かくして幻想へと至る   作:虎山

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寒くなって来ましたね


蚊帳の外で

 静かな夜。普段であれば落ち着いている人里の気配が今日は揺れ動いている。多くの人が動いているのが分かる。それだけ皆から好かれていた人だったのだろう。

 

 俺は人里には混ざれない。幻想郷に来て日が浅いわけではないが、霧雨家以外との交流は避けてきた。周りの人からすれば不気味な人間だ。それに無理に入り込まなくてもいい。

 

 巫女から酒を貰い一人縁側で呑む。巫女は昼間に人里で式の仕事があり、その時に霧雨さんから酒を渡されたらしい。

 

(・・・後日顔を出すか。あの人も強がりだからな。)

 

 宇佐見さん同様、弱みをあまり見せない人だ。特に娘の前では。

 

「珍しいな、お前がここに顔を出すとは。」

 

 隣にはいつの間にか萃香が座っていた。酔うと上手く感知できないが、ここまで接近に気付かないのは何とかしたいものだな。

 

「一人でしんみりと酒飲んで楽しいのか?」

 

「人を送る酒だ。楽しんで飲むもんでもないだろう。」

 

「それなら逆だよ。そいつのためにも楽しく飲んでやれよ。辛気臭くなるよりは笑顔で送り出してやんなきゃ、安心して逝けねえだろ?」

 

 そういうものなのかどうかは分からない。ただ、萃香の言っている事も理解できる。

 

「・・・そうだな。だが、俺一人ではどうしても難しい。萃香、付き合ってくれないか?」

 

「たく、しょうがねえな。この萃香様が付き合ってやるよ。で、そいつは何者だったんだ。あの人間の女だろ?お前が未来で関わる人間ではないはずだが。」

 

 しょうがないと言いながらも嬉しそうに見える。

 

 しかしよく見てる。こいつが興味を持つ人間では無いはずだが、俺に関わっている人物なら把握しているのか。

 

「・・・俺が今教えている少女は知っているか?」

 

「あの娘か。あれは化けるな。昔見てきた術師より明らかに術の規模が違う。確か、亡くなった人間の子供だったか。」

 

 やはり知っているか。それに術の規模と言ってることから修行中も見ているのだろう。

 

「そうだ。あの娘についてだが、俺が未来で生き残れたのはあの娘のお陰だ。未来では老婆だったが、俺に生き残る術と魔法を教えてくれた人だった。」

 

「なるほどな、、、似てたか?」

 

「・・・そうだな、、、穏やかながら心の強い人だった。どちらも俺が関わった時にはもう終わりに近かったのを含めてもな。」

 

「はは、まるで恋をしている乙女みたいじゃないか。ええ、どうなんだよ。」

 

「否定はせんさ。あの人に惹かれる人は多いと聞いていたし、誰からも好かれる人だった。俺も例外ではないだけだよ。」

 

「妬けちまうな、お前にそんな顔させるとはな。とりあえずは忘れるくらい飲めよ。」

 

 萃香の持つ酒を注がれる。まだ残っていたんだがな、、、

 

 

・・・

 

 

 膝に頭を置く酔い潰れた男を愛おしそうに見つめる。最初に気づいた時は警戒したが、ここまで惹かれるとは萃香自身も思っていなかった。

 

 未来の自分が残した傷痕。人間ではなく、一人の男として欲しがったと分かる。

 

(素直になっていれば、お前は過去に飛ばされる事も無かっただろうに。恨んでくれても良かったんだ。それが在るべき姿なのにな。)

 

 

 

「そんなに警戒しなくても取って食うことはないさ、博麗の巫女。」

 

 襖が少し開き、警戒した様子の巫女が覗く。

 

「・・・また幼女か。それにこんな大物とはね。相変わらずそいつは変なのに好かれるわね。」

 

 妖怪を前に無防備に眠りこける霊吾とは違い。見せない様に武器を構えている。普段なら武器を持たないが、大妖怪を相手にする時は針を拳に挟み込む。

 

「面白い男じゃないか。それなりに腕が立ち、妖怪への恐怖と立ち向かう勇気の両方を持ってる奴はそうはいない。あんたら博麗の巫女と似て、人のまま強くなってる。今の時代にこんな人間はそうそういない、惹かれる奴も多いだろうよ。あんたも例外ではないだろ?」

 

「私とそいつの関係は家の主と居候。それ以外に何の関係もないわ。」

 

「正直になれよ。こんないい物件は他に無いぞ。特にあんたらにとっては都合の良い奴だと思うがな。」

 

「条件としてはこれ以上無いくらいなのは理解してるつもりよ。だけどそいつは絶対に私だけを見ることはない。というかそいつが何処に気持ちを寄せているか分からないのよね。その様子だとあんたかしら?」

 

「いや、私でもないさ。こいつにもいろいろあるのさ。」

 

「はあ、色んな奴をたらしこんで来るわね。」

 

 それに関しては萃香も同意だ。人間にしろ、人外にしろ好意を寄せる者はいる。そしてこれからも増えるだろうということも分かる。

 

「・・・本当にそいつに危害を加えないのね。」

 

「こいつの頭を膝にのせて鼓動を感じるのはそうそうできるもんじゃないからな。強がりな奴の弱音を受け止めるのも悪いもんじゃない。」

 

 白がかった髪を撫でる。鬼の姿というよりは慈母の様に見えた。ここに来てからそれなりに時間は経っているが、これ程の妖怪と親密になるのはおかしい。少なくとも巫女の中では考えられない事だった。

 

「・・・そいつの事情何か知ってるのね。」

 

「お前よりは知ってるかもな。何か聞いてるのか?」

 

「そいつはあまり過去を話さないからね。勘だけどそいつは外の世界の人間ってだけじゃないわ。だからといって悪さする奴でもないし気にはしていないけど、1点だけ気になっているところはあるわね。」

 

「気になっているところね、、、すまんが約束でね、私の口からはこいつの事は言えない。」

 

「まあこれは独り言よ。私の予想だとそいつは外界の博麗の御子かしら。人外への対応が明らかに普通の奴じゃないわ。あんたの事を知った上でもそうやって心を許しているのも普通の感性ならできることじゃない。何より封印していた赤布は間違いなく代々受け継いできた物だった。あれが存在するとすれば外の世界にあると言われる博麗神社しかないと考えているわ。」

 

 その独り言を残して神社の中に戻っていく。巫女の目では今の伊吹萃香に危険はなかった。

 

 

 

・・・

 

 

 巫女の気配もようやく大人しくなった。寝たのだろうな。

 

「・・・出てこいよ、藍。」

 

「・・・まったく、霊吾といいあなたといい何でそう気付くのか。」

 

「あいつは知らねーが、私は経験則だよ。お前はこいつの、霊吾の事情についてどの程度知っている?」

 

「そう聞くという事はあなたも聞いているのか?」

 

「まあ、詳しくは言えないがな。私の予想ではお前も自分の最後を聞かされたんじゃないのか?」

 

「・・・当たりだ。未来で私は殺されたようだな。恐らくあなたに。」

 

「だろうな。それでお前はこいつに何と言われた?」

 

「協力して欲しいとのことだ。基本的には彼の行動に干渉しないようにはしている。」

 

「なるほどなあ、あんたに頼むってことは紫対策か。」

 

「だろうな。紫様が霊吾を過去に送った理由は何となく分かる。紫様にとっても大事な人間だったと思う。そいつの体から僅かに感じる妖気の一つは萃香だが、もう一つは紫様だ。あなたの妖気はその傷だが、紫様の妖気は中に僅かに残っている程度だ。」

 

「くっく、あいつもか。」

 

 基本的に人が中に妖気を宿す事はない。禁忌に手を出し、妖怪に近づく事はあるが、肉体の変貌が伴う。

 

 例外として幾つかあり、萃香のように傷と共に妖気を体に残す場合や、長い期間で交わり続ければ可能性はある。

 

 八雲紫の妖気は後者だろうと二人は確信している。

 

「・・・でだ、私に何の用だったんだ。」

 

「次代の博麗の巫女は見つかったか?」

 

「あなたも気になるか。霊吾が言うほどの人間がいるのかとも思い、外の世界を探した。」

 

 本来なら博麗の巫女が未だに衰えを見せていないため、探す必要はない。萃香も気になっているように藍も同様だった。

 

 二人から見ても霊吾は人間としては上位に入ってくる。博麗の巫女と渡り合える程の戦闘力と博麗の巫女以上に優れた感知能力を持ってしても化物という人間がいるのかとも。

 

「・・・一人外の世界で化物がいた。博麗の巫女は基本的に人間社会に溶け込めない人間が多い中でそいつは平然と生活していた。霊力は過去の巫女達と比べても強大な少女がだ。」

 

「へえ、珍しいもんだな。」

 

「珍しいなんてもんじゃない、不可能だ。迫害を受けるからこそ、拒絶する力を持つようになる。もしくはその逆もある。そういう博麗としての素質を持ちながら周りに溶け込む人間は異例だ。それだけではない。あいつは私に気づいた。隙間にいた私をだ。」

 

 経験則から分かる萃香とも感知能力を極めた霊吾とも違う。純粋な勘で特定できる人間はこれまでいなかった。歴代の博麗の巫女であっても初見で気づけないものをその少女は気づくことが出来る。

 大妖怪から見ても化物に見える少女。博麗の巫女になった場合、どれほどのものになるか想像もつかない。

 

「まあ、そのくらいの人間じゃなければこいつが化物とは言わんだろうよ。」

 

「あれは私の手には負えない。紫様に任せる予定だ。」

 

「そういえば、あいつが目覚める時期になったな。こいつの事、どう説明するんだ?」

 

「下手な誤魔化しが通用する方ではないが、霊吾自身はそこまで脅威的な存在ではないと認識させればいい。幻想郷のルールとして人が妖気を纏うのはよろしくはないが、私が何とかしよう。」

 

「大丈夫か、、お前一人で?」

 

「・・・何が言いたい?」

 

「私も協力してやるよ。本気で紫がこの人間を消そうとしたら私が出る。」

 

「良いのか?それは友人として紫様に歯向かう事になる。」

 

「あんたの存在は替えが効かない。霊吾が危惧しているかは知らんが状況として一番最悪なのはあんたら主従の関係にヒビが入る事だ。」

 

 時として非情に成らざるを得ない事でも八雲紫単独で行動を起こすことは少ない。気紛れな事もあるが、重要事項は藍に情報がいく様になっている。

 どれほど優秀であっても一人で対処するには限界があるためだ。

 

「お前の役目はあくまでも霊吾という人間の危険性がたかが知れてるというのを伝える程度にしておけ。紫も馬鹿じゃねえ。外から来た得体の知れない人間に肩入れし過ぎると何が起こるかは分からん。」

 

「・・・承知した。しかし、あなたも随分と心を許しているな。まあ、気持ちは分からなくもないが。」

 

「だろ?未来でもけっこう好かれてただろうから、紫は恨まれてんじゃねえか。」

 

 

 

 

 

 

 

 




物語がなかなか進まない

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