かくして幻想へと至る 作:虎山
闇の妖怪が振るう剣を氷の短剣で流し、拳を叩き込む。武器を持った相手に対し、懐に潜り込んで武器の使用を封じながら戦うという基本的な戦法。
氷で覆われた固い拳で殴るチルノに霊吾が教え込んだ接近の戦法。冷気、氷を今以上に自由に扱えるようになれば防御にも応用できるため近距離戦闘なら格上の相手でも倒せると見込んでのものだ。
拳を受けて妖怪が少し下がる。それと同時に周囲から闇の手が襲いかかる。実体の無い闇だが妖力と合わせれば実体を持つ武器になる。
身を覆うようなドーム状に氷のバリアを展開して防ぐ。早く精製したため薄くなっているが十分。バリアが壊れる間に闇の隙間を判断して回避する。
一旦距離を取る。懐に潜り続けて相手を封殺できれば一番いいのだが闇が邪魔になる。
周囲に展開している闇から何かが飛び出す。氷のシールドを造りだし、防ぎながら攻撃の機会を伺う。
教えられたことの中でも特に覚えさせられた事は距離を離されず一定に保つということ。攻撃を当てる、かつ防御、回避に瞬時に切り替えられる距離であれば一方的にやられることはない。
問題はその距離が相手によって変わり、その中でも状況によって変わるというのだ。強い存在は自分の距離に相手を誘い込むように戦うらしいが無理だと言われた。
(レイアでも相手に合わせて戦うのが精一杯と言っていた。本当に強くないとできないってことは分かった。)
格上の存在との実戦は初だが、条件として悪いわけではない。
力の差が大きすぎると思っているからか相手はほとんど全力を出していない。恐怖、威圧感から考えてもそこいらの妖怪よりは確実に強い。だけど直ぐにやられていないのは戦い方を学んでいたのもあるが、妖怪が遊び目的で戦っているためだ。油断しているのなら隙はある。
もう一つ絶好の条件としては場所だ。霧の湖は他の場所より寒く、冷気が漂っている。森の中だった場合に比べて、能力が使いやすい。
能力による製氷の速さと大きさがここなら段違いだ。
氷のシールドを張りながら距離を詰める。常に内側に氷を造り続ければ瞬時に壊れることはない。闇による攻撃は妖怪を中心に出ているため、よく見ておけばシールドの横から来る攻撃は回避できる。
(操れる闇と射程距離を判断するのは無理だ。レイア、魔理沙ならできるかもしれないけど、あたいには難しい。)
相手を知る事の大事さは二人と接してきたから分かる。有利に戦うためには必要だと分かってはいるが、出来ていない。
だから見に回らない。これまでの相手で出来ないならこの妖怪相手に出来るわけがない。
妖力を無駄に使うが常に氷を辺りに展開し直ぐに攻撃を防ぐ様にしておく。
「・・・この違和感、戦い方が人間みたいと言っていたけど違うわ。攻撃をもらわない事を念頭に置いたそれは人そのものね。妖精。あなた名前は?」
「・・・チルノ。」
「チルノね、覚えたわ。精々妖精と舐めていたけど、あなた強いじゃない。だから少しだけ本気を出してあげるわ。」
妖気を感じ取れないチルノでも分かるほどの圧迫感。今までが遊びだったと理解できる。
(もとから分かってることだ!怖気付くな、アタイ!)
依然鋭い眼光で睨む。
「あなたは忘れるかもしれないけど教えてあげるわ。私の名前はルーミア。宵闇を操る大妖怪よ。」
闇が鞭のようにしなり、襲いかかる。
(防御!)
上からの衝撃から守るため氷壁を動かし、さらに重ねて氷を作った。
無数の鞭で波打つように叩きつけられ、氷が崩れ落ちる。波打つ鞭は多層の氷を瞬時に砕きながら、チルノを叩きつける。
一撃では壊せないのであれば一点を連撃で叩き込むことで崩壊させる。大妖怪ともなれば技を見抜いた上で対処できる力がある。
瞬時に作り出す防御としては限界だが、少し力を出しただけの攻撃を防げない。
「うぐぅ。」
何とか立ち上がり離れるが足を捕まれる。そのまま吊るされて叩き落とされる。
「あぁ、いたいよ、、」
心が折れそうになる。翼はもう折れている。気が遠退く。まだ全力を出しているわけではないのに足元にも及ばない。
(何でこんな目にあってるんだっけ。逃げとけばよかったのに。勝てるわけなかったのに。)
吐かないと決めた弱音が頭を巡る。意識が飛びそうになる瞬間、記憶に新しい言葉が甦る。
『強くあろうとする心こそが最強への道だ。諦めるなよ、チルノ。』
戦っている理由を思い出せ。消えかけた心の火が再び盛り返した。
「・・・ああぁぁ!」
捕まれている足を切り飛ばす。激しい痛みと共に意識が完全に覚醒する。
「はぁはぁ、まだだ。」
氷で足を作り出す。痛みに堪えて動く。
闇に動きがない。妖怪を見ると唖然としていた。
「・・・凄まじい執念ね。あなた本当に妖精?」
「そうだよ。お前にとっては取るに足らない程度の存在だ。だけど、あたいには守りたい奴らがいる。あたいはどれだけやられようとも蘇る。叩かれるのも切られるのも痛い。けど友達がいなくなるのはもっと痛いんだ!」
原初の思い。誰かを守ること。
もう恐れるものはない。
「妖精を舐めるなよ、ルーミア。」
周囲に氷の槍を展開する。物量で攻めて勝てる相手ではない。でも何もしなければ絶対に勝てない。
(こっちは死んでもいい。もう痛みで止まる事はない。だから一撃でもぶちこんであいつを止める。)
展開した槍を一斉に飛ばす。それと共に突っ込む。
「最後に特攻なんてね、美しいじゃない。」
闇に打ち落とされる槍。そいつらは誘導だ。
戦闘の中で無意識の内に成長していた。霊吾、魔理沙との鍛練の結果はここに来て開花する。
(全力じゃないにしろ、扱える分はだいたい分かった。全部打ち落とされてもあたいが近づければいい!)
槍だけじゃなく。こちらにも闇が飛んでくる。最低限だけを防ぎ走りを止めない。
掠めとられる体なんて気にするな。動きを止めてこない攻撃は無視しろ。
「ちっ、面倒ね。」
だが相手も甘くはない。足を突き刺され、無理矢理動きを止められる。
(思ったより近づけなかった。それでも、この距離なら!)
ずっと握ってきた剣ならあいつの意識にあったとしても届く距離じゃなければ考えない。絶対に届かないと思っているからこそ生まれる隙。
溜め込んだ妖力を解き放ち、剣を伸ばす。
全力で最速の奇襲。
「な!」
初めて見えた焦り。
「とどけぇぇ!」
闇で防ごうとしても遅い。氷の刃は妖怪に突き刺さった。その感覚が間違いなくある。
だが、その姿が闇に包まれて確認できない。
体のあちこちに穴が空き、両足ともボロボロで立てる状態ではない。飛ぶ気力も残っていない。正真正銘全力の一撃だった。
「・・・惜しかったわね。」
闇が晴れ、姿が露になる。心臓を目掛けて飛び出した刃は肩に深々と突き刺さっていた。速さを求めた故に細く、肩を貫通させた程度では致命傷にならない。
「避けきれないとは、、、妖精相手に貫かれるとは思わなかったわ。」
氷の槍をへし折り、こちらに歩み寄って来る。距離を取らないと。そう思い動き出そうとするが体が言うことを聞かない。
なによりここは相手の領域。周囲の闇が襲いかかった。
「ぐぅ、あぁ!」
手に、足に続々と闇が突き刺さる。完全に動きを封じられた。
「勿体ないけどあなたを食べるのは少し危ないわね。私が直々に切り殺してあげるわ。死んでしまえば消えるんでしょうけど。」
目の前で剣を振り上げる。
「今度会ったときは素直に食べさせてくれるとありがたいわね。」
剣が振り下ろされる。だが、最後まで睨み付ける。
その目に緑色の髪が映り込んだ。よく知っている友達だった。
「だい、ちゃん?」
こちらを庇うように斬撃を受けていた。誰か認識した束の間に景色が変わった。大ちゃんの能力の瞬間移動だろう。
「大ちゃん、、、何で、」
肩から大きく切り裂かれ、もう助からない。
「チルノちゃん、だけにがん、ばらせちゃ、それに、いたい、こわいってずっと言ってたから、少しは助けになりたいと思ったけどだめだったね。」
守りたい友達が消えかかっている。妖精が死なないとは言え、友達が苦しそうにしているのを見たくはなかった。
でもそれは大ちゃんも同じだったんだ。心の声を聞くという種の特性により、大妖精にはチルノの苦痛が常に聞こえていた。
「ふっか、つ、したら、また、遊んでね、チルノちゃん。」
「大ちゃん!」
抱き締めるが淡い光となって消える。
「・・・何が最強だ。友達一人守れやしない。」
妖怪が近づいてきた。
「さっきの妖怪の能力かしら。一瞬で消えたと思ったけど、ちょっと離れただけじゃない。」
守ると決めていたのに。
レイアのような人間であれば、守れただろうか。
(・・・こいつを倒せる程の力があれば、、、もっとあたいが強ければ!)
力を振り絞り、立ち上がる。
「まだ立ち向かうつもり?諦めが悪い妖精ね、、、!」
頭を過る危機感。闇を飛ばし、攻撃を仕掛ける。
ほぼ同時に辺り一面が凍りつく。闇すらも凍り付き、闇を伝いルーミアの体にまで侵食する勢いだ。
「なに!」
体が凍り付く前に闇を離し、上空に飛ぶ。近付かず、接していなければ凍らないようだが、何が起こったのか理解できない。
チルノの様子がおかしい。妖気が爆発的に膨れ上がっている。
霧がチルノの周りを覆う。草木が凍結し、湖が凍り始めている。明らかに周辺の温度が変わった。
大妖怪の勘。間違いなく今倒さなければいけないと感じた。
闇を切り離し、上空から霧ごと押し潰す。妖力で固めた闇はそれ自体が引力を持った質量の爆弾。周囲を丸ごと消し飛ばす力を持った小さな星の落下を防ぐことはできない。
だが暗黒の星は凍り付き砕け散った。
「・・・これはとんでもない地雷を踏んだかしら。」
遊んだことを後悔した。たかが妖精と思い込んでいたのが仇になった。そいつは妖精の姿にしては明らかに異質だった。
折れた妖精の羽に変わり、鳥の翼のような大きな氷の翼が霧を払い姿を現した。
さっきまでの幼い少女の面影があるが背丈、風格共に大人のそれだった。翼を払えば周囲の空気が凍り付き、氷の礫が散らばる。
自然の歪みではなく自然そのものの体現者。
チルノにはカッコいいがよく似合う