かくして幻想へと至る   作:虎山

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やや長めになってます
吸血鬼異変最終話です


吸血鬼異変終局

 紅魔館最上階。唯一窓が存在している。人間なら三十前後程に見える男が座っている。

 

「博麗の巫女くらいだと思っていたが、存外居るのだな。お前のような人間は久しく見ないが。」

 

 低く威圧するような声。声だけで重圧を受けているようだ。

 

「お前が館の主で合っているんだな。ヴラドだったか。」

 

「いかにも、ヴラド・スカーレットだ。」

 

 立ち上がりこちらを見据える。随分と余裕がある。いや、余裕ではなく、どこかで感じたことがある何かだ。

 

「最後になるやもしれぬぞ、何か聞きたいことでもあって来たと見える。お前がレミリアを退けて我の元に来るとは思えないからな。」

 

 見ただけである程度の実力を判断できるか。戦闘経験が多いのか、もしくは天性の感覚を持つ者か。まあその内分かる事だ。

 

 それより随分と話が早いな。敵対しているというのに話を聞いてもらえる。答えてくれるかは分からないがいい機会だ。

 

 吸血鬼異変での違和感。俺の想像は間違ってる訳じゃない気がした。

 

「・・・ずっと疑問に思っていたことがある。本当に幻想郷を支配する気だったのか?」

 

「何が言いたい。要領を得ない質問は好ましくないな。」

 

「自らの首と引き換えに娘達を幻想郷に残すつもりではないかと考えていたのではないか。外の世界でいずれあんたみたいに諦めを感じるならとここに来たんじゃないかと思ってだな。」

 

 目線が鋭くなった。不愉快と言わんばかりの表情。僅かに圧が重くなった気がした。

 

「貴様、我を侮っているのか。己を紅魔館の為の礎とするといいたいのか?」

 

「何となくだが、お前と俺は少し似てる気がする。だから分かる。自分を未来の糧としようとしてんじゃないか?安心しろ、この事は誰にも伝えてはいない。純粋に俺が気になったことだ。・・・まあ、その反応からすると強ち間違いって訳じゃないな。」

 

 余裕ではなく、諦め。ここで終わっていいという思いだ。未来で何度も感じてきたものだ。

 

 こういう奴らの扱いは面倒だ。

 

「仮にそうであった場合何だ。素直に殺されてくれとでも言うつもりか?」

 

「いや、それに意味はない。ちょっと頼まれている事もあって、聞いてみるが、異変のことは紅美鈴に伝えたのか?」

 

「たかが門番に伝えるものか。」

 

「たかが門番ね、、、かつて頼りにしてきた相棒ではないのか?」

 

 動揺。その情報は本来知り得る筈がないもの。唯一知っているのは九尾の狐位だが、千年以上前であり力を抑えている紅美鈴を即座に特定できるとは思えない。

 

 霊吾の言い方は聞いただけじゃない。何か確信を持っている言い方だった。

 

「別に未来のために己を捨てるのは否定はしない。残る存在、出てくる存在が一方で消えていくというのは幻想郷でも無いわけではない。」

 

「貴様はいったい何が分かっている!」

 

 美鈴さんから詳しく聞いた訳じゃない。殆ど知らないも同然だが、美鈴さんが紅魔館に残る程の関係位は分かる。

 

 後はブラフで十分。

 

「知りたいか?一つ条件がある。」

 

 刀をその場に置く。上着を脱ぎ捨てる。仕込み武器等も捨てる事で一切の余念を失くす。

 

「武器、術を一切用いない格闘のみの勝負でお前が勝てば教えてやるさ。あんたと紅美鈴の関係、何処で知ったか位は教えてやろうか。」

 

 霊力を使うと嫌でも呪いが進行する。応急的な封印では現状維持が精一杯の為、これ以上の進行は命に関わってくる。

 こっちが相手の土台に乗れないなら相手を乗せるしかない。

 

 それに吸血鬼であるなら必ず俺に合わせる。それ故に誇り高いと言われてきた種族だ。安い挑発だとしても乗らざるを得ない。

 

「・・・それでお前は何を得るつもりだ。」

 

「お前の本音を聞きたい。小傘、道具は頼んだ。」

 

 実体化した小傘が道具を集める。

 

「ご主人様、ご無事で!」

 

 小傘は扉から出ていった。

 

 こいつから本音を引き出すにはただ勝つだけでは無理だ。

 

 

・・・

 

 

 

 純粋な格闘戦。理不尽で強力な術もなければ武器による攻撃もない。

 身体強化すらも施していない己の肉体のみで戦うのは久々だ。

 

 大妖怪を相手にして純粋な肉弾戦を挑むのは初めてだが、不思議と余裕が出てきた。ここで負けても全てが終わるわけではない。最低限の警告は伝えている。

 

 それにこいつの接近戦闘は俺と似ている。美鈴さんの守りが主体な武術であり、相手の攻撃を受け流し、カウンターを狙うところ。

 

 そしてなによりも、不完全であるところ。

 

「何故だ!何故、あいつの戦い方と同じなのだ!」

 

 困惑している。相手が全く同じ戦い方をしているのは互いに分かる。ヴラドの接近戦を予想できた分の意識とヴラドが長く使ってこなかったと思われる空白期間が顕著に現れる。

 

「勝てば教えると言っている。ほら、一発でも入れてみろよ。」

 

 掌底を叩き込むが、少しの怯みで反撃してくる。

 

 大振りではあるが、間違いなく名残がある。長く関わっていなければ付かない癖のようなもの。

 吸血鬼としての戦い方はレミリアに大きく劣っているとすら感じた。威圧感は間違いなく大妖怪のものだが戦闘力は高くは無い。ちぐはぐな存在だ。ここも一つの共通点だった。

 

「・・・お前、後天性の妖怪だろ。」

 

 俺が魔力に溺れた場合に行き着く先ではないかと感じた。武術を捨て、魔法使いらしく生きた道もあったのかもしれない。

 だけど何かを捨てて成るには頼りすぎていたものだ。どうしても体は忘れてはくれない。不要なものと切り捨てようとすれば自分では制御できない癖のような枷になる。

 

 受けを主体とする美鈴さんの武術と吸血鬼の持つ力と速さは相反する。併せ持って鍛えていけばその限りでは無かった筈だった。

 

「貴様、どこまで!」

 

「ただの推測だ。俺も似たような者だからかも知れんな。」

 

 心が乱れた相手には優位に立ちやすい。頭を強く打ち付け、意識を飛ばそうとしたが、力が足りない。少しふらつく程度に収まっている。

 

 好機を逃さずに追い討ちをかけようと首筋に突きを打ち込もうとしたが、フラフラからのカウンターを片手で流しながら身を引く。吸血鬼だけあって力はそれなりにあり、地を滑らせる。

 

「・・・何だ、やっぱり身体が覚えているもんだな。」

 

 咄嗟に出てくるには身体に染み込ませなければならない。癖と言ったように無意識の反応であればかつての技術が表に出てくる。

 

「・・・こんな技術など我には必要のないものだ。」

 

「だが、それで生き残って来たんだろ。それほどまでに大事か、吸血鬼の誇りって奴が。」

 

「誇りなくして吸血鬼に非ず。妖怪の中でも上位に君臨する我が何時までも持っているべきものはない。」

 

「確かにお前は強い。なら何故逃げる?」

 

「逃げる?我が何から逃げていると言うのだ!」

 

「相棒を頼れよ。連れてくるのなら相談してみろよ。本当の気持ちを伝えるのも聞くのも怖いんだろ?」

 

 一瞬、顔が歪んだ。

 

「・・・あいつには我の事を忘れて生きて欲しかった。捨てたと思われても仕方がない事をした。我の目的のために付き合わせてきたのだ、我が居なくなるのであればあいつも自由にする筈だ。態々聞かずとも分かる。」

 

 やっと本音が出てきたな。

 

「でも付いて来たんだろ?なら責任を持てよ。お前はここの主なのだから。」

 

「貴様に我の何が分かる!」

 

「俺には分からんさ。だけど黙って残されていく側というのは残していく方よりも辛いらしい。」

 

 掌底を叩き付ける。ねじ込み、押し潰し筋肉を引きちぎる。

 

「く、たかが人間の分際で、、、」

 

 再生は吸血鬼の例に漏れず早い。瞬時とはいかないまでも動ける様になるのに殆ど時間がかからない。それでも十分な隙は出来る。

 

「人間の技術を下に見たお前の敗けだ。俺の技術は新しいものなんかじゃない。古くから伝わる技術でお前も知っているものだ。ずっと鍛え続けていれば、お前は俺なんかが相手にならない位に強かった筈だ。吸血鬼の強み無しに俺に勝てただろう。」

 

 俺の完全な上位者に成れた。吸血鬼と守りの武術は極めることが出来れば大妖怪でも上位の存在だったのだろう。

 

「貴様ぁ!」

 

「何時までも引きこもってないで、外に出たらどうだ。行くぞ。」

 

 動けない吸血鬼を全身全力の一撃でもって殴り飛ばす。

 

 

 

・・・

 

 

 紅魔館の窓を突き破り、何者かが落ちてくる。

 

「ヴラド!」

 

「くそっ!」

 

「やはりしぶといな、吸血鬼というのは。」

 

 一方的にも思える打撃の応酬。

 

(やはりレミリアの方が吸血鬼としては上だったな。そもそもこいつは純吸血鬼ではない。まあ武器を持っていれば話は別だったかもしれないが。)

 

 内臓破壊は着実にヴラドに効いている。血反吐を吐きながら、耐えてはいるが再生が追い付いていないようだ。

 レミリアであればもう立ち上がって向かってきている。

 

 もう少しで大人しくなると思い近付こうとしたが、美鈴さんが立ち塞がる。

 

「すみません、ヴラド。やっぱりあなたを失いたくはないです。私達の見えない所で消えるつもりだったのかもしれませんが、目の前で終わりを見届けたくはない。」

 

「め、美鈴、、」

 

 ご主人様ではなくヴラドと呼んだ。

 

「約束とは違うぞ、紅美鈴。そいつの本音を聞き出すのだろう。大分出るようになったがもう少し痛みを覚える必要があると俺は思う。」

 

「もう少し穏便なやり方かなと思ってたんですけどね。ちょっと手荒じゃないですか。」

 

「穏便な方法で解決できるならこの騒動は起きていないだろうよ。あんたも分かっているはずだろ?」

 

「だとしてもです。目の前で大事な人がズタボロになって、幕切れというのは堪えるんですよ。どうせ終わるのなら共にこの地で朽ち果てるのも悪くないと思いませんか?」

 

 美鈴さんから妖気を感じる。

 

 竜人化。萃香とは違い弱体する部分は一切無い本気の姿。竜のごとき目がこちらを捉える。あの時の目と違い力強く全てを壊す様な眼光。

 

(・・・さて、後はどうでるか。)

 

 美鈴さんが構える。強化をしていないこの身で受ければ半身が捥がれるかもしれない。

 だが戦闘は起きないだろう。

 

「・・・美鈴、下がれ。」

 

 ヴラドが美鈴さんの肩を叩く。

 

「ヴラド?」

 

 美鈴さんを押し退けるように前に出てきた。まるで相手は自分であるかのように。

 

「これは我のけじめだ。」

 

 目付きが変わった。傲慢な吸血鬼の王ではなく、何かを目指していた人間の目だ。

 紅美鈴からすれば、かつての相棒の姿。夢に向かってただひた走る人間だった者。

 

「名を何と言う人間。」

 

「霊吾だ。どうだ、相手がどう思ってるかなんて分からないものだろう?」

 

「全くだ。高々二十年程しか生きていない人間にそう言われるとはな。」

 

 己を嘲笑うかのような表情と声。ヴラドが呆気に取られている美鈴さんを見る。

 

「これほどの情けない姿を晒すのはこれが最後だ。我は、いや、俺はお前にはもう見限られていると思っていた。だからこそ、新しい世界を求めた。レミリア、フランを頼めるお前にも共に生きて欲しかった。」

 

「だが、違った。お前には俺が必要らしいな。」 

 

 自分の存在が他者にとってどうなっているかを本当に理解した時、そいつは変われる。

 かつて小さな友達のために自分を変えた存在と長く居ただけはある。

 

(やっぱり似てるよ、あんたら。)

 

「これで最後になるのであれば俺は昔の姿で終わりたい。」

 

 翼が焼き切れ、牙が引っ込んだ。吸血鬼の名残は紅い瞳だけか。

 

「その昔、吸血鬼を目指した男だ。名前はもう覚えていない。ただ吸血鬼になるだけの能力を持った人間だ。」

 

 構えは変わらず不恰好。だが意識は変わっている。

 

「遠慮はしてくれるなよ、霊吾。」

 

「元より俺は全力だ。その時その時に悔いは残さないようにしている。それは今だろうと変わらない。」

 

 二人同時に飛び出す。ヴラドに先ほどまでの俊敏さはない。吸血鬼の力は殆ど残っていないようだ。

 そんな相手に負ける道理などない。

 

 相手の拳を受け流す。意地の一撃といえど大した力はない。

 

 流れるように懐に潜り込み、拳の威力を身体に伝え、全身で突き上げる。ヴラドが宙に投げ出される。

 

 勝負は決した。

 

 

 

・・・

 

「あなた一人でよく無力化出来ましたね。手間が省けましたわ。後は任せておきなさい。」 

 

 紅魔館での戦闘が終わったであろう紫さんが隙間から現れた。ヴラドを用済みと言わんばかりの物言いだ。ヴラドに近付こうとしたが呼び止めた。  

 

「もういいんじゃないですか、紫さん。他の吸血鬼は消滅したならこいつまで消す必要は無いと思いますが。」

 

「けじめを付けるべきです。主犯が生きているようであれば、他の妖怪達も好き勝手暴れだす可能性があります。それにあの姉妹、特に姉の方は話が分かる妖怪ですので、彼は必要ない存在です。それに反乱を起こす可能性もあるのですよ。幻想郷をよく知った上で起こすなら今度は最悪の存在になるかもしれないわ。」

 

「もうならないですよ。そいつは自らを人に戻した。正確には人に限りなく近い吸血鬼ですがね。唯の隠居爺さん位に思えばいいですよ。」

 

 譲ってはやらない。ここでヴラドが美鈴さんとの別れを切り出して綺麗に終るというのであればヴラドを見逃すとは言わないだろう。

 だけど、ヴラドは生きる事を選択した。随分と弱体化した吸血鬼紛いなら残しても問題ないんじゃないか。

 

 紫さんが少し考え込む。妖怪から人に近い存在にその身を変えたのであれば対応は楽になる。

 霊吾だけで抑え込んだのも加味すれば、手間はかかるが反乱されても対処できる。

 

「・・・今回はあなたに免じて彼は見逃すとしましょう。何かよからぬ動きがあればその限りではありませんよ。」

 

「ありがとうございます、紫さん。」

 

「私は戻ります。あなたも来るかしら?」

 

「自分で戻りますので戻っていてください。巫女の状態も気になるのでしょう?」

 

「そうですね。では戻っておきますわ。」

 

 紫さんは隙間に消えていった。

 

 

 倒れたヴラドとそれを見下ろす美鈴さんに目線を向ける。

 

「・・・悪かったな、美鈴。ずっと蔑ろにして、」

 

「許しますよ。」

 

「また、俺に格闘術を教えてくれないか。もう大分忘れてしまったから基本から頼む。」

 

 失くした物を取り戻すのは時間がかかる。術も信用も同じだ。

 

「しょうがない人ですね。あの時と違って振り向いて欲しい方は居ないんですよ。」

 

「いいのだ。ただお前の隣に立ちたいだけだ。」

 

「『お前に勝って、本当の友と認めてもらう』あなたがいつしか私に言った言葉です。覚えていますか?」

 

「・・・よく覚えているのだな。」

 

 

 

 

 

 




槍か剣であればヴラドの方が強いです
久しぶりの格闘戦と何故か本美鈴や自分と同じような闘い方をする人間に困惑したことで手玉に取られた感じです


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