東方幽棲抄 ~ 今日も今日とて、ツンデ霊夢に殴られる 作:風鈴.
「――なあ、優よ。もう十分に十二分にボケて満足しただろう? 颯さん、お前のボケを食い過ぎて、そろそろ食傷になりそうなんだ。だから、もう良いだろう? つーか、もう良いよな? 本題の温泉旅行延期の話に入ろうぜ。そうじゃないと、颯さんの寿命がストレスで縮みそうなんだよなー。いやー、まいっちゃうぜー」
『ふむ……、確かにストレスは身体に良くないよね。適度なストレスは心身の健康に良い影響を与えると言われているけれど、それは肉体的ストレスの話だからね。精神的なストレスなんて、いくら溜めても得にならないし。適度に発散した方が良いよ。なに、最近悩みごとでも抱えてるの?』
「そのストレス原因は、お前の長々しいボケの所為なんだがなぁ……! たくっ、本題に入るまでの前置きが長すぎるんだよ」
『え、なに、颯ってユーモアに対して理解を示さないタイプ? ……老婆心ながら言わせてもらうけれど、冗談が通じないと対人コミュニケーションで苦労するよ? それにね、諧謔を弄することは、時として非常に役立つよ。演説やプレゼンテーションでは、機知に富んだジョークで聴衆の心を掴んで自分のスピーチに注意を引くことで、より円滑にスピーチを進められるんだから。初対面の相手と会話する時も、互いの心の緊張をほぐして友好的な会話へ発展させやすくなるんだよ。今後の為にも、ユーモアに対する理解を身につけようじゃないか』
「そうか。俺の場合は、お前との下らない会話で緊張がほぐされたどころか『ストレス』状態という『緊張した』ものに変わってしまったのだが? どう責任を取ってくれる?」
『オレとの会話で緊張した状態になるとか、どう責任取るんだとかさ……あまり気持ちの悪いことを言わないで欲しいのだけれど。ごめん、オレは颯の気持ちに応えられそうにないよ。あのね、オレが早いうちに颯に教えていなかったのが悪かったのかもしれないけれど、オレには、その……男色の気は全く無いんだ。だから、颯の気持ちは受け止められない。その愛は……重すぎる』
「そんな意味で言った訳じゃねえよ! 曲解すんな!」
『え、そうだったの? ……ああ、もしかして冗談?』
「いや、別に冗談つーか……いや、もう冗談でも何でも構わねえよ。面倒臭いから好きなように解釈しろ」
『ああ、やっぱり冗談だったのか。ふむ、なかなかどうして、颯もユーモアがあるじゃないか。かなりエスプレッソがきいた冗談だったよ』
「それを言うなら、エスプリだろうが」
冗談の内容が『荷が過ぎる』と『苦過ぎる』を掛けているのだろうか。
「はあ……、なんつーかさ、お前って昔から本当に口数の減らない奴だよな。その領域にまで達すると、呆れるどころかむしろ尊敬しても良い気がしてこなくもねえよ」
『はあ? 何を当たり前のことを言っているのさ。口数が減ってしまったら、日常生活に大きな支障をきたすじゃないか。栄養摂取は、今度から全て点滴ですませろ言いたいの? ずいぶんと無茶なことを言うなぁ……』
「だから口数が減らねえって言ってんだよ!」
『さて、本題に入ろうか』
お遊びはもう終わりだと言わんばかりに、優の語調が変わった。
なんだろう、優にすっげー手玉に取られて遊ばれていた気がするのだけれど、この苛立ちは誰にぶつければ良いのだろうか。
「……うん、まあ、本題に入ってくれるのならば、もう何でも良いや。早苗からの電話、そっちにもいっているよな?」
『うん、来たね。もの凄く申し訳なさそうな声音で。残念だったね、今回の『ドキッ! 湯けむりに紛れて気になるあの子を覗き大作戦2』が失敗しちゃって。颯、結構楽しみにしていたからさ』
「そんな作戦を企画した覚えは微塵も存在しないんだがな。窃視は止めろ。立派な犯罪だ」
止めてくれない? 俺の人間性を疑わせるような発言。
つーか、何で『2』なのだろう。すでに1度行われたのだろうか。
どうして、その時に俺も誘わなかった。
……ああ、いや、これは仲間外れにされたのが嫌だなーと思っただけだよ。
誘われても、きちんと断るよ?
「とにかく、今回の温泉旅行は早苗が行けなくなった。どうするんだ、今後の温泉旅行の計画」
『うーん、どうするって言ってもねぇ……。まあ、旅行を延期させるなら、日時を別の日に予定すれば良いだけの話だし。これから夏休みに入るし、機会なんていっぱいあるさ』
「それは分かってる。でもさ、問題は……」
『無料チケットの話?』
「ああ、その話だ」
今回の温泉旅行を計画したキッカケは、数年近く前に、優雅福引きで3等の『団体様向け 日帰り温泉旅行』なるチケットを手に入れていたことだ。
優はチケットを手に入れたものの、別にすぐに使う必要はないだろうと、小型の簡易金庫の中に閉まっておいたそうなのだ。チケットの有効期限が数年先のこともあり、特に焦って使う必要はないだろうと判断したそうだ。
月日は流れ、つい最近になり、簡易金庫の中を整理した時にチケットの存在に気付いたらしい。
「確か有効期限……もうすぐ切れるんだったよな」
『あと1週間だね』
優がチケットの存在に気付いた時は、まだ猶予が1カ月以上は残っていた。
しかし、夏休みに出かけようという話になったので、今に至るまで使わなかったのだ。
「まだ余裕はあるとはいえ、早めに次の予定日を決めておきたいな」
『早苗の家庭の事情とやらが分からないけれど、1日で片付くものなのかな。……いや、すぐに片付くようだったら、電話を掛けて来た時に言うだろうね。早苗の性格だもん』
「かもな。とすると、早苗を誘うのは不可能だな……。もったいないよな、そのチケット」
『使わなければ、の話でしょ? チケットに記載されている有効人数は5名様までだし、クラスの誰かを3人誘って行けばいい話じゃないか。それにしても、何で団体様で5名までなんだろうね。核家族向け? ファミリー対象のチケットかな』
「さあな……。制限人数からして、誘うとしたら3人か。誰が良いかな……。小笠原か忠邦あたりか? あと1人は……」
『その辺は颯の裁量に任せるよ。それにしても、男ばかりで華やかさが皆無だね。女子を誘っても良いんじゃない?』
「女子って言われてもねぇ……。俺は女子で親しい相手っていないんだよな。会話はするけれど、それ以上の親しさは無いって感じか。ましてや、温泉旅行だぜ? 何か他意があるように思われたら嫌じゃないか」
『他意ね……。いや、むしろ他意があって欲しいからこそ、温泉旅行の話に興味を示すんじゃないかな?』
「……どう言う意味だ?」
『その疑問は素で言ってるの? ……まあ、いいや。言ったままの意味だよ。要は、自分と異性として親しくなりたいと思っているからこその誘いだと思うってことだよ』
「ああ……なるほど。いや、なおさら誘いにくいじゃないか。変な勘違いっつーか、期待と言うか、それを抱かせるわけだろう? その他意が無ければ、相手の期待を裏切ることになるんじゃないか?」
『颯はお人好しだねぇ……。期待したのは向こうの方、向こうの問題。その期待が結果的に裏切られ――裏切られるって表現も間違っている気がするけれど、とにかく当てが外れたからって、期待した方が悪いだけなんじゃないの? 片恋の相手に想いが伝わらなかったからって、片恋相手を怨むのは道理に背いているでしょう? 相手の期待を分かった上で悪意を持って誘わなければ、別に問題にはならないとは思うけれど』
「んん……いまいち釈然としないけれど、そんなもんか。まあ、とにかく俺には誘えるような女子の知り合いがいないんだよ』
「観察眼が鈍いのかなぁ……。案外、誘ったら来てくれる女子ならいるかもよ』
「そうであると願いたいところだね。つーか、女子の知り合いならお前の方が多いんじゃないか?」
『別に積極的に知り合いになりたくて知り合いになっているわけじゃ……。こう、なんて言うのかな? 自然の成り行き?』
「その発言は全国の非モテ男子全員を敵に回す失言だと分かった上でのものか?」
『知らないよ、そんなこと。どうでもいいし。自分の魅力を磨いていない努力不足なんじゃないの?』
「まあ、一理あるな」
『誰だって、性格が暗い人のもとに集まりたいと思わないでしょう? 重要なのは性格。明るさとか、誠実さとか……優しさとかな。おっと、話が逸れてきているね。まあ、とにかく男子だけの旅行ってのもどうかと思うよ。高校生なんだし、青春しようぜーって話。学生時代の経験って、社会人になってから重要だと思うよ。そもそも、人生に悔いを残すようなことはするべきじゃないし。まあ、オレの方から声を掛けてみなくもないよ。男女比率は?』
「出来れば、3対2で。本当なら同じ数が良いんだけどな」
『了解了解。これから電話してみるよ』
「ああ、頼むよ。あと1人の男子の方はこっちで探してみる。女子を誘うのだから……モテそうな奴の方が良いかな?」
『誘っておいて損はないんじゃない? 少なくなくとも……うん、人気の無い人よりは』
「まあ、確かにな。オッケー、この話はこれで終わりだ。次の話に移ろうか?」
『女性の心を射止める32の必勝法?』
「是非とも教えて欲しいスキルだな……そうじゃなくて、延期された温泉旅行の話だよ」