東方幽棲抄 ~ 今日も今日とて、ツンデ霊夢に殴られる   作:風鈴.

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第18話 駅前広場で集合 その2

 

「え、ええ!? ちょ、ちょっと! 一体全体、何を言っているんですか!?」

 

 早苗は酷く困惑した表情を浮かべて、俺と優の顔を交互に見た。

 

 しかし、俺と優は、さらなる滑稽な空談に埋没する。

 

 早苗の困惑は無いものとして、暗黙の了解を結んだ。

 

「そ、そうか……! だから、早苗はオレに恋愛相談を持ちかけて来たのか! 男性であるオレの立場から教えてもらう体裁を装い、実はオレの主観的意見――すなわちオレ自身の好みと落とし方を聞き出そうとしていたのか!」

 

「すさまじい智略……。さすがは捕虫系女子だな。意中の男性に、男性の落とし方を教えてもらう。こんな恋愛攻略法があったとは、盲点だったぜ……! やべえよ、捕虫系女子! 計略の底が知れねえ!」

 

「くそっ、オレは早苗の術中に陥った昆虫系男子。俎上の鯉ならぬ、網上の虫ってことなのか……!」

 

「まだだ、まだ諦めるな! 何か策がある! 計略の網から逃れるための策が!」

 

「……駄目だ、そんな逃げ道があるはずがない。相手は女郎蜘蛛という捕虫者。狙われた昆虫は……糧になる運命なんだよ……」

 

「馬鹿、諦めんな! 最後の1パーセントでも可能性が有る限り、死に物狂いで足掻くんだ!」

 

「だ、駄目だ……。もう身体に毒が回って……満足に動けやしない……」

 

「なっ!? まさか……毒蜘蛛だったのか!?」

 

 優は息絶え絶えに言うと、手足を痙攣させながら、石造りの長椅子にぐったりと横になった。

 

 そこまでしなくても良いのではないかと思ったが、この際行き着くところまで行ってしまっても良いように思えた。完全に悪乗りである。

 

 どうせふざけるのなら、とことんふざけて楽しもうではないか。

 

 俺が困るわけではないし。

 

「ちょ、ちょっとやり過ぎですよ、優君! そんなところで寝たら、服が汚れちゃいますよ!」

 

 早苗が困惑しつつも優の体を揺する。

 

「ぁぁ……ぁ……ぅぁ……」

 

 優は今にも死にそうな喘ぎ声を出して、なおも苦しむ演技を続ける。

 

 ボケに対して真剣に反応すると、相手が調子に乗って事態が悪化する。早苗は、その真理を分かっていないようだ。

 

 それにしても優、いつにも増してノリノリなボケである。温泉旅行を前にして、テンションが上がっているせいかもしれない。

 

「颯……もう、駄目だ……意識が……薄れ……」

 

 優が気息奄々と手を伸ばしてくる。

 

「おい、待て、死ぬんじゃない! 死ぬな、優! 死んじゃ駄目だ!」

 

「ああ……いざ自分が死ぬと分かると……清々しい気分になるんだね……」

 

「馬鹿、そんな事を言うなよ。そんな悲しい事を言うなよ……!」

 

「最後に……最後に……」

 

 優は消え入りそうな声を上げる。

 

 早苗弄りもクライマックスらしく、優は頼りなく震える手を天に伸ばし、何かを掴もうと指先を蠢かす。

 

「ねえ、優君! ふざけるのは、それくらいにして下さい! 周りの人が! 通行人がジロジロこちらを見ていて恥ずかしいですから!」

 

 早苗が本当に泣きそうな声で(もちろん、優の演技を見て感動したわけではない)周囲の状況を訴えた。

 

 見ると、広場の周辺を歩いている通行人の方々が、こちらに奇異の視線を向けていた。

 

「あ、そう? それなら止めた方が良いね」

 

 今にも昇天しそうな様子は、どこへやら。

 

 優はむくりと長椅子から起き上がり、大きく伸びをする。

 

「うーん、石の長椅子って冷たいね。座るのなら良いけれど、横になるようなものではないね。……ふむ、健常一般人方々の冷眼視が凄いね」

 

 優が周囲を見渡すと、実に冷静な感想を述べた。

 

「――ちょっとなんてもんじゃありませんよ! そう言う事は時と場所を選んでやって下さい! 本当に困るし恥ずかしい思いをするじゃないですか!」

 

「あー……ごめんごめん。颯が冗談に乗ってきたからね。颯の顔を立てるために、仕方なかったのさ」

 

 優は早苗に謝りつつ、さらっと俺に責任転嫁もした。

 

 この辺りのクズっぷりと言うか、能弁さは見習いたくなる。

 

 ……よし!

 

「すまんな、早苗。真面目に反応してくれる早苗の姿が可愛くて、ついな」

 

「颯君……冗談でも責任転換は最低ですよ」

 

「あ、はい、すみません。仰る通りです」

 

 早苗さんから怒られてしまった。

 

「まったく、もう……」

 

 早苗は数秒黙り込むと、大きな溜息をついた。

 

「もういいです。優君は、昔から悪ふざけが過ぎる人ですから。でも、今回みたいなことは、もう止めて下さいよ。私、本当に恥ずかしかったんですから……。1番悪いのは優君ですけれど、颯君も颯君です。次は本気で怒りますからね」

 

 早苗は怒気を込めずに言い終えると、プイッとあらぬ方向に身体を向けてしまった。私は不機嫌になりました、と暗に示したいようだ。

 

 俺が優に視線を向けた。

 

 優はこちらを見返し、両手を半ば上げてみせる。降参の仕草だろう。

 

 なんだかんだ、今回の悪乗りで楽しませてもらった。

 

 早苗に何か奢ることで、手打ちということにしよう。

 

 温泉街なら、美味しい食べ物など、いくらでもあるだろうから。

 

 

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