東方幽棲抄 ~ 今日も今日とて、ツンデ霊夢に殴られる   作:風鈴.

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第16話 再来と戯言

 

『こんばんは、調子はどう? ……あらあら、今日は随分と御機嫌のようですわ。世界が愉楽と安らぎに満ちているわ。ふふふ……温泉旅行を楽しみにしているようね。とても居心地が良いわ』

 

 ――ああ、あんたか。なんだ、また来たのか。

 

『あら? もしかすると……珍しいこともあるものですね。不思議なものですわ。無意識領域の会話は、無意識が故に、本来憶えていないものなのですけれど。あなたの中で何か変わったのでしょうか。それとも、私が誤って無意識以外領域に足を踏み入れてしまったのでしょうか。……ねえ、どちらだと思います? あなたの変化か、私の過失。はてさて、今回の珍しい事態を招いたのは、どちらが誘因なのでしょう」』

 

 ――俺が知っていると思うのか?

 

『知っていないでしょうね。ええ、答えは察しておりましたわ。予想通りです。……さて、この事態を引き起こした誘因が何か。その真実を知りたくなくて?』

 

 ――さあ、どうだろうな。知りたいと言えば、知りたいのかもな。まあ、どちらでも構わないけれど。

 

『そうですか。何ともつまらない限りです。もう少し興味を示して下さらないと、こちらとしては、解答を勿体ぶる甲斐がありませんわ。……そうだ、1つ提案を致しましょう。もう少し、私と言葉の掛け合いを楽しもうと努めてみませんか? 私、あなたとなら、とても楽しい歓談が出来そうな気がするのですけれど』

 

 ――それは是非ともお断りしたいところだな。俺としては、お喋り好きな奴は、あの馬鹿1人で十分だからな。

 

『あの馬鹿――あなたの友人ですか。ええ、彼はとても賑やかな少年ですからね。あなたがお喋り好きを望まない気持ちも理解に難くありませんね。しかし、それでは、私の方がつまりません。せっかく、あなたの世界にやって来たというのに……。骨折り損のくたびれ儲けではありませんか。少なくとも、足代に見合うだけの楽しみを貰えませんこと?』

 

 ――会話に付き合わなければいけない義務も義理もないからな、御免こうむるね。……まあ、そんなことを言ったところで無駄なんだろうけどな。あんた、帰れって言っても帰るつもりはないんだろう?

 

『あら、分かりました? ふむ……。どうやら前回の時の会話も少しばかり憶えているようですね。それ以前のことも憶えているのでしょうか。他に、何か思い出せるような事はありますか?』

 

 ――いや、特には何も。会話内容なんか綺麗さっぱり思い出せないな。ただ、あんたが随分とお喋り好きで、そして面倒な性格をしていたという印象くらいだな。

 

『あら、お言葉ですわね。確かに、自分が面倒な性格をしていることは認めますけれど、面と向かって指摘するようなものではありませんよ。……ああ、辛い。辛すぎますわ。あなたの言葉が剣の如く私の心を切り刻んで、今にも哀咽を漏らしてしまいそう』

 

 ――嘘つけ、そんな繊細な性格はしていないだろうに。

 

『あら、失礼ですこと。これでも繊細な感性は持っているのですよ』

 

 ――感性かよ。

 

『良い指摘ですわね。こう言う受け答えをしてこそ、会話は楽しめるというものです。今のあなたとなら、今までの会話よりも格段に楽しめそうです。期待しても宜しいかしら?』

 

 ――出来れば、期待しないで欲しいのだけど。……で、今日は何を話に来たんだよ。今までは何か……どっかの場所についての説明されていたような気がするんだけどな。またその話か?

 

『いえいえ、今日はそのつもりはありません。仮にあったとしても、今回は、あなたと世間話に花を咲かせようではありませんか。無意識領域の刷り込みは、いつでも出来ますわ。その機会はこれから先――最低でも1年有半の歳月の間に、いくらでもありますからね』

 

 ――ふうん……。今まで疑問には感じて疑問には思えなかったけれど、どうしてそんなことを気長に続けているんだ?

 

『ふふ……教えて差し上げましょうか?』

 

 ――どうせ教えてくれないんだろう?

 

『私の性格がよく分かって来ているではないですか。他者からの理解というものは嬉しいものです。どうです? これからは恋人のように、互いに相手の理解を深めようと努めるというのは。他者との深い繋がりは、あなたに幸福をもたらすと思うのですけれど』

 

 ――是が非でもお断りしたいな。あんたみたいな胡散臭い奴と精神的に結ばれてもな。厄介なだけじゃないか。

 

『あらら、厄介者扱いですか。これは酷い。裏切られた気分です。この責任、どう取ってくれますか?』

 

 ――知るか。俺は甲斐性無しなんでな、責任という概念が大嫌いなんだ。

 

『褒められた発言ではありませんね。それに感心も出来ませんわ。まあ、自らを貶めてまで発言を跳ね除ける努力には感心しますけれど』

 

 ――まあ、それはいい。で、今日はどんな世間話とやらを?

 

『あら、乗り気ですの?』

 

 ――どうせ満足するまで帰るつもりはないんだろう? それくらい付き合ってやるよ。今は……誰かと話したい気分であるしな。

 

『それは嬉しい限りですわ。出来れば、上機嫌の日が多いと良いのですけれど、これは我が儘かしら』

 

 ――まるで俺が普段は不機嫌みたいな言われようだな。

 

『言葉の綾ですわ。どうか寛大な心で許して下さいませんこと?』

 

 ――許す許さないに関係なく、あんたは全く気にしないだろうに。よく言うぜ。

 

『ええ、言葉の遣り取りを楽しんでいるだけですから』

 

 ――ああ、そうかい。……で、世間話ってなんだよ。そちらからやって来たのだから、話の種くらいは用意しているんだろう?

 

『ふふ、用意していますとも。さて、何から話し始めたものか……話の種が多いというのも困りものですわね』

 

 ――どんだけ用意して来てんだよ……。女性のお喋り好きには感服するよ。

 

『男が自身の武勇伝を語るようなものです。もしくは、女を侍らせるようなものでしょうか』

 

 ――そこはかとなく馬鹿にされているような気がするが。

 

『いえ、別に揶揄しようだなんて気はありません。性の差異、性の摂理の話です。女にとって、お喋りとは一種の悦楽なのです。古来からの習性、生きる知恵ですわ』

 

 ――何か話が大きくなってきたな。あんまり難しい内容の会話は好きじゃないぜ。

 

『私としても、小難しい話は好きではありません。会話とは、冗談を掛け合うものだと思っていますから。女はお喋り好き。それがそうだからそうなのだ。そう思っていれば結構ですわ。……そう言えば、女は甘いもの好きでもありましたわ。甘露――甘い露が好きとは、まるで花に舞う優雅な蝶のようではありませんか』

 

 ――風流で繊細な感性の持ち主だことで。

 

『お褒めに与り光栄です』

 

 ――そう言えば、女性は恋愛話が大好きなようだけれど、あれは何故だ?

 

『理屈は、とても簡単です。恋愛とは甘く切ないもの。そして女は甘いものを好みます。故に、女は恋愛に対して、非常に恋い焦がれるのです』

 

 ――素晴らしい三段論法だことで。結構毛だらけ猫灰だらけ。

 

『賛辞として受け取りましょう。……さて、私があなたの恋愛事情を根掘り葉掘り尋ねても、仕方がないと諒恕して下さいますよね。なに、気にする必要はありません。ただ、甘い蜜の周りを蝶が舞っているだけなのですから』

 

 ――諒恕しねえよ。破綻している論理を使って、詭弁を弄するな。

 

『冷たい殿方だこと。女は、自分の我が儘を許してくれる男を好むのですよ? あなたに惚れさせてくれませんこと?』

 

 ――あんた、あいつに負けず劣らず減らず口なんだな。

 

『ええ、私の口は3つありますから。一般の者よりも減らず口であるのは、詮方無いことです』

 

 ――は? 口が……3つ?

 

『ええ、3つです』

 

 ――冗談だろう?

 

『事実です』

 

 ――え、それは……本当なのか?

 

『嘘をついていませんよ。なんなら、神に――いえ、妖魔に誓おうではありませんか。ほら、こう言うではありませんか――目は口ほどに物を言うと。本来の口に両眼で……ほら、実質の口は3つではありませんか』

 

 ――……。

 

『……ああ、私としたことが失念していましたわ。心の目を入れれば、口は実質4つでしたわね。訂正しますわ。私の口は4つです』

 

 ――この、戯言使いめ。

 

『弄言は私の得意とするところです。さて……そろそろ言葉遊びは止めましょう。このままでは、いつになっても本題に触れられませんから』

 

 ――基本、全部あんたの所為だよな、それ。

 

『良いではありませんか。無口な者よりも多弁の者の方が親しまれやすいのですから。お蔭で、歓談しやすい雰囲気になったでしょう?』

 

 ――お蔭様で、本題に入る前に気力がガリガリ削がれたよ。

 

『女性と付き合う時は、色々と出費が重なるものです。男たるもの、忍耐ですわ』

 

 ――随分と都合の良い考え方だことで。

 

『さて、話題を変えましょうか。色々と話の種はあるのですけれど……。初めは何にしましょうか。悩みますわ』

 

 ――お手柔らかに頼むぜ。

 

『ええ、承知致しました。では――あなたの色恋沙汰についての話はどうでしょう?』

 

 ――何やら鬱陶しい蛾が舞っているな。

 

『あら、つまり蛾眉と言いたいのですね? 照れてしまいます。ふふ、口達者ですね』

 

 ――誰も美人なんて褒めてねえよ。

 

『冗談ですわ。冗談はお嫌いかしら? ……そうだ、温泉の話を致しましょうか。そうです、そうしましょう。温泉に対する知識を身に付けるのは、都合が良い筈ですから』

 

 ――まあ……こちらとしてはありがたいところだな。でも、俺は温泉に詳しくはないぞ? 温泉に行った回数だって、恐らく両手の指で事足りるだろうし。

 

『一向に構いませんわ。情報交換ではないのですから。言わば、これは私の思い出話なのです。あなたは耳を傾けて下さるだけで十分。適度に相槌なり質問なりして下されば十二分』

 

 ――あんたがそれで良いって言うなら。

 

『さてさて、どの温泉の思い出話を始めようかしら。……ああ、あまりにも数が多すぎて、話し始めに困ってしまいます。山奥の名湯から、果ては海岸沿いの秘湯まで。珍しいところでは地獄の湯壺もありますか。選り取り見取りで悩みますわ』

 

 ――長い話だと辟易するから、程ほどにしてくれよ。

 

『手短になるよう心がけましょう。しかし、あなたが就寝した時刻は宵の口。夜はまだ長い。ゆっくりと楽しもうではありませんか。夢路を辿らせた意味がありませんわ』

 

 ――何を言っているのかよく分からないが……。

 

『特に気にする必要はありません。そうですね……今は無き灼熱地獄を利用していた珍湯から紹介しましょうか。少し説明は長くなりますが……あら、これでは前言に抵触してしまいますね。先の発言は忘れましょう』

 

 

 

 あの地底の烏の鳥頭を見習って、1歩……2歩……3歩。

 

 ……あら?

 

 私は一体全体、ここで何をしていたのかしら―――なんて具合にね。

 

 都合が良すぎるかしら?

 

 ふふふ……。

 

 

 

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