東方幽棲抄 ~ 今日も今日とて、ツンデ霊夢に殴られる   作:風鈴.

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第21話 駅構内で雑談 その3

 

 2番線の駅のホームは、まばらに人がいた。

 

 平日であれば、この時間帯は市外県外からの通学生で猥雑な状態となる。しかし、今は夏季長期休校なので、学生の姿は見当たらないようだ。

 

 優と早苗は、ホームに上がる階段を昇っている最中だ。

 

 どうやら、まだ何かを言い争っているようだ。

 

「だから、あれは最初から早苗の勘違いでしょう? オレは何も悪くないよ。言うなれば、早苗の早とちりであり、自爆のようなものでしょ」

 

「いいえ、違います。優君が悪いんです。責任は全面的に優君にあります。そもそも、優君が変な言い回しを使わなければ、私が勘違いして恥を掻くことは無かったんです。絶対に私が勘違いするよう意図して、あんな言い回しを使ったんですよね? 優君の性格なら間違いないです」

 

「間違いないって? まったく……実に心外だよ。一体全体、早苗がオレの何を知っているって言うんだい? オレのスリーサイズを知っているとでも?」

 

「いえ、スリーサイズは分かりませんが……って、話を逸らそうとしないで下さい。自分の足元が暗くなったら話を逸らす。優君の悪い癖です」

 

「ちなみに、オレのスリーサイズは、上から――」

 

「言っているそばから話を逸らそうとしないで下さいよ!」

 

 未だに口論を続ける優と早苗の様子に、思わずため息が出た。

 

「あ、ハヤえもん! ハヤえもーん! 助けてよ! 早苗が僕のことを苛めてくるんだ。ねえ、お願いだよー。二次元ポケットから秘密道具を出してよー」

 

「誰がハヤえもんだ。つーか、足に縋り付くんじゃねえ暑苦しい。――止めろ、ズボンのポケットを漁るんじゃねえ! それは二次元ポケットでもねえし、秘密道具なんて入ってねえよ!」

 

 つーか、二次元ポケットってなんだよ。

 

 ただのアップリケじゃねえか。

 

 俺は足元にいる優を振り払った。

 

「たくっ……。ほら、もうすぐ電車が来るぞ。ふざけてないで、さっさと立ち上がれ」

 

「お手を拝借」

 

「自力で立ち上がれ」

 

 もうこいつの相手をするのは面倒だ。適当に放置しておこう。

 

 優なりに旅行前でテンションが上がっているのか、いつもの数倍うざい。

 

「はぁ……。颯君、なんだか私、もう疲れてきちゃいましたよ……」

 

 早苗がくたびれながら嘆息を漏らした。

 

 普段から優のテンションに慣れていない早苗は、かなり疲労したことだろう。

 

「優のことは放っておけよ。相手にするだけ疲れるぞ」

 

「ええ、まあ……はい……」

 

 早苗が曖昧に頷きつつ、優に手を貸そうとしていた。

 

 放っておいても自分で立つと思うのだけれど、まあ、そこは早苗の優しさといったところか。

 

 電光掲示板と携帯電話の時刻を照らし合わせる。

 

 ……どうやら、あと2分弱で電車がホームに到着するようだ。

 

「颯君、いつも苦労しているんですね……」

 

 早苗が何やら同情の声を掛けてくる。

 

「苦労? ……ああ、優のことか」

 

「ええ、優君です。優君と話していて疲れません? 私、さっきからずっと翻弄されっぱなしで疲れちゃいましたよ……」

 

「あいつはただ、言葉の遣り取りを楽しんでいるだけだよ。面倒なら、適当にあしらえば良いさ」

 

 どこかの誰かみたいにな。

 

 ……あれ、どこの誰だっけ?

 

「それは分かっているんですが……。気が付いたら振り回されていると言いますか、後手後手になって対処仕切れなくなっちゃうんですよ」

 

「それに関しては……どうしようもないな。口の上手さは、あいつの方が一枚も二枚も上手だ。まあ、慣れるしかないだろ」

 

「やっぱり慣れなんですかね……。颯君みたいになるのは、まだまだ先の事みたいですね」

 

「俺みたいなる必要なんてないと思うんだけどねぇ……」

 

 実生活に役立つようなスキルが身に付くわけじゃないし。

 

「……今日、そこまでホームに人がいませんね。これなら座席に座れそうですね」

 

 早苗が辺りを眺めながら言った。

 

「そうだな。まあ、夏休みだし、学生はいないからな」

 

「そうみたいですよね。見渡す限り……」

 

 ふと、早苗の視線が一点――後方に向けられたまま固定された。

 

 何を見ているのだろう。

 

 俺も後方を見ると、早苗の視線はオレンジ色の待合い席の1つ――そこに座って寝ている中年男性に向けられていた。

 

 男性のワイシャツは、ところどころシワが寄っていた。数時間前に飲酒していたのか、頬が赤く染まっている。明け方まで飲んだ帰りなのだろう。

 

「……あ、でも、向こうの方に、私達と同じくらいの年の人もいますね」

 

 早苗の言う通り、十数メートル離れたところに、同年代の男女が4人いた。雰囲気からして学生――大学生だろう。俺達と同じように、夏休みを利用して一緒に遠出するのかもしれない。

 

「あの人達も、私達と同じように、お出掛けですかね?」

 

「だろうな。大学のサークル活動に行く大学生かもな」

 

「大学生ですか。……大学生って憧れません?」

 

「……そうか?」

 

「颯君や優君は大学生に憧れたりしないんですか?」

 

「いや、特には何も……」

 

 高校よりも学則が緩くて自由度が高かったり、サークル活動が楽しそうだな……と思うけれど。

 

「そうですか……。優君はどう思います? 大学生」

 

「オレ? 大学生か……気楽に学生生活を楽しめて良さそうだなーとは思うけどね」

 

 優の言う通り、大学生は遊ぶかアルバイトしているという印象が強い。

 

 まさに、社会人になる前のモラトリアムだろう。

 

「んー……そんな感じなんですかね」

 

 早苗が視線を落とし、何やら不満気に呟いた。

 

「……で、早苗はどうなんだよ。早苗は大学生の何に憧れているんだ?」

 

 俺が早苗に尋ねると、彼女は目を輝かせながら答えてきた。

 

「え、私ですか? そうですね……。ほら、大学生って服装がお洒落だと思いません? 高校なんかは制服の着用が義務付けられていますけど、大学は基本的に私服登校じゃないですか。色んなお洋服を組み合わせられるから、学生生活をお洒落を楽しめて素敵だと思いません?」

 

 ああ、そうか。早苗が着眼していたのは、私服登校が認められていて好きにお洒落が出来ることか。

 

 俺や優なんかは、あまり衣服に気を遣わないからな。外見よりも機能性重視。私服は、その気楽な着心地に魅力を感じる。

 

「それにサークル活動って、なんだか楽しそうじゃないですか。私の女の子友達――ああ、大学生がいる子なんですけど、飲み会や二次会のカラオケなんかに行ったりするそうですよ。とても楽しそうだと思いません?」

 

「飲み会か。……あれ、確か早苗はお酒を飲めないんじゃなかったっけ? 早苗は下戸だって、優が言っていたような気がするんだけど」

 

「あれ、知ってたんですか? 確かに私はあんまりお酒は得意ではありませんが……。でも、ほんの一杯くらいなら大丈夫です。それに、飲み会の席に出席して雰囲気を味わうだけでも楽しめそうですし」

 

「まあ、そうだな。サークル仲間と喋るだけでも楽しいだろうし、下戸でも問題は――」

 

 俺は言葉を言い止した。

 

 2番線の電車の到着を構内放送が報せたからだ。

 

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