文明崩壊が確認されたとある特別管理世界――ミッドチルダ語で「大樹」の名を冠したその世界には、もはや生物は存在しない。
魔法文明が発達しすぎた結果、崩壊し、一度終末を迎えてしまったその世界だが、一周して、かなり広大な自然が広がっていた。
ヒトの背丈よりも大きい直径の大木が乱立する森が、何千km四方にも渡って広がり、かつて集落だった場所までも飲み込み。
一方では、草すらも存在しない荒野が、果てなく続き。
かと思えば、南北数万kmの、底が確認できないほど深く大きな亀裂が走っており。
岩石の山々の間に、ひときわ大きな氷山がそびえ立ち。
厳しく壮大な自然ばかりかと思いきや、波の穏やかな、くるぶしほどの深さしかない海がどこまでも広がっており。
大人の腰よりも高い草原には、穏やかな風紋が広がっている。
魔法文明崩壊により様々な現象に“バグ”が出ているその世界は、それだけで研究の価値があり、また“バグ”が安定していることもあって、「大樹」は観光地としての価値も高かった。なにより、発掘作業にスクライア一族が手を貸したことで、当初の予定よりも早く観光地として活用出来るようになっていた。
大木の森林入り口付近を、森林浴さながらに歩けるトレッキングコースに。
人工物一つ一つ専門学者が解説を付けた人工博物フィールド。
亀裂に透明な橋を架け、そこから命綱を付けて1kmほど下りられるアトラクションや。
海のほぼ真ん中あたりに、高床式のウッドデッキを設けた展望兼休憩スペース。
それら観光地整備に、人の往来のための舗装された道路の建設も忘れてはいけない。
ともかく、観光地としても賑わいを出した崩壊後特別管理世界「大樹」であったが、そこでの居住は管理局が厳しく規制していることもあって、日没以降はすべての生命体がその星を去ることになっていた。
――のだが。
日が沈み、二つの月が空に浮かぶ夜を迎えた「大樹」に、三人の人間が残っていた。
一人は、考古学者を目指す少年。あと二人は、血縁関係のある姉妹。
年齢は、少年と姉が15歳で、妹が10歳。傍から見ると、少年少女が管理局の送迎船に乗り遅れてしまって取り残されたように見える。
「文献と僕の解釈が間違ってなければ、あの遺跡だ」
「ここまで来てあれだが、本当にこの子を救えるのか?」
「大丈夫。大昔、ここは“沢山の魔力を込めた種”を量産してた世界だから。その技術があれば、きっと上手くいくよ」
しかし、少年たちは自らの意志でこの時間まで残っていた。
姉妹の妹は、生まれ持ったその膨大な魔力の影響を、周囲の人を巻き込まないようにするためにはどうすればいいかずっと悩んでいて。
姉妹の姉は、妹の尊い気持ちを守ろうと、ようやく出会えた親身になって話を聞いてくれる存在の少年に相談し。
少年は、ただ只管にまっすぐな夢と善意によって計画し。
管理局の人たちがいなくなった後の崩壊後特別管理世界「大樹」で、一人の少女にかけられた生まれつきの“呪い”を解こうとしていたのだった。
「あの遺跡は、少し前にスクライア一族がロストロギアを発見したことで有名なんだ。けど、その調査は完璧じゃない。絶対に残っているはずの遺物を、彼らは見つけてないんだ。それがあの遺跡に」
「静かに! 見回りだ」
姉妹の姉の方が、少年の口を手でふさぎ、妹と一緒に抱きしめてなるべく小さな陰になるように身をひそめる。
制服を着てデバイスを武装した管理局員が、けだるそうに歩いて行った。
「……はぁ。その話は出発前にしてくれたから、今改めて言わなくても大丈夫だ。私たちは君を信じている」
「そう。じゃあ、仮説が正しいことを証明するために、現物を見つけないとね」
「ええ。それと、この子のためにも」
「分かってる。急ごう」
少年と少女たちは、「大樹」にある遺跡の一つに向かう。
そこは、あるスクライアの少年が、一つの宝石と出会った世界。
そこは、あるスクライアの少年が、21個のロストロギアを発掘した場所。
そこは――宝石の女王が眠る国。