東方幽棲抄 ~ 今日も今日とて、ツンデ霊夢に殴られる   作:風鈴.

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第12話 早苗と再会 その1

 最後に彼女と顔を見合わせたのは、いつ頃だっただろうか。

 

 確か、初詣の時だったように思える。この再会は、実に約半年ぶりだろう。

 

 人の印象は、どうやら――半年でも充分に変わるようだ。

 

「……早苗?」

 

 名前に疑問符を付けて、問い掛けた。

 

 早苗は、花が開いたような眩しい笑みを浮かべる。

 

「はい。お久しぶりですね、颯君、優君」

 

 眼前の早苗は、半年前と比べて、ずいぶんと変わったように感じられる。

 

 何故だろう。そう思い、早苗の姿を注視して――理由が分かった。

 

 女性としては月並みなイメージチェンジの方法だけれど、早苗の髪形は、半年前と変わっていた。以前は、長い髪の毛を後頭部で1つに纏めたポニーテールであった。

 

 俺達が通っていた中学校では、髪の毛の長い女子生徒は、ゴム紐で纏める規則があった。その時の癖なのか、高校入学後も、早苗は長い髪の毛をゴム紐で纏めていた。今年の初詣の時も、確か髪の毛を背中でまとめて、巫女服を着ていた筈だ。

 

 それが、今は純粋なロングストレートになっていた。以前よりも、女性らしさが増したように感じられる。豊かな髪の毛が顔や首回りを包むように伸びているので、その包まれている部位がほっそり見え、ある種の儚さのような魅力も漂っている。

 

 それにしても、髪形1つで――しかも単に髪を解いただけで、これほど印象が変わるものなのだろうか。

 

 優が手を上げ、早苗に話しかける。

 

「ああ、早苗か。久しぶりだね。神社にいたのか。今日はあの青い巫女服みたいのは着てないんだね」

 

「ええ、今日は風祝(かぜはふり)として神社にいるわけではないので」

 

「あ、そうなの? それは眼福にあずかれなくて残念だなぁ……。うんまあ、今日は早苗の私服姿で我慢しようかな。これはこれで眼福だ。ありがたやありがたや」

 

 優は神仏に祈るように手をすり合わせた。

 

「そう言われると、なんだか照れくさいですね。相変わらず、優君は口が達者ですね」

 

 早苗が朗らかに笑って応えている。

 

 優の言う通り、早苗の私服姿は、眼福と呼ぶに値するのではないかと思えた。

 

 上は桃色のリボンブラウス、下は淡い色合いのデニムクロップドパンツ。

 

 飾り気の感じられない組み合わせであるが、だからこそ素朴で清らかな印象を与えてくる。いかにも涼しげで動きやすそうな衣服なので、見た目に爽やかだ。腕や足が露わとなっているので、実に活力と若さに溢れた健康的な魅力も満ちている。

 

「偶然だね。まさか、早苗に会えるとは……ああ、そうか。今日の社務所の当番を早苗が務めているのか」

 

「あ、よく分かりましたね。優君、名推理です」

 

「まあ、このホームズにかかれば、この程度の問題は、お茶の子さいさいですよ。ねえ、ワトソン君」

 

 俺がワトソン役なのか、優が相槌を求めるように話を振ってくる。

 

「あ、ああ……そうだな。当番でも巫女服は着ないのか?」

 

「うーん……。正式な神事がある時は着ますけれど、社務所の当番くらいなら、私服で大丈夫ですね。私服の方が動きやすいし、涼しいですから。観光名所みたいな有名神社でもないので、あまり形式に煩くありませんから」

 

 なるほどね。

 

 早苗の言う通り、普段日の社務所当番ぐらいなら、私服でも構わないか。

 

「それにしても、まさか今日に会えるとは思わなかったよ。気まぐれで優と一緒に来た甲斐があったな」

 

「私も、まさかここで颯君と優君に会えるとは思っていませんでした。神社に入ってくる二人の姿が見えた時は、驚きましたよ」

 

「ああ、オレと颯が来たのに気付いていたのか。……いつ気付いたのかな?」

 

「すぐに気付きましたよ。鳥居の前で一礼してから参道を歩き始めるなんて、参拝の仕方が分かっている人なんだなと思ったら……。なんと、颯君と優君だったわけです!」

 

 早苗はそう言うと、胸の前で横手をパンッ打ち合わせた。

 

「ふうん……」

 

 優は唸ると、思いを巡らせるように顎に手を添えた。

 

「すると……早苗はオレと颯が鳥居を入った時点で気付いていて、たぶん、社務所から出てきて、こっそりオレと颯の姿を観察していたってわけか。で、拝殿の陰に隠れていたと。おやおや? 早苗って、他人の行動を陰で観察するのが趣味なのかな?」

 

 優が意地の悪い笑みを浮かべる。

 

 これは面倒なことになるな、と俺は直感した。

 

 早苗は真面目な反応をする性格なので、優から弄られやすいのだ。

 

「え、ええとですね……」

 

 早苗は狼狽気味に目線を横にずらした。指先を組み、躊躇いがちに答える。

 

「何と言いますか、意外だったと言うか、何をしているんだろうと気になったと言いますか……。優君は不定期に訪れているのですが、今回は珍しいことに颯君も来たので、なんで一緒に来たのかなって。その……なんとなく気になりまして」

 

「まあ、颯がここに来るなんて珍しいと思うよ。本人も、ずっと来ていないようだったし。……で、どうして陰からこっそりこっそり覗いていたのかな? 気になったのなら、普通に声を掛けて来ればいいじゃないか」

 

「いえ、だから、それはあれですよ」

 

 早苗はお茶を濁しつつ、なおも狼狽気味に答えようとする。

 

 ……妙だな。

 

 いくら何度も優から弄られていたとはいえ、この話題で狼狽を続ける早苗の姿は、不自然に感じられた。

 

 ふと、早苗が俺の顔に視線を移す。視線が合うと、まるで小動物が助けを求めるかのような表情を浮かべた。

 

 いや、そんな目で見られても困るのだけれど。

 

 ……まあ、助け舟を出すのも吝かではない。

 

「その辺にしといてやれよ、優。早苗が困っているじゃないか。別に、わざわざ追及するようなことじゃないだろう?」

 

 俺がそう言うと、早苗は安堵に似た表情を浮かべた。

 

 しかし、優は首を横に振り、なおさら笑みを深める。

 

「んーん。これはね、深く掘り下げた方が面白い話題なんだよ、颯。オレはね、早苗と似たようなことをした女子を何人か知っているんだ」

 

「早苗と……似たようなこと?」

 

「そう、早苗と同じ行動。連れ立って歩く男2人を陰から覗いて、ドキドキワクワクしちゃうこと。ね、早苗?」

 

「え、えっと……。私、優君の言っている意味、ちょっと分かんないです」

 

 早苗はそう言いつつも、居たたまれないように挙動不審だ。

 

「……なんかよく分からないけど、止めといてやれ。あんまり意地悪してやんな。早苗が可哀想だからさ」

 

「そ、そうです! 颯君の言う通り、優君は意地悪ですよ」

 

 俺の注意に便乗して、早苗が声高に非難の声をあげた。

 

 早苗が強気に他人を諫めるなんて珍しい。普段なら、相手を諭すように注意するものなのだけれど。

 

「む、颯は早苗の肩を持つのか。多勢に無勢ときたか。これはピンチだね」

 

 優はおどけてみせる。しかし、こりた様子は見られない。

 

「まあまあ。颯、後学のために、よく考えてみようじゃないか。オレ達と早苗は、顔見知りの親しい仲。陰からこっそり、こちらの様子を窺うなんて、不自然そのもの。隠れ見るってことは、何かやましいこと、後ろめたいことがあるってもんさ。もしくは……何か起こることを期待していたか」

 

「まあ、言わんとしていることは間違っちゃいないが……」

 

 早苗の行動は、不自然で不審だ。

 

 親しい間柄だから気にならないが、赤の他人が同じ行動をしていたら、ちょっと身の危険を感じなくもない。

 

 早苗へ怪訝の視線を向けると、彼女は及び腰になった。ばつが悪い表情を浮かべている。

 

「いや、それは実はですね! その……あの……」

 

 早苗は弁解しようと声を上げたが、続く言葉は、しどろもどろ。尻すぼみ後、黙ってしまった。

 

 3人の間に、何やら微妙な空気が漂う。

 

 沈黙がもたらす、気まずくもどかしい空気。

 

 それを初めに破った者は――

 

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