も話には聞いていた。転生を繰り返し行っている人間。
「稗田の者、御阿礼の子ですか。」
「知っていたんですね。どうも、稗田阿求と言います。少し物覚えが良いだけの人間ですよ。」
見たものを完全に記憶する能力だったはずだが、少し物覚えが良いだけというのか。
その記憶には転生の度に知識と経験が追加されているのだろう。
「・・・なるほど、どこか見られている様に感じるのはあなたの特殊な観察眼ですか。」
少し見られただけで全身を汲まなく見つめられる感覚だった。
「悪いものではないのですが、人を見るときに類似した人を記憶から探る癖が出るのは何とかしたいですね。珍しいことにあなたに似た人間を私は、いや私達は知らないんです。」
「そこまで分かるものなんですか?」
「人妖問わず自分の意思とは関係ない動きを見ると意外と分かることが多いですよ。例えばあなたの本来の喋り方とかですかね。固い感じだと思いましたので、そういう話し方に不誠実な人ってあまりいないんですよ。」
「固いというのが、こんな感じであるのならそれは間違っていないが。経験則で物を言われるとあんたには敵わないな。」
本来の話し方を当てられるとはな。何を見てそう判断したのかは分からないが、この少女の前では取り繕う必要はないか。
「ふふ、稗田家の事情も知っているようですね。どこで聞いたのかは知りませんが、人里で知っている人はほとんどいないんですよ。」
「・・・詳しい人に少し聞いている。あんたがどういった契約で転生を繰り返しているかは知らないが。」
「それは言えないですね。それにしてもあなたに伝えているんですね。稗田の事をいたずらに広めることはないはずなんですが、その詳しい人とやらがあなたに話した理由は気になりますね。」
「すまないがその理由について俺からは言えない。」
未来では稗田家は続いていなかったため、興味本位でも答えてくれた。
「・・・一つ聞きたい。その螺旋から弾かれるとしても人として生きたいと思わないのか?」
「契約を知らない割には確信めいた事を聞くんですね。まあ、答えましょう。御阿礼の子としては人を愛することは絶対にありません。ですが、阿求としては分からないというのが答えです。」
御阿礼の子がここで跡絶えることを受け入れているのだろう。
「・・・転生を繰り返すなかで唯一体験できなかったことは人を愛する事なんですよ。最後に契約を破ってでも知りたい事なんです。この代まで来てしまったからこそ、契約を破るのであれば人を愛してみようと思います。」
未来で外来人と結ばれたのは彼女の意思でもあったのか。契約からして無理矢理だったとの話もあったが、そういうわけでもなかったか。
「・・・そうか。その願い、叶うといいな。」
「まるで私は眼中に無いという言い方ですね。」
「まだ子供だ。もう少し成長してから考えてみたらどうだ?」
それにあなたには将来のお相手がいる。そして凶と呼ばれた子供を授かるはずだ。
「・・・中々に面白い話でしたよ。急いでおられる様でしたが、呼び止めてすみません。」
「いや、こっちもいい話を聞けた。今度、あんたが編集している物を見せてもらいたいが、よろしいか?」
「何時でもいらしてください。お待ちしてますよ。」
・・・
稗田阿求と別れ、霧雨商店の方に行くと灯りがついていた。小さな提灯が店の前の長椅子に座っている二人を照らしていた。
「お待たせしました。」
「いえ、魔理沙と一緒に佇むのも久しぶりでしたので。」
「・・・霊吾さん、その格好ってもしかして私の真似?」
「魔法使いと言えばこんな感じだろ。真似と言われたら真似だが。駄目だったか?」
「そんなことはないです。お揃いですね!」
「そうだな。じゃあ、行きましょうか。」
真理菜さんに手を差し伸べる。
「ええ、お願いします。」
「・・・綺麗。」
背負った真理菜さんが感嘆の声を溢した。夜空の星もそうだが、夜空を駆け回る魔理沙も輝いていた。
「それはよかった。そう思っていただけたら満足ですよ。」
「あの姿を見るとやっぱり魔理沙は人里で商いをして終わる娘じゃ無いってことが分かります。自由に空を駆け回る姿はまるで御伽噺の魔法使いですね。」
笑顔で星が煌めく夜空を飛び回る姿は彗星のようだった。星形の魔力が軌道を彩り、天の川のようにも思える。
「・・・あなたと会うのは最後になると思います。ありがとうございます。夜空を見せたかったというよりは魔理沙を見せたかったんですかね。」
本当の目的という訳ではないが、魔法使いとしての魔理沙を見せたかったのはある。
彼女の輝きというのは人に興味を示さない巫女の心を掴む程の美しさだ。
「どの星よりも輝いて見えます。昔、お星様になってお母さんが何処でも見れる様になるって言ってたのを思い出しました。」
それが魔法使いの起源だったのだろうか。
「僕にはこれくらいしかできませんので、満足していただけたら幸いですよ。」
「これくらいではありません。こんなにも尽くしてくれて私には勿体無い限りですよ。」
本当なら救ってやりたい。手段を選ばなければ方法はいくらでもある。未来では交流がなかったが、迷いの竹林の奥に行けば治せる者がいる。
だが、その者達への干渉は現時点ではできなかった。あそこの結界を破ることはできない。例え辿り着いたとしても、協力してくれるとは限らない。隠れている身だと聞いていたからだ。
「・・・魔理沙をお願いします。あの星が堕ちてもまた上がっていける様に支えてあげて下さい。」
「魔理沙の行く道に絶対はないので、安心して下さいとは言えません。ですが、任せて下さい。力の限り支えましょう。」
支える必要性は無いのかもしれない。事実、未来では一人で生き残っていたほどだ。
知っている俺だから言えることだろう。
「・・・ありがとうございます。これで私は安心して寝ることができます。」