宝石の女王   作:ふらみか

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五話

 

 ターゲットポイントへ向かう途中の空。

 ユーノ・スクライアによる直接の説明を聞いていると、高町なのはにはあまり馴染みの無い単語が彼の解説の中に出てきた。なのはは相槌を打つ形でユーノに質問をする。

 

「補助デバイス?」

『補助デバイスっていうのは「インテリジェントデバイスやストレージデバイスを主要デバイスとしてそこに接続し、機能を増設するサポート機器」だね。それ単体では、本来はあんまり使われないデバイスで……ちょっと違うかもだけど、なのはだったら、携帯二台持ちって言った方が分かりやすいかな?』

「それなら、なんとなく……!」

『デバイス自体のスペックが上がったから、最近はもう使われなくなっちゃったけどね。で、問題の補助デバイスなんだけど、状況から見て、だいぶ“壊れちゃってる”みたい。どういうわけか、補助と主要の関係が逆転しちゃってて……。だからと言って本来の主要が補助扱いになってるかというと、そうでもなくて、補助が主要並みに扱われてるって感じで……』

「補助が補助じゃなくなってるってこと?」

『うん、そうそれ。実際は調べてみないとだけどね。とにかく、今は大事なところだけ伝えるよ、なのは』

「う、うん」

『「宝石の女王」の被害者を救助・保護するためには、補助デバイス自体を停止させないと厳しい。だから、まずはそれが先だ。……けど、補助デバイスの停止だけでは、まだ主要デバイスが動いていて、そのせいで被害者が止まらない可能性がある。そっちの停止も行った方がいい』

「うん」

『主要デバイスの停止が出来なかった時は、停止させた補助デバイスを、今度は正しい方法で再起動させることも考えられる。どっちのデバイスを先に止めるべきか、っていうのは無限ループになっちゃうから、「二つのデバイスを同時に止める」って思っておいた方がいいかも』

「なんだか難しそうだけど、それしかないんでしょ?」

『救助・保護を目的とするなら、ね。完全沈黙させるなら、話は変わるけど』

「完全沈黙って……気絶、とか?」

『……ううん。覚醒時の大まかな流れを教えてもらったけど、あの子、たぶん今も気絶状態だと思うんだ。それでも動いてるってことだから……』

「それじゃダメ! 絶対にデバイスを止めないと!!」

 

 さすがのなのはでも、具体的な単語を聞かずとも、ユーノの言いたいことは理解できた。

 魔法で誰かが悲しむのは、あんまり見たくない。

 誰かを笑顔にするのが魔法だと思っているなのはは、絶対に諦めないと、自分に言い聞かせた。

 

「二つのデバイスを同時に止めるためには、どうすればいいの!?」

『方法はあんまり多くない。その上、君にしかできないことなんだ、なのは』

「私にしか、できないこと?」

『うん。今回の補助デバイスは融合型だから、主要デバイス内に補助デバイス分のプログラムが溶け込む形で接続されている。その補助デバイスを止めるためには、主要デバイスから停止命令を送らないといけないんだけれど、そもそも壊れていた補助デバイスを起動して融合させてしまったせいで、主要デバイスがそういった操作を受け付けない状態にあると考えられるんだ。だからまず、その溶け込んだプログラムを外部から書き換えるか、消去する。それを行ってから、主要デバイスで停止命令を補助デバイスに送って完全停止させ、すぐに主要デバイスをシャットダウンする』

「えっと、なんとなくわかったけど、それがどうして私にしかできないの?」

『プログラムを書き換えたり消去したりするにしても、停止コマンドを送るにしても、シャットダウンするにしても、管理権限を持っていないと行えないことばかりなんだ。そして、さっきから何度も出てきてる「主要デバイス」っていうのが、なのはのインテリジェントデバイス。レイジングハート』

「レイジング、ハート……」

『今のレイジングハートのマスターは、高町なのは、君だ。君だけなんだ』

「私、だけ」

 

 シュテルにも言われたそのことを、なのはは自分の身体に沁み付けさせるように、心の中で何度も繰り返した。

 レイジングハートのマスターは、私だけ。

 

『いいかい、なのは。繰り返すよ。まずは、レイジングハートを取り返して、溶け込んだ補助デバイスのプログラムをどうにかする。どうにかしたら、補助デバイスに停止コマンドを送る。送ったら、レイジングハートをシャットダウンさせる。これがあの子を助ける流れで、同時に、レイジングハートを助けることにもなるから、頑張ろう』

 

 レイジングハートを取り返すこと。

 ユーノの声音から、なのははそれが一番の難所だと理解した。

 できるだけ傷つけないように、手にしているデバイスを奪う。

 一番最初の大変な部分。けど、彼の言う通り、頑張らなければいけない。

 なのはは表情を強張らせながら、飛行スピードを上げた。

 

「ねぇユーノ君。さっき、ジュエルシードって言ってたけど、やっぱりあれは本物なんだよね?」

『そう、なるね』

「封印しないと、危ないよね?」

『そうだけど、でもなのははレイジングハートを取り返すことに集中した方が』

「できそうだったら、封印も一緒にするね」

 

 いや流石にそれは仕事が多すぎるよ、という言葉は、少女には届かなかった。彼女が通信を強制的に切ったからだ。

 なのははこの時、彼女が思うよりもずっと強く意気込んでいた。無意識に無茶をする、という彼女の悪い癖が出ている。もちろん、なのは自身が気が付くことはない。

 ユーノとの通信を切ったなのはは、すぐに、デバイスが変わったことと自分の状態を隊長に知らせることにした。

 作戦のどこに組み込まれるかは分からないが、レイジングハート奪還は自分の手で行わなければいけない。ユーノの説明を聞いたからでもあったが、それを抜きにしても強く思っていたことだった。

 そのことも強く主張しなくては、と意気揚々と通信したものの、いつまでたっても応答がない。終いには、エラー表示に切り替わる始末。

 通信に関しては、なのはは専門外だったが、妨害ではないことはすぐにわかった。

 通信状況が悪いから繋がらないのではなく、そもそも相手が見つからないエラーが表示されていた。

 よくわからない事態に、高町なのはは冷や水を掛けられたみたいに、一気に冷静になっていった。

 こういう時は、どうすればいいか。

 別の通信可能な人を探して、伝えてもらう。

 ルシフェリオンによるエリアサーチを行うと、さらに彼女は驚くこととなった。

 局員と思える反応が、一つもない。

 あるのは、『宝石の女王』によって巻き込まれた被害者と、数個の浮遊しているデバイス、だけだ。ジュエルシードの反応も無くなっている。

 まさかの全滅、という悪い想像を浮かべ、直後に否定を始める。

 いくらなんでも、自分がいなかったあの数分で全滅するほど、局員はやわじゃない。親友のフェイトやさっき再会したレヴィが、たった数分で撃墜されるわけがない。エリアサーチをよくよく見ると、撃墜された場合でも絶対に一時間以上は空気中に残り続ける固有魔力の反応もなかった。

 撃墜は、されていない、はず。

 悪い想像が弱まると、今度は不可思議なことに意識が向いた。

 皆、どこへ消えてしまったのだろう。

 思えばジュエルシードも一つ残らず消えていることが、かなり不気味だ。封印処理をしたとしても、普通、反応までは消えない。

 異常事態に恐怖心が芽生え始めたなのはは、次元航行部隊本局指令室のリンディへと連絡を入れようとする。と、逆にそちらから通信が入った。

 

『なのはちゃん、無事!?』

「エイミィさん! ちょうど良かったです! 私は無事ですけど、あの、聞きたいことが……」

『よかったぁ……じゃなくて、うん。わかるよ、なのはちゃんが何を聞こうとしているのか。みんなの反応が消えちゃってるけど、どうしたんだってことでしょ?』

「あ、はい! あの、それだけじゃなくて、ジュエルシードも無くなってて」

『うん。大丈夫だから、安心して。その様子はこっちがモニタリングしてたから』

 

 エイミィ曰く。ジュエルシードが輝きだし、被害者から近い順に、身体が消えていった。範囲は後衛班の一番後ろの局員にまで及んだ。輝きは小さくなり、そのままジュエルシード自体が全て消えた。

 

『消失の様子から、仮想世界に転移させられたと見てるんだけど、それがどういう世界なのかは分からない……とにかく、なのはちゃんが無事でほんとによかったよ』

「仮想世界……」

 

 フェイトがその魔法を経験した、という話を、なのははしたことがあった。

 味わったのが闇の書の意志と戦った時で、確かになのはの目の前でフェイトが消失していったことも覚えていた。

 幻影の上位魔法で、なんでもランクによっては五感、欲求、記憶といったものも再現出来るらしい。

 フェイトが送り込まれた仮想世界は「概ね現実」だったという。そこから脱出するには、キーとなる物品や言葉、行動を見つけ出す必要があるとのことだった。

 その話の最後、フェイトは「幻影や幻覚、変身魔法ならまだしも、仮想世界を作るなんて普通の魔導師じゃ出来ない」と言っていた。

 その後なのはは少し調べて、仮想世界の再現とそこへ転送をする場合の魔力消費が、とんでもない数値になることを知った。

 先ほどのエイミィの話と合わせて考えると、指令室調べにも拘わらず、疑ってしまうほど規模がおかしい。

 全員を同じ仮想世界に送るにしても、一人ひとり別の仮想世界に送るにしても、消費魔力が天文学的数字になるだろう。一人の人が抱え込む魔力量のおよそ云万倍が必要で、逆に言えばそれだけ世界というものが情報の塊だということになるのだが……一体数十人分をその魔法に巻き込むためには、どうすればいいのか。

 高町なのはは考えて……可能性があることに気が付いてしまった。

 あるじゃないか、都合のよい物品が。しかも、一連の流れの最後には、消えていたという、魔法の宝石が。

 

『今、増援を送ってるから、合流したらなのはちゃんも対応してね』

「……」

 

 少女は、考える。

 むしろ、今は好機なのでは。

 ジュエルシードを封印することも念頭に置いていた少女にとって、仕事が減るのは好都合すぎる。

 このまま、レイジングハートを奪還し、プログラムを書き換えて『宝石の女王』を停止させ、レイジングハートをシャットダウンさせる。

 そのことだけを意識すればいいのであれば、むしろ集中力が上がる。

 それに、ジュエルシードの魔力さえ意のままに操るような相手が、増援を待っている間に何もしないとは限らない。仮想世界に送られた局員も、ずっと無事でいる保証はない。

 増援を待ち、作戦を組み立て直す時間はない。

 なのははサーチの結果をもう一度確認すると、浮遊デバイスの残りの数を大まかに予想して、これなら何とかできると心で言った。

 

「エイミィさん。私一人でやります。あの子を助ける方法も、ユーノ君から聞いていますし、大丈夫です」

『えぇっ!? だ、だめだめ! いくらなんでも危険だから!』

「でも、ジュエルシードをきちんと使えるような相手です。仮想世界が安全な場所とは断言できません。一刻も早く、対応した方がいいと思うんです。あの子を助けるのも、局員の皆さんを助けるのも」

『それは……そう、だけど……』

「増援は呼んでもらってた方がいいですけれど、到着まで私一人ででも対応します」

『高町さん』

「リンディさん……すみません、たぶんじゃなくても、ダメですよね?」

『そうね。あなたを危ない目に合わせたくはないから。って言っても、入局した段階で、そうも言ってられないわよね。あなたの言い分も説得力はあるし、なにより、私たちより現場にいるあなただからこそ気が付いたこともあるでしょう。その上で大丈夫だというのであれば、私たちはあなたを信用します』

「ありがとうございます!」

『危なくなったら、ちゃんと退避してね? そこを約束してくれないと、許可できないわ』

「約束します!」

『よろしい。くれぐれも、無茶はしないように。高町さん、無茶する癖があるから』

「そ、そうですか?」

『ええ。本当に、ダメよ?』

 

 指令室お墨付きの単独行動が許されると、なのはは通信を切って、飛行速度を上げた。

 絶対に、取り返すんだ。

 あの子も、レイジングハートも、皆も。

 決意と共に手を強く握りしめると、ルシフェリオンが呼応するように、熱を帯びながら幽かに震えた。

 接敵まで、あと2056m。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 高町なのはが『宝石の女王』を再び視界に捉えた。浮遊デバイスは、サーチと目視確認により、残り2本というところまで減っている。もっと浮遊デバイスがあったとなのはは思ったが、あの2本のデバイスだけ魔力反応が大きいだけのようだった。局員とジュエルシードは、どこにもない。

 やはり、エイミィの証言通り、こことは別の場所にいるのかもしれない。とにかくなのはは彼ら彼女らの無事を祈った。

 

「ルシフェリオン。準備はいい?」

『いつでも』

「じゃあさっそく、行こうっ!」

『Accel Fin』

 

 アクセルフィンを展開させて、一直線に彼女へ向かう。

 と、なのはと『宝石の女王』を結ぶ直線ルート状に、残りすべてとなる2本の浮遊デバイスが、進路に立ちふさがった。

 それぞれ、白に赤い輪郭の複数の魔力光弾と、緑の魔力刃を展開した剣先の丸い長剣でなのはに襲い掛かる。

 光弾はラウンドシールドでのいなしやシューターを用いての相殺で迎撃し、合間合間に切りかかってくる長剣には、デバイスでの直接防御を行う。ルシフェリオンのフレームは、レイジングハートとほぼ同等だったのが、幸いした。

 

『高町なのは。レイジングハートから「デバイス使いが悪い」と言われたことはありませんか?』

「無いよっ! あ、もしかして痛かった? ごめんね、大丈夫?」

『私のフレームを侮ってはいけません。この程度、蚊に刺されるよりも軽微なダメージです』

(蚊に刺されたことあるの……?)

 

 ラウンドシールドを避けてなのはの懐に入ってきそうになる光弾は、ルシフェリオンによる弾道予測を用いて、あらかじめスフィアを配置することで防いでいった。

 長剣の斬撃は、デバイスとシールドによる防御以外に、アクセルフィンでのアクロバットも織り交ぜながら、なのはは回避していく。地上では到底できないような宙返りなどを行っていく少女は、ここが水中であれば、魚のように見えただろう。それほどの鮮やかさがあった。

 シューターとスフィアでの相殺、シールドとデバイスでの防御、アクロバット回避。それらを行う裏で、マルチタスクで次の魔法を準備する。

 時限式空間座標指定長期拘束魔法。

 自前のレストリクトロックに、ルシフェリオンにあったルベライトという拘束魔法の拘束時間延長効果を混ぜ合わせ、高町なのははオリジナルの魔法をこの場で作り上げた。

 あと60秒が過ぎれば、浮遊デバイスは光の輪に拘束され、魔法の使用が不可能になる。

 それまでの間、少女は相殺、防御、回避を重ねていった。

 

『私の弾道予測があるとはいえ、流石の空間認識能力ですね』

「え、何?! 今結構いっぱいいっぱいなんだけど!!」

『いえいえ、なんでもありません』

 

 60秒が経過する。

 高町なのはは詠唱完了を確認すると、発動キーを叫んだ。

 

「レストリクト……ルベライト!」

『Restrict Rubellite』

 

 捕縛対象となったなのはを相手していた浮遊デバイス2本に、桜色の光輪が巻き付く。

 デバイスの沈黙と落下を確認すると、なのはは『宝石の女王』の方へと身体を反転させて、飛翔する。

 直後。

 

『Protection Powered』

「え――」

 

 急にルシフェリオンが呟く。デバイスは自らの意志で、カートリッジをロードし、桜色の強固な防御膜が彼女の目の前に広がった。

 突然のことに困惑したなのはは急停止させ、視線をルシフェリオンに移す。

 何してるの、と聞くことは、“彼女”が許さなかった。

 

「――ッ!?」

 

 ルシフェリオンの展開したシールドに、強烈な衝撃を受ける。とっさに足元に魔力の足場であるフローターフィールドを出し、少女は踏ん張った。

 なのはは場の安定を小さな足の裏で感じ取ると、視線を衝撃の方向へと向ける。桜色の光が、彼女の視界全体に広がっていた。

 桜色の光の暴力と化したそれを放っているのが誰なのか、なのははすぐに理解した。

 光が収まり、ホワイトアウト気味になった目を凝らす。

 ゆっくりと色を取り戻していく世界の中心に、装飾華美なレイジングハートをバスターモードへと変形させ、両手に握ってこちらへ構えている『宝石の女王』がいた。 

 

『油断しないでください、高町なのは』

「油断はしてなかったつもりだったけど、でもびっくりした……」

『デバイスを相手していた時から、ずっと狙われていましたよ』

「全然分かんなかった……守ってくれてありがと、ルシフェリオン」

『もっと褒めてくれてもいいんですよ』

 

 微笑ましい会話をしている場合ではない。

 今砲撃魔法を撃ってきた保護対象者は、レイジングハートをアクセルモードにし、さらに次の魔法を唱えようとしている。

 

「アクセル……シューター……」

 

 彼女の口がそう動いたのを、なのははしっかりと見た。

 円形のミッドチルダ式魔法陣が三つ浮かぶと、それぞれ12発計36発分の桜色の光弾が広がる。

 

『先ほどからの彼女の魔法は、彼女自身の魔力ではないみたいです。魔力波長が、高町なのはのそれに酷似しています。おそらく、レイジングハート内に貯蔵されていた一時魔力でしょう。あれだけ溜めてたんですね』

「そう、なの? 私、知らなかったんだけど」

『一時貯蔵魔力の存在を考慮しての魔力運用は、それが保険でなくなる可能性が高くなりますから、伝えなかったのだと思われます』

「へぇ。レイジングハート、ちゃんと考えてくれてたんだ」

『あくまでも仮説です。まぁ、仮に保険で溜め込んでいたんだとしても、溜め込み過ぎは否めませんが』

「あ、だからさっきも砲撃とかできたんだね、あの子」

『あんなに溜め込んでいなければ、こんなことには……』

「レイジングハートも私のこと考えてしてくれたんだから、あんまり悪く言わないで……って言ってるそばから、飛ばしてきた! ルシフェリオン、アクセルフィン!」

『Accel Fin』

 

 遥か上空へと飛び出したなのはを、36の桜色の光弾が後を追う。不規則に突撃してくる追尾レーザーと化した光弾を、なのははぎりぎりで避け続ける。自分もシューターを出して撃墜を図るが、あまりにも数が多い。ルシフェリオンの補助と、向こうの追尾が若干分かりやすい分、10発分はなんとかかんとか撃墜できた。

 残り26発。

 

『流石高町なのは、というところでしょうか。数だけでなく、質という意味でも、あれは一流の魔力弾なのですが。全くものともしてませんね。10発も撃墜しましたよ!』

「なんか馬鹿にしてる?!」

『スタンディングオベーションですよ(拍手の音)。まぁ、私のマスターでしたら、パイロシューターで一網打尽でしたでしょうけれど』

「馬鹿にしてるね!」

『ともかく、あれを処理しましょう』

「分かってるけど、追っかけてきてるから砲撃で一掃することもできないよ!」

『我が最高の操者である高町なのはには、アクセルシューターがあるではないですか。あれと同じものが』

「それを撃つ余裕もないし、あっても自分のと混じっちゃって混乱するから、単発射出するのが精一杯だよ!」

 

 魔力光が同じなのにその上で同じ魔法を使う、となると、どれが自分のものなのか分からなくなる。なのはがアクセルシューターを使わない理由は、むしろそこにあった。実際、10発分を処理した際、少女は何度か混乱している。

 

『ふむ……では、プロテクションバーストで消滅させるのは』

「取りこぼしがあったら当たっちゃう! バースト直後は無防備になっちゃうから!」

『なんかないんですか? 貴女は魔導師でしょう?』

「それはこっちの台詞! わわっ!」

 

 デバイスとの突っ込み合いをしていても、相手は手を緩めてくれない。

 自分の魔法レパートリーとデバイスに入っている魔法をモニターしつつ、上下前後左右から飛び掛かってくる光弾を、シールドとアクセルフィンによる加減速で当たらないように動き回る。

 ルシフェリオンが音声補助の合間に『どんな空間認識能力してるんですか』と聞いてきたが、なのははそれを無視した。

 

「あっ、これは? よっ。ディザスターヒートって魔法、私は使ったことないかも!」

『そちらをお使いいただく場合、静止姿勢での魔力チャージが必要となります。砲撃魔法ですので』

「じゃ、じゃあ、他には!?」

『生存確率的に言えば、プロテクションで全弾防ぐというやり方が現実的でしょうか』

「や、やっぱり? よっ」

『至近距離での接触は危険ですので、球状にしたプロテクションを大きく展開し、遠方で防ぐのが最適かと』

「わ、分かった! 魔法のタイミングはルシフェリオンにお任せします!」

『分かりました』

 

 すべての弾がなのはから離れた一瞬のタイミングで、ルシフェリオンは大きな球状の防御魔法を実行する。なのはを中心として半径3.5mの球体が、少女を守る壁となった。

 薄い桜色の透明な球に光弾がぶつかると、その部分が爆発する。

 相手のアクセルシューターには防御貫通能力がない代わりに、バースト効果が付与されていた。ぶつかる度に、爆発によってシールドの耐久値が減っていく。この分だと、あと4、5発でシールドは消えてしまうだろう。

 けれど、その分までの時間は稼げそうだ。

 

「こんがらがっちゃうけど、スフィア展開してからシューターで各個撃破が一番いいのかな?」

『砲撃魔法でも問題はなさそうですが、取りこぼしが出てしまえば大変ですからね。万が一にも、回避ルートを用意しておく方がよろしいです』

「分かった。じゃあ、とりあえず……ルシフェリオン! アクセルシューター、スフィア展開!」

『了解しました』

 

 シューター発射用のスフィアが二つ、彼女の左右に浮かび、強烈な光を放つ。

 プロテクションが破られると、残りの10発分の光弾が、なのはめがけて直進してくる。

 

「シュート!!」

『Accel Shooter』

 

 掛け声とともに、左右のシューターからそれぞれ6発計12発の魔力弾が出現した。

 10発分の光弾は、すべてシューターにより消滅する。

 

「上手くいってよかったね!」

『ええ。本当に』

「さて……」

 

 なのはは再び『宝石の女王』の方を向いた。再び、距離は離れてしまったが、まだなのはの射程圏内だった。

 あれだけ長い間逃げ回っていたというのに、彼女は追撃をしてこなかった。こちらの意表を突く攻撃は、先ほどのディバインバスターのみ。

 現在彼女は華美なレイジングハートを掲げたまま、何かを思案するように、その杖を見ている。

 何を考えているんだろうとなのはが様子を伺っていると、遥か遠くの彼女はレイジングハートを三度バスターモードへ変形させ、何かの魔法を詠唱し始めた。

 彼女の足元にミッドチルダ式の魔法陣が浮かび始める。次いでなのはがディバインバスターを撃つ時と同じように構え、杖にも円環魔法陣を纏わせた。

 桜色の魔力光が、先端で輝きだす。

 

『貯蔵してた魔力、まだあったみたいですね』

「カートリッジも使えるみたいだし、まだまだ余裕はありそうかな」

『向こうが砲撃をしてくるのであれば、これらもそれで応酬しますか?』

「ううん。その必要はないよ」

 

 なのははそういいつつ、ルシフェリオンを砲撃姿勢で構えた。

 

「ルシフェリオン。レイジングハートのエクセリオンモードみたいなの、あったよね」

『ディザスターヘッドですね』

「A.C.Sはできる?」

『一体誰のデバイスだとお思いですか? できるに決まってます。貴女が望めば』

 

 ルシフェリオンはそういうと、カートリッジを二発ロードし、ディザスターヘッドへとモードチェンジする。

 シュテルが用いていたのならば、炎のものとなっていただろう翼を広げた。たとえシュテルのデバイスのルシフェリオンだとしても、高町なのはが用いれば、杖に出現する翼は桜色のものになるのだった。

 翼を広げ終わると、なのはの足元には魔法陣が浮かび、彼女の意志を汲み取って深紅の魔力刃をその槍先に出現する。

 

「ストライクフレームも出せるんだ」

『貴女が望みましたので』

「なんか不思議……だけど、出してくれたってことは、準備万端ってことだよね?」

『もちろんです』

「間違っても当てちゃダメ! あくまで懐に入るのを目的に! 行くよ、ルシフェリオン!」

『了解です。――A.C.S Drive』

 

 一回り二回り翼を大きくさせると、滑空する形で少女が“射出”された。

 『宝石の女王』へと急降下していく。

 桜色の加速翼を二、三度羽ばたくと、それだけでなのは本来の最高速よりも速い速度を記録した。シュテルのデバイスだからかもしれないと、なのはは軌道修正を掛けながら心の中で感謝する。速いに越したことはない。

 思えばリインフォースさんに使って以来だったなと懐かしさを覚えながら、弾丸と化した彼女は次の魔法の準備をルシフェリオンに命じた。

 

「着弾までに、バインド準備!」

 

 下降途中、『宝石の女王』はレイジングハートをエクセリオンモードにして、なのはに砲撃を数発放つ。しかし、その魔法を良く理解している魔砲少女にはかすりもせず、身体をわずかにひねるだけで避けていった。

 目標は、彼女の足元。

 砲撃を避け、さらに加速し、彼女自身を弾頭として、彼女の足元の地面に着弾した。

 勢いと、なのはとルシフェリオンにより抉られた地面によって、彼女の姿勢は大きく崩れる。あまりの衝撃に、彼女は杖を手放してしまった。

 纏わらせていた円環魔法陣も、空中に溶けるように消えていく。

 体勢を立て直そうと足元に力を入れ直したようだが、その行動は、彼女の両くるぶしと両手首、さらに上半身に桜色の光の輪が巻き付かれたことで阻害された。

 

『Restrict Rubellite』

 

 身じろぎしながら、被害者の彼女はバインドを破壊しようと試みる。

 彼女にとっては造作もないことのはずだとなのはは思い返した。局員が仕掛けた多重バインドを、吹き飛ばしたのは、昔の話ではない。

 だが、バインドは長時間効果を発揮してくれていて、彼女もバインドを除去できないようだった。杖がなければ魔法の行使も難しいのかもしれない。

 

「手荒くしてごめんなさい。でも、やっぱり、あれは私やユーノ君のだから……返してもらいますね」

 

 バインドを破れないと悟ったのか、彼女の動きが止まった。

 その隙に、なのはは弾き飛ばされた杖へと向かう。

 と、被害者の彼女が何かを呟きだした。

 

「……助け、たい」

「ん?」

 

 なのはがそちらを見ると、無気力な表情のまま、彼女はぶつぶつと言葉を並べている。

 

「助けたい助けたい助けたい助けたい助けたい助けたい。我が子を。救いたい。我が国を。業火に焼かれ、ささやかな願いすらも奪われ。私は、導くものとして。救いたかった。救いたい」

「女王さん……? あの、お話、できますか?」

 

 少女が問いかけると、女王と呼ばれた被害者の彼女は、顔を上げる。あの熾烈な攻撃を行っていたとは思えないほど、彼女の目に力は感じられなかった。

 

「……ああ、我が子に触れるな。我が子を痛めつけるな。我が子を泣かすな。私はそんなこと望んでいない。私は。私は。こんなことを望んでなどいない。助けてくれ。救いたいだけなんだ。我が子を。我が子ではない。我が子など知らない。我が子を助けたい。違う。救いたい。違う、私は。我が子を。関係ない。救いたいのは。我が子に。妹だ。触るな。助けたい、救いたい。救いたい。助けたい。助けたい。救いたい。助けたい。助けたい。助けたい。救いたい。救いたい。救いたい。救いたい。救いたかった」

 

 不具合が起きてしまった機械は、断片的に正常な状態を表す。正常な状態を断片で再生することは、正常などではなく、異常となることを知らずに。

 ユーノの話を聞いてからも、なのはは『宝石の女王』と壊れているということが、どうも結びついていなかった。

 どこか、意志がある気がしていた。目標というか、目的というか。芯がある動きだと思ったのだ。

 だからこそ高町なのはは、ぼそぼそと言葉を紡ぐ彼女の、その一言一言を、聞き漏らさないように聞いていた。

 今の彼女の言葉も、壊れた機械の軋む音と言えなくもない。十人が十人、壊れた機械だと言うかもしれない。

 だとしてもなのはは、十一人目になりたかった。“相手の話す言葉”というものを、とても大切に考えているから。いつだって大事にしてきた。それは今この瞬間でも失われていない。

 

「女王さん。子を大切に想う気持ち、私はまだ全部を分かっていません。家族を想う気持ちに似ていると思うけれど、たぶんきっとそれとはまた別の、もっと特別な感情なんだと思います」

「我が、子を」

「そんな私でも、分かることがあります」

「助け、たい」

「親が子を想うように。子も親を想っているって」

「救、い……」

「いつまでも手元に置いて大事にしていたいという気持ちも理解できます。その気持ちは、適当に扱っちゃいけない気持ちだって思います。……でも、一方で、いつか巣立つものだってことも、分かって欲しいんです」

「……」

「まだ私は子供もいないし、親から巣立ってもいないけど」

 

 てへへと照れくさそうに微笑む少女を、彼女はしっかりと見ていた。

 

『高町なのは。対話もいいですが、早く貴女の杖を奪還しましょう』

「あ、うん。それじゃあ、すみません。失礼します」

 

 一礼してから、高町なのはは杖の方へ改めて近付いていく。

 その後姿を、彼女はじっと見ていた。

 

「……君は、しっかりしているんだな」

「えっ……?」

 

 不意に被害者の彼女に話しかけられて、なのはは振り返る。

 

「私は、どうしたらいいのかわからない。本当に救いたくて守りたい存在がいるんだ。その想いのすぐ隣に、子を守りたい、救いたいと強く思うなにかが急に生まれた。どちらも救いたいし、守りたい。もう止まりたいと思う一方で、まだ止まってはいけないと、誰かが囁きかける」

 

 これが本当に、『宝石の女王』の壊れている部分なのかもしれないと、なのはは考えた。

 その壊れてしまった歪んだ想いが、被害者の想いに溶け込んでしまっているのだと。

 ユーノが言っていた「プログラムが溶け込んでいる」というのを、まさかここで感じるとは、少女も思っていなかった。

 

「君は、私たちを、助けてくれるのか……?」

 

 弱弱しい、壊れた想いの、壊れていない部分。

 なのははそれが、とても尊く思え、自然と笑みがこぼれる。こういうものを、自分の魔法で守れるのなら、守っていきたい。

 

「助けます。だからあと少し、待っててください」

「ああ……。ありがとう」

 

 安心しきった彼女を見てから、高町なのははレイジングハートを手にする。

 久しぶりの愛機は、彫刻や浮彫などされていて、ずいぶんと豪華になっていた。

 

「……えっと」

 

 まずは、このレイジングハートと融合してしまった『宝石の女王』のプログラムを消さなければいけない。

 ……の、だが。

 

「そういえば私、インテリジェントデバイスのプログラミングとか、やったことなかった……それでもできるものなのかな?」

 

 溶け込んだプログラムを外部操作で書き換えるか消す。という言葉の意味は分かるが、方法を少女は知らなかった。デバイスの内部事情に関しては、メンテナンススタッフに任せる形をしていて、自分で弄ることがほとんどない。ないわけではないが、プログラミングともなると、なのはは全く行ったことがなかった。

 なのはが「ここに来て、かっこまでつけて、メンテナンススタッフへ投げなくてはいけないのか」と悩んでいると、ルシフェリオンが呆れた様子で提案する。

 

『私とレイジングハートを外部接続してください』

「うーん……ん? 外部接続?」

『今、接続コネクタを出します』

 

 ルシフェリオンはカートリッジのマガジンを自動で排出すると、そこから同じぐらいの大きさの接続端子を出現させた。

 レイジングハートのマガジンを外してそこに繋げと、なのはに指示を出す。

 言われたとおりに、少女は接続した。エクセリオンモードのレイジングハートと、ディザスターヘッドのルシフェリオンが重なり合う。同じような形に見えるが、細部は違っていた。もっとも、今のレイジングハートは高町なのはがいつも使っている見た目ではないのだが。

 

『接続を確認しました。診断を開始します』

 

 空間モニターが投影され、レイジングハートのプログラミング状態が水流の如く流れていくと、ある一点でスクロールが止まった。

 プログラム文の合間合間に、赤く点滅する文字が混じっている。これが、『宝石の女王』が溶け込ませたプログラムという奴だろうかと、なのははルシフェリオンに問いかけた。

 ルシフェリオンはその質問に、空間モニターを使って答えた。汚染、と表示されている。

 

『見つけました。この不正なプログラムを消去すれば完了です』

「具体的にはどうすればいいの? 私じゃ何もできない?」

『いえ、貴女でもできる方法はあります。このまま私を通してレイジングハートへ貴女の魔力を送り、そのまま外部へ押し出します。その状態で、私で魔力消費の高い魔法を発動させてください。具体的には、集束砲撃に巻き込んで、そのまま消滅させるのがよろしいでしょう』

「外部へ押し出して……集束……」

『用は単純なことです。悪い部分をすべて吐き出させるイメージを持てば、貴女ならできます。全力でお願いします』

「……うん。分かった!」

 

 二本の杖が重なった状態で、高町なのはは上空へと杖を構えた。

 ルシフェリオンを通して、レイジングハートへ魔力を送る。

 ルシフェリオンは単純なことと言ったが、やろうとしていることは、言うほど単純なものではない。

 現状、なのははすでに、魔力がごっぞりと無くなった時に陥る魔力欠乏症と戦っていた。

 そもれもそのはずで、マルチタスクの使用。レイジングハートへの魔力送信と外部出力。その上で、ルシフェリオンでの集束魔法の準備。特に、レイジングハートへの魔力送信と外部出力が、デバイスを通じて行うという今までにない魔力運用法を求められているため、思っているよりも遥かに多く魔力を使っている。魔力の受け渡しはしたことがあるが、それとはまったく別ものだった。

 体温が下がり、視界が狭まっていく。見つめていた上空が、周りから暗くなっていくのが、なのはにははっきり分かっていた。

 それでも、やらなければいけない。

 助けて欲しいって、頼まれたから。

 

「る、ルシフェリオン、まだ……!?」

『レイジングハートへの魔力充填が規定量に達したため、エクセリオンモードを稼働させます』

 

 その言葉と共に、今度はレイジングハートが桜色の翼を広げた。四対の翼から、同じ魔力光で出来た羽が辺りに飛び散る。ルシフェリオンでも四対の翼が出ていたが、レイジングハートの翼に呼応するように、ルシフェリオンの翼は大きくなった。合計八対十六枚の翼が、一斉に広がる。

 カートリッジシステムを導入してから、カートリッジなしでこの魔法を使うのは、初めてだった。これからは絶対にカートリッジを使おうと、なのはは心に決める。

 翼が広がりきると、大量のミッドチルダ式の魔法陣が、彼女を取り囲む。

 なのはの目線の先に“種”が生まれた。

 幸い、今この周辺には、彼女の魔力が溢れている。なのはが発動した魔法の数々に加え、『宝石の女王』もなのはの魔力を使っての攻撃を多数仕掛けてきていたのだから。もっと言えば、地球より大気中の魔力濃度も高い。

 なのはの視線の先、“種”と上空の間に、今回の事件で一番大きな魔法陣が一つ、そしてそれに重なるように一番小さな魔法陣がまた一つ、現れる。

 次いで“種”がわずかに膨らむと、それを中心に、円環魔法陣が四つ巻き付いた。

 円環魔法陣がそれぞれ独立した回転を始めると、魔力光の“種”は鼓動を打ち始める。

 星が、産声を上げた。

 数々の集束砲撃を撃ってきたなのはだったが、その様子がいつもの魔法ではないことに、今気が付いた。

 

「こ、これ……スターライトブレイカー、じゃ……ない?」

『申し訳ありません。スターライトブレイカーの魔力消費では除去できそうにありませんでしたので、アレンジを加えました。詠唱が必要になります』

「りょ、了、解……ッ!!」

『それでは、まいります。――Fixstern Breaker』

 

 周囲の魔力という魔力を、残滓さえも貪欲にかき集める。浮遊デバイスや『宝石の女王』に巻き込まれた被害者に施したバインドも餌食となったが、極光を前にして、全てが動きを止めていた。

 桜色の光の“種”はもはや、その色ではなくなり、次第に朱色、そして青白色へと変化していく。

 光球は既に直径は130mを超えた。

 集束砲撃で集まる魔力光には熱量エネルギーはないはずなのに、そこから肌が焼き付けるような熱が降り注いでいるのを、なのはは錯覚する。そういえば、シュテルは魔力変換資質の「炎熱」を持っていた。錯覚で主張しなくとも、あなたのマスターの存在を忘れることはないのにと、なのははルシフェリオンを強く握ることで伝えた。

 200mを超えたあたりで、ルシフェリオンから念話で詠唱が送られてくる。頭の中に浮かんだ詠唱を、目を瞑りながらなのはは唱え始めた。

 

「輝け、恒星――」

 

 高町なのはのスターライトブレイカーが星々の輝きを集めるようなものだとするならば。

 星光の殲滅者のルシフェリオンブレイカーが疑似的に太陽を作り上げるようなものだとしたら。

 今、高町なのはが頭上で創っているのは、星そのものの輝き。

 

「旅人照らす、浄化の光となれ――」

『耐衝撃シールド設定、射線補正設定、排熱処理設定、発動キーワード設定、完了。射線上障害物検索、クリア。これより、安全装置の作動に伴い、最低限の機能を残してスリープします』

「行くよ、ルシフェリオン……!」

『……』

 

 デバイスからの応答はないが、稼働はしている。杖を握るなのはには、ルシフェリオンの火照りが文字通り、手に取るように分かっていた。

 発動目前にして、恒星はさらに成長する。

 少女は両腕を押しつぶす圧力を、創り上げた恒星から感じた。同時に、重力があるかのように引っ張られる感覚にも襲われる。集束砲撃第一段階で展開していた時間差発動系拘束魔法が発動し、少女自身の両足と地面が硬く結び付けられた。

 

「フィクスシュテルン……ブレイカーッ!!」

 

 高町なのはは、叫ぶ。しかし、暴れる魔力から絶え間なく発生する金属同士の摩擦音のような音に掻き消され、一番近くにいた『宝石の女王』に巻き込まれた彼女でさえも、その声は聞こえなかった。

 二本となったデバイスを、構えながら一度下げ、再び振り上げる。

 杖先が真上を指した瞬間、なのはから一番離れた、最も小さな魔法陣が機能を停止させた。同時に、最も巨大な魔法陣の中心に穴が開く。

 暴れまわる魔力の塊が、そこを目指す暴流となった。

 星の泣き声が叫び声となり。

 この世界の崩壊を覚悟させるような一撃が、遥か彼方に撃ちだされた。

 一条の光、と表現するには、あまりにも眩しすぎる閃光の奔流。

 少女一人で制御するものではないそれを、ここにきて高町なのはは悪癖で乗り切ろうとしてしまう。

 全身の骨という骨、筋肉という筋肉、血管という血管、内臓という内臓。どれもが正常で無くなる気分になったとしても、絶対に倒れない。

 人であることすら疑い始めそうになったなのはは、それでも立ち続ける。

 長い長い集束砲撃が終了した後、なのはは朦朧とする意識の中で、レイジングハートから『宝石の女王』へ停止コマンドを送る。

 赤い透明な宝石で出来た短い剣――ちょうど半分のあたりで砕けて折れている――が、レイジングハートから吐き出されると、『宝石の女王』に巻き込まれた女性は地面へと倒れ込んだ。それを霞む視界の端に収めたなのはは、愛機レイジングハートをシャットダウンさせる。

 これで終わった。と安心した少女は、静かに意識を失った。レイジングハートとルシフェリオンが、彼女の隣に寄り添う。

 なのはの集束砲撃のあまりの威力に、仮想世界を作っていたジュエルシードはすべて封印され、『宝石の女王』が作った新しいジュエルシードは消滅。取り込まれた人々も次第に戻り始めた。

 現実へと戻った局員たちは事態が飲み込めず、指令室からの通信によってすべてを把握する。

 戦闘途中で戻されたフェイトは、倒れているなのはを発見し、勢いよく駆けつける。息がまだあることと、バルディッシュによる緊急メディカルチェックの結果で、慌てるようなものではないことに安堵の息を漏らした。

 なのはの横にある、機能停止中のレイジングハートを見て、フェイトも事件が終わったことを確信した。

 何はともあれ。

 まだ慌ただしくはあるが。

 ひとまずこれで、この事件は終息となった。

 

 

 

 

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