かくして幻想へと至る 作:虎山
「29、、30、終わり。」
バタッと地面に倒れ込む。
「少し休憩してもう1セットだな。」
「・・・なあ師匠、魔法使いの修行って筋トレばっかりなのかよ。」
「そんなことはない。だが魔理沙は基礎体力や筋力が弱い。魔法にもよるが、お前が使う威力の高い魔法を扱うには最低限の力は必要だ。少なくとも俺が提示したメニューを軽くこなす程度にはなってもらいたい。」
同世代の子供と比べれば筋力や体力といった身体能力は高い。だが、魔理沙の比較対象としては過去の自分、もしくは菫子と定めている。
体術が苦手の菫子であっても、最終的には格闘戦で打ち合える程までになっていた。極限状態の菫子は例外的なものであるため参考にはならないが、最低限の身体捌きが出来ていなければ魔法の反動に耐えられない。
「魔法は扱わないんですか?」
「魔法はイメージによるところが大きい。特にお前の能力は細かい事を省くことができる。人の身でありながら魔力を扱えるっていうのは本来はできない事もあり、俺も補助道具を使って魔法を扱っていたに過ぎない。つまりは力の扱い方は教えることができても魔法については自主的にやった方が良い。」
魔法については俺が教えることで魔理沙の天性の才を潰す可能性を考えるとあまり得策ではない。
俺が出来るのは魔理沙が魔法を使うまでの基礎を作ってやることだ。そもそも一人で魔法の森を生き抜いて来たのならその内に鍛えられていく。
「それにだ。お前が使いたい魔法とお前の性質が違うのは理解しているだろ?本当に魔法使いの道を行くのなら俺は閃光や灼熱といった火の系統は教えないな。」
「・・・意地悪ですね。」
「俺が正統な魔法使いならそうするはずさ。」
圧倒的な火力での砲撃は魔理沙本来の属性とは対極にある。これは今の魔理沙に関わって分かった事ではある。
魔法に口出しはしないとはいえ、どの程度使えるかを見せてもらった。その過程で他の属性の魔法を試してみたが、水系統、つまりは防御に特化した魔法に長けているのが分かった。
魔法使いなら自分の属性を特化させる、もしくは長い時間をかけて全ての属性を扱えるようにしていく。
その点では魔理沙は異端だ。自分の対極の属性を特化させようとしているのだから、並々ならぬ努力と執念が必要だ。
魔道に反してまでも自分の魔法を突き通すからこそ、人間から外れることがなかったのかもしれない。
(本当に難儀な人だな、あなたは。)
今の少女を見ているからこそ、あの老婆がどれほどのものを積み重ねてきたか見えてくる。分かるなんて事は言わないが、決して楽な道ではなかったはずだ。
霧雨魔理沙と言う人間は楽に手に入る力に魅力を感じない。
休憩中に慣れ親しんだ気配が近づいてくるのを感じる。
「オッス、レイア!魔理沙もいたのか。」
相変わらず何処にでも現れる。魔法の森は彼女が遊びに来る場所の一つでもあるが、彼女の行動範囲は今のところ湖と森だ。必然的に合うことも多くなる。
「修行中だな。魔理沙、休憩終了だ。」
「分かりました。」
筋トレを続けさせる。
「またこれやってんの?」
会う度に筋トレをしていたらそう思われるか。
「強くなるには大事な事だからな。今日もやるか?」
「やる!」
妖精が筋トレで変わるかは分からないが、力の使い方を学ぶ一貫としてはいいのかもしれない。
美鈴さんのように人の武術を極めている妖怪もいる。妖精だって地道に強くなることも可能だと思う。
(未来でのチルノは氷の剣を作り出し戦っていた。接近戦を鍛えたとして悪い未来に行くことはないはずだ。)
基礎的な修行を暫くは続けるか。チルノも参加してくれる事もあり、競いあってくれるかもしれない。
「妖精には負けないぜ。」
「人間の子供があたいに勝てると思うなよ。」
負けず嫌いな二人だ。無茶は流石に止めてやるか。
・・・
一通りの修行が終わる。あんまりやり過ぎると身体を壊す可能性があるため、長くはやらない。
段階的に強度を上げていくのが必要ではあるが、菫子に格闘を教え込んでいた事でどの程度上げていけばいいかというのは推測できる。
(菫子は素人同然だった。身体能力は魔理沙の方が高いが、体術は同様であるなら、参考に出来るな。)
切り株の上に座っている魔理沙に問いかける。ちなみにチルノは遊びに行った。バテるのは早いが回復も早い、元気な奴だ。
「魔理沙、お前に足りないものはなんだと思う。ここでの暮らしについてだ。」
「足りないもの、、、欲しいのは技の威力だけど足りないものって言われたら分からない。何ですか?」
「接近された時の対応だ。強力な魔法とそれによる高速移動で何とか凌いでいるようだが、魔法を使わなくてもある程度戦えるようになっておいた方がいい。」
「必要なんですか?逃げる手段があれば十分だと言ってたと思うんですが。」
「まあそうだな。逃げる手段は今のままでも十分だ。お前のスピードを越える奴はそうはいない。だが、逃げられない戦いというのがこれから先にある。その時に接近戦はお前にとっての奇襲手段になるかもしれない。」
「逃げられない戦いですか。そんなのあるんですか?」
「大事な人を守らなければいけない時だ。外敵から守る事と考えると分かりやすいだろう。」
「・・・それならその人を連れて逃げます。」
「それが出来ない事もある。外敵から守るって言うのは分かりやすいから出した例だ。厄介なのは守る対象と戦う事だ。」
状況としては特殊だが、魔理沙がその状況にあう可能性はあると思われる。
「守る人と戦うって矛盾してませんか?」
「言葉だけではどうにもならない事もある。力や能力が突出している者に多い傾向だが、固い信念というのを持っている奴らはいる。分かり合えない場合、そいつらを止めるには戦って言い聞かせるしかない。」
最終手段ではある。だが、力が無いものには自分の意見を通すことは出来ない。
「・・・師匠にはそういった経験があったんですか?」
「それなりにな。言葉だけでは分かり合える事がない奴らは俺よりも強かったり、相性が悪かったりと一筋縄ではいかないような奴等だったよ。」
数多の強敵達との戦闘の記憶。言葉では変えることが出来ない事は多かった。
「なるほど、、、逃げられない戦いがあるというのは分かりました。奇襲手段とはどういう意味ですか。」
「魔法主体の相手をする時に何が弱点になるかと考えた時に一つが接近だ。特にお前のように高威力の砲撃を使うなら間違いなく接近戦を仕掛けてくる。」
本来の霧雨魔理沙なら決して接近戦はしない。広範囲の魔法と高速移動で自分の距離に相手を留めるような戦い方をしていた。基礎的な筋力と体力を教え込めば十分だ。
正直格闘術を教え込むかは悩んだ。魔法使いとして伸びていくのなら必要はない。それどころかそれに割く時間や労力が魔法使いとしての成長を邪魔する可能性もある。
それでも教えると決めた。俺という存在で少しづつではあるが変わりつつある未来のためだ。
(それともう一つの目的もある。いずれ出会う博麗霊夢の為だ。世界から外れたあいつを見つけ出せる人間は魔理沙をおいて他にいない。)
未来においても霊夢の存在は大きい。短命の未来を変えられるかどうかは分からないが、彼女に生きたいと思わせる事が出来るのは魔理沙しかいない。
話は変わり、魔理沙の近況について聞く。魔理沙というよりは真理菜さんの事だが。
「・・・真理菜さんの容態はどうだ?」
「もう立ち上がるのも辛そうになってます。」
「そうか、、、」
やはり死期は早まっているか。
「・・・死に際に立ち会わないつもりですか?」
「家族が居るならいいさ。暫くは修行を止めておく。自分の出来る範囲で続ければ問題ないから魔理沙は居てやってくれ。」
俺の役目は終わっている。真理菜さんに輝く星を見せることが出来た。
「最後の言葉を俺に使わせるのは勿体無い。娘に言いたいことは沢山あるはずだ。しっかりと聞いておくようにな。」
「・・・分かりました。」
それから数日後、想定していた時期から早く訃報が届いた。