かくして幻想へと至る 作:虎山
挑戦状
「挑戦状が来ました。お相手は吸血鬼ですわ。」
紫さんが唐突に出てきて、手紙を投げ寄越した。受け取って中身を確認したところ、本日に攻め入るとある。
綺麗な字ではあるが、紅魔館で見た文字にはなかった特徴がある。おそらくレミリア・スカーレットではない。吸血鬼異変での首謀者はブラドという名の吸血鬼か。美鈴さんの話で少し聞いた気がするがあまり覚えていない。レミリア・スカーレットの父親だと聞いている程度だ。
「あんた一人でもどうにかできるでしょ?」
「無理とは言わないけど相手が相手だけに難しいわ。吸血鬼一人なら容易いけど、お仲間さんと向こうのはぐれ妖怪も乗り込む可能性を考えると厄介だわ。そこで貴方達二人に手を貸して貰いたくてね。」
紫さんの力でも全てを掌握することは不可能。強大な力ではあるが、それなりの代償はある。それが冬眠であり、それによって力を蓄えなければ能力をフルに使えない。
それにいざという時に頼りにするには紫さんを遊ばせるくらいに留めておきたい。
「どこに来るかも分からないけど、主要拠点を守ってもらうわ。博麗神社、人里の守護を主にして欲しいのだけれど、来た段階で早期に対応してもらえると助かるわ。私は妖怪の山に行って少し話をしてきます。どこに行くかは二人で話し合ってちょうだい。」
それだけ言い残し、隙間に潜っていった。相変わらず神出鬼没だ。
巫女が紫さんが消えた後の何もない空間を叩き出した。
「何してるんだ。」
「あんたみたいに隙間から弾き出せるかなって思ったけどできなかったわ。どうやってるのよ?」
「あの主従の移動は空間を繋げる事によって成立するものだ。つまりはどちらにも接触しているということになる。覗くときも同じで必ず見ている空間に繋いでいる。そこをピンポイントで弾けばできる。」
まあそれも能力で浮き上がらせているので実質的に俺にしかできない。巫女も似た系統ではあるが、独自の感覚で行っているため教えたとしてもできるものではない。
「そんな事をやっている場合じゃないだろ。とりあえずは場所を決めるか。書かれている日程は今日とあるがおそらく夜に攻めてくるはず。それまでには準備しておきたい。」
「そうね。人里との交流があるあんたが人里を守って、私がここに居る。これでいいでしょ。」
面倒というのが全面的に出ている要望だが、俺も同じ考えだったため特に異論はない。
俺が居たことで変わっている可能性もある。人里と神社なら人里を優先していたはず。本来なら巫女が人里の防衛に行っていた可能性が高い。
人里からは紅魔館が転移してくる場所までより遠くなってくるが、これがどう影響するか。
(吸血鬼異変は主に紫さんが解決したとある。博麗の巫女が何もしなかったとは考えにくいが、ルーミアの封印が行われていないのを考えるにまだ死ぬことは無い筈だ。)
「そういえばだけど、あんた大妖怪を退治した事あるの?実を言うと私は無いのよね。」
「・・・個人で方をつけたのは一回だ。あとは二人がかりで仕留めたのが一回。戦闘経験だけで言えば複数回あるが。」
モリヤ神が大妖怪と言われると微妙だが、脅威としては上だった。
「外の世界にもいるのね。どれくらいの力を持ってたのよ。」
「八雲と変わらない力はあった。あくまでも個人的な感覚だがな。」
紅美鈴、風見幽香、伊吹萃香といった存在は間違いなく八雲紫と同程度の力は有していた。全力だとそもそも相手にすらならない。
「ふーん、今回は頼りにするかもね。正直、大妖怪相手にするのは私も自信がないのよね。」
珍しく自信が無い巫女。本来であればさっさと片付けると言うような感じだが、何か嫌な予感でもするのだろうか。巫女の勘はよく当たる。悪い方ならなおさら。
「俺も倒せる訳ではないんだがな。あんたなら直ぐに対応できるだろうよ。」
純粋な戦闘能力としては俺よりも上の巫女だ、大妖怪を相手に引けを取ることはないだろうが、、、
・・・
「なるほど、そういうことなら私の出番だな。」
人里にて吸血鬼の襲来を伝える。俺が防衛に回ってもよいがここで吸血鬼と争いが起きればその余波が人里に来る可能性が大きい。最終的な砦は慧音さんに任せて、俺は接近する妖怪を早めに撃退する事に専念した方がいいだろう。
「頼みます、慧音さん。俺は近づいてくる妖怪への対応に回ると思いますので。魔理沙は人里から離れない範囲で撃退を頼む。今のお前ならある程度なら妖怪相手にも立ち回れるが無理と感じたら逃げろ。」
今の魔理沙でも砲撃だけなら俺と同等の力を持つ。閃光魔法は吸血鬼にとって弱点になり得る可能性もあり、撃退を任せる。
一番の危惧は魔理沙の行動力だ。少なくとも防衛を任せておけば魔理沙が攻め入る事はない筈。
「分かりました。」
それは突然だった。まるで転移してきたかのように一気に複数の妖気が出現した。
「!」
紅魔館の来る方面を知っているのもあり、直ぐに感知できた。距離があるため正確に感知する事は出来ないがちらほら大きい妖気を感じる。
「どうした霊吾。そっちは霧の湖がある方向だが、、、来たのか?」
「・・・多くの妖気が一瞬で入り込んできました。夜に来るとばかり思っていたんですが。。慧音さん、人里の方をよろしくお願いします。能力で一旦消すとはいってもここに人里があることには変わり無いんでしょう?」
「そうだ、気づかれれば侵入される。あくまでも隠すにすぎない。私より強い妖怪に多数攻め込まれると流石に耐えられない。」
やはりここでの戦闘は最終手段か。
「近づけさせない事を優先します。時間稼ぎでもできれば八雲主従が対応すると思われます。ですので、すみませんがここを離れます。」
「分かった。死ぬなよ、霊吾。」
「師匠、お気をつけて。」
紅魔館の方に向かう。妖気の大きさからして大妖怪が多いわけではない。
だが吸血鬼の厄介さは再生力にある。集団で来るとなると大妖怪でも相手にならない。
(はぐれ妖怪もいるとはいえ基本的には吸血鬼の集団。日が出ている昼に攻め入るのは何かしらの策があるはずだ。それさえ抑えてしまえば勢いは止まるはずだ。)
霧の湖から妖気を一つ感じた。この距離でも存在感を放つ妖気は大妖怪のものだが何者だ。
(吸血鬼で単騎行動をとる奴かはたまた賛同したはぐれ妖怪か。どちらにせよ人里に近づいているこいつを対処するべきだな。)
・・・
「はぁ、面倒だけど行くしかないわね。」
博麗神社でも同じく多数の妖怪を感知していた。人里より紅魔館に近い事もあり、感知が得意というわけではないが把握することが出来た。
(人里方向にでかい妖気が一体、妖怪の山に多数の妖気が向かって、残りは転移してきた場所か。本来なら人里に向かっている妖怪を対処すべきでしょうけど、あいつがいるなら私は転移してきた場所に直接向かった方がいいわね。)
博麗神社を壊されると厄介だが、力を持った妖怪が近づいてくる様子はない。早めに異変を終わらせる為にも本拠地に乗り込む。
・・・
霧に覆われた湖は闇が広がっている。闇の中心には輝く金色の髪と紅い目の妖怪がいる。手には背丈ほどの剣を持ち、不気味な笑みを浮かべながら着実に人里に向かっていた。
「おい!そこの妖怪!」
甲高い声に振り向く闇の妖怪。
「・・・また妖精。ここには妖精が多いのね。」
「ほかの妖精達を何処にやった!」
「何処にやったも何も出会った妖精を片っ端から食べてきた。」
何事もなくいい放つ。悪びれもしていない。当人からしてみればただの食事なのだから。
「妖怪はあまり美味しくないけど、妖精はなかなかだったわ。自然の歪みだけあって面白い味がした奴もいたわね。」
「お前!」
「そう怒らなくていいじゃない、妖精なんてまた復活するんだし。食料に困らなくてよかった。」
その言葉でチルノは飛び出した。これ以上は聞いていられない。言葉でどうにかできる相手じゃないと理解した。
食われる側と食う側が対等に話し合う事はできない。
拳を氷で固めて闇の中心に殴り込む。剣で受け止められるがそのまま押し込む。ただ元々の力の差が大きく簡単に体ごとはじき返される。
本来のチルノであればこの時点で闇に取り込まれて終わっていた。
霊吾、魔理沙との戦闘経験を経た彼女は違う。はじき返された反動で距離を取りながら氷の弾丸を飛ばす。体勢を整えながら攻撃の手を加える事で仕切りなおす。
周囲の闇が格子状に飛び出し弾丸が塞がれる。
「へえ、妖精のくせにそこそこやるじゃない。馬鹿そうに見えて力の使い方が上手いのね。興味が湧いてくるわ。」
体から闇が吹き出す。妖気を感じ取れないチルノでも分かる事があった。
この妖怪が自分を敵と認識したことだ。
「氷の妖精はオードブルに合いそうにないけど仕方ないわね。できればデザートで食べたかったけど。」
剣をこちらに向けて舌舐りをする。その行為に恐怖が駆り立てられる。
自分が食べられる姿の想像。少しだけ物事を考えるようになったチルノにとっては想像だけでも身動きがとれなくなる程の恐怖で縛られる。
復活するとしても痛みはある。死の恐怖は確かにそこにある。
(怖い、逃げたい、食われたくない。けど、こいつを倒さないと、ここから先にいる友達も食われる。人間なら復活することもなく死んでしまう。アタイが逃げるわけにはいかない!)
拳で腿を叩き込み気合いを入れる。僅かの痛みで恐怖を誤魔化す。
勝てるかどうかじゃない。勝つんだ。倒すんだ。どんな手を使っても。
霊吾との修行の記憶を想起する。普段なら言わない弱音を吐いてしまった時の忘れられない言葉。
『あたいってやっぱりさいきょーじゃないのかな、、』
『弱音を吐くとは珍しいな、どうかしたのか?』
『レイアに全然あたんないもん!パンチもキックも弾幕も!』
『戦闘経験の差だ。安心しろ、チルノ。お前が最強を目指す限り必ず最強になれる。どんな形であってもな。』
『ほんとぉ?』
『俺が保証する。だから頑張ろう。それと自分は最強って言い続けるのは止めない方が良いと思うぞ。』
『そうなの?』
『言霊と言ってだな、言い続けることで本当になってしまうという話がある。それに俺は最強と叫ぶお前の方が輝いて見える。』
『そっか!ならさいきょーって言っていいんだ!』
『ああ、それでこそチルノだ。』
憧れの存在に押された背中。馬鹿にしているわけではなく心の底から信頼してくれるからこそ、力強く感じる。
「アタイは最強だ!誰にも負けない!」
己を鼓舞する言葉。恐怖に立ち向かう勇気がなければあの背中には届かない。
片手は氷の拳、もう片方の手には氷の剣を持ち構える。
「妖精程度が最強っていうのはどうかと思うわよ。まあ、それなりに楽しませてね。」
力の差は歴然の大妖怪と妖精。本来では取るに足らない存在として片付けられた筈だった者の戦い。