東方幽棲抄 ~ 今日も今日とて、ツンデ霊夢に殴られる   作:風鈴.

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紅白巫女と白黒魔法使い
第1話 博麗神社と博麗霊夢


 

 俺と優はスキマを潜ると、博麗神社の境内に足を踏み入れた。

 

 博麗神社は標高の高い場所にあるらしく、後方を見ると、幻想郷の景色が一望できた。どうやら、幻想郷は周囲を山々に囲まれている地帯のようだ。まさに秘境と言える。

 

「ここが……幻想郷か。なんか、空気感が全然違うな」

 

「空気の匂いが違うよね。草木の香りが凄いし、埃っぽく無いね」

 

 優の言う通り、幻想郷の空気は、草木の香りに満ち溢れていた。空気は清浄で、自然本来の空気がどんなものであったのか教えてくれるようだ。

 

 空を見上げれば、どこまでも澄んだ青空が広がっている。これだけ空気が綺麗なら、とても綺麗な星空を眺めることが出来るだろう。

 

「文化的に江戸後期から明治初期って言っていたからな。自動車の類が無いんじゃないか?」

 

「かもね。これだけ山間の秘境なら、自動車が普及していると思えないし……。あるとしても、農耕用のトラクター……は文明的に無理かなぁ」

 

 恐らく、あったとしても自転車くらいだろう。

 

 まさか、未だに移動手段が徒歩ということはあるまい。

 

「まあ、ともかく、まずは博麗霊夢という巫女さんとやらに会うとするか」

 

 俺は神社の鳥居へ向き直り、奥に見える建物――賽銭箱と鈴があるから拝殿だろうか――に向かおうとする。

 

 今回は参拝目的ではないが、せっかくなので、鳥居の前で一礼してから歩を進めた。遅れて、優も付いてくる。

 

 鳥居の寂れ具合から見て取れたが、どうやら博麗神社は廃れ気味のようだ。参拝客がいるかどうか不明であるが、標高の高さから察するに、頻繁に訪れる者は少ないだろう。

 

 こんなところに、巫女が住んでいるのだろうか。

 

 石畳の参道を少し歩き、拝殿の前までたどり着いた。今回は、手水舎は無視した。参拝目的ではないので、そこまで細かく作法を気にする必要はないだろう。

 

 拝殿の右側方には、平屋の住居が見える。博麗霊夢という巫女は、普段はその平屋で生活しているのかもしれない。

 

「……賽銭箱、ボロいな」

 

 俺は目の前の賽銭箱を見詰めた。長い期間を風雨に晒されたのか、傷みが酷い。奉納、と書かれている文字は、全体的にかすれてきている。

 

「う~ん、年代物って言った感じだねぇ。味わいがあると言えば、味わいがあるね」

 

 優は唸るように同意した。

 

「まあ、賽銭箱は、どうでもいいか。さて、巫女さんを探さないといけないわけだけれど。……って、何をやっているんだ」

 

 優は自分の財布を取り出し、中身を漁っていた。

 

「ん? 賽銭箱に小銭でも入れよっかなって」

 

「財布を持って来ていたのか?」

 

「まあね。幻想郷で普及している小銭を入れる財布は必要だしね」

 

「まあ、財布は使うと思うが……。つっても、元の世界と幻想郷じゃ、貨幣単位が違うんじゃないか?」

 

 使っているとしたら、恐らく文銭と呼ばれる古銭だろう。

 

「その辺は気にしない。あくまでも、賽銭用だからね。銭を投げることと、ちゃりーんっていう金属音が重要なのさ。賽銭に穢れを込めて、さらに金属音で穢れの浄化。それが賽銭の本来の役割だからね。極論、小銭なら何でもいいのさ」

 

 優は適当に小銭をつかむと、一気に賽銭箱へ放り投げた。

 

 数十枚の小銭が宙を舞い、じゃらじゃらと騒がしい音と立てながら、賽銭箱の中へ消えた。

 

「よし。これでオレの体の穢れを落ちて、その代わりに颯へ乗り移ったよ」

 

「なにそれ止めて」

 

「身代わりいう立派な御役目を颯に任せたわけさ」

 

「そんな汚役目は要らない」

 

 どんな汚れ仕事だ。

 

「さて、あとは鈴を鳴らして仕上げを――」

 

 優が鈴へ繋がった綱を引こうとした――その矢先。

 

 スパンッ! という高音が横合いから響いた。

 

 思わず音の鳴る方へ振り返ると、平屋の縁側――そこに1人の少女が立っていた。障子に手を掛けている。恐らく、先ほどの音は、彼女が勢いよく障子を開けた時のものだろう。

 

 その少女は、紅白の巫女服を身にまとっている。この博麗神社に住む巫女――博麗霊夢に違いないだろう。恐らく、俺よりも一回り年下――15歳前後と言ったところか。

 

 俺と優が注視する中、少女はおもむろに跳び上がり、ひとっ飛びに賽銭箱の前に着地した。

 

 俺は己の目を疑った。見間違いでなければ、眼前の少女は十数メートル離れた地点から、助走なしに跳んだように見えた。オリンピックに出場する超人でも、この距離の幅跳びは不可能と断言できる。

 

 少女はガバッと賽銭箱の縁をつかむと、まじまじと中の様子を覗いている。どれくらいの量の賽銭が入れられたのか、確認しているようだ。もしかしたら、障子を開けた時は、けたたましい賽銭の音に反応したからだろうか。

 

 少女は賽銭箱を覗き続け――何かを見つけたのか、その体の動きが止まる。

 

 ぴくりとも動かない。

 

 微動だにしないので、時間が止まったのかと錯覚しそうになった。

 

 俺は痺れを切らし、少女に話しかけようとする。

 

「あの――」

 

 あなたが博麗霊夢ですか?

 

 そう尋ねようと思い、注意を向ける為に肩を叩こうと、手を伸ばすと――

 

 がしっ!

 

 少女は、素早い速度で俺の手を掴んだ。

 

「あ、あんた達を……」

 

 少女の握力は、尋常ではない程に強くなる。

 

 握るよりも締めると言う表現が相応しい力だ。およそ、少女の細腕に秘められているとは思えない。

 

 俺が身の危険を感じる中――少女は顔を上げた。

 

 満面の笑みを浮かべて。

 

「あんた達を……歓迎するわ!」

 

 俺と優は、突然の事態に呆気に取られたままだった。

 

 かくして、博麗神社の巫女――博麗霊夢と出会うこととなった。

 

 

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