かくして幻想へと至る 作:虎山
今後もぼちぼちやっていきます
ルーミアの事をチルノに任せて数日経った。実力的に今のチルノであればルーミアには負けないだろうが心残りはある。
素直過ぎるチルノの性格と狡猾な考えを持つルーミアはそもそもとして相性が悪い。チルノ単体に仕掛ければ出し抜かれる。万一に備え大妖精だけにルーミアがもし不自然な挙動に出れば連絡する様に伝えてある。
異変後の後始末も終わりが見えている。先が見えないのは巫女の回復及び今後の事だけではある。
「霊吾!来てちょうだい!」
朝食の準備をしている中で巫女の寝室から声が聞こえた。この時間に呼ばれる事はあまり無かっただけに何か起こったのか。
巫女の寝室に行き、襖を開ける。
「何のようだ。」
「着替え手伝って。」
棚から取り出したと思われる巫女服。
「・・・もういいのか?」
「何時までも寝間着だと本当に気が滅入っちゃうわ。気分だけでも変えたいのよ。それにあんたも介護するなら元気な方がいいでしょ?」
「元気があるなら介護はいらないとは思うが、、まあ、気分転換は必要か。」
寝間着を脱がすのを手伝い、黒い肌着を着せ、巫女服を羽織らせる。
少し前までは見慣れた姿ではある。唯一違うのは片袖から先がない。
「・・・紫から聞いたわ。私はそろそろお役御免のようね。」
無い方の手を見ながら、僅かに悲しそうな表情をする。
「まあ、もういい年だし、前線から去るのも頃合いよね。」
これまでの巫女はどうかは分からないが、まだ衰える年ではない。俺のように結界の維持が大きく負担になっていないのを見るに巫女として役割を果たせない訳ではない。
戦闘能力の喪失が一番の問題だろう。回復したとして、大妖怪相手に立ち回れるかは不明で、負ける可能性は高い。博麗の巫女として戦闘で負けることは、幻想郷のバランスが乱れる要因になる。
妖怪に屈する人間の構図が出来上がってしまう。あくまでも対等の関係性を保つ上で致命的になる要素だ。
故に大妖怪を屠る、最低でも相討ちに持ち越す必要があるらしい。
(大妖怪を屠れる人間はそうそう出てこない。これまでは不在期間が目立つことなく出てきてはいるが出てこなかった結果が俺の居た未来だ。だが、今回は問題なさそうだな。)
無理して巫女を続けなくとも、霊夢という次代の巫女がいる今なら離れることができる。俺と言うその間の代役も一応はいる。
その事は紫さんから伝えられている筈なんだが。
「それでも巫女服を着るんだな。」
役割を終えると分かっても巫女としての誇りがあるのだろうか。
「私にはこれしかないのよ。」
自身の存在意義であるかの様に思えた。役割を終えた後にどうなるかははっきり言われていない。先代として次代の巫女に教えを解く間には寿命が来るそうだ。
少なくとも今の巫女にその兆しは無い。霊夢に代わった後の人生も短くはないだろうと思う。
(人里で過ごすのはおそらく巫女の性に合わないだろうな。)
どういう立ち位置になるか、どういった今後を送るのかは分からないが、失った手は何とかしてやりたい。
・・・
巫女の容体が落ち着いてきたのもあり、何とか隙を見て外出を行う。予てより考えていたのだが、先ずは目的の人物から確証を得る。
魔法の森に佇む住居。何回も来訪しているがその度外敵に対する仕掛けが微妙に変化している。魔法使いの用心深さを伺える。
微妙に変化した程度の罠に引っかかる訳もなく、魔女の家に着いた。
ドアを叩くと、アリスが開けてくれた。誰が来たかは分かっているようだ。
「何用かしら?」
「頼み事があってきた。」
「ふーん、まあ聞こうかしら。どうせ長くなる話でしょう?」
「要件だけなら短いが、経緯を言えば長くはなる。序でにはなるが聞きたい事もある。」
「分かったわ。とりあえず入りなさい。」
部屋の中に案内される。フヨフヨと上海が飛んできた。俺を認識するや否や直ぐにアリスの影に隠れた。敵と思われたか。
動きが以前より少々ぎこちない。以前はアリスが組み込んだ魔術を自分の意思と連動させて動いていると言っていたが、術式を作動させている感じではない。
(・・・魔術無しでの自立か。魔力だけで動く様になったか。)
「暫く来ていなかったが、順調の様だな。術式の補助なしに自らの意思で内部糸を動かしているのか。」
「その認識で合っているわ。自分の意思と内部の魔力糸を連動、徐々に動きを覚えて魔力供給だけで動けているわ。その内に人同様の動きになる筈よ。」
流石は本場の魔女だ。魔理婆さんや俺が多少進めていたとは言え、形にできるのはアリスしか居なかっただろうな。
想定であれば研究成果を渡して十年程度と思っていたが、五年もあれば俺のよく知る上海までになるかもしれないな。動きの慣れと意識の強さが変わるまではもう暫くかかる。
(見てみたいとは思っていたが、実際に見れるかもしれないな。)
アリスの陰からチラチラと此方を伺う様子は母親と子供のようにも思えた。
「怖いと思われている様だな。」
「逆よ。この子が持ってるのは好意と憧れ。」
まだ何回かしか会って無いが、好意を持たれる事をした覚えはない。怪訝な表情をした瞬間に呆れたような様な顔で見られる。
「不思議そうにしてるけど、最初からあなたはこの子達に負の感情はおろか愛情すら思えるような感情を持っていたのよ。そういった感情から来る貴方の優しい眼差しと穏やかな雰囲気が好きなのよ。自由に身体を動かせるならここの子達は貴方に好意を伝える行動を取るんじゃないかしら。まあ、この子は照れてるだけよ。」
上海はアリスの頭を叩いた後に此方に一礼して、何処かへ飛んでいってしまった。恥ずかしかったのだろうか。初奴だ。
(あの頃のいたずら好きな少女の様な感じが無いな。見た目は同じだと言うのに不思議なものだ。)
幼き頃は姉のような存在だっただけにその面影は見えない。
「で、頼み事って言うのは何かしら?」
「人間用の義手を作れるかと思って訪ねたが、どうだろうか。」
巫女の失った手の代わりになる物を作れるとすればアリスしか浮かばなかった。
人形製作による技術と自立人形の制御魔術。二つを持ってすれば高性能な義手が作れないかと想定している。
それと人体構造もそれなりに詳しい筈だ。
「難しいわ。物によるけど、元の手のように動かすことまで考えれば結構難易度が高いわ。」
「・・・難しいだけで、そこまでの物は作れるのか。」
「作ろうと思えばよ。だけど作成難易度以上に難しいのが接続なのよ。作った義手と神経接続をする際に時間がかかるわ。それに私だけじゃ正確に組めるかは不明だし、人間である以上は常に断面を剥き出しで作業してたら身体が持たないわよ。お勧めはしないわ。」
義手と神経を完全一体化させるものが作れる事には驚きだが、確かに接続するのは無理がある。
自分用の義手なのだろうな。
「現実的ではないか。そこまでしない場合にはどの程度の動きになる?」
「魔力を媒介にした制御で動作はできる程度。触覚はなく、ちょっと不便だけど無いよりは良いと思うわよ。ただし力の制御ができないなら動かない。まあ、あなたならば楽に動かせると思うけど。」
俺で動かせるのであれば、巫女も問題は無いはずだ。そういう義手なら作れると思ってたが、どうしても避けて通れない問題がある。
「魔力での操作との事だが、、、霊力で動かす事が可能か?」
未来で持っていた八卦炉の様に魔理婆さんが組み込んだ霊力を魔力に変換する術式が必要になる。
魔力を自発的に生み出せる魔法使いしか組むことができない術式だ。それも魔理婆さんをして寿命を削って産み出されたものだ。
「そうね。異なる力に変換する技術って言うのは中々に難易度が高い。私でも一から出来る物じゃないわ。」
一からでは出来ない。その言葉を根拠無く使う者ではない。
「・・・アリスなら出来ると見込んでいる。いや、もう出来ているのか?」
「買い被り過ぎ、、と言いたいとこだけど、貴方の言うように物は出来ているわ。」
糸の束を取り出した。アリスが使っている糸と同様に細く、一本一本を肉眼で捉えるには難しい。
「霊魔変換糸とでも名付けておこうかしら。私が使ってる物は純粋に魔力を通す作用だけなのだけど、これは霊力を魔力に変換する糸よ。霊力を扱えないならただの頑丈な糸の粋を出ないけど。」
「霊力を魔力に変えて起動するか。聞いてみてなんだが、この短期間でよくできたものだな。それがあれば何とかいけそうだな。」
人形の感情から動きを再現させていたアリスなら人間の動き程度簡単に再現できる。
内部に糸を張り巡らせた義手に術式を書き込むことで霊力起動の義手が作れる訳か。付ける側の人間が霊力操作ができること前提にはなるが申し分無い性能だ。
「付けた後で本人と動きの差を見ながら調整する必要があるけど、とりあえずお望みの動かせる義手は作れるわ。妖力を魔力に変えるのは簡単なんだけど、霊力を変えるのは中々に難しいのよ。」
それにしても流石だ。魔理婆さんの八卦炉とは違い、糸状の物となると繊細な術式が必要になる筈だ。
(・・・糸の形状を陣に仕立て内部に術式を持っていると見ていいか。しかし肉眼でも見えないほどの細い糸で良く成り立つものだ。)
詳細までは教えてくれることは無いだろう。変換術式を使えない俺ではそもそも作ることが出来ない代物であるなら知ってても意味は無さそうだ。
「・・・元々は貴方に人形を扱わせてやりたいと思ってね。」
「俺に?」
「最初に糸を操った時に名残惜しそうにしてたから気になってね。それに貴方が持ってきた情報の対価は貴方が思ってるより大きいのよ。義手の件もだけど、それだけで返せたとは思ってないわ。」
義理堅い。というよりは見合ってない交換に自らが不満を持っているかのようだ。
「お前からは何もいらないと言われてる様なものだし、ちょっとは腹が立つのよ。」
「そのつもりではないが、、、」
「そういうわけであなたは黙って対価を受け取りなさい。この糸本体も悪い物では無いわよ。出力の問題で糸を操る以上の事はできないけどね。」
八卦炉の様に変換した魔力で別の魔法を使うことはできないか。
「それで義手は誰用かしら。あとどの程度の範囲になるのかも知りたいわ。」
「博麗の巫女だ。先の異変で手首から先を持っていかれた。」
「へえ、戦闘方面ではあなた以上に強いって言ってたけど、そんな人間でもやられるのね。」
「受ける事がほぼ不可能な能力を受けてな。文字通り消し飛んだ。相手が吸血鬼である以上はどれほど強かろうと無傷で倒せる人間はいないさ。」
「ふーん、大事にしているのね。」
「長く俺を神社に置いてくれた礼もある。」
「まあ良いわ。とりあえずは引き受けるわ。で、序での話って言うのは?」
「魔理沙がどうしているか分かるか?」
吸血鬼異変の後から会ってはいない。異変後は神社を離れることが出来ず、人里にも顔を出せていないので状況が分からない。
魔法の森にいるのであればアリスが何かしらを知っている可能性はある。
「あの子、一回来たわよ。ちょっと話した後で颯爽と魔道書を持っていったわ。」
「来たと?ここの結界と罠を掻い潜ったのか?」
「貴方みたいに簡単にはできてないようだったけど、無傷だったわ。一回しか見てない結界を破り、罠を避けて入ってきたわよ。全く誰に似たのやらね。」
こちらを見ながら問いかけてくる。
「・・・何の目的で来たんだ?」
「さてね。興味本位と言っていたけど、本心は分からないわ。」
アリスの罠は簡単に通り抜けられるものではない。元より種類と対策を知り、感知で探って通り抜ける自分とは違い始めから手探りで抜けるのは容易ではない。
観察と想定、そして試す勇気が無ければできない所業だ。
(一歩間違えば死ぬ可能性も伝えてた筈だが、それも踏まえた上での行動か。若かりし日の魔理沙ならやりかねない。)
「そういえば、巫女が怪我を負ったって言ってたわね。魔理沙が神社の方に顔を出さなかったのはあの子なりの気遣いか、もしくは近付かない様に言われているかね。まああの子の性格上、貴方以外に言われても止まらないでしょうからおそらくは前者でしょう。」
「俺でも止められるかは微妙だがな。ということは人里には知られているのか。魔理沙が行動に出たのも人里を守るためかもしれんな。力試し、力を付けるに当たってアリスのもとに来たのだろうな。」
それなりに無茶はしている様だが、元気ではありそうだ。
(今度、魔法の森の拠点を訪ねるか。)
「話が以上なら、材料を持って神社に向かいましょう。道具を整理するから少し待ってもらえる。」
そういうと立ち上がる。
「・・・今からか。義手の大きさについても話してないんだが...」
一応は作れるように範囲と大きさは調べてきたのだが、アリスは首を振った。
「自分で調べてから作るに決まってるでしょ。本人に合わせたものじゃない限り動かしたとしても違和感が拭えないものよ。どうせ作るのだったら手抜きはしないわ。」
「そうか。すまないがお願いする。」
・・・
「また女を連れ込んできたわね。」
「また?あなた結構色を好むのね。」
「話がややこしくなるから止めろ。こいつは魔女だ。人体構造を熟知しているのと人形を作っている事から義手が作れないかと思ってな。」
「またなんで私なんかの為に。貴女とは初対面のはずだけどね。」
「彼にはそれなりに恩があってね、彼からのお願いで対価はもう支払い済みよ。それにあなた自身にも興味はあったのよ。」
アリス自身も博麗の巫女を一目見ておきたかったのは前々から聞いていた。
「・・・残念だけど私はノーマルよ。」
巫女の言葉で僅かに静寂が走る。
「・・巫女ってもっと潔癖な感じかと思ってたんだけど意外に俗物なのね。」
「長い孤独は人を歪ませる。年頃の少女が一人で交流もなく過ごせばまともには育たんさ。」
「二人して可哀想な目で見ないでくれる。冗談に決まってるじゃない。」
巫女の俗物感は今に始まったことではない。
「とりあえず今日は身体の解析をしていくわ。」
「今日は?何日かかるのよ。」
「一週間はここに寝泊まりするつもりだけど。面倒だから帰るつもりはないわよ。」
どういう事という風な目線が巫女から飛んできた。
「俺も今聞いた。」
「言ったら巫女の許可を取りに行くのが目に見えていたわ。面倒そうだから言ってなかっただけよ。害を成すつもりは無いからいいじゃない。」
「・・・妖怪をあんまり神社に入れたくはないのだけれど。」
「あら、彼の話ならちょこちょこ彼を目当てに妖怪が来てるらしいじゃないの。ダメって事じゃないなら遠慮はしないわよ。」
またも巫女から鋭い目線が飛んでくる。今回については俺も悪いか。
「すまない。」
「・・・まあ良いわよ。手を作ってくれるって言うんならこちらもお願いしたいし。ただ八雲達から何か言われたら大人しく出て行った方がいいわよ。」
「それは分かってるわ。流石に敵対はしたくないしね。」
・・・
「私が怪我をしてるのをいいことにイイコトでもする気かしら?」
腕の採寸等を行っている中で牽制をする。巫女の上半身を露出する必要があったため、霊吾は別の部屋にいる。初対面の魔女と一対一にする方が不安であるが、一応は霊吾が連れてきた存在というのもあり、信用はしている。
それはそれとしてここで寝泊まりする女に思うところが無いわけではない。
「あら、いいのかしら?」
「ダメよ!あれは私のよ!」
霊吾の知らぬところで巫女の所有物となっている。
「ふふ、素直じゃないのね。でも彼けっこう色んな存在から目を付けられているし、彼自身が貴女の物という自覚がいるんじゃないの。」
「ここに帰ってくるんだから問題ないわ。」
「あらそうかしら、彼が誰かに縛られる様には思えないけど。」
巫女も重々理解している。
「もしここに留めて置きたいのであれば何か策を打った方がいいと思うわよ。」
「それなりに考えているわよ。それよりもあいつに手は出さないという事でいいわね?」
「そうね。霊吾から誘われたら断る自信は無いけど。私も少なからず彼の事は好意的に見ていてね、もしも彼が私を魔法使いではなくて一人の女性として見てくれるって話があれば、正直分からないわね」
いちいち余計な一言を付け加えるが、アリス自身は問題ないと言った。霊吾がアリスを誘う事はない。
はずだ。
(ないわよね?あの男が手を出すことはなかったし...)
色んな妖怪の匂いを付けて帰ってくる男を信頼できるかと自問自答する。
自分もいることだし神社で及ぶ事はない。あの男にそこまでの甲斐性はない。そう言い聞かせる。
投稿ペースが遅いのに話が進まないのが悩みです