ポケットモンスター &Z   作:雨在新人

14 / 122
vsアメモース

果たして、蜘蛛の巣のような糸を渡りたどり着いた、沢山の照明で明るい大きなテントに居たのは、一人のタンクトップにズボンという動きやすそうな服の女性であった

 

 「うん、良い表情!」

 テントの奥には、何枚かのパネル。其処に映されているのは、糸を越えてきたアズマの姿

 「……飛んでいた、ポケモン達が」

 「そう、撮って貰った訳ね!

 初めてのジム戦だっていうのにしっかりとした表情、そして奇抜な発想力!いいんじゃない、いいんじゃないの!」

 ああ、成程。少し、ハクダンジムが人気ジムな理由が分かった気がした

 こうして迎えてもらえるのは、何処か嬉しい。アズマはマスコミは正直言って嫌いだが、それでもそこまで悪い気はしない

 「負けて悔しがるのも、勝った瞬間も、被写体としてサイコー!

 いいんじゃない、いいんじゃないの!」

 「はい。お願いします」

 「バトルは2vs2のシングルバトル、道具の使用はタイム時以外持ち物のみ、タイム及びポケモン交換は一回だけ、オーケー?」

 投げ込むような道具の使用は無し。少し辛いが……問題はない。仕込みは朝終えてきた

 「はい」

 その声に、女性は頷く

 「さあて、このビオラ

 シャッターチャンスを狙うように、勝利を狙って行くんだから!」

 

 「お願い、アメモース!」

 「行くぞ、サザ!」

 アズマが先発に選んだのはモノズ。一方、女性……ハクダンジムリーダー、ビオラが先発に選んだのは巨大な眼にも思える模様の羽根を持った虫ポケモン、アメモースだ。赤い何かを頭部に巻いている

 

 「あっ」

 ビオラが、一瞬何かに気がついたような声をあげる

 だが、気にしない

 「臆するな、サザ。『りゅうのいぶき』!」

 その眼のような羽根に威嚇されアメモースと対峙したポケモンは尻込みし、どうしても物理的な攻撃において本来の力を出しきれないという

 元々臆病で、火を吐いたりといった技の方が好みのようなモノズにはあまり関係はないが、それでもそう声をかける

 

 今回の戦い、主力とするのはりゅうのいぶき。

 アズマ自身は、好みの問題としてあくのはどうを撃たせたい気はある

 だが、それは出来ない。アメモース、つまり虫タイプ相手にそもそもの相性が良くないというのもあるが、何よりあくのはどうは今回のだめ押しの為の切り札だからだ

 

 モノズの口に、ドラゴンのエネルギーが集まっていく。それに対し、ビオラは

 「アメモース!『ハイドロポンプ』!」

 と、指示した

 

 一瞬、アズマは固まる

 ハイドロポンプ。収束させた激流を放つ、言わずと知れた最強クラスの水タイプ技……!よく修行したアメタマの中には、遂にその技をマスターするものも居る。そのアメタマが進化したならば、アメモースだって使ってくることはおかしくなんかない

 だが、それでも……こんな所で遭遇するなんて……

 「サザ!地面だ!」

 アズマの声に、咄嗟にモノズが溜まったエネルギーを敵ではなく自身の左斜め下に向けて放つ。四肢で抑えられない方向へのエネルギーは、当然ながらモノズの体をアズマから見て右上に向けて跳ねあげる

 そのモノズを掠めるように、激流が通りすぎていった

 

 「っ、冗談……」

 激流は地面に当たって水溜まりを残して既に消えている

 けれども、体感温度が少し下がった気すらする

 

 ……チャージ時間が殆んど無い。あれだけの激流だというのに、モノズのりゅうのいぶきよりも速いほどだ

 あれをなんとかしない限り、勝利はない。恐らくあくのはどうを減衰されはしないだろうが、多分その上で真っ正面から押し負ける

 せめてどうにかしてチャージ時間を延ばさせないと、撃つ技撃つ技ハイドロポンプで押し返されて終わりだ

 つまり、やはりというか……掻い潜ってりゅうのいぶきを叩き込み、ドラゴンのエネルギーで体を痺れさせろという話になる。難易度こそ想像より上だが、やることは想定と何も変わらない

 大丈夫だ。この日の為に、共にとある技のトレーニングは積んできた。切り札もある。勝てない戦いではないはずだ

 「サザ」

 『モノッ!』

 そんな思いに答えるかのように、モノズが鳴いた

 

 「その判断、いいんじゃないの!なら、『エアカッター』!」

 アメモースの羽根の羽ばたきから空気の刃が産まれ、飛んでくる

 「サザ、左!」

 だが、見えにくいという難点こそあれ、ハイドロポンプ程の脅威ではない。落ち着いて対処出来る

 モノズがぴょんと左方向へと跳び、空気の刃を回避する

 ……止まらない。一度避けても、生成された新たな空気の刃が再度モノズを襲う

 「怖いよな。けど、おれを信じろ、サザ。臆せず向かえ!」

 指示に従い、モノズがアメモースとの距離を詰めるように走り出す

 「『だいちのちから』!」

 アズマの声に従い、モノズが地面にエネルギーを送り込む。地面のエネルギーが、板の床から吹き出す

 ……アメモースに効く訳ではない。空を飛んでいるし、そもそもあれは飛行タイプのポケモン。地面のエネルギーは無効化してしまう性質がある。当然ながら、同じく飛行タイプのエネルギーを帯びたエアカッターも、大地の力を貫通するので阻めるわけではない

 だが、それで良い。大地のエネルギーを切り裂く方向で、しっかりと軌道は見極められる。そのために撃たせたのだから

 

 『モノ!』

 指示すらなく、自分で判断し、モノズが駆ける。近付きながらでは本来は相手の攻撃の軌道は判断しにくいだろうが、今は非常に分かりやすい。だから何とかなる

 「うんうん、やるね!」

 「遅い!。ほの……」

 モノズの口辺りからチラチラ火の粉が漏れる。本当は持ってきた技マシンの中から『かえんほうしゃ』辺りをスパトレ技マシンメニューで……と思っていたが、モノズには上手く撃てなかった。だが、炎のエネルギーはある程度集められていた。ならば、撃てるはずの技。その予備動作……に見えるもの

 距離は既にモノズが飛び掛かれば届く距離。流石に今からでは遅い……ように見える

 「『むしのさざめき』!」

 果たして、ビオラの指示は羽根を震わせる、周囲攻撃の技であった

 

 取った

 「飛んで『りゅうのいぶき』!」

 炎の牙はブラフ。真の狙いは、ハイドロポンプではない、アメモースが此方の技の的になってくれる近接迎撃用の技を撃たせること

 アメモースの羽根から出る音波の範囲ギリギリから、モノズがドラゴンのエネルギーを放つ。それは羽根を震わせ動けないアメモースに、真っ正面から激突した

 

 「アメモース!」

 ビオラが叫ぶが、アメモースは健在。少しだけ羽根の羽ばたきを鈍らせてはいるが、まだまだ元気だ

 そんな事はアズマも知っている。2vs2、つまりこれは前座だろうとはいえ、ジムリーダーのポケモン。昔、執事のポケモンを借りても尚完膚なきまでに叩きのめされた不思議なルカリオ程でなくとも、圧倒的な強さを見せつけてくるはずだ。寧ろこれだけで倒せたら拍子抜けも良いところ、手抜きすら疑う

 だが

 アメモースの羽根に、紫の電流が走る。ドラゴンのエネルギーによる動きの阻害、麻痺だ

 本当の狙いは此方。エネルギーが上手く残留するかは完全な運ではあるが、そうでもしなければ勝てはしない

 「そう来るなんて、やるね!」

 「勝ち筋は、これくらいしかない」

 ビオラの賞賛は半分聞き流し、アズマは畳み掛ける方法を探る

 動きが鈍れば、ハイドロポンプのチャージも延びる。迎撃を防ぐことが出来るだろう。そう考え、心を落ち着かせる為にアズマが一息付きかけたその時……

 

 背筋に、寒気が走った

 「解き放て、『あくのはどう』!」

 咄嗟に出す指示は、やはりというか最も信頼する技

 モノズの首元が輝き、莫大な黒いエネルギーが集まっていく

 これが、だめ押しの切り札、モノズの毛でくるんで持たせたあくのジュエルだ。アズマの父がイッシュ地方での学会やイッシュ地方での研究に行く度に土産として持ってきた、あの地方で産出されるタイプのエネルギーが固形化した特異な石。同種のエネルギーに反応して溶け、その技の威力を一度だけ跳ね上げるという性質を持つ、正に切り札とでも呼ぶべき火力を出せる道具だ

 「アメモース、『ちょうのまい』よ!」

 アメモースが、くるくると不思議な回転を行う。その最中に、黒いエネルギーが直撃した

 

 だが、アメモースは倒れない。回転により周囲に撒かれた輝く鱗粉が、その威力を弱めていた

 得意気に、アメモースが羽根を大きく震わせる。鱗粉の影響か、電流も消えていた

 『ちょうのまい』。一部の虫ポケモンのみが使うという、輝く鱗粉を纏い一時的に大きくその力を上げる技。当然ながら鱗粉を大量に撒く為負担は大きいが、輝く鱗粉は自身のエネルギー操作を補助し、相手が放つエネルギーを吸収し、とこれほど有用な技もそうは無い程には強力だ

 初手に使ってくるのが定石らしいから、警戒を怠っていた。ジムリーダー、そして虫使い。虫のエキスパートがトレーナーを試すというならば、使ってこない訳もない技だというのに

 

 この状態から、エアカッターを撃たれても、ハイドロポンプで押されても、まず勝ち目は無い。もう、相手がミスをしてくれなければどうしようも無い

 そもそも近づけ無いから、『ほのおのきば』ワンチャンは不可能、確実にその前に鱗粉で速度の上がったエアカッターの餌食になる

 『あくのはどう』、『りゅうのいぶき』で攻めようにも、素でハイドロポンプで押し返されるから麻痺を狙ったのだ、状況が悪化している現状どうにもならない

 つまり、この状況に至ったのは、アズマの慢心。勝てるんじゃないかとバカを考えた責任

 「……サザ」

 それでも、十分に戦ってくれたモノズに声をかける

 『ズー!』

 少し怯えの混じる鳴き声。当然だ、臆病な方なのだから。良く戦ってくれた

 

 そんな時間はすぐに終わり、バトルの終わりが来る

 「アメモース、『むしのさざめき』よ!」

 その言葉は、その指示は

 ……初めて起こった相手のミス、だった

 「サザ、もう一度だけ頼む」

 鳴き声はない。ただ、モノズは前を見る

 相手からの接近、それが唯一の勝機だった。恐らく、ジュエルという切り札を切って勝てなかった今の状態での最大火力は『ほのおのきば』。近付けず、当てられないから勝てないと言ったのだ

 だが、相手から来てくれるならば、当てられない道理はない。痛み分けになるかもしれない。だが、まだ勝ち目は見える

 「『ほのおのきば』!」

 鱗粉を纏い、アメモースが迫る

 そして……

 狙い通り、炎を纏った牙と、震わせられた羽根が激突した




サザ(モノズ) Lv26♂☆

おや アズマ
とくせい はりきり
もちもの 緑色のなにか/あくのジュエル

わざ あくのはどう/だいちのちから/ほのおのきば/りゅうのいぶき

ガンバロメーター HP4 特攻252 素早さ252

アメモース Lv30♀

おや ビオラ
とくせい いかく
もちもの きあいのハチマキ

わざ ハイドロポンプ/エアカッター/むしのさざめき/ちょうのまい

ガンバロメーター HP4 特攻252 素早さ252

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。