東方幽棲抄 ~ 今日も今日とて、ツンデ霊夢に殴られる   作:風鈴.

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第13話 早苗と再会 その2

 

「どうやら、早苗がまともな理由で物陰に隠れていたわけではない……それが分かったところで。ねえ、早苗。オレが思うに――」

 

 優は飄然とした動作で早苗に歩み寄る。身構える早苗のそばに立つと、早苗の耳元で何かを囁いた。

 

 ……早苗に何を耳打ちしているのだろうか。

 

 そう思った矢先、早苗の表情に変化が現れる。優が何かを囁けば囁くほど、早苗の目を大きく見開かれた。わずかながら、頬に紅潮が見られる。

 

「な、何を言っているんですかぁ!?」

 

 ついには耐えられなくなったらしく、早苗は狼狽しながら頓狂な声を上げた。

 

「ん? オレの推測、間違ってた?」

 

「…………!」

 

 優がニヤつきながら尋ねた。

 

 早苗は何か反論したいのか、口をパクパクと開閉させる。まるで、人慣れした鯉が餌を求めるかのようだ。

 

 そして、優の推測を暗に肯定するかのように、早苗は俯いて押し黙った。

 

 思考停止状態。

 

「お、おい、早苗。優に何を……言われたんだ?」

 

 恐る恐る尋ねると、早苗は緩慢な動きで顔を上げた。俺の目を見ることも恥ずかしいのか、より頬を紅潮させる。視線は頼りなさげに左右へ揺れ、再び俯いてしまった。

 

 え、何その反応。

 

 マジで、何を耳打ちされたんすか。

 

 颯さん、超……気になるんですが!

 

「なあ、優。お前、早苗に何を言ったんだ?」

 

「だ、駄目です! 絶対に!」

 

 優に質問した――刹那、早苗が素早い反応で声を張り上げた。

 

「駄目です! 颯君は聞いちゃいけません! 優君は絶対に教えないで下さい!」

 

「え、あ……え?」

 

 戸惑う俺に、早苗が畳みかけてくる。

 

「とにかく、駄目なものは駄目です! 教えられません! もし優君に聞いたら、颯君のこと、嫌いになりますからね! 優君もですよ!」

 

 普段は目に出来ない――いや、今後一生も目に出来ないかもしれない、早苗の大声だ。

 

「あ、ああ……分かったよ。聞かない。優に聞いたりしないから、とりあえず落ち着け」

 

「本当ですね!? 絶対ですよ! 聞いたら絶交ですよ! 嘘じゃないですからね!」

 

 早苗は、なおも食って掛かってくる。

 

 絶交されるような内容なのか。どれだけ酷い内容を耳打ちされたのか。

 

 それとも……恥ずかしい内容か?

 

「分かった、約束する。絶対に聞きやしない。なあ、優。もし俺がうっかり聞きそうになったら、お前の方からも注意してくれ」

 

「ん? ああ、オッケー。もし颯が約束を破りそうになったら、注意するよ」

 

 優は吹き出しそうになるのを必死に堪えていた。尊敬したくなるほど、暢気な奴だ。

 

「本当ですね! 言質、取りましたからね!」

 

「ああ、もう何だって構わないよ。言質だろうが人質だろうが、好きなように取ってくれ。ひとまず、お前は落ち着け」

 

「……わ、分かりました。颯君の言葉、信じますからね」

 

 早苗は胸に片手を添え、何度か深呼吸した。

 

 呼吸が整ったのか、早苗は毅然とした態度で、片手を胸の高に差し出す。

 

 細くて長い女性らしい手――親指から薬指まで握られており、小指だけがピンと立っている。

 

 その動作の意味が理解できなくて、俺は呆けてしまった。

 

 早苗の行動は、子供がよくやる儀式の1つ――指切りそのものだ。

 

 ……いや、まさか。そんな訳がないだろう。いくら早苗が世間ずれしているとは言え、高校2年生にもなって、指切りなんてやらないだろう。もっと想像力を働かせて考えるんだ。どうして、早苗は小指だけを立てて、こちらに手を差し出しているんだ? 指切りなんて一切関係無い、もっと深遠な意味が含まれているのではないか? 

 

 考えろ、頭を働かせろ!

 

 早苗の立場になって、きちんと感情移入もして!

 

 早苗が取っている行動の真意を探るんだ――

 

「指切り、です」

 

 早苗は至極真剣な目付きで、指切りを提案してきた。

 

 ……。

 

 指切り、ですか。

 

 うん、まあ……。正直なことを申し上げると、この子は、本当に指切りをしようとしていたと思ってましたよ? だって、早苗だもん。これでも、早苗とはそれなり付き合いの長い方だし、早苗の性格や個性などは、それなりに熟知しているつもりだ。

 

 でもさ……。いくら何でも、その歳で指切りはないだろうって。なんか色々と痛々しすぎるだろうって。

 

 もうこうなったら、現実さんに対して白旗を振っちゃおうか。素直に全面降伏しちゃおうか。

 

「あっはっはっは!」

 

 不意に境内に笑い声が響いた。

 

 笑い声の発生源は、もちろん優だ。今にも悶死しそうに笑い転げていた。

 

 早苗の指切り提案が引き金となって、今まで耐えていた笑いが爆発したようだ。

 

「なっ! 何がおかしいんですか、優君!」

 

「くくっ……、いや、だって早苗、それ、指切……あっはっはっは!」

 

「指切……指切りの何が悪いって言うんです!? 指切りは、きちんとした約束の証なんですよ! 約束をしようとしているのだから、指切りしても、何もおかしくないです!」

 

「そうだね、指切りは……約束の証としてはポピュラーだよ。一般知識、一般常識。く、くぅ……ごめん、もう無理。何かの閾値に達しそう。颯、オレ、少しだけ向こう行っているから。あとは、お願い」

 

 優は息絶え絶えに言うと「いやあ、早苗は交友範囲が広くて素晴らしいよ。良友だちを持っているね」と言い残し、笑い声を忍ばせて鳥居の方へ行ってしまった。

 

 交友範囲? 良い友だち?

 

 発言の真意は分からないが……まあ、あとで尋ねれば良いだろう。

 

「指切りは、全くおかしくないです! それなのに、優君……。もう、訳分かんないです!」

 

 早苗は怫然として声に怒気を込めた。

 

 少しして、急に俺の存在を思い出したらしく、こちらを鋭い目付きで睨み上げてくる。

 

「は、颯君もそう思いますよね!? ……あっ、それとも、颯君も優君と一緒ですか? 指切りがおかしいって思うんですか!?」

 

 当たり前だ。

 

 ……と言いたいところだけれど、早苗の感情を逆撫でしたくないので、お茶を濁すことにする。

 

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