かくして幻想へと至る 作:虎山
あれから一月ほど時が流れた。結界の外には人の気配はここのところ見つからない。ただ妖怪が活発に動き始めてきた気がするが、、、まあ別に気にしても仕方ないだろう。
それ以上に大きな事態が起こっていたのだ。
「・・・いきなりすぎだろ。」
「・・・しょうがないよ、もう年齢的にも限界だったし、魔法の研究をやめないんだから負担もかかる・・・今までもってた方が奇跡だったよ。」
どこか悲しげな上海。俺よりもずっと前から覚悟していたんだと思う。それでも長く一緒に暮らしていた分簡単には飲み込めるものではないんだろう。
魔理婆さんが倒れた。俺と上海がいつも通りの実践を終え、家に戻ると魔理婆さんは床に伏していた。すぐにベッドに運び込むも意識はまだ戻らない。弱々しくも呼吸を繰り返しているがいずれ止まりそうな感じが否めない。寝ている魔理婆さんを見つめながら上海と一緒に目覚めるのを待っている。気を紛らわす為に会話のネタを探す。
「魔法の研究か・・・俺は気づかなかったな。いったいどんなことをしていたんだ?」
「さあね、珍しく教えてくれなかったし、何の研究をしていたんだろう。私の予想では少年に関することだと思うよ。」
「俺に?」
「そうだと思う。魔理沙が研究室に久しぶりに籠ったのが少年が来たくらいの時期だったからね。」
俺に関してか、、、言うに俺のために体を壊したようなものなのだろうか。俺としては一日でも長く魔理婆さんと暮らしたいんだがな。
「・・・ああ、そうか。」
ベッドの上から小さな声が聞こえた。
「魔理沙!」
上海が魔理婆さんが起きたのを確認してベッドに飛び乗る。俺もベッドのそばに近づく。魔理婆さんをよく見ると生気が薄く、力強さがない。上海の言っていた通りこれまでに張ってきた気が今になって限界になっていたのだろう。
「・・・意外に早かったの、もう少し持つかと思っとったが。」
「全く魔理沙はいつも、いつも、いつも、無理ばっか。人の言うことは聞きはしない。」
上海の目には涙が浮かんでいる。その上海の頭に魔理婆さんの手が乗る。撫でようとしているのかどうか分からないが手は動かない。
「・・・そういう説教臭いところ、アリスに似てきたの。じゃが、分かっとったことじゃろ。私は結構頑固なことくらいは。」
魔理婆さんはこちらに顔を傾ける。もう片方の手をこっちに伸ばし、その手を取る。その手はしわしわでいかにも年寄りといった感じの手だが何よりも愛おしい手だ。目線を手から魔理婆さんの目に向けると魔理婆さんは話し始めた。
「すまんの霊吾、私の予定ではまだまだ倒れるはずじゃなかったんだがの。どうも体が音を上げたようじゃな。まだまだしてやりたいことは多くあったんじゃが、どうやら一つしかできないらしいの。上海、研究室の台の上にあるものを持ってきてほしい。」
「・・・わかった。もう入っていいのね。」
上海はベッドから浮き上がり、ふわふわと部屋を出ていく。
「その研究っていうのは俺のためなのか?」
「いーや、私のためじゃよ。」
訳が分からず、どういうことか聞く。魔理婆さんはとびっきりの笑顔で答える。
「なーに、孫にプレゼントをやる理由なんて孫に好かれたいくらいしか理由なんてなかろう。婆っていうのはの頑張る子供を見ると何かをしてあげたくなるんじゃよ。」
・・・なんだか言葉が出ない。そんな俺は魔理婆さんにつられて、、、
「くくっ、霊吾、初めて笑ったかの。それにしても不思議な奴じゃの笑いながら泣くなんて。私も若い頃はよくあったかもしれんが。」
笑っていた。だらだらと涙を流しながら。
「はっは、そうだな。下手な笑顔だと思うけど。」
複雑な感情だ。こういう感情がよく出てくるようになったのはやっぱりここに来てからだ。そんなことを考えていると上海が両手で本のようのものを持ち、その上に八角形の何かが乗っていた
「持ってきたよ魔理沙、これだよね。」
「ああ、それじゃよ。霊吾に持たせてやってくれ。」
上海から本と八角形の何かを受け取る。黒く分厚い本はずっしりと重く、八角形の物体も軽いものというわけではなく、金属で出来ているようだった。
「最初に言っておくが、霊吾、お前さんに魔法を使う才能はない。そもそも魔力を扱うには能力を持っておくか、人間をやめるかの二通りしか存在せん。それでもお前さんが魔法使いを目指そうとしとったからの、私なりに補助アイテムを作っておったんじゃよ。」
「・・・魔力の使えない俺に魔法が使えるのか。」
これまでのようなマスタースパークではなく、本来のそれを出せるのだろうか。だが、アイテムがあろうと媒体となる魔力が無ければどうしようもないだろう。
「・・・まさか魔理沙、使ったの?だから早まったのね。」
魔理婆さんは答えない。その沈黙が肯定を表しているようだった。
「使ったって、何を使ったんだ?」
「これから先、生きて生産されるはずだった魔力素体、簡単にいえば余命のことよ。魔法使いにとって最後の最後にどうしようもなく行き詰った時に使う禁術、人間が使えるものじゃないよ。お母さんだって、使った後もたなかったんだから。」
「こんな老いぼれの短い命をこれから幻想郷を変えようとする者に託すんじゃよ。それに上海も分かっておるじゃろ、魔法使いっていうのは自分勝手なんじゃよ。」
そんな会話を聞きながら、二つの道具を見つめる。八角形の物体に魔理婆さんの魔力のようなものを感じる。
「気づいたかの霊吾、それは小型の八卦炉というものなんじゃよ。魔力を媒体に動くものじゃったんがの、少し改造しての、霊力を媒体にしての起動が可能じゃよ。それの使い方はその本に少し触れてある。いろいろと便利じゃぞ。」
「・・・ここまでされたら嫌でも魔法使いにならなきゃな。」
「くっく、じゃがのお前さんにとって魔法はあくまでも道具として思っとくんじゃよ。それにのめり込まんようにの。」
魔理婆さんがそう言うと、目線を戻し天井を見る。いや、天井ではなくその先を見ているようだった。
「小町や映姫に会うのも久しぶりかの。あいつらあんまり変わっとりゃせんじゃろうな。」
何か独り言をつぶやく。声はだんだん小さくなっていく。
「・・・悪い人生じゃなかったの。最後の最後まで何が起こるかわからんな、霊夢よ、、、」
すぅと目が閉じられる。まるで眠るように静かに息を引き取った。
上海の泣き声が部屋に響く。魔理婆さんが逝くその時まで我慢していたのだろう。頭を膝に押し付けて声を殺そうとしているが、それ以外の音が無いせいでよく聞こえる。すぐに俺の膝はびっしょりと濡れた。上海はしばらく泣き続け、ある程度落ち着きを取り戻す。
「・・・弔おうか、上海。」
「・・・そうだね。」
・・・
適当な石を見繕って墓石のように置く。この下には魔理婆さんが眠っている。土地に悪影響を与える妖怪とは違い、人間は埋めても問題ないらしい。何故か研究室においてあった棺桶に寝かせ、魔理婆さんを埋める。もうそろそろ天に届いただろうか。上海に聞けば昔は飛んで行けたらしいが。
事が起こった時は明るかったがもう暗くなっている。八卦炉で小さな火を起こしランプをつける。消えないように八卦炉を通じて霊力を送り込む。まだ慣れないせいかすぐに消える。
(・・・やっぱり難しいな。魔理婆さんのようにはいかないか。)
魔法っていうのは以外に繊細なものらしい。上海はすでに寝ている。いつも遅くまで起きていた魔理婆さんはもういない。夜に一人になるのはこっちに来てからは初めてかもしれない。
一人になると寂しくなる。昨日までは対面に座って昔話でも話してくれていたのに。これからどうしようか考えていた時には魔理婆さんによく聞いたものだができない。自分なりの考えで動くしかない。
(・・・いくか、博麗神社。)
この世界の管理者に会う、まずはそこから始める。幻想郷を変えるための第一歩を。