かくして幻想へと至る 作:虎山
異変の爪痕
吸血鬼一同が侵略を試みた異変は解決した。だが、大規模の異変なだけに被害が全く無いとは言えない状況だった。
「巫女の様子はどうだ?」
「大分落ち着きましたよ。体調も安定してきましたし、付きっきりでの看病はもういらないでしょう。妖怪の山、魔法の森周辺はどんな様子ですか?」
第一の問題としては巫女の容態。出血と痛みを堪えての戦闘が長く続いた代償は小さくない。異変が終わるまでは神社に戻っても強気だったそうだが、異変解決後から糸が切れたかのように床に伏していた。
俺が神社にいるということもあり、巫女の看病を任せられ、紫さんは被害状況の確認と各地域への説明、後は紅魔館への牽制にも行っているのだろうか。
藍さんも同様に動いており、妖怪の山、魔法の森周辺での状況を監視している様だ。
「先ず妖怪の山だがこちらの被害はない。天狗に話を聞けば殆どが萃香が倒したとのことだ。頼んだのは君だろう?」
「興味があれば動いてくれとしか伝えてないですよ。萃香の判断です。」
そもそも吸血鬼だけで妖怪の山全体が落とされることは無いと踏んでいた。萃香がいればまず問題ないが、萃香がいなくとも拮抗する程度の筈だ。
「魔法の森周辺は暫くすれば妖精が復活して元に戻るであろうな。森に入る前に対処した分想定より被害は少ない。」
第二の問題として妖精の喪失だ。自然の象徴であり、表裏一体の存在であるため、一斉に姿を消せば今の環境が崩れる可能性があった。
侵された自然環境は異常現象が起こりやすい。異形の妖怪の発生や動植物の妖怪化等、人が生きていくには厄介な奴らが出てくる要因になる。
未来ではチルノが妖精を守るために奔走していたのもあったのだろうが、人間が生きていく環境としては何とか保っていた。それでも兆しはあった。
「一つ気掛かりなのが異変の生き残りである妖怪だ。」
「あの闇妖怪ですか。封印術で抑え込んだ妖力から脅威にはなり得ないと思います。俺の術からしてあまり信用はできないかもしれないですが。」
一度きりの最高の封印術。歴代博麗の巫女が引き継いできた霊媒と術。術者が博麗の巫女であれば大妖怪であれ何であれ封印できる術だ。
「あれは外の世界でもそれなりに目立っていた人食い妖怪だ。人を食うのは妖怪としての本能でもあるが、大妖怪ともなれば別だ。普通の人間を取り込んだところで対して満たされることはない。つまるところ種族、個体としての特性であろう。君の封印術を疑っているわけでなく、肉体の弱体化を伴うほどの強力な封印でもなお、害を及ぼすというのを理解して欲しい。」
「人食いの性質が強いことには変わり無いということですか。どちらにせよ力は抑え込んだ状態であれば人里を襲う様な真似はできないと思いますが。」
妖力の大きさが絶対では無いとはいえ、そこらの妖獣より僅かに力がある程度だろう。
今の魔理沙でも対処はできる。それに人里には上白沢慧音がいる。
「奴の能力があれば力はいらない。まだ傷は癒えておらず動きは見せていないが暫くは警戒しておく。」
周囲に闇を展開し、闇の中であっても標的を見失わない能力。聞いた話によればルーミア自身も見えないとのことだが、封印された事による影響だろう。
俺との戦闘では闇の中で的確に狙われていた。闇の中での索敵が可能なままであれば確かに脅威だ。
そもそも未来でも人食い妖怪として知られている存在だ、力が落ちた状態でも自由にさせるわけがないか。
人里にも入っていたと話もあるが、時間の問題で受け入れられるものなのだろうか。
(吸血鬼侵攻で人里に被害は出ていないのもあり、認識が無かったのかもしれないな。何よりはあの性格だ。無邪気な少女の様な性格であるから受け入れられたのもあるだろうな。)
直に分かる事だ。今のところは放置でも問題ないだろう。
「とりあえず異変後の後始末は目処が立っている状態ではある。霊吾が居なければ被害は甚大になっていたかもしれない。でだ、紫様から話が来るだろうが私から伝えておく事が一つある。新しい博麗の巫女についてだ。」
「新しい巫女ですか。」
「そうだ。片手を失った巫女の代わりとして連れてくる予定だ。君の想定通り霊夢という名の少女だ。確認したが家族はおらず一人で生きているようだ。」
とうとう来たか。歴代最強と言われた博麗の巫女。
年端もいかないのに一人暮らしか。一体どういう状況だ。例に漏れず孤独の存在か。
「俺に伝えるという事は何かして欲しい事でもあるんですか?」
「少しの間稽古を付けてやって欲しくてな。」
「基本的に巫女は先代から教わると聞いていますが、、、単純な戦闘にしろ、術にしろ俺よりも熟練の巫女の方が良いと思いますよ。」
代々は先代から教わるのが通例ではあるが、巫女の役割は常に一人だ。それ故に巫女としての力が衰えた場合に先代として一線から引くらしい。
大抵は衰えを見せずに亡くなるとのことで術は藍さんや紫さんが教え、その後の対妖怪戦術は個々で磨き上げたものとなっている様だ。
今回もおそらくは同様の状況になっていた筈だ。
「傷が治るまでの間ではある。手を失って早々に立ち直る人間はいない。いきなり子供を連れてきて教えろというのも酷な話だろ?」
「霊吾!ご飯は!」
寝室から大声が聞こえてくる。やっと落ち着いてきたというのに元気な声だ。
「立ち直ってる気はしますがね。まあ強がってはいるんでしょうけど。少し居なくなるだけで呼びつけられる以上、外にも出られない状況なのは勘弁していただきたいところですが。」
なんとも言えない表情の藍さん。
「巫女も初めて大きな怪我を負ったのだ。人恋しくもなるのだろう。稽古の件で言えば、霊吾の方から教えてもらいたいのだ。生き残る術を多く持ってる分、巫女よりも幅広く戦える君の方が適任だと思っている。」
博麗の巫女自体が勘を頼りに成長してきた存在であるが、今代の巫女はより独自の進化をしている。戦闘だけで見ても自分の範囲に持ち込む。術も対した事が無いと言ってはいるが能力による応用で封印術は中々のものになっている。
言ってしまえば今の巫女の術はそれ以外の者では使えるものではない。
「だとしても基礎的な事だけにはなると思いますが。」
「それができるのであれば十分だ。博麗の巫女としての素質を持っている人間なら基礎だけで何とかなる。」
あの博麗霊夢であるなら少し見せれば十分だろう。
「そういえばだが、傷の治りが予定より早いが何かしたのか?」
「巫女の再生力じゃないですか?」
「巫女も人間に変わり無い。君の様に混ざっていない純粋な人間だ。それに薬や術等も効き辛く、他の人間に比べて自己の治癒力でしか治らない巫女だ。」
巫女の性質上、薬や術の効果は薄くなる。厄介な性質を持ったものだ。
「・・・あまり言いたくは無いのですが。」
「言いたくないか。まあいい、予想は付く。お前から巫女の匂いが強くするのが原因だろうな。」
「分かった上で聞いてるのなら、意地が悪いですよ。安心して下さい、変なことはしていませんよ。寝るときに隣で気力を送り続けてるだけですので。」
深く繋がっていない分直ぐに効果が出るわけではないが、回復能力の促進を行う事はできる。術の効果が低いとは言え藍さんから見て回復が早いと分かるのであれば効果は出ているか。
あれでも巫女である、肉体的な接触は避けた方がいいとは理解している。
「・・・格闘術もそうだが気力の使い方、今回やってきた竜人に教えられたのか。」
そういえば藍さんは美鈴さんが竜人であることを知っていた。以前に争った事があるとも言っていたな。
気力操作に思い当たったのも美鈴さんを見て思い出したか。
「それも確信があるようですね。まあ、その通りですよ。紅美鈴が居なければ、今の俺はいません。俺に生きる術を教えてくれた一人です。大妖怪の強大さをこの身に叩きつけたことも含めて。」
「なるほどな、君がやけに執着していたからもしやとも思ったが、あの館の住人と交流があったのか。」
「いえ、俺のいた未来では紅魔館には紅美鈴以外の住人はいなかった。紅魔館の住人は幻想郷の変化に興味を示し関わっていたと聞いていたので、長くいてくれた方が良いという判断です。その為には本来ここで消えていたであろうヴラドを残したかった。」
紅美鈴だけでなく、吸血鬼の姉妹にも何らかの影響があると見ている。今のヴラドを残しておいたとしても幻想郷の未来に悪影響は及ぼさないだろう。
「それも考えての行動か。やはり未来を知っていると言うのは心強いな。」
「まあ今回の異変で俺の居た未来とは大きく変わると思いますよ。消えていた筈の存在が残るというのは今回が初めてだと思いますので、今後の事は俺も分からないですね。」
それでも一つ確定で断言できる。
新しい決闘方式の準備が始まる。
藍さんとのお話し回