宝石の女王   作:ふらみか

3 / 11
幕間一

 

 瞼を持ち上げ、焦点を定めないままの景色を見る。

 ぼやけた世界は、それでも私には眩しすぎた。

 頬を撫でる風がくすぐったい。その風に乗ってくる潮の香りは、どこか懐かしい。日の光はじんわりと、それでいて、はっきりとした輪郭を持って私を温めてくる。全てが心地良い。しかし、確かな違和感と共に、それらは襲って来ていた。

 

「んんっ……?」

 

 そこでようやく、はっきりとした意識を掴んだ。

 惜しみつつも、微睡みを振り払い、自分の状態を確認する。

 五体満足、外傷無し。バリアジャケットである殲滅服も着ていた。唯一記憶が曖昧な位だが……状態は今までで一番いいと思えた。記憶が曖昧とはいえ、自分自身が「シュテル」だということは思い出せる。それ以外が微妙なところだが。

 不思議に思うは思うが、文句があるわけではないので、私は周囲の確認に移った。

 辺りを見回すと、私の視線よりも高い背丈の草に囲まれていた。力の入りにくい膝に無理やり力を込めて立ち上がると、それらは私の腰よりも少し上にくる程成長している。なんと青々として生きているのだろうか。

 しかし、植物以外の生物の気配がない。

 優しいそよ風だけが、通り過ぎていく。

 

(ここは、消滅後の世界? ……ではなさそうですね)

 

 自分のことを思うと、一度消滅したかマテリアル体に戻ったかして、再び出現したのだとあたりをつける。

 消滅が死と同義というのならば、ここは天国だろうか。穏やかすぎるので、地獄ではないだろう。もっとも、どちらも行ったことがあるわけではない。

 

「海鳴市とも違うようですが」

 

 お尻についた埃をササッと払ってから、より多くの情報を得ようと、感覚を研ぎ澄ます。

 

「磯の香りがするので、海はあるのでしょうけれど……」

 

 遠くの草原には、風紋が浮かんでいる。そこだけを見れば、心地良さそうで、もう何も考えなくて良いのではと思ってしまう。穏やかだし、ここがどこかなんて考えなくてもいいのではと思える。

 が、やはりこのままは少し気持ち悪い。なんというか、心地いいが気味悪さが少しばかりある。

 風景と自分の、色々な意味での『色』が、かけ離れ過ぎている気がする。

 

「……まずは、状況を整理しましょうか」

 

 自分は誰か。

 自分は、星光の殲滅者。略称として「シュテル」と呼ばれていた。

 ここに来る前は、何をしていたか。

 鳴海の海の上で……誰かと戦い、敗れた。誰かが全く思い出せないが、その時に消滅した気がする。

 でも、私はここにいる。

 それでは、ここはどこか。

 見渡す限りの草原と青い空。少しばかりの潮の気配。

 自然に囲まれているのだから、どこかの惑星ではあるはずだ。地球の可能性もあるかもしれないが、直感的に、それはないたろうなと思った。空気中の魔力の波長が、記憶していたものと違う。生物の気配の無さから、無人惑星か、或いは、とてつもなく巨大な惑星だろうとは思えるが、確信があるわけではない。

 ……今はここまで分かっていればいいか。これから少しずつ分かっていくだろう。

 ここの場所よりも疑問なのは、自分が消滅していないということだ。

 流石に、これほどリアルな世界が、消滅後の「夢」だとは思えない。

 

「……そういえば、あの書物は『夢』に拘っているマジックアイテムでしたね……考え過ぎでしょうか」

 

 そもそも、マジックアイテムが断片的に再生した「理のマテリアル」である自分に、どこまで望めるのだろう。

 夢は見るのか。

 たまたま生まれたこの自我は、消滅後のことを認識できる程、出来たものなのだろうか。

 

「まぁ、ナノハたちのような通常の人間にある自我が、消滅後を認識できるかと聞かれても分かりませんが」

 

 思考して、導き出されるのは、考えても答えは出ない、という結論ばかり。

 

「はぁ……仕方ありません。分かることから片付けていきましょうか」

 

 分かること、それは。

 何の悪戯か、自分はまだ自我を持ったまま、ここにいる。

 雷刃や王は、今はいない。いたとしても、とても遠くもいるのだろう。念話で呼び掛けても届かない程遠く、だ。となると、いないものとして扱ってもいいかもしれない。

 最後に。

 

「――すみませんでした、ルシフェリオン。無視していた訳ではありませんので、そんなに怒らないで下さい」

『聴力に問題が生じたかと思って、生体スキャンをかけるところでした』

 

 首にぶら下がる、深藍の丸い宝石のついたペンダントは、先ほどからピコピコと、しつこく点滅を繰り返していた。

 私の理解者、ルシフェリオン。

 

「大丈夫です。聞こえていますから。少し、混乱していました」

『混乱しているのは、マスターだけではないのですよ』

「分かっています。状況整理をしていただけです。ちなみに、ルシフェリオン。そちらは何か、分かったことはありますか?」

『私個人で出来る範囲では、何も』

 

 予想した通り、彼女個人ですでに、エリアサーチをかけていたのだろう。答えは芳しく無かったが。

 

 「ふむ……」

 

 彼女個人で結果がよろしくないのであれば。

 

「魔法は使えるようですね」

『マスターのリンカーコアは、いたって正常です』

「本来なら無くなっていないといけないのですが……まぁ、いいでしょう。ルシフェリオン、ヒートヘッドに切り替えてください」

 

 瞬間、深藍の丸い宝石は、機械的な魔道師の杖へと形状を変えた。高町ナノハの持つレイジングハートと、とてもよく似た形へと。

 

「では……ワイドエリアサーチ」

『Wide Area Search』

 

 足下に朱色のミッドチルダ式の魔法陣が展開される。

 ルシフェリオンだけのサーチで届かないのならば、私の魔法でより遠くへ。

 リンカーコアから魔力を杖へ送り、その先の命令式に“あてる”。

 複数の空中モニターが、目の前に現れた。

 

「とりあえず、何かが見つかればいいので……簡易的にいきましょう」

『かしこまりました、マスター』

 

 流石に、半径300kmを広域検索すれば、何かはヒットするだろう。

 軽い気持ちでいた私が、虚しい汗を流すのは、三十分後の光景である。

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。