かくして幻想へと至る   作:虎山

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赤い館へ

「最後の晩餐ですって。人間風情が私を殺せるとでも。」

 

 片腕が凍り付き、もう片方も黒焦げになっている。辺りに散らばる氷塊がチルノとの戦闘跡か。

 

 チルノの妖力が爆発的に上がっていた事も要因だろうが、よくやってくれた。

 再生していないのを見るに再生が得意ではないか、もしくは相当消耗している筈だ。

 

「殺す必要はないさ。能力さえ封じてしまえばいい。闇を吸血鬼どもに纏わせているから昼に仕掛けることができたと俺は見ている。随分と器用な能力だが、そのせいで十分に能力が使える訳じゃないだろ。」

 

「・・・」

 

 無言は肯定と見ていいか。取引でもしたのか、はたまた使われただけかは分からないが、元から万全の状態ではない事は確か。

 

 その状態で手負いとあれば俺でも対応できる。

 

「封印させてもらうぞ、宵闇の妖怪。」

 

「あなたにできるかしらね。」

 

 闇を広げ、辺り一面が暗闇で覆われる。

 

「闇の中で手も足も出ずに食われなさい、人間。」

 

 どこからともなく声が聞こえる。闇というのは視界だけじゃなく他の感覚も狂わせる。視覚、聴覚による索敵は使えない。普通の相手ならそれを奪ってしまえばなす術はない。

 

 現代で鍛えていなかったら俺も苦しかっただろう。

 

 迫り来る妖気を避けて、急接近をする。

 

「っち!」

 

 目前で妖気を察知して距離を取り、動き回る。警戒しているだけあって簡単には捕まえさせてはくれないか。

 

「この中でなお、迷いのない動き、、、でも、ここは私の領域よ!」

 

 動き回る気配に闇を突き刺す。出来るだけ損傷の無い状態で仕留めるという考えは捨て、もう二度と接近を許さないように全方位から一斉に闇の矛を飛ばす。感知しようが避ける事は不可能。

 

 気配を貫いたが、肉を裂いた感覚がない。

 

 僅かな気配の接近を感知したが、同時に頭を叩きつけられ、地に押さえつけられた。

 

「がっ!」

 

「相手が悪かったな。感知系の弱点は俺もよく知っている。」

 

 チルノに持っていかれた両手があれば分からなかったが、腕が使えない状態であれば先程のように闇で攻撃してくる手段を使うだろう。

 

 闇を展開しながら、高速で動き回る標的を射つには集中力がいる。感知領域を広げた状態での戦闘を行っていた自分にはその感覚は分かる。

 

 だからこそ霊力での残像は効果を発揮する。限界まで気配を抑えてしまえば残像に気を取られ、気付かずに接近できる。範囲感知は精度こそ高いが範囲内の全てを処理できる訳ではない。自分もそうだが、莫大な情報はあっても無意識の内に不必要な情報は切っている。

 

 体勢を整える前に瞬時に腕を足で押さえつけて馬乗りの状態になる。疲弊している状態でなければ即座に対応されていたかもしれないが、今なら封印が出来る。

 

「くっそ、好きにさせるか!」

 

 辺りの闇が一斉に動き出したが、もう遅い。

 

「・・・眠れ、夢想封印」

 

 妖魔封印術。強力な霊術で妖気を押し込める封印術であり、代々博麗の巫女達が継承していた術。完全封印をするには俺の力だけでは出来ないが、媒介があれば俺も十分使える。

 

(お前に還すよ、ルーミア。)

 

 強力な霊力が込められたリボンを頭に押し付けながら括りつける。俺の封印術とこいつがあって始めて封印ができる。

 闇がルーミアに吸い込まれる。殺してしまえば闇が消えるかどうかは分からない以上、封印の手が安定だ。

 

 妖気が小さくなり、記憶にある小さな妖怪が倒れていた。気を失っており、放置しても問題はないか。闇が吸い込まれている感じから封印で展開していた能力も切れたか。

 

(今の巫女がこいつの相手をしたと考えると相討ちだった可能性が高いな。あいつの勘は確かに鋭いが、暗闇の中で常に勘頼りの動きは出来ない。相性的には悪い相手だったかもな。)

 

 本来の未来なら相討ちになっていたのかもしれない。博麗の巫女が吸血鬼異変でルーミアを抑えた事で被害が少なくなったのだろう。

 

(先を急がなければ。)

 

 紅魔館周辺からは認識阻害の魔法か気配が上手く感じ取れない。近づいていった霊力が巫女だと分かったが巫女だけで制圧できるとは思えない。

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 闇と氷の衝突の中で気にせずに赤い館に訪れた巫女。目に悪そうな建物という印象だった。館全体に結界のようなものが張ってあり、空からの侵入はできない様子。おまけに闇とはまた違った暗い霧がかかっており、人体に有害だと感じる。

 

 

 入口と思われる門には門番らしき存在が確認できた。

 

「早いですね、もう来られましたか。てっきり向こうに手を取られていると思ってたんですがね。」

 

 赤髪の妖怪が立ち塞がる。弱くはなさそうだが、大妖怪程の威圧感は無い。

 だが巫女の勘がこいつは厄介な存在であると伝えている。

 

「挑戦状を叩きつけてきたのはあんたらよね。まあ、それなりに叩きのめしてやるわ。」

 

「これはまあ、強そうな人間。博麗の巫女で間違いなさそうですね。ここの主人から言われてますし少し相手になりましょう。」

 

 赤髪の妖怪が構える。その構えがどうも霊吾と被る。

 

(・・・似てるわね。立ち振舞いから気力の流れまで似るのは流石に可笑しい。)

 

 先手を取る。確信を得るためだ。同じ戦い方なら厄介だ。守りの型を妖怪にされると攻め手に欠ける。妖怪が武術を扱うことはないと思っていたが、考えを改めるべきか。

 

 

 地を蹴り、宙に舞う。相手の頭上から肩を砕くように殴り付ける。

 

「なかなか面白い動きですね。人間の動きにしては変則的で攻撃的、歪な戦い方ですね。」

 

 しっかりと受け止められた。霊吾なら間違いなく流そうとするはず。受けきれるだけの耐久力があるのか。

 

 体勢を変えなが連打を叩き込むがどれもが受け流され、受け止められる。

 

 こっちのペースも長くは続かない。体勢を変える直前に鋭い突きが飛んでくる。避け辛い瞬間を突く攻撃一つとっても戦闘慣れしている事が分かる。手を強化し、突きに合わせて自分が流れるようにして距離を取る。

 

 

 確信、霊吾の格闘術と同じだ。いや、守りにより特化している分厄介だ。それにこちらの攻撃を捌きながら手を出せる余裕もある。

 

(霊吾よりも守りが強固。動きで崩せるものじゃないわ、こっちの戦い方では無理ね。長々とやる相手じゃない。)

 

 全身の強化を上げる。分厚い装甲を持った妖怪を相手にする際の型。動きで翻弄するのではなく、力で捩じ伏せる戦い方だ。霊力で常に強化状態を保ちながらも瞬間的に強化を一点集中にした一撃を叩き込む。

 

 妖怪が構えを少し変えた。力の流れを読んだだけで理解できるほどの経験があるのか。

 

「威力を高めた型に変えましたね。流石にそれを受けきれるとは思いませんよ。」

 

 隙もなければ、こちらに合わせて戦い方を変える。妖怪らしい存在ではないが、そこいらの妖怪より断然厄介だ。

 

「・・・あんた下っ端じゃないわね。」

 

 この妖怪が下っ端なら幻想郷はかなり危ない状況だ。

 

「門番に何をいっているんですかね。人間相手に苦戦気味で下っ端じゃなかったら侵略なんてできないでしょう。」

 

「妖気も出さないで妖怪が限界なんて言うはずないわ。」

 

 この妖怪と対峙しての違和感。妖気を一切感じない。封印されている状態に近いが、自ら進んで押さえ込んでいる変わり者か、封印していなければ居るだけで災害をもたらすほどの存在か。

 

 どちらにせよここで討つのは危険か。

 

「いろいろあるんですよ。私はあくまでも門番ですので。」

 

 再び構える。妖怪としては珍しく武術を使うだけあってそれなりに強い。

 底が見えない。倒れるビジョンが思い描けない。現時点の強さであるなら倒すことは可能であると思っても自信が持てない。

 

(不気味な妖怪ね。勝てないって思った奴はいるけど、勝てるか分からない相手は初めてだわ。)

 

 力を測り取れない。もう一度様子見で対応するか。

 

 赤髪の妖怪に接近する刹那。生命の危険を感じ取る。

 

 上空から巨大な火の玉が堕ちている。

 

「うぉぉぉ!」

 

 巫女が両手を突き出すと火の玉が弾き返された。その火の玉は館にぶつかる前に濁流に飲み込まれた。

 

「奇襲なんてせこい戦法してくるわね。」

 

「・・・なるほど、能力ですか。あれだけの威力を霊力や気力で弾き返すことは出来ないでしょう。」

 

「はぁ、正解。戦闘以外での使い道はそんなに無いんだけど。」

 

「やっぱり一筋縄ではいかないですね。術の類いは受けつけないとすれば遠距離からの魔法は無意味ですか。」

 

 スッと手を上げた。攻撃の構えには見えず、術者に何らかの合図を送ったのだろう。

 

(術は効かないと知って止めさせた、もしくはタイミングの指示かしらね。どっちにしろ頭に入れておく必要がある。)

 

 妖怪の言葉を鵜呑みにはできない。先程の威力であれば勘で察知する事はできるが、威力が弱く素早い攻撃に対しては勘が働かない事もある。

 

 博麗の巫女特有の勘というのは最悪の事態に対してのみ鮮明に働く。故に弱点になる。

 

(対複数相手とは厄介ね。格闘による近距離と術による遠距離、流石に同時対処は骨が折れる。)

 

 一対多での戦闘は慣れていない。能力で対象以外を離すことで擬似的に一対一に持ち込むからだ。

 

「・・・はぁ、やっぱり面倒ね。」

 

「諦めてくれましたかね。」

 

「あんたが門番しているくらいだからあんまり消耗したくなかったのよ。でも正直言って今のままだとジリ貧よね。」

 

 そこから先の言葉はない。一切の余念を捨て去る。

 

 洗練された霊力が吹き出る。全力で倒しにいけば悩む必要はない。倒せなければどちらにせよ自分は生きてはいないのなら全力で挑む外ない。

 

(!やっぱり、化物ですね。)

 

 構えた瞬間には既に巫女が懐に入り込んでいる。

 

(これが人間の速さですか!?)

 

 防御が間に合わない。

 

「がはっ!」

 

 呼吸が一瞬止まり、意識が遠退く。

 

「ふぅ、とりあえずは一体。」

 

 仕留めてもよいが、素性の分からない存在故に気を失った状態で放置しておいた方がいいと感じた。

 妖力を発しない妖怪という不気味な存在。下手に殺そうとした場合に何が起こるか予想が付かない。普通に殺せる可能性もあるが、対処できないモノが出てくると厄介だ。

 

(放置が安定と見ていいわね。)

 

 単独で悪魔の館に潜り込む。ここから先は間違いなく自分が相手をしてきた中で最も厄介な存在になる予感がした。

 

 




なぜか活きる霊吾君との戦闘経験
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