東方幽棲抄 ~ 今日も今日とて、ツンデ霊夢に殴られる   作:風鈴.

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第23話 闇の世界

 

 うっすらと開けた瞼から覗く世界。

 

 それはどこまでも(よう)としていて、全貌を掴めない。

 

 闇。

 

 闇。

 

 闇。

 

 満眸(まんぼう)の暗闇。

 

 電車に轢き殺される前の騒がしさも、有機物も無機物すらも――存在しない。

 

 ここは……一体どこなのだろう。俺はどこにいるのだろう。

 

 いや、そもそも俺は……現実に生きているのだろうか。

 

 確か……俺は駅のホームから電車に落ちた。酒に酔った中年男性に突き落とされる形で。逃げ出そうにも、自分の上に伸し掛かる中年男性のせいで、逃げられなくて。

 

 そのまま……電車の車輪に轢断されて死んだ?

 

 じゃあ、眼前に果てもなく広がる世界は、死後の世界……いわゆる『あの世』ということか。

 

 仮に冥土ではないとすると、考えられる可能性としては――夢の中くらいか。

 

 夢なら、頬をつねっても痛くないのだろうか。

 

 頬をつねろうとして、気付く。

 

 腕が動く感触がある。指が動く感触もある。

 

 それどころか、眼前に生身の自分の手が映るではないか!

 

 ためつすがめつ自分の手を眺めた。

 

 ……ある。ある、ある……ある! 

 

 この腕と手は、実在する生身の一部だ。

 

 俺は勢いよく起き上がると、自分の全身を手でさすった。

 

 電車に轢断されたと思われる五体は、全て無事だ。目立った傷さえない。着ている衣服も無事であった。強いて言えば、土埃が付いているくらいだ。

 

 ……じゃあ、俺は生きているのか? 生きて、ここに存在しているのか?

 

 しかし、この暗闇の世界は、現実の光景と思えない。

 

 やはり……夢なのだろうか。

 

 自分の頬をつねると、ちゃんと痛みを感じた。

 

 痛みを感じる――つまり夢ではない?

 

 でも、現実世界ではないし、死後の世界とも思えない。

 

 解らない。何もかもが意味不明だ。

 

 ……そう言えば、俺は地面の上に座っているのだろうか。

 

 視線を下に向けて見るものの、そこには地面と呼べるような何かは無い。何かに座っていることは分かるが、どう見ても空中浮遊している。

 

 手で地面と思わしき闇を触れてみる。硬いとも柔らかいとも言えない、形容しがたい感触だ。

 

 座った状態から立ち上がり、試しにその場で何度か飛び跳ねてみる。底が抜けるようなことはなく。きちんと着地できた。

 

「ふふっ。存外、肝が据わっているのですね。闇の中で着地した感想はありますか?」

 

 どこからともなく、人の声が聞こえてきた。

 

 その声は、紛れもなく自分に向けられたものだ。

 

 俺の意識は瞬時に覚醒した。

 

「誰だ……!?」

 

「さあ、誰でしょうね」

 

 再び声が聞こえた。

 

 俺は声の出どころ――背後にいる何者かを見つけた。

 

「あら、こんにちは。それとも、周囲の暗さに合わせて、こんばんはの方が良いかしら?」

 

 視線の先――そこには1人の女性がいた。

 

 その女性は立ってもおらず、だからと言って座っているわけでもない。

 

 まるで暗幕のカーテンを押し広げて窓から身を乗り出すように『楕円に裂けた光零れる空間の縁に上半身を凭れかかり』こちらの様子を楽しげに眺めていた。

 

 

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