僕のヒーローアカデミアβ   作:へあぴん

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1- 第一章 座標移動(しめきゆうま)はかくも自分勝手である Move_Point
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第一章 座標移動(しめきゆうま)はかくも自分勝手である Move_Point

 

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 長年執事として仕えてきた雄二にとっては、丈瑠の考えていることなんてお見通しだった。いつも手玉に取られているから、見返してやりたいと拗ねてしまっているのだ。本当にカワイイご主人様だと、にやりと笑う。メイド姿で涙目になりながらも上にまたがって一生懸命に主導権を握ろうとする丈瑠の首をぐいっと引き寄せ、耳にキスを落として雄二は甘く囁く。――ヘタクソ、俺様がもっといい声で鳴かせてやる。

「あら結間、おはよ――って、ちょっとお! 人の本を勝手に見ないでっていつも言って――あああああ、それはホントに誰にもみせられないヤツだから! ていうかなんで持っているの!? バック、バックあさった!? どうして? いやっまって、み、みちゃらめえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ」

 三月十三日、木曜日。

 片づけられないOLのアパートのごとく私物が散乱する私立谷便(やびん)第一中学校の理科準備室にて、部屋に入るや否や、羞恥心に我を忘れた金髪女の絶叫が木霊(こだま)した。

 どうも床に転がったショルダーバックからはみ出していたブツは、持ち主にとって隠しておきたい代物だったようだ。先ほどなんとなしに拾い上げて適当に開いたページをパラパラと眺めていた標結間(しめきゆうま)は、手にしていた文庫本をそっと閉じた。

 

 ご主人様は偉ぶれないっ!!! 第五巻。

 

 黒い燕尾服を着た二十代くらいの男性キャラクターが、メイド服に身を包んだ中性的な十代くらいの少年キャラクターと限界まで顔を接近させている妙に艶めいた表紙。そして、ピンク色の帯には、『お待たせ読者諸君と俺様執事! ついにご主人様がメイド服に!』という奇妙奇天烈なキャッチコピーがでかでかと抜き文字でアピールされていた。

 これがいわゆる、男同士の同性愛を描いたジャパニーズボーイズラブというやつかーと、カルチャーショックで標は思わず微妙な顔つきになった。

 つい半年前まで海外と日本を行ったり来たりする生活環境にあって、各国のごちゃまぜ文化の中で育てられてきたこともあり、あらゆる事柄にも瞬時に順応できるだけの能力はあると高をくくっていたのだが、どうもこの煽り文については意味不明すぎて謎が深まるばかりだった。

 というか、そもそも同性愛という概念自体、理解はできても受け入れられなさそうだった。なにせ標結間という少年は、まだ年齢の割に腰が軽い。初対面の女子であろうが処構わず「初めまして。ところで俺と付き合ってくれないか?」と声をかけては鎧袖一触され、速攻鞍替えするもまた振られるをこれまで幾度となく繰り返している。決して軟派なわけではなく、至って本気なのだが、好感度ゼロ・フラグゼロの状態では誰のルートにも入れないのにも拘わらず、それが分からないまま、俺が声をかければ自然彼女なんてすぐにできるさ! と大戦中の日本兵のごとく次々吶喊しては玉砕しているのである。つまるところ異性に対しててんで見境がない。女の子大好き。ノンケもノンケ。BLとは縁遠い性格をしていたのだった。

「ふむ。だが、こういう性別を超えた恋愛ってのは、人間ホンモノの愛があればどんなに高い壁があっても乗り越えられるっていうある意味人生教訓的な深さがあるのかもな。うん、ちょっと勉強になった」

「やめて、冷静にレビューしないで! BL本をそんな掘り下げた読み方されると私が恥ずかしさで死んじゃうから!」

 うぎゃあ! と頭を掻きむしりながら、女性は白衣を盛大に翻して、標の元へと一気に駆け寄った。タイトなスーツにハイヒールという歩きにくさトップクラスの服装にもかかわらず、夏場キッチンによくあらわれる黒いアイツもかくやという俊敏さであった。ただコーディネートのせいで、むしろコスプレ風俗か、キャバクラにでもいそうなかがわしさを感じる見た目である。

 そして手から本をひったくるように奪うと、ひどく落ち込んだ様子で首をガックリ下した。それに伴い、肩にかかっていた人工着色ではない天然モノのブロンドが、重力に従って金糸のごとくサラサラと零れ落ちる。そして、「あーもうまったく。ホント最低。なんで何度も何度も言っているのに、こう人の私物をいじくり回すかなあ」俯いたまま、ぼそりと悪態をついた。

「そりゃあ、捏覗(つくし)をからかうのが楽しいからだな」

 対して、あっけからんと最高の笑顔でサムズアップしておく。

「ホント、あり得ないくらい、マジで、サイテーよ。デリカシーなさ過ぎてあきれ果てたわ。あと、二人きりとはいえ学校にいる間は海馬(かいば)先生って呼びなさい」

 だらりと顔を隠すように垂れ下がっていた金髪が、がばっと持ち上げられた首によってぱっくり割れ、中からキッと睨みつける栗色の瞳が現れた。まるでフランス人形のような日本人らしからぬ容貌を顰めさせて、BL本を持っていない方の手で指をビシッと突きつけると、海馬捏覗は自らが学校教員であることを生徒の標にしっかり主張するのだった。

 ただ、シチュエーションがシチュエーションだけに全く格好がついておらず、とても残念な有り様だったが。

 一方そんな海馬の様子に標は悦に浸りながら、「あはは、そうカリカリするな。いつものことだろ。コーヒーでも淹れようか?」と壁際のハンガーに吊るしておいた制服のブレザーを手に取り、そのまま袖に腕を通した。

 そして、個人的に海馬が運び込んだアンティークの棚の前に移動し、手慣れた手つきでマグカップを二つ取り出すと、これまた個人的に海馬が持ち込んだコーヒーメーカーに片方をセットして、タッチパネルからアメリカンのボタンを選択する。直後、マシンの上部にあらかじめ入れられていた珈琲豆がゴリゴリと削れる音がし始める。

 こんな風に海馬を苛めて遊ぶのは、実のところ日常茶飯事である。なので、もはや注意を受けても柳に風。標はまったく気に留めていなかった。

 さて、校内での名前呼び捨てという事案の指摘をうやむやにせねばなるまい。

「それはともかくとして」と前置いて「せっかく記憶を操作する便利な個性を持ってるんだ。そんなに嫌ならどうとでも改竄すればいい話なんじゃないか?」標はさっそく話題の転換を図ることにした。

 個性。

 というのは、今から約百年前、中国で光る赤子が誕生したことが始まりとされている、人類が獲得した異能の総称である。

 発見当初は、かぐや姫伝説の再来、遺伝子操作研究所の陰謀、中国政府が他国の注目を集めるために行ったプロパガンダなど、様々な憶測が飛び交い世間をにぎわせたものの、その後世界各地で同じような特異事例が次々に取り沙汰され、慌ただしくも人類は新たな進化の形を受け入れざる負えなくなった。

 そして月日が流れ現在、世界総人口七十億人のうち、およそ八割がなんらかの特殊能力に目覚めている。

 まるまる一世紀分の時が経過する間に世代交代が繰り返され、異能は個性に、異変は普遍になったのだ。

 しかし、その全員がマンガの主人公の様に人を辞めているわけではない。念じるとちょっと物を手前に引き寄せられるといった、遠くにあるテレビのリモコンを座ったまま取るのに便利な程度の、ささやかで目立たないものが殆どである。

 ただ一方で、ごく少数ではあるものの、あらゆる自然現象を超越した神秘を引き起こせる、神懸かった力が存在することもまた事実。ピンからキリまで、千差万別あらゆる個性が世に蔓延っている。

 かくいう海馬も大多数の例にもれず個性を有している一人だ。《記憶操作(マインドハンド)》――ある一定の条件下で、かつ使用上の制限はあるものの、他者の記憶に干渉できるという能力である。

「たまに結間って、全然私の話聞かなくなるわよね……そりゃあ、あっさり消させてくれるならこっちだって苦労しないわよ」

 やれやれ、とため息を漏らして、海馬は床に放られっぱなしだったブランド物の白いショルダーバックを手に取ると、標から先ほど取り上げたBL本を中にそっとしまった。そして、窓際のデスクの上にそれを置いて、本人は不貞腐れたようにドカッとオフィスチェアに腰を下ろした。

 その一部始終をこっそり横目に観察しながら、ゴポゴポという抽出音が消えたのを確認する。ふんわり立ち上る香ばしい香りが部屋いっぱいに広がった。出来上がった海馬のコーヒーを一旦脇に置いて、自分のカップをもう一度マシンにセットする。今度はカフェオレを選ぶ。牛乳がないとコーヒーは飲めないのだ。

「でもあなた、自分から私に診せる時以外は、これっぽっちも隙を見せないじゃない。本気で逃げたら私じゃ絶対捕まえられないのを分かっていて煽るんだから、ホント質が悪いわ」

「そうかな。つくし相手には割と隙だらけだと思うけど」

 メーカーの隣に置かれたガラス瓶から、角砂糖を一つピンセットで掴んで、アメリカンに落とす。そこへ丁度入れ終わったカフェオレに、今度は三つ入れた。甘い方が美味しいのだ。決して苦いのが不得意なわけではない。甘党なだけだ。

 ティースプーンでそれぞれのカップをかき混ぜながら、標は海馬の指摘をやり過ごす。

「何言ってんだか。ていうか、便利さでいったらあなたの個性の方がよっぽどいいでしょ。私のなんて使いどころ難しいから、日常生活ではほとんど役に立たないし」

 確かに海馬の言う通り、記憶操作の個性はその特性から、使用できる機会はそうそうめったにないのかもしれない。そもそも他者の頭の中を覗いて記憶を捏造するという行為自体、倫理的に絶対アウトである。悪用すれば、相手の人格を容易に捻じ曲げることにもつながりかねないからだ。

 だからこそ、まともな倫理観を持つ海馬には、使えば強力であると理解はしていても、簡単にホイホイ使うことはできないのだろう。

 そういう意味では、標の個性の方が遥かに汎用性は高いと思ってしまうのも無理はないのだろう。

 しかしながら、プライベートの時間を削ってでも、海馬は標の“記憶のお世話”をしてくれているという事情もある。記憶操作の個性がいかに有用なのかということと、そのありがたみについて身をもって知っているだけに、単純にどちらが便利かという比較は出来ないと考えていた。

「隣の芝はなんとやらってやつさ。あと、俺もなるべく普段は使わないようにしているんだ。あんまりそういうのに頼りすぎると、心身ともに脆弱になるって継子が言っていたからな。そう意味じゃ、生活の上ではつくしとそんな変わらないさ」

 デスクの上にコーヒーを運ぼうとしたが、整理されていない書類が山の様に積み重なっているのを見て、しかたなく「火傷しないように気をつけろよ」と椅子に腰かけた海馬に直接手渡しする。「ありがと」と短くお礼が返ってきた。標も腰を落ち着けようと、つい十分くらい前までベッド代わりに使わせてもらっていたソファに座る。マグカップにそれぞれ口をつけ、ホッと一拍分の間を空けて、それから海馬が口を開いた。

「それはまぁ、一理あるわね。人間みんな個性はバラバラ。遺伝はするみたいだけど、多種多様であまりに雑多だから、社会環境はいまだに無個性の人間を基準(スタンダード)にしているし。あと、あんまり個性ばっかりに目を向けすぎると、人間性を尊重できなくなるとか。他にもいろいろと問題の種は尽きないし。だからこそ個性に頼りすぎず、もっと本質的な人間磨きをホントはすべきなのかもね」

 海馬の指摘通り、超人社会のこれまでを振り返ってみると、様々な問題だらけの歴史であった。そしてその多くはいまだにすっきり解決しないまま根強く残り、さらに、時間の経過とともに次々と新たに増えて山積みになっている現状がある。

 例えば、

 一つに、超常黎明期における、個性の濫用がもたらした急激かつ世界的な治安の悪化であったり。

 一つに、約三十年前にピークを迎えた、個性保有者に対する差別であったり。

 一つに、人口比率が逆転したことで起こった、無個性者と有個性者の対立であったり。

 一つに、対立に伴った、無個性者に対する個性保有者による差別であったり。

 一つに、選民的な優生思想に基づく、個性婚の問題であったり。

 枚挙に暇がない、とはまさにこのこと。個性の数と同じだけ人間同士のいざこざがあると考えるのが、おそらく最も手っ取り早い理解の仕方なのだろう。そして、そのように有象無象のムシケラのごとく増え続ける問題に、各国の行政機関は半ばお手上げ状態となっていて、なかなか法整備や対応政策を講じられないまま、手をこまねいてしまっているのだ。

 また、個性と言葉の上では一括りにされてはいるが、その実態はある程度の系統分別は出来ても、あまりに多種多様に過ぎて、それぞれ全てに適応できる社会環境整備については、遅々として進んでいないという課題だってある。

 そのためほとんどの先進国が、いかんとも見つからないユニーバーサルなソーシャルデザインの模索を早々に諦め、フォーマル(公共)サービスに関しては、無個性者というスタンダードな人間としての基準点(ベースライン)ギリギリにまで下げたもので対応し、個性があることでの生きにくさについてはインフォーマル(民間)サービスに頼ってもらうという、場当たり的な制度展開にさっさと切り替えていったのだ。

「つまり人間の変化が混沌としすぎていて、環境の方をどう変えればいいのかが、うまく整理できていないんだろうな……まるで“この部屋みたい”に」

 と、これまでの長い考察を、標はいとも端的に、かつ七文字で例えた。

「何上手いこと言った気になってるのよ」

 と流し目でツッコんだ海馬に、

「事実を述べたまでだな」

 とバッサリ切り返す。

「さっきから言おうと思っていたんだが、そろそろ掃除した方がいいぞ。この部屋自体もともとは学校の物だろ。私室でもないのにこんな散らかしてるのはどうなんだ」

 現在海馬が占有し、すっかり私物化してしまっている理科準備室の惨状を見渡して、標はマグカップを傾けながらほとほと呆れ返った。

 まず至る所に聳え立っている、ホチキス留めされた書類の塔。なかには一番上の頁にうっすら埃が積もっているものもある。きっと運び込んだはいいが、読むことも触れることもなく、いつのまにか忘れ去ってしまったのだろう。

 そして、ダイエット健康器具や化粧品などの生活雑貨と、インスタント食品の段ボール、あとそれらから派生したゴミをくるんだビニール袋の山、やま、ヤマ。

 記憶が正しければ、一か月前にここに足を踏み入れた際にも同じように海馬に注意し、一緒に片づけて完全にピッカピカになるまで綺麗にしてやったはずだ。

 それがなぜ。週に一回しか来ない勤務体制なのに、なぜ、こんな短期間でここまでの腐海を発生させられるのか。標には理解できないし、したくもない。

 あまりにもひどすぎるので、ジト目で刺すように海馬を見つめていると、

「それは……ほら、ヒーロー科進学コースの講師引き受けたとき、ここの学園長が好きに使ってくれって言っていたんだから良いのよ」

 と反省もせず、性懲りもなくそんな馬鹿げたことを宣ったので、無言で更に威圧しておく。

「……」

「あーもうわかったわよ。片づければいいんでしょ片づければ」

 標の絶対零度のごとき視線についに音を上げて、「ああやるわよ。やってやるわよおおお」と海馬はまずデスクの上の書類タワーから切り崩すべく、突撃の姿勢を見せた。がその寸前に、肩に手を添えた標によってあえなく動きを止められる。

「今から手を付けるには時間が遅い。今度どこかの休みを使って二人でやろう。たぶん、あんた一人じゃ絶対に無理だしな」

「ぅう……ごめんなさい」

 そう断言すると、さすがに取り繕うよりも申し訳なさの方が勝ったのか、素直に反省してしょんぼり頭を下げる海馬捏覗であった。一方そんな様子を見て、喜怒哀楽の変化はせわしないし、多少ズボラな一面はあるものの、なんというか、その辺も含めて魅力的で可愛げのある女性ではあるよなーと、妙に上から目線で標結間は人物評価を行っていた。

 さて、空気を換えて元気を出してもらうべく、「謝らなくていい。ちゃんと掃除しとけば問題ないだろ」とフォローをしつつ、からかいの意味を込めて、「ああ、あとついでに一言助言させてもらうなら、そもそもこんなものを職場に持ち込むのもどうかと思うけどな」と先ほど取り上げられた本を、“虚空から手に出現させた”標は、また適当にページを開いて流し読み始めながら言う。

「まあ、つくしの最新の趣味について知れたのはかなり愉快なことではあるが……ただ、どうも男同士の恋愛にドハマりするっていうのは、やっぱりいまいち共感できないな……うわっ、すっげえな」

 途中、俺様系執事の雄二が、可愛い系男の娘の丈瑠ご主人様と組んず解れつしている挿絵にぶち当たり、やっぱり分かり合えない世界観だ、と閉じて眉にしわを寄せていると、

「ち、ちがうのよ」とどもりながらも否定の声が飛んできた。それを発した海馬の顔には、だばだば汗が垂れていた。

「ほら、前に睡(ねむり)と一緒に飲んだ時に彼女が面白いわよって貸してくれてね。たまたまバックに入れっぱなしになっていただけで、別にハマっているわけじゃあ……」

 睡、というのは海馬の同級生だったはずだ。確か先週末に高校時代の同窓会があると言って出かけていたから、おそらくあの日に受け渡しがあったのだろう。というか五巻まで読み進めている時点でその弁明はかなり苦しいと思うのだがこの金髪女は分かっているのだろうか。

 そんなことを考えながら、ふっと顔を横に向けると、ぎょっと瞳を見開いた海馬と目が合った。

「ってあれ、なんでまたその本持っているの!? さっきしまったはずなのにっ」

 ショルダーバッグに手を突っ込み、ガサガサ漁っているが、あるわけがない。そこから“取り返した”のだから当然だ。

 本をヒラヒラ振って表紙を見せびらかしつつ、「バックはいじってない」と、標はケロッとした表情で肩をすくめた。

「あなたの個性じゃなんの言い訳にもならないわよ!」

 片腕を振り上げてキレる海馬。

 おお、大変ごもっとも、と標は皮肉った笑いを浮かべる。もちろん言い訳するつもりはない。もともと茶化して遊ぶためにけしかけたのだし。

「ていうか、さっきの普段から個性は使わないようにしている発言はなんだったの!?」

「もちろんあんたを苛めるときは別の話だよ」とここ一番の笑顔を向けるも、

「屁理屈よ」一言で切って捨てられた。

「つくしだってさっき俺の頭を覗くために個性を使っていたから、おあいこってことで」

「それはあなたも同意の上のことだったでしょ。大人をからかうのも、いい加減にしなさいよね! 返しなさいよもぉお!」

 うがーっと、怒り心頭で襲いかかる海馬の猛攻をひょいひょいと余裕綽々に避けて弄ぶ。

 こうして、現在の保護者であるところの女性をいつも通り弄り倒しながら、標結間はかくも自己中心的で自分勝手に物語の幕を開ける。

 

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