かくして幻想へと至る 作:虎山
少年の一歩
「極力飛んでいくのは避ける事!厄介な妖怪に見つかれば無事じゃすまないよ。それと神社についたら、、、」
長々と説明してくれる上海。かれこれ三十分ほどあれを持ったかやどういうことに注意しろなど言ってくる。心配なのも分かるがもう腹をくくってるから大丈夫だと言っているが。
「・・・ちゃんと聞いてる?」
「聞いてるよ。」
疑ったような目を向ける上海。いや、本当にちゃんと聞いてはいる。
「・・・私がついていかなくていいの?一人より二人の方がやっぱり安全だし、私がいれば博麗神社までは普通に行けると思う。」
上海からの提案だった。俺が博麗神社に行くと言い出した時、まず先にダメ。次に行ってもいいけど私も行く。いろいろ粘って何とか一人で行かせてくれた。今の俺の実力的には人形の数にもよるが上海と同じくらいなので、上海を連れていきたい気持ちはある。ただそれ以上に俺にとって大事なこともある。
「何回も言ったけど、ここに帰ってくるために上海にはいてほしい。俺の帰る場所にいて欲しいのは上海しかない。全部終わった時、俺はここに戻ってどっぷりと魔法の研究をするんだ。その時まで俺が帰ってくることを信じて待っていてほしい。自分勝手で悪いけど、帰る場所があるとさ意地でも死んでやれない気がするんだ。」
この場所を上海に守ってもらいたい。俺がこの先何度も危ない橋を渡るとき必ずここが思い浮かぶように。
「・・・そう言われたって、怖いんだもん。また周りの人がいなくなっちゃうかもしれないから。」
少し暗くなる上海。元気づけるため頭をポンポンする。
「俺は絶対帰ってくる。とりあえず何か進展があって一段落したら戻ってくるよ。」
ずっといなくなるわけではない。たまには顔を出す。孤独のつらさは知っている。
「・・・絶対だよ。」
「ああ、絶対だ。」
最低限用意した道具を持ち家を出る。
「待って!最後だから。」
上海から最後のストップがかかる。
「髪、邪魔にならない?」
・・・言われればだいぶ長くなっていた。ここに来てもう半年も過ぎるころだが一回も切っていない。それは長いわけだ。
「紐持ってくるよ。」
「・・・いや、これでお願いできるかな。」
手に取ったのはルーミアのリボンだ。何故かボロボロにならず綺麗な状態だった。魔理婆さんが言っていたが相当な霊力が込められているらしいので、普通の紐よりはいいだろう。
「分かった。後ろ向いて。けど、いいの。このリボンを知っている妖怪とかいたら疑われるよ。」
「ルーミアと仲のいい妖怪なら話は通じるだろう。そういう意味でもこれはつけておく。」
上海に髪を委ねる。小さな体で頑張っているようだ。
「・・・できたよ。髪も相まって変な格好だね。私が仕立てたものだけど、、、」
白の長袖インナーのようなものの上に黒のコート、黒のズボンタイプの袴のようなものを着ている。白の靴下ときて見事に白黒だ。女物を無理やり男物にしてくれたので文句は言えない。それどころか個人的には結構気に入っている。
「じゃあ、いってらっしゃい、霊吾。」
「・・・いってくるよ上海。」
そのまま振り返らず扉を開け出ていく。外は微妙な天気だ。ギンギンに晴れた空よりはどんよりと曇った空の方がいい。森の中がより暗く妖怪たちに見つかり辛くなるから。
結界を抜ければそこからもう始まっている。
・・・
黒の分厚い本に書いてある初歩的な魔法、方角の固定。そのページにある魔法陣に魔力を通し適当なものに付与させると、それはその瞬間向いていた方向を指す。方位磁針のようなもので、適当な木の棒に付与させたが意外に便利なものだ。森の中にいても迷うことなく進める。
分厚い本に関していえば、魔法のまとめのようなものが書かれてある。今の自分にできる事は少ないが、役立つ魔法が使えるのは心強い。
だが、妖怪を避けれるような魔法はない。しかし逃げ切れるだけの速さは手に入れた。
「ガゥガゥ!」
大きな犬型の妖怪がこちらを捉え叫ぶ。それを見て、八卦炉を持つ。
「またお前らか、似たような見た目のやつばっかりだな。」
妖怪は走って飛びつくが、そこには誰もいない。
霊吾は先ほど妖怪がいたエリアよりかなり離れたところにいた。
(・・・だいぶ慣れてきたが、まだ軽く酔うな。)
能力で浮いて体勢を安定させ、魔力による強力なマスタースパークを一瞬強く噴かし、弾丸のように移動する。完全な制御はできないが、十分な機動力だ。
(まだまだ長そうだな。)
・・・
できる限りの戦闘は避けて進むのでだいぶん大回りになる。それでも一体を相手すればもっと集まる可能性もあり、そっちの方が危険だ。
(一発でやれれば問題ないが、無理して倒す必要はないな。)
そうやってゆっくり進んでいくとまた妖怪の気配がする。ここら一帯は他の場所より多くいるように思える。
(・・・動く気配がない。寝ているのか。)
普通の獣のような妖怪たちとはどこか違う雰囲気を漂わせている。犬というよりは狼のような風貌、今まで見たやつらより一回り大きい。
「・・・人間よ、何しに来た。」
狼の妖怪は人の言葉を発した。他の妖怪よりは知性があるようだ。こちらを警戒、威嚇しているような感じだ。
「・・・俺はこの森を抜けたいだけだ。できれば見逃してほしい。」
「そうか、ならいい。さっさと行けばいい。」
ぶっきらぼうに言う。襲い掛かる感じがない。
(ん、血か。怪我でもしてるのか。)
よく見ると腹から出血がある。動こうにも動けない、実際はこんな感じなのだろう。だとするなら近づいてもいきなり襲うようなことはないだろうし、あったとしても避けれるだろう。逆に最後の一撃とばかりに攻撃するかもしれないが、知性が感じられるこの妖怪は行わないだろう。
「・・・その傷、見せてみろ。」
「近寄るな人間!この傷はお前らから受けたものだ。」
「そのままじゃ死ぬぞ。俺なら何とかできるかもしれない。お前だってこんなところで死にたくはないだろう?」
妖怪は黙りこくる。苦々しい顔を浮かべて、迷っているようだ。
近づいても暴れようとしないとこから、どうやら受け入れてもらえたようだ。本を取り出し、魔法を選ぶ。魔理婆さんが使う組織縫合は難しすぎて使えない。その代わりに付与の魔法を使い、魔力で傷口を覆う。妖力とうまくまじりあい再生を促す。目に見えて少しずつ回復しているが、妖怪にしては回復が遅い気がする。
「・・・なぜ、我を助ける。殺そうとしたのはお前らなのに。」
「俺が殺すのは話にならないような奴らだけだ。お前とは意思疎通ができる。妖怪の事情についても知りたいんだが、知性のある妖怪を知らないから生かした。それにしてもなぜ治らない。傷が癒えるのを拒否してるみたいだ。」
妖怪の傷はふさがり切れない。まるで呪いか何かのようにも思える。
「・・・お前から、人間のにおいはするが人間臭さはない。人里の人間ではないな。」
「ああ、そうだ。」
「・・・お前と似たような奴に切られた。人間のくせに妖怪臭いやつだった。まだ我を探しているだろう。そいつの刀に切られた傷がこれだ、なかなか癒えないのはあの刀だ。」
人間、刀、妖怪を倒せる、以上のキーワードで誰がやったのかを想像した。
(どういうことだ。妖怪に理解がある人間だと思っていたんだが。)
少なくともいたずらに殺傷を繰り返す人とは思えない。何かしらの理由があるのだろうか。そのような考えをしていると背後でガサガサと音がした。
「いたいた。ん、君は以前の少年かな。」
血濡れの刀を手にした青年が現れる。気配をだいぶ探れるようになったとはいえ、気づかなかった。霊力が随分と少ないのか感じ取れなかったかもしれない。
(・・・もともとの身体能力だけで妖怪を圧倒するのか。化け物なのか、、、)
「そこ、どいてくれないかな。」
鋭い殺気は俺の恐怖を駆り立てる。まだ一日目だっていうのに何でこうなるんだ。
次の章へのつなぎのようなものです