かくして幻想へと至る 作:虎山
人が来る事は少ない店を訪れる。何度考えてもここで商売する理由は分からない。店主としては穏やかに過ごす場所であればいいのかもしれない。
扉を開けて入ると、座って本を読んでいる店主がこちらに気付いた。
「おや、珍しい顔だね。」
「久しぶりという程ではありませんが、こんにちは森近さん。今回は客として来ました。」
「お客さんとして来る人間は初めてだね。親父さんの所じゃなくて僕の所に来るとあれば何をお求めで?」
傘立てのようなものに無造作に刺さっている刀を抜き取る。
「これですけど、頂いてもよろしいですか?」
森近さんが少し考え込む。価値を知っているかは分からないが、名前と用途を理解できる能力を持っていると聞いている。
未来では名刀の類いとして予想はしていたが、結局名前は知らずに使っていた。普通の刀よりも耐久があり、刃毀れすらしない代物だっただけに持っておきたい。
「・・・非売品ではあるんだけど、魔理沙の件もあるし、特別に無料で譲ろうか。」
「いいのですか、ありがとうございます。この刀、名前はあるんですか?」
「草薙の剣。僕の能力でその名前が浮かぶということは偽物ではないはずだよ。下手な値段を付けるとバチが当たりそうだから、コレクションになっていたんだよ。」
かつて神を切り伏せたとの伝説もある。対神においてはもしかしたら対抗手段になり得たかもしれない。
(あの時、刀を持っていっていればこいしを殺さずに済んだのかもしれないな。今さら遅いか。)
「だからまあ持っていっても問題ないよ。それにしても刀ね。魔理沙からは君が扱うのは格闘と霊術と聞いているんだけど、刀も使えるのかい?」
「それなりにですがね。主には格闘と術ですけど、自分の力だけで妖怪達に対して打つ手が無いって事もあるんですよ。それに刀ですと一撃で葬り去るのに力がそんなに要らないので長く戦闘を行う場合でしたら少し楽になるんですよ。」
この刀であれば格上相手にも通用する。通用すると分かれば刀に意識を向けさせる事もでき、戦闘の幅が広がる。
強力な一撃を叩き込む為の隙を作るにもあって損はない。
「君でも打つ手が無いという相手と戦う事があるのかい?」
「何が起こるか分からないですので。大妖怪のような存在とも相対する事もないとも言いきれないでしょう?」
「・・・彼らが表だって動く事は無いだろうけど、絶対はないということか。その時が来ない事を願う限りだよ。」
「僕もそう願ってますよ。まあ、八雲主従と博麗の巫女が居る限りは対処してくれるとは思ってますけど。」
あくまでも異変においては彼女らが動いてくれる。俺が大妖怪と衝突する時があれば、切羽詰まっている時くらいだろう。
俺単体に用があるものは別になるだろうが。
「では、これは頂いていきます。」
「ああ、いいよ。一つだけ、対価と言っては何だけど、時間がある時でいいから、ここの道具達について教えてくれるとありがたい。外の世界の物はどうも複雑でね、名前と用途が分かっても使い方が分からない物もあるんだ。」
店の中を見ると現代にいても古いと思うものもある。それでも幻想郷で使えるかどうかは分からない。灯油ストーブといった燃料を使う物などは果たしてここで使えるのだろうか。
使えるのかどうかは別として使い方は一通り分かる物が殆どだ。
「僕が分かる範囲でしたらお答えしますよ。今日は少し時間が取れそうにありませんので、また後日来ます。」
「気が向いた時でいいさ。君との付き合いも短くないだろうしね。」
・・・
普段修行を行っている魔法の森の一帯。近くに来ているのであれば感知できたが、未だ来ている様子はない。
(墓参りだけといっても随分と遅いな。何かに巻き込まれたのか。)
少し待っていると霊力と妖力を感知した。霊力は魔理沙だということは分かったが、もう一つの妖力については分からない。何処かで感じたことはあるが、確信が持てない。
魔理沙と共に現れた少女は水色の髪に珍しいオッドアイ。手に持った化け傘と妖気から想定はできたが、付喪神が人間体を持つことがあるのかという疑問はあった。
少女は目を潤ませる。感情が僅かに伝わってくる。
「・・・小傘?」
「会いたかったよ!ご主人様!」
飛び込んできた少女を受け止める。流れ込んでくる妖力は間違いなく小傘のものだ。
「もう捨てられたかと思った事もあったけど、やっぱり覚えててくれたんだ。」
「探さなかった事はすまない。言い訳になるが、この幻想郷から付喪神と言えど傘一本見つけるのは困難だと思ってな。」
探す暇がなかった訳ではないが、妖気を辿っての探索はどの程度時間がかかるか分からなかった。
外の世界と違い限られた世界とはいえ、行った事の無い場所もあり、下手に彷徨いて危険な目に合うこともある。
「いい。会えたからもう大丈夫だよ。人としての姿になっても私の事を分かってくれたんだもん、それだけで十分です!」
姿が変わっても妖力は変わらない。ただ視覚の情報と一致しないため断定はできなかった。
「・・・姿が変わったんですか?」
共にいた魔理沙が怪訝な目でこちらを見ている。少女にご主人様と言わせていたのはやっぱり良くは思われないか。
「そうだな。外の世界では人間体ではなく、紫色をした古い傘だった。ただの傘ではないがな。」
「ただの傘じゃないって言うのはどういう事です?」
「仕込み刀としての側面があった。俺の手に来たときには道具としての仕込み刀はなかったが、付喪神になった為か刀に変形してくれたよ。まあ、小傘の意思によるものだったが。小傘、もういいだろ。」
「まだ、物足りないです。一人彷徨っているのは寂しかったんですよ!、、、ご主人様、これは何ですか?」
腰に刺さっている草薙の剣を見て、何かを問う。見て分かるものだとは思うが。
「刀だが。」
「刀だが、じゃないです!あちきが居るじゃないですか!」
「お前、刀として使われるの好きじゃ無かっただろう。それにいつ会うか分からなかったからな。」
「それでも、その場所に他の物が居座るよりはあちきが居たいんです!」
「・・・我が儘な奴だな。安心しろ、お前を手放す気はないさ。基本的には傘としての役割になるがな。」
「ありがとうございます!」
満面の笑みで感謝を述べる。可愛い奴だ。
「師匠、刀も使えるんですか?」
「基本的には一瞬の加速と合わせての必殺を目的としている。剣術なんて大それたものはないが刀を振るう速さを鍛え上げていたからな。」
抜刀術と純粋な剣撃の速さのみを追求した歪な剣術。真価を発揮するには身体能力が条件になるため、剣術として成り立つものではないが格下の者なら一瞬で仕留めることが出来る。
それでも妖見には届かなかった。刀の擬人体のような存在だったから剣で勝てる相手ではなかったがそれなりに戦える程度ではある。
「ご主人様は強いんですよ。あちきが見てきた中でも最強です!基本的には格闘ですけど、時としてあちきを刀として使ってくれたんです!人を殺さないと言う誓約をしてくれてましたし、あくまでもあちきに委ねてくれてましたから。」
小傘が嫌がるようであれば基本的には武器としては使わないように心掛けてはいたが、結局は一度も断られることはなかった。
人を斬ると分かっていても渋々了承してくれた。随分と手間をかけてしまった。
・・・
修行も終わり、疲労気味の魔理沙。基礎体力の強化と基本的な格闘の手解きは十代前半の少女にはきついものもある。
だが、弱音を一切吐かずにこなす姿は流石の精神力と言ったところだ。本来なら一人で魔法使いとして成長していたのも頷ける。
「魔理沙、悪いが今日は魔法の森の方に帰ってくれないか?」
「私はいいんですけど、何かあるんですか?」
「少しだけ霧雨さんと話があってな。」
「・・・まあそういうことなら分かりました。頼みますよ、師匠。」
察してくれたのだろうか。深くは追求してこなかった。
・・・
霊吾と別れて、魔理沙の家に向かう。定期的に此方で寝泊まりをしているが片付いているわけではない。無造作に置かれた道具達で散らかっている。その中で研究材料だけは丁寧に保管されているのが目立ち異彩を放っている。
霊吾から今日のところは魔理沙についていって欲しいと言われ渋々了承した小傘も付いてきている。やっと会えたと言うのに間が悪い。
魔理沙としても昔の霊吾を知っている存在であるため、聞きたいことが幾つもありいい機会だと思っている。
「小傘は師匠と一緒に居たんだろう?外の世界での師匠って何をしてたんだ。」
早速の質問。基本的に霊吾は質問に対しては答えているが、自身の過去についてはあまり話そうとはしない。魔理沙に限った話というわけではない。
「ごめんなさい、魔理沙ちゃん。あちきからは喋れないんです。ご主人様から言われているって訳じゃないけど、ご主人様が知られたく無い事を伝えて仕舞わない様にね。答えられる範囲で言うと、何でも屋みたいなのをやってた感じかな。」
「まあ、それなら仕方ないか。それにしても何でも屋ね、、師匠らしいな。外の世界でも妖怪退治とかあったのか。」
「ここみたいにうじゃうじゃはいないけど、たまに人を襲う妖怪が現れた時には行ってたと思う。あちきは一度しか知らないけど。」
「へえ、随分慕っているようには見えたが、そんなに長くはないのか?」
「一年くらいかな、あちきに時間を言われても正確には分からない。孤独の中で百年過ぎると時間感覚はよく分からなくなるんだよ。」
人間と人外の時間感覚は大いに違う。百年というのは現実的にあり得ない事はないが、想像はつかない。特に今十代前半である魔理沙にとっては。
「・・・何か悪かったな。」
「今が幸せならいいんだよ。あちきを不気味な傘だと認識している上で大事にしてくれるのはご主人様が初めてだった。武器として使われるのは好きじゃないけど、ご主人様が望むのならあちきは応えるしか無いんだ。それが道具としての幸せだから。」
付喪神としての価値観の一片が見えた。
「じゃあ、小傘を拾ってから強くなった訳じゃないのか。」
「んー答えていいのかどうかは分からないけど、少なくともあちきと会う前から強かったよ。」
「なるほどなあ、向こうの世界がどうかは知らないけど師匠はそこまで年を取ってないのに随分と妖怪の知識があるし、戦闘経験もあるっぽいから、外法かなにかでも行ったんじゃないかなと。」
「それはないと思うから安心していいよ。」
強さの理由については知らないが、推測はできる。
幻想郷では小傘だけが知っている霊吾が外で名乗っていた名字。道具だとしても意識があったが故に記憶している真実。
(この子は間違いなくご主人様と関わりがあった。霧雨という名字もそうだけど魔法使いというのも偶然じゃないはず。ご主人様の事を知りたがっているのを見ても未来から来たのは知らないっぽいね。)
道具は持ち主の元にいる限り主人を第一に考える。霧雨魔理沙という少女に自分の名前を明かしていないのであれば、勝手に伝える訳にはいかない。
「相変わらずよく分からない人ってのは分かった。不思議な人だけど何者なんだろうってずっと考えてるんだ。」
外来人というのは多くはないが、見たことが無いわけではない。霊吾だけは幻想郷への慣れが異常だと感じた。
妖怪への向き合い方も術師だからという理由だけでは説明がつかない点もある。
「まあ、魔理沙ちゃんを裏切るような事は無いとは思うよ。」
外の世界で接していた少女達と違う。霊吾にとっての終着地がここであるかぎり、霊吾が魔理沙と敵対する事はない。
だが、未来に絶対はない。
この後も女子会は続いていきます
その裏で男達は飲み会をやっています