宝石の女王   作:ふらみか

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二話

 

 崩壊後特別管理世界「大樹」へ転移する前のこと。

 高町なのは達は、次元航行部隊本局にある一室に、他の局員数十人と共に集まっていた。その場所は次元航行部隊本局が保管している汎用デバイスを局員に支給する場所になっている。……本来は。

 魔導師にとってのデバイスというのは、相棒、というよりも身体の一部と言っても過言ではない。

 手となり足となり、目となり耳となり、心となって魔導師と共に歩む存在。それが、デバイスだ。

 たとえ市販の汎用デバイスだとしても、魔導師一人ひとりにチューニングを施すのが当たり前で、他人の物を使うことは本当に稀なことになる。義手義足がオーダーメイドで作られるのと同じようなことだ。十人十色はデバイスも言える。

 だから、その場所は次元航行部隊の局員たちが個人所有するデバイスを保管しておく場所、という扱いになっていた。多数のインテリジェントデバイスが消失し、残ったほとんどが予備の汎用デバイスとなった今、建設当時の本来の用途で使われるのは皮肉なことだ。

 高町なのははそこで支給された中距離用予備汎用デバイスを握りながら、同時に、自分が使っていたレイジングハートの精度の高さを実感していた。

 元々ユーノの所有物だということを加味すると、高町なのはに限りなく適合していたことが伺える。手元から消えてしまった今だから、より強く痛感する。もしかしなくても、レイジングハートがなのはに合わせていたということに、少女は気が付いてしまった。

 フェイトや予備デバイスを受け取っていった局員たちも同じようなことを思っているのだろう。皆、察せる顔色を浮かべていた。

 なのはとフェイトは見つめ合いながら、不満を隠すように苦笑いをする。

 ちょっとの間、我慢だね。なんて言葉を、念話で言い合うと、転移ゲートへと足を運んだ。

 断りを入れておくと、局員レベルの魔導師であれば、デバイスが変わったところで任務は難なくこなせるものだ。

 

「万全の状態で任務に当たれ。だが、いつでも万全な状態でいられるとは限らない。常に現状で、最高の仕事をこなせ」

 

 入局希望者は必ず耳にする言葉の一つに、それがある。なのはたちも例外なく耳にしている言葉だ。

 今できること。それに全力を出す。

 デバイスが違っていようが、なのはたちが行うことに変わりはない。

 次元世界、並びに、無力な人間を守る。

 その理念がある組織に入っている以上、どのような状態であろうと、それに基づいて行動するべきだ。守られる側からすれば、局員のデバイスが違うかどうかなど些細なことでしかないのだから。

 ゲートに入り、転移が始まる。転移するまでの間に、局員たちはバリアジャケットに身を包ませた。

 重ねて言うが、デバイスが変わったとしても、局員は最高の仕事をこなさなければならない。そのための訓練も、彼らは行っている。

 つまり何が言いたいかというと。

 なのはたちの魔法は、デバイスが変化したとしても大きく変わることは、ほとんどない。

 一部自分専用のデバイスにしか記憶してない魔法もあるにはあるし、デバイスが変わることで効果の変わる魔法もある。

 しかし、局員が任務で行使する飛行魔法やバインドなどに関しては、デバイスによって効果が変わることなどはあり得ない。そういう訓練を、日ごろ行っているのだ。

 式さえ覚えていれば発動できるもの、というのが魔法だ。

 なのはたちもいつものバリアジャケットに着替える。しばらくして、転移先の世界に到着した。

 たった数分、あるいは数十秒で自分のいる場所が変化し、景色が一変する。この感覚は、高町なのはにはもう慣れたことだった。ここ数年、何度経験したことか。

 管理外世界出身者としては異例の速さでの順応だってクロノ君に驚かれたなと、思い出し笑いを浮かべる。あの時はそう言ってもらえて、少し、気分が良かった。

 転移先の世界の空気を吸い込み、頬で風を感じる。

 息ができるので、酸素があるのかもしれない。ぴりぴりとした感覚は、この世界特有の魔力素が関わっているのかもしれない、説明を受けてはいるが、少女にはどちらも詳しく知らなかった。

 少女が分かることといえばは、空は青く広々としていて、空気もそれほど悪くないということだった。

 ともあれ、今大事なのは、自分のできることに全力を尽くすこと。

 あの言葉を思い返しながら、少女は心の中で気合を入れ直した。 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 管理世界は通常「次元を移動する技術があり、それによって他の世界の存在を知り、かつ管理局に所属している世界」を指すものだ。そういった世界では、質量兵器の破棄と地上部隊の設置が義務付けられている。

 が、実はそうでないものも、管理世界と呼ぶことがある。

 

「魔法文明が発達しすぎた結果、行使する生命体の手にあまり、崩壊の運命を辿ってしまった世界」

 

 そういった世界も、管理局は管理対象として認識していた。要は、危険な魔法的遺産も管理した方がいいですよね、ということだ。

 全体ブリーフィングを終えたなのはたちが転移してきた世界も、それに当てはまった。

 崩壊後特別管理世界「大樹」。

 転移魔法陣が、「大樹」のとある草原内に局員を移し始めて、五分が経った。今回の部隊長を含める先ほどの三人を最後に、転移は完了している。そのまま隊長たちは、現地局員と情報交換に向かっていった。

 なのはは辺りを見回した。

 ミッドチルダはもちろん、地球よりも自然が広大な惑星。

 ブリーフィング時に説明を受けたときは単純に「地球より大きな星なんだな」と思うだけにとどまったが、山の規模がそもそも大きく思えたり、人工物が全く見えないことには、若干の不気味さを覚える。

 空の色も、空気も。ほとんどが地球やミッドチルダと変わらない。この大自然の中で、何の懸念もなしに佇むことが出来れば、どれだけ心地いいことか。と思えるほどに、空や空気は悪くなかった。

 だが、生き物の気配がない。おそらく不気味さの大半はそこに帰結しているのだろう。

 

「なのは、大丈夫? 転移酔いとかなかった?」

 

 現地局員との打ち合わせも終えた隊長クラスからの作戦が、各デバイスに通達され始めると、待機中だった局員たちが飛行していく。それを見送りながら、フェイトは真面目な面持ちでなのはに話しかけた。

 

「うん、大丈夫だよ。フェイトちゃんは?」

「私は平気。……それにしても、静かなところだね」

「崩壊したって言ってたけど……本当は、鳴海よりのどかなところだったのかな」

「歴史的には戦争で幕を閉じた文明ってあったけど、なんかそういう雰囲気はないよね。穏やかっていうか」

「ユーノ君がジュエルシードを見つけた星でもあるらしいんだけど」

「ジュエルシード……私となのはの、きっかけになったロストロギア……」

 

 うん、と予備汎用デバイスを見つめながら、なのはは返事をする。

 本来であればレイジングハートを握っているはずの手には、ある意味見慣れた予備汎用デバイスが握られている。青いクリスタル・コアが輝いていた。

 

(レイジングハートと出会ったきっかけでも、あるんだよね)

 

 もしも。

 ユーノがジュエルシードを発掘していなければ。

 輸送中の事故がなければ。

 地球に落とさなければ。

 落下した地点が鳴海市を中心とした地域でなければ。

 今の自分は、ないかもしれない。いや、絶対にない。

 今この場にいない友人たちのことも思うと、自分が魔法と出会っていなければ、ぞっとする。

 その人たちと出会わないどころか、もしかしたらそのうち事件に巻き込まれて死んでいたかもしれない。冗談ではなく。

 なのはは、魔法と出会っていて本当によかったと、心底ほっとしていた。ちなみに、その友人たちは今ミッドチルダでいろいろな手続きを進めている最中のはずだが、それはまた別のお話。

 

「今日はちょっといつもと違うけど、頑張ろうね、フェイトちゃん」

「うん。気を引き締めて行こう」

 

 次々と飛び立つ管理局員に続いて、なのはたちも浮遊する。

 少女はフライヤーフィンを唱えると、桜色の魔力光で出来た翼が両くるぶしに展開された。

 いつもと違って出力が低いのか、発生した羽が小さくなっていて、心持ち体が重い気がする。無限書庫を出たときに感じた感覚と似ていた。

 地球より大きな惑星だから、重力も大きいのだろうかとも思いつつ、注ぎ込む魔力を多くして、遅れないようになのはは着いていく。燃費が悪いからか違和感が大きかったが、なのははそれを気のせいだと一蹴した。

 ブリーフィング時に伝えられていた目標まで、案外すぐの距離だった。

 そして、対象は、一目で見て分かるように、異質だった。

 緩やかなウェーブをかけながら、腰よりも長く無造作に下された高級感のある上品な白金髪と、病的なまでに白い肌。頬や首元には真っ赤な蔦のようなデザインのペイントが、浮いているように見える。白い豪華なドレスは上半身の華奢さを強調するように、下半身のスカートは大きな傘を広げるが如くに大きい。彫刻のようなレースも、目を惹きつけた。

 パッと見で、会話ができるような状態では無さそうだとなのはは思うが、魔法が絡むとその先入観も簡単に否定してくるので、決めつけてはいけない。

 ただ、この人気のない世界においては、彼女は明らかな異常性の塊だった。先に到着していた局員たちは動きを止めて観察している。

 お姫様みたいで綺麗だなと、一瞬だけ、ほんの一瞬だけ思ったなのはだったが、その思いはすぐに打ち消された。

 対象の周りに浮かぶ無数の棒状のあれはなんだろう。

 いや、知っている。

 私は知っているはずだ。

 あれは。

 あれは。

 あれは。

 

 

 

 

 魔導師が使う、インテリジェントデバイスだ。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 次元航行部隊への緊急応援要請。

 崩壊後特別管理世界「大樹」より。

 爆心地付近で気絶していた少年少女のうち、少女一人が覚醒。

 身体に浮かぶ文様などの特徴により、未知のデバイスとの融合と見られるが、原因は不明。

 コミュニケーションは不可。

 覚醒時より攻撃性あり。現在敵対中。

 大規模魔法の詠唱を確認。ミッドチルダ式魔法陣の展開確認。

 中断を試みるも失敗。

 何かを召喚していた。

 召喚したものは非生物。無機物……視認によりインテリジェントデバイスと断定。

 総数……50……いや、それ以上と判断。

 目的は不明。

 敵対中ではあるものの、行動は落ち着いており、召喚魔法以降の特別な様子は見受けられず。

 現状膠着状態。

 至急応援求む。

 繰り返す。

 至急応援求む。

 

 

 

 

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