男には宿願があった。
何重にも策を巡らせて、どんな手を使ってでも叶えたい野望が。
しかし、悪が栄えたためしなし。
その覚悟を嗤うように、運命は転がりはじめるのであった。

※Fate/Grand Order『亜種特異点Ⅰ悪性隔絶魔境 新宿 新宿幻霊事件』に関する微妙なネタバレを含みます

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※Fate/Grand Order『亜種特異点Ⅰ悪性隔絶魔境 新宿 新宿幻霊事件』に関する微妙なネタバレを含みます

20170903各所修正


新宿のアーチャーに凶兆あり

(今度こそ、今度こそわたしは宿願を果たしてみせる)

 

 新宿特異点。

 この時代の新宿ならば本来都庁があるはずの場所、

そこにそびえる塔に、中年紳士といった風体の男がいた。

 後に、新宿のアーチャーと呼ばれる男である。

 字数削減のため、ここでは「アーチャー」と呼称しよう。

 

 さて、その、周囲に魔力が満ちていく。詠唱によって流れていく。

 英霊の座に名を連ねる悪の七騎、手駒を揃えるための英霊召喚を。

 既にアーチャー(ややこしいことこの上ないがこちらをエミヤオルタと呼称する)、

ライダー、アサシン、キャスター、バーサーカーは呼び出して、

残るはセイバーと、今取り掛かっているランサーのみ。

 

 今回の計画自体、元より分の悪い賭けではあるが、ここが難関一関目。

 喚びだした英霊の性質如何、そして七騎のうちどれだけが計画に乗ってくれるか。

 それによって勝率は大きく変わってくる。

 

 今の所は順調であるけれど、もちろん外れを引いた時のことも考えてはある。

 だが、だからといって気は抜けない。

 故に。

 魔力が渦巻き、収束し、人の形を成すこの瞬間、固唾を飲んで――

 

「鮮血魔嬢エリザベート・バートリーよ☆ 貴方が今回のプロディーサー?」

 

 ーーーーうん。

 

「チェンジで」

 

 シンキングタイムゼロ、反射的な即答であった。

 同時に自慢の棺桶型兵装による実力行使を敢行。

 だが相手はしぶとさに定評のあるエリザベート。

 加えて現状況ではクラス相性的な不利もあって倒すには至らない。

 生き残った彼女は抗議の声をあげた。

 

「なによこれ!呼び出しておいて殺しにかかるとかあんまりじゃない!?」

「いや、嫌な予感しかしないっていうか、私のような謀略系サーヴァントが 

 君を仲間にすると何処ぞの数学者の二の舞っていうか……ネッ☆」

 

 言って、アーチャーはお茶目に笑った。目は全然笑ってなかったが。

 

 どんな不確定要素であっても計画の内に出来る、そう自負しているけれど。

 彼女は不確定要素じゃない確定だ。

 確定で、最悪だ。

 内心冷や汗だらだらであった。

 

 銃口も依然エリザベートの心の臓を指したままで。

 これには彼女も大慌て。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!ほら、そこの黒いのも何か言いなさい!」

 

 黒いの、と呼ばれたのはこの状況を我関せずと静観していたエミヤオルタの事。

 彼は救援の声に気づき、十数秒の間じっくりと考えて頷き一つ、

 

「……何故かね?」

 

 と、首をかしげた。

 異論がないからである。

 これからの戦いを考えれば戦力は一人でも多いほうがいい。

 方針の是非も尋ねるまもなく英霊の座に還してしまうのは、

普通に考えれば愚の骨頂であろう。

 だがエミヤオルタはフォローの一つも行わない。

 異論が、ないからである。

 エリザベートバートリーに関する知識や記憶は彼にはないが、

魂が拒絶でもしたのだろう。

 

「ま、ま、お嬢ちゃんもこう言ってる事だし、さ」

 

 そんなエリザベートにとっては絶体絶命、アーチャーにとっては分水嶺の状況に、

にこやかに割り込んでみせたのはアジア系の挙士、新宿のアサシンである。

 こちらも後はアサシンと呼称する。

 

「一先ず計画について話してみてさ、話はそれからでも遅くないだろ?」

 

 とさりげない手つきですっと棺桶の銃口を下げさせるアサシン。達人芸である。

 その真意は伺ってみたところで如何とも知れない。

 義侠心が働いたようにもみえるし、この方が楽しいから、ともみえる。

 そもそも真意があるのかどうか。

 此奴また厄介な手駒だと、アーチャーはため息ひとつ。

 

「まぁ、そうだね……ランサー、私の話を聞く気は、あるかね?」

「え、ええ!モチの!ロン!」

 

 殺されては叶わぬと首をぶんぶん縦に振るエリザベート。

 いいだろう、と今度はアーチャー、眼も含めて柔和に微笑み、計画の話を講じ始めた。

 そう、アサシンの言う通りだ。

 話をしてみて(油断させて)からでも遅くはない。

 

 計画の詳細については割愛し。

 とりまかくかくしかじか、とアーチャーは手駒に明かせる範囲で開示して。

 

「と、いうことだ。分かったかね?」

 

 締めの確認に対してエリザベートは不敵に笑ってみせた。

 

「は?当然じゃない。あまり舐めていると殺すわよ」

 

 さっきまでガクブルしていた事はもう忘れたのか。

 だがその気まぐれを押し通す傲慢さ、逆鱗を撫でられたかのような威圧感は本物だ。

 龍を思わせる睥睨で周囲に緊張を走らせて、「つまりこういうことでしょう?」と彼女は聞いた話をまとめて。

 

「この新宿という街でアイドル戦国時代を勝ち抜きトップアイドルとして君臨すれば良い、っていう…」

「全っ然違ぇーーーよネ!」

 

 威圧感があろうが緊張感があろうがこの間違いは見逃せなかった。

 そんな話は全然していない。

 アイドルのアの字も出ていない。

 

「全く分かってないじゃないかネ!吃驚しすぎてちょっと面白いツッコミしてしまったヨ!?」

「え?そんなに面白くなかったわよ?」

「……マジレスは、やめたまえよ」

 

 それはともかく。

 

「どこをどうきいたらそういうことになるんだね……」

「え、だってそこにいるの歌手とジャーマネでしょ?そして私はアイドルじゃない?ならそう言うことかなって……」

 

 指さす先にいるのはバーサーカー、ファントム・オブ・ジ・オペラ。

 そしてその歌姫、ほぼ量産型と見た目違わぬ自動人形、クリスティーヌ。

 確かに、その性質は歌手とマネージャーと言えなくはない……か?いやいやそれは。

 

「彼らを見て初見でそう言い切るのは凄い感性だね!?」

 

 ぱっと見ただの怪人と人形だよ!?と。

 アイドルと認識されてちょっと嬉しそうな自動人形のことは見て見ぬふりするとして。

 そもそも彼ら二人を見ただけでその結論に至るのもおかしいというか。

 いや、そう言う問題でもなく。

 

「つまり、私の話を聞き流していたね……?」

「そ、そんなことないわよ?」

 

 大慌てで首を横に振って、そのままの動きで首をキョロキョロと。

 

「で、私のジャーマネは?そこの曲芸師みたいな男?」

「ほんと聞いてないね!?」

 

 溜息一つ。

 

「これから三行でまとめるから復唱したまえ、いいね?」

「ええ!楽勝よ!」

「私たちはこれから世界を滅ぼす」

「世界を滅ぼす…」

「しかしカルデアという所から邪魔が入る」

「邪魔が入る…」

「そこで君には彼らを撃退してもらいたい」

「そいつらを殺す…」

「分かったかネ?」

「ええ!つまりライブね!」

「God damn!」

 

 狂化EXでも入ってるんじゃないだろうネ!?

 話を聞かない、考えが読めない、意味がわからない。

 なんだこれなんだこれ……。

 

「ぐぅ、頭が痛くなってきた……」

 

 もうこれは何としても消滅させるしかない、と決意を新たにした。

 の、だが、しかし……。

 このエリザベートバートリー、隙だらけなのに致命的な隙だけはなかなか見せない。

 おそらくこちらの殺意、殺気を無意識下で感じ取っているのだろう。

 才能か経験か、怪物の類でありながら生き汚さだけは主人公級だ。

 

(やはり初手で仕留め損ねたのが痛手だったネ……)

 

 出会い頭、こちらの殺意を感じとられるより早くに加害できたあの一瞬が唯一の好機。

 今あの好機があれば完璧に消滅させられる。

 しかしこちらの殺意を悟られている限り、二度目はない。

 

 では、アサシンに頼るのはどうか。

 能力としては十分行えるだろうが、その不安定性故にここで任せるには心許ない。

 

 正攻法で、今持てる戦力を総動員して物量差で押しつぶしてはどうか。

 現実的ではあるし確実に成せるだろう。

 しかしあれらはこれからくるカルデアどもに備えたものだ。

 相手の力量がはっきりしない今から消費してしまうのは避けたい。

 

 ならば、ならば……

 

(私の宿願はこんなところで潰えてしまうのか)

 

 ふと頭に沸いた諦観を、おぞましいと魂が拒絶する。

 嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!

 なんとしても地球を滅ぼさねばならぬ!

 なんとしても計画を成さねばならぬ!

 宿願は果たされなければならない!

 そしてなにより――

 

 ――あぁ、そうだ。

 

「覚悟を決めたよ、ランサー」

「え?何の話?」

 

 キョトンとするエリザベートへ、そして自分への決意表明として言う。

 

「君風に言えばプロデュースする覚悟をだよ。

 確定的に最悪案件の君すら取り混んで、私は計画を成してみせる」

 

 今の自分では最悪を伴っては失敗すると言うになら、

 それでもなお成せる自分に進化してみせればいい。

 それぐらいが出来ねば奴に勝つことなど出来ぬのだ。

 

「なんだか凄い酷いことを言われた気がするけど……契約成立って事ね!」

 

 差し出した手をエリザベートが取り、互いに力強く握手を交わした。

 そうするアーチャーの心には既に殺意や警戒はない。正確にはそれどころではない。

 なにしろ万全にまで練り上げた計画を、彼女を取り込んだ今に合わせて組み直さねばならぬのだ。

 ほぼ全直しと言っても良い。

 さっきまでの自分を捨てて、全てを白紙に戻し、新たな計画を処理能力フル稼働で練り上げていく――

 

 

 結論として、エリザベート・バートリーはアーチャーに撃たれて消えた。

 

****

 

「いやー、俺も完全に騙されたぜ」

 

 消えゆくエリザベートを見送り、アサシンが。

 

「決意も言葉も、真に迫っていた。まさかあれを油断させるための嘘だったとはな」

「いいや。一度は本当に覚悟を決めたさ」

 

 その言葉に嘘はない。

 

「ただ、その後もう一度再計算して、やっぱないわと解を出し、そこに油断した彼女がいたので即座に撃っただけのことだヨ?」

 

 アーチャーは「ね?簡単でしょう?」と、事もなげに言った。

 

「さぁて、このままセイバーも召喚しようかネ!」

 

 エリザベート・バートリー、今となっては彼女に感謝だ。

 おかげで覚悟が新たになり、計画は更に磐石となった。

 今なら相手がどんなに強力であろうとも負ける気がしない。

 残る懸念事項は、カルデアから来る者たちと野良サーヴァント、そしてこれから呼ぶセイバーか。

 まぁどう転がろうとも、彼女を引き当てた事以上に悪いようにはならぬだろう。

 

****

 

「本邦初公開、セイバー、ネロオルタ!喝采をあげよ!かの暴君の再来である!」

 

 ……そう思っていた時期がありました。

 慢心した矢先にこれだよ。

 

「チェンジでぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 新宿の空に、再び拒絶の絶叫が響き渡るのであった。

 

****

 

 後に、カルデアのマスターに敗れて消えゆく中で、

新宿のアーチャーと名乗っていたものは思いを馳せる。

 あの時点で既に悪い予感はしていたのだよネ、と。




 悪の新宿のアーチャー側で呼び出されたサーヴァント、
本編に出てこなかったセイバーとランサーって誰だろうな、という妄想から生まれました。


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