かくして幻想へと至る   作:虎山

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久しぶりの更新



小話
時系列的には霧雨真理菜葬式後日です


閑話:束の間の平穏
忘れ傘 前編


「来たか、霊吾。てっきり葬式に顔を出すかと思ったが、巫女さんだけだったからな。」

 

「僕はもう十分関わらせてもらいましたから。短い間でしたがね。」

 

 その先は家族の時間だ。自分が干渉するべきではない。

 

(・・・違う人物とはいえ、似ている人をもう一度見送るのは辛いものがある。)

 

 それだけではない。どうしても消えない僅かな後悔。

 

「・・・それにやっぱり僕が魔理沙を」

 

「何度も言わせるな。あいつが満足して逝けたのはお前のお陰だ。そこに間違いはねえ。この話は終わりだ。」

 

 言葉を遮られる。彼らが許したとしても自分が納得できないものだが、何度も蒸し返すのも違うか。

 

「・・・分かりました。ですが出来る限りの要望にはお応えさせて下さい。」

 

「俺の頼みは変わらねえ、魔理沙を頼む。ここに居てくれるのはありがたいが、あいつの縛りになりたくはない。口では俺が死ぬまでは店に居るとか言ってるが、窓の外を眺めるあいつを見ると自由に飛び回りたいんじゃないかと思ってな。あいつは無事に暮らしていけるのか?」

 

「もう一人でも十分にやっていけます。ですが、もう少し鍛えるつもりです。魔理沙はその内に幻想郷中を飛び回る魔法使いになると思いますので、少しでも力を付けてやりたい。魔理沙は今日、どちらに?」

 

 今日は修行の時間よりも早めに来たが、魔理沙の気配がしない。

 

「真理菜の墓に花を持っていってるよ。人里から離れている場所にあるから、定期的に数人がかりで行くんだが、あいつは一人でも問題ないと思ってな。」

 

「逃げる術は持ってますので、一人であるなら問題ないです。力を持った危険な妖怪は居ないでしょうし。」

 

 墓の場所を詳しくは知らないが、数人で行ける程度なら元々妖怪が集る危険性の少ないところではあるだろう。

 

 

 

・・・

 

 

「うらめしやあ!」

 

 紫色の毒々しい大傘を持った少女が声を荒げた。静かな墓場でいきなり大声を上げれば人は驚く。

 真っ昼間の時間帯であってもさほど関係はないが、相手が悪かった。

 

「・・・妖怪か。何のようだ。」

 

 魔法の森ではいきなり襲い掛かって来る妖怪も多く居たため、驚かす程度では対した反応は見せない。それに今の自分が大きな感情の動きを見せる事がないと自覚している。

 

 母が亡くなって次の日だ、覚悟はしていたが、喪失感は拭えない。

 

 勿論警戒はしているが、危害を加えて来ない限りは手出しはしないようにしている。

 

 弱い妖怪といえど人を殺めるのに十分なものを持っている。無闇に敵対行動を取って痛手を負う可能性があるのなら争わないに越したことはない。

 

「ええ、何その反応、面白くなーい。」

 

 残念そうに肩を落とす。

 

「人を驚かす類いの妖怪か。それで驚かせた人いるのか?」

 

「・・・はあ、今時の少女は強いなあ。」

 

 自分以外にも驚かそうとした子供でもいたのだろうか。ここに一人で来る子供なんていない筈だが。

 

「で、驚かすだけが用事だったのか?」

 

「いやー実を言うととある人間を探していまして。昨日はあまりに人が多すぎてびっくりしたけど、人間一人なら何とかなるかなーって思ったんだけどなあ、、、」

 

「人探し?お前妖怪だろ?」

 

「こう見えても付喪神なんですよ。探しているのは私のご主人様ですー。」

 

 付喪神。幻想郷ではさほど珍しくはないが人間体を持てる程の奴はそうそう居ない。

 

「・・・捨てられたか。」

 

「違いますー。はぐれただけなんですー。ご主人様は私の事を大好きと言って下さいましたし、両想いなんです。」

 

「まあ、あんたらの関係はどうでもいいが、ここらはあまり人が来ないぞ。人探しをするなら人里付近がいいんじゃないか?」

 

 墓で人を驚かせようとしていた奴が人探しをしているのも可笑しな話だ。

 

「ええ、でもー、他の人間に否定されたら悲しいですし、、、」

 

 道具である故に人からの否定には弱い。その癖して人を驚かせる事を主にやっているのだからめんどくさい奴だ。

 落ち込んでいる様に見えるが、チラチラと此方を見ている。

 

「ああ、分かった分かった。知り合いの道具屋に連れて行くから。何かしらの切っ掛けは掴めるかもな。」

 

 ぱあっと表情が明るくなった。分かりやすい奴だ。

 

「ありがとうございます!あのお嬢さんの名前は何ですか?」

 

「霧雨魔理沙。お前は?」

 

 驚いた様子の付喪神。もしかしたら名前が広がっているのかもしれない。

 

(そんなわけはないか。師匠と比べてもまだまだ弱いしな。)

 

「・・・わちきは多々良小傘。魔理沙ちゃん、親族とかに妖怪と戦えるくらい強い男の人っている?」

 

「いない。そもそも妖怪を相手にできる人間は私が知っている限りでは博麗の巫女か私の師匠だ。」

 

「・・・師匠さんの名前は?」

 

「下の名前しか知らないが、霊吾と名乗ってるな、、、どうした?」

 

 歓喜の表情。

 

「やっと見つけた!いやー長かったな。」

 

「でも、師匠は幻想郷に来てそんなに長く経っていないと聞いている。人違いじゃないか?」

 

「わちきも一緒に幻想郷に来たから間違いない!妖怪と戦えるくらい強くて、霊吾って名前なら間違うはずないよ。結構カッコいい感じの人だよね?」

 

「そうだな、人里でも密かに人気があるくらいには格好いいんじゃないか。それにしても師匠がご主人様ねえ。」

 

 寡黙で美形、それに何処か影のある外来人。店番をしている時に時折どういう人なのか聞かれる事が多い。

 人里としてはあまり信用していい人間か分からないとやや警戒しているが、嫁入り前の女性陣からの評判は悪くない。

 

(・・・もう少し大人だったら、よかった。)

 

 魔理沙も例に漏れない。感謝と尊敬の思いだけではない。

 

 頼りになる年上の男性に憧れるお年頃。

 

「会いたい!会いたい!」

 

「・・・分かったよ、とりあえず神社にでも行くか。師匠は普段そこに住んでるし会えるだろ。」

 

 まだ修行時間まで時間がある。それに師匠なら感知で見つけてくれるだろうとの期待。

 

 

・・・

 

 

「思っていたより遅いですね。」

 

 帰ってくるであろう時間からは少し経っている。修行時間まではもう少しあるが。

 

「感知能力とかいうので探れないのか?」

 

「出来なくはないですが、墓地はどちらの方ですか?」

 

 魔理沙の霊力は人より大きいため、感知はしやすい。といってもある程度の位置を把握していなければ流石に分からない。

 

「あっちだ。」

 

 スッと方角を指す。魔法の森とも神社とも離れた場所に位置しており、危険性が薄いのも分かる。

 

(未来でも訪れたことはないな。そんな場所があったのか。)

 

 共同墓地があるというのも聞いていなかった。人里との交流がなかったため、今回の巫女のように出向くことが殆ど無かったからだろう。

 

 気配を探る。範囲感知とは違い、集中力を高めることで自分以外の霊気、妖気を把握する。正確な距離は分からないが、ある程度の予測は出来る。

 

「・・・居ないですね。ここに戻ってきている様子もないですし、何処かに出かけたんですかね。」

 

「一応、帰ってくるとは言ってたんだがな。面倒ごとに巻き込まれて無ければいいが、、、待っとくか?」

 

「そうですね、、、少し香霖堂に用事がありますので、魔理沙が戻ってきたら何時もの場所に居ると伝えてください。」

 

「分かった。それにしても霖之助のとこね。何か必要な物があるなら家で用意できるが。」

 

「一度、見に行った時に目に入った物があるんですよ。妖怪相手に格闘だけでは分が悪いですので、武器があると少しは楽になるので。」

 

 目に入ったというよりもある事を確認したというのが正しいのだろう。

 

「そういうことなら家よりかはあいつのとこだろうな。」

 

「魔理沙と途中で会った場合、一旦帰るように言いましょうか?」

 

「いや、いい。わざわざ帰ってこんでもどうせ日が落ちる前には帰ってくるだろ?」

 

「まあ何時も通りに終わる予定です。後もう一つあるのですが、霧雨さんは今晩は空いていますか?」

 

「・・・まあ、空いてはいるが、何を企んでやがる。」

 

「企みって訳じゃないですよ。強い人もたまには弱音を吐かないと生きていくのは辛いと思うんですよ。そんな訳で僕の話し相手になっていただけるとありがたいんですけど。」

 

「・・・っち、相変わらず余計な気を使うやつだ。まあ、ありがとよ。」

 

 

 

 

・・・

 

 

 

「師匠、いますか。」

 

 博麗神社にて声をかける。神社に居て起きているなら階段辺りで気付いているだろうし、師匠が寝坊するようなことはないだろうから何処かに行ってるのか。

 

 神社から巫女さんが出てきた。

 

「魔理沙ちゃんじゃない。あいつなら朝早く人里に行ったわよ。」

 

「そうですか、、、」

 

 朝早く。つまるところ修行前に私と父さんに用があったのだろう。

 

「何かあったのかしら、、、その妖怪は?」

 

 僅かだが確かな敵意を感じる。小傘はビクッとしている。

 

「付喪神だそうで、師匠がご主人様らしく会いたいとの事で連れて来たんですけど。」

 

「ご主人様?霊吾が?」

 

「はい、ここに来る前から大事に、時に乱暴に使ってくれた最高のご主人様です!」

 

 巫女さんが眉間に皺を寄せて、顔をしかめる。

 

「・・・言い方があれだけど、付喪神だから問題ないわね。それであいつは居ないけどどうするの。ここで待っといてもいいけど、今日帰りが遅いって言ってたわよ。どうせこの後修練でしょ?そこでいいんじゃないかしら。」

 

「そうですね。そろそろですので向かおうかなと。」

 

「連れてって下さい、魔理沙ちゃん!」

 

 小傘としても怖い巫女よりは魔理沙の方に付いていきたい。それに魔理沙に付いていった方が早く会える。

 

「分かった分かった。一緒に行くか。」

 

 

 

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