かくして幻想へと至る 作:虎山
左にはフランドール、右にレミリアを常に保ちながらの防衛戦。武器の扱い方としては恐らく姉のレミリアの方が長けていると想定してのものだが、半分は当たった。
槍の速さ、突きの正確さは高く、意識を割いて対処しなければ串刺しだ。先ほどの戦いから変わってはいないのを見るにギリギリ俺が捌ける程度に収めているようだ。
一方でフランドールは大雑把に炎の剣を振り回しており、小傘の補助だけで対処できる。だが、巫女の言うように力任せに振っている分、止めの剣に力が入る。
「器用ね。意識はこっちに向いているけれど、フランの剣を上手く捌いているわね。私一人を相手にした時より動きがいいじゃないの。」
「こんな頑丈な人間に二人も会えるなんて幸運ね!」
僅かな隙間を縫うようにして双方の得物を流し、躱す。レミリアの言うように先程より動きが良いのは元より集団戦に慣れているだけだ。
仲間ごと葬る事を容易くできる存在はいない。俺一人に向かって来るよりも攻撃は読みやすくなる。手数が増えようとも虚を突かれない限りは対処できる手段はある。そして虚を突かれる攻撃の延長にどちらかを持ってくれば態々無理して狙っては来ない。
「・・・ふーん、なるほどね。フラン、私ごと切る勢いできなさい。」
だが、再生能力が高い奴らを複数相手する場合にはその限りではない。
槍を短く持ち、刀を挟み込まれた。瞬時に切り落とそうとしたが、レミリアの腕を裂いて止まった。腕に食い込ませ無理矢理斬撃を止められた。
レミリアがニヤリと笑う。
「捕まえた。武器を放して逃げるかしら。フラン、今よ!」
「しっかり捕まえててね!」
背後から熱を感じる。炎の剣を持って斬りかかってくる。
(まあ、こいつならすぐ気づくと思っていた。想定通りだ。)
全身を霊力で包み込む。
(夢想天生!)
身体を炎の剣が通り抜ける。そしてレミリアを焼き切っていった。腕から胴体を切り裂かれ拘束が外れた。
「っは、これは、想定外ね。」
「当たったはずな、うっ!」
剣を振りかぶった後の隙だらけのフランドールを蹴り飛ばす。
レミリアに再生させる隙は与えない。距離を取ろうとしたレミリアに追撃をかける。刀を持ったまま札を指に挟み込み起動させる。
『悲恋マスタースパーク』
マスタースパークを叩き込み、レミリアを吹き飛ばす。再生されるまでの僅かな時間だがこれでフランドールに集中できる。
どちらの力も強大だが、力に頼った部分が大きいフランドールなら戦える。技術を持たないなら大妖怪だって討てる。
能力を使わなければ、という前提だが。
大振りな炎の剣なら対処したうえで懐に入り込める。一本の刀で流しながら、接近する。
剣を振るう前に抑え込み、切りかかる。胸を切り裂くが、顔を少し歪めるだけで致命傷にはならない。
「くぅ、この!壊れちゃえ!」
激昂したら、能力が使われるか。ただの口約束で制限できるほど理性が強くはない。ここまでのやり取りで凡その性格は把握している。
こっちに手を伸ばした瞬間に手を切り飛ばす。こちらに向かって手を突き出すのだ、切ってくれと言っているようなものだ。
「握る動作ができないのであれば能力は使えない。残念だったな。」
「いったーい!もう怒った!」
片手で掴んでいた剣を離し、残った手をこっちに向ける。だがこちらに手が向く前に切り飛ばせる。
ニヤリと笑った。勘は働かないが少しの違和感が生まれる。
思い返せば、巫女が態々もらうようなものじゃない。
切り飛ばした手が宙に浮き、此方を向いていた。感知だけでは拾えない情報なだけに見なければ気づけない。
(切った手でも能力が使えるというのか!)
草薙の剣を投げて、手を壁に張り付けた。
「流石の反応だけど、教えて上げる。切れた手では能力が使えないんだ。」
ブラフ。幼い性格だと思っていたが、狡猾な考えができるのか。もう片方の手を切り落とそうとしたが、向こうが早い。
「巫女のお姉さんとお揃いにして上げる。」
俺の右手に向けて手を握った。握られた直後に腕を切り飛ばしたが、間に合わなかったか。迫り来ると予想した痛みに備え痛覚を浮かせた。
脳に響く怨嗟の声、久しぶりに不快感が頭を駆け巡る。死の恐怖を直接叩きつけられた気分だ。
恐怖によって僅かに硬直していた。追撃されていれば無防備にやられていたが、両腕が切り落とされたフランドールが腑に落ちない顔をしている。
「・・・何で壊れないの?」
戸惑った今が好機。
「壊れたさ。厄介な事をしてくれたな。」
呆気に取られていたフランドールを障壁が張られた本棚に蹴り飛ばし、針を投げ磔にする。霊力と封印術が施された針は妖力と相殺し、妖怪の強さの一つである再生を抑え込むことができる。
弱い妖怪に対してはいくつか差し込むだけで消滅まで追いやる事はできるが、再生能力が高い吸血鬼相手では傷の再生を抑える程度にしかならない。
(だが、ここならこいつを押さえ付けることができる。ここの魔力なら俺に扱える!)
本棚の魔力がフランドールの手足を固定する。展開してある強力な防衛魔術をそのまま拘束に利用した。
図書館には持ち主の魔力が宿った本は多くあった。既存の魔術を利用できる程度にはここの魔術は学んでいる。
「むぅ、下ろして!」
ジタバタと騒ぐ様子から力を抑え込む事は出来たか。再生能力が戻り能力が使用可能になったら壊されるだろうが、十分だ。
「この騒動が終わるまではそこで大人しくしておくんだな。」
「いじわる!」
背中で聞こえる罵倒を無視して、レミリアの方に振り返る。
「後はお前か。」
紅い目の吸血鬼が笑みを浮かべながら瓦礫の中から出てくる。まともにマスタースパークを受けても悠然としている。
二回は致命傷を負っているはずだが、堪えていない。
「なに負けてるのよ、フラン。」
「お姉さまだって吹っ飛ばされてたじゃない。それにその人間、フランの能力でも壊れなかったんだもん!」
「へえ、能力を無効にでもできる手段を持っているのかしら。」
「そんなものはない。お前の妹の能力は確かに俺に届いた。」
呪詛の声は僅かにだが、脳に響く。完全に封印も何もしていない状況で長くいれば精神的苦痛になる。痛みを浮かせることは出来ても、呪いについては痛みではなく、死そのものを呼び起こす最悪のもの。
表面上は冷静に保っているが、心臓を捕まれたかのような感覚がする。
「その中でお前を倒さなきゃならないのか。」
「レディからのお誘いよ。いい男なら乗ってくれるわよね?」
「そいつはどうも、、、いくぞ、小傘。」
俺が飛び出したと同時にレミリアも飛んだ。刀状態の小傘を投げ飛ばしながら札を起動する。
槍で小傘を弾く瞬間、懐に潜り込む。爪による攻撃も牙も届かせない。
『
加速した状態での格闘戦なら、虚を衝ける。もしレミリアが美鈴さんとの戦闘を幾度も行い、熟知しているのなら防がれるかもしれない。
武器と爪を合わせた接近攻撃に美鈴さんの面影は感じなかった。例え戦闘経験があったとしても教わってはいないと思われる。数回程度の手合わせでは対処できない技。それも初めて会った俺が使うのであれば必ず通る。
「はっ、う!」
手足の先に至る全身に打撃を打ち込んでいく。反撃する隙も与えない連打。
「嘘!めーりんと同じ技だ!今日覚えたとしたら、お兄さん凄いね!」
後ろで張り付けにされたフランドールが絶賛している。技自体は知っていたか。
再生能力の高い相手に対しての有効打はどれだけ再生し辛い状況にするかだ。実戦で使う機会があまりなかったが、美鈴さんから叩き込まれた技の一つだ。
初撃の感覚から相手にとって致命傷になり得ない程度の威力での波状攻撃。
一つの致命傷より、動けない程度のダメージを体に残す方が再生能力が高い妖怪にとっては有効的だ。重症であっても瞬時に再生しないことはフランドールの首を戻していた事から推測出来た。おそらくは再生の補助だろう。
(萃香クラスでは気休め程度だが、レミリアはどうか。)
「見た通り、不思議な人間ね。久し振りにこれほどの重い技をくらったわ。」
よろよろと起き上がる。驚異の再生能力だが、再生阻害にはなっているようだ。
本来なら手足の骨も砕き、起き上がる事はできない威力はあるはずだった。
「でも、私を殺すのであればあの十倍くらいは必要かしらね。霊力で強化もしていない攻撃にしては見事だと言いたいけど、少しでも優位に立つのだったら強化をするべきだったわね。無理をしてでも。」
強化を施していない打撃では比較的に攻撃が通りやすい吸血鬼でも大した痛手にはならない。
「・・・いいや、十分だ。」
十分に時間は稼いだ。レミリアは槍を取り出して向かってきた。
「後は頼みます、、、紫さん。」
目の前のレミリアの姿が消えて、背後に気配が移動した。
「・・・パチェ、やられたのね。」
空間系の能力が使われた事で魔女が倒れた事を悟ったか。
隣に紫さんが現れる。
「巫女の方は神社で藍に見てもらっているわ。あなたも離脱するかしら?」
「いえ、残ります。紫さん一人でも大丈夫だとは思いますが、俺はここの主の元に行きます。」
「ヴラド・スカーレットとあなた一人で戦う気?」
「戦闘能力だけで言えば、ここの主はあの吸血鬼ほど強くはない。あくまでも俺の感知でとらえた感じはですがね。」
妖気の総量だけでは戦闘能力は決まらない。だとしても凡その力は把握できる。
「俺の感覚にはなりますが、レミリア、あの吸血鬼は相当強い。が、話の分かる妖怪です。ここの管理者として残しておいても良いと思います。」
ここで俺が言わずとも消すことは無いはずだ。魔女の気配は僅かながら感じる。巫女は殺さなかったのか。
「ふ~ん、何か考えがあるかは知らないけど、全員を消すつもりは無いわよ。まああなたが一人でヴラドを相手するようだから、少し遊んでやろうかしら。」
不敵な笑みを浮かべてレミリアに向き合う。この様子だと他の吸血鬼は問題ないようだ。
「八雲紫、どの程度の存在かしらね。」
レミリアが構え直す。目線を一瞬だけ合わせた。
「霊吾、お父様をよろしくね。」
何かを期待するような目。
(・・・あいつは俺を運命を変えると言っていたな。いったい何が見えたんだ。)
考えても答えはでないな。二人に背を向けて図書館を出る。
・・・
最上層に駆け上がる。解かれた封印を無理矢理抑え込む。
(っ!痛いな。)
痛覚を浮かしても呪いの進行が早まる以上は痛みを戻したままで処置する必要がある。元から持っていた赤布も無ければ封印術も十分に施せない。
巫女からもらった針を打ち込んで何とか抑えることは出来た。これだけやってもあくまでも応急処置だ。
紅魔館最上層。俺の記憶にある窓が割れて吹き抜けになった場所ではなく、王の間に相応しい部屋だった。