東方幽棲抄 ~ 今日も今日とて、ツンデ霊夢に殴られる   作:風鈴.

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第8話 生のアレ、ダメ、絶対

 

 仏頂面の魔理沙と並んで歩いていると、住人の往来が盛んになり、通りの賑わいが増してくる。

 

 だんだんと増えてきた商店の様子に、俺は好奇心をくすぐられた。

 

 米屋、八百屋、酒屋、豆腐屋、干物屋、漬物屋、菓子屋、餅屋、下駄屋、足袋屋、呉服屋、小間物屋、染物屋、傘屋、金物屋、鍋屋、蝋燭屋、薬屋……。

 

 1つ1つの露店は、特定の商品の取り扱いに特化している。複数の商品をまとめて取り扱う大型商店やショッピングモールが主流の外の世界では、なかなかお目に掛かれない光景だ。

 

「……何か物珍しいのか?」

 

 あちこちの商店に喜々として目移りさせている俺の様子が不思議なのか、まだ不機嫌そうに魔理沙が言った。

 

「珍しい……と言うか、こうやって特定の商品ばかり売っている店が新鮮なんだよ。外の世界だったら、種類を問わず、色々な商品が1つの店内で販売されているのが普通だからな」

 

「幻想郷の店だって、規模の大きいところなら、色々な商品を取り扱ってるぜ? たとえば、日用で使う小物をまとめて売っている店とか」

 

「うーん……そういう規模じゃないんだよな。食べ物も調味料も日用品も、あとは医薬品とかも、ひと通りの商品が同じ店で売っているんだ」

 

「そんなに商品を取り扱えるのか? 仮に集められても、置き場が無いだろう」

 

「もちろん、売り場も広いぞ? そうだな……平屋の家が12軒は収まるかもな。もっと大きな店だと、それこそ店内が迷路みたいに感じるほどだ」

 

 雑貨屋のドン・キホーテとか、まさに迷路そのものだ。

 

「はぁー……そんなに凄いのか。ちょっと見てみたくなるな」

 

「また幻想郷に来る機会があったら、写真に撮って見せてやるよ」

 

「おう、楽しみにしておくぜ」

 

 話に興が乗ったのか、魔理沙の声色から険が取れてきた。

 

 先ほどの件を忘れさせるためにも、しばらく店の話題を続けるとしよう。

 

 商店通りの橋に近づくにつれ、食欲を刺激する匂いが漂ってくる。料理販売の屋台や食事処が多くなってきた証拠だ。

 

「幻想郷の屋台って、どんな食べ物が売っているものなんだ?」

 

「屋台か。そうだな……。手軽に食べられる屋台だったら、蕎麦やうどんが人気かな。あとは、野菜の煮物とか、握り飯とか、天ぷらとか……そんな感じだな」

 

「なるほどな……。野菜が入った煮物って、おでんか?」

 

「いや、そんなことは無いぜ。なんて言えばいいかな……お吸い物に近いかもな。おでんを出す店もあるけれど、酒と一緒だな。酒のつまみで、色々な煮物を出すんだよ。まあ、この手の出店は、夜に行く場所だな。手軽に寄れる屋台とは違うかな」

 

 個人的には、お吸い物単体を出す店があることが意外だった。高校や大学の学園祭で、豚汁を売るような感覚なのだろうか。

 

 食事処の方も気になってくる。どんな料理を提供しているのだろうか。

 

 うーむ……100年以上も昔の町や村の暮らしを窺い知るようで、なかなかに興味深い。

 

 ……そういえば。

 

「魔理沙、幻想郷に寿司屋ってあるか?」

 

「寿司屋? 寿司屋……いや聞いたことがない。というか、寿司ってなんだ」

 

 幻想郷には、寿司の食文化は無いのか。江戸の町だったら、屋台の出し物として有名なのだけれど。

 

「えっとな……長方形の一口大に成形した酢飯の上にな、魚の切り身を載せた料理だ」

 

「酢飯の上に、魚の切り身ねぇ……。それだったら、普通に白米と焼き魚の方がいいな。ほぐした魚の身を白米と一緒に食べるだけでも美味いぜ」

 

「いや、焼き魚じゃない。生の魚の切り身を載せるんだよ」

 

「……本当か、それ? あとで、腹を壊したりしないのか?」

 

 魔理沙の当惑を見て、俺は理解した。

 

 幻想郷では、鮮度を保った状態で、肉や魚を保存できないのだ。付け加えるなら、冷凍保存も出来ない。

 

 先ほど見てきた店には、食べ物を取り扱う店もあったが、生肉や生魚を販売する店は無かった。見かけるとしたら、干物の状態だ。

 

「いや、大丈夫だ。生の切り身って言っても、いったん冷凍してあるからな。それて、菌やら虫やらが死滅するんだよ」

 

「なるほどな……。まあ、私は火を通して食べる方がいいな。なんか安心だし」

 

 ふーん……なんか外国人っぽい反応だな。

 

「じゃあ、魔理沙は、卵かけご飯とか食べたこともないだろう」

 

「……どんな料理だ? まさか、生卵か?」

 

「そう。炊いた米に生卵を落として、上から醤油をサッと掛けただけの料理……料理? まあ、そんな感じの食べ方だ」

 

「無理無理! 卵を生で食べる奴なんて、腹を下したい奴だけだぜ。まさか、いったん凍らせた卵を解凍して、ご飯に載せるのか?」

 

「いや、そのままの生卵。未調理。もちろん、新鮮であることが前提だけどな」

 

「鶏が産んだ直後か?」

 

「いや、そんなことはないぞ。ちゃんと保存すればだが……1週間は大丈夫だな」

 

「まったく想像できないぜ……。霊夢でも、そんな無茶な食べ方はしないぜ」

 

 そこまで言うほどか――霊夢の普段の食生活は知らないけれど。

 

「外の世界の食文化は、そんなに進んでいるんだな。知らなかったぜ」

 

 魔理沙は空を見上げて、何やら感慨に耽る。外の世界に、思いを致しているのかもしれない、

 

「そう言えば、魔理沙は幻想郷の外――俺がいた世界に行ったことはあるのか?」

 

「いや、ないぜ。博麗大結界はな、基本は外と中を自由に行き来できないんだ。外の世界で忘れられた存在が入ってくることはあるけどな。博麗大結界を無視して出入りしているなんて、紫くらいだぜ」

 

 なるほど。それだけ、紫さんは幻想郷でも異端の存在なのか。

 

「行ってみたいと思ったことは無いのか? その世界に」

 

「うーん……。無いと言えば嘘になるが、わざわざ無理して行くほどでもないな。紫に頼むのも面倒だし、そもそも許可しないだろう。なんのための博麗大結界なんだって話だ」

 

「……それもそうだな」

 

 空飛ぶ魔法使いが外の世界に現れたら、一大ニュースになりそうだ。魔女裁判のように、命を狙われる危険も出てくるだろう。

 

 人ならざる者にとって、幻想郷は安息の地なのだ。

 

「あれ、そう言えば……魔理沙って人間なのか? それとも、えっと……魔女って種族なのか?」

 

「私は普通の人間だぞ」

 

 普通の人間は、箒で空を飛んだりしないんですがね。

 

「人間なのか。じゃあ、後天的に魔女になったってことか」

 

「ん……んんー……説明が面倒だな。まあ、魔法が使える人間ってことにしてくれ。完全な魔女じゃないんだ」

 

 魔法が使えるからといって、魔女というわけではないのか。色々と条件があるのだろう。

 

「分かった。……さて、橋まで来てしまったわけだが」

 

 俺は周囲の人波を見渡した。優と霊夢は、商店通りのどこかいるだろうか。

 

「こう人が多いと、優と霊夢がいるのか分かりづらいな」

 

「だったら、私が上から探してやるよ。ちょっと待ってな」

 

 魔理沙は箒に乗ると、上空へ舞い上がった。

 

 なるほど。空中から一望すれば、優と霊夢の姿を探しやすいな。

 

 魔理沙は何度か旋回した後――とある一方向を指差した。

 

「颯、いたぞー! 対岸だ! 向こうの茶屋にいる!」

 

 茶屋。茶屋というと……時代劇に出てくる、店先で団子を食べる休憩所か?

 

「分かった! 魔理沙は、先に行っていてくれ! 俺もすぐに向かう!」

 

 魔理沙は空中を滑るように飛び――少し先に建っている店先に降り立った。

 

 あの辺りか……。

 

 俺は場所の見当をつけると、対岸に掛かる橋を渡った。対岸に着いた後、少し歩き続けると――茶屋の店先に置かれた縁台に座る優たちの姿が見えた。

 

 優と霊夢の手には、湯飲みらしき器が持たれている。腰元の縁台には、白い皿らしき物が置かれていた。

 

「やっぱり、この通りにいたんだな。探したぞ、2人とも」

 

「やあ、颯。よくこの通りにいるって分かったね」

 

 優は呑気そうに答えた。くつろいでいましたと言わんばかりの様子だ。

 

「魔理沙が商店通りにいるんじゃないかって言ってな。まったく、人里の入り口で待っていてくれたってよかったのに」

 

 すると、今度は霊夢が答える。

 

「ああ、それは私のせいよ。魔理沙が連れてきてくれると思ったから、先に買い物の用事をすませちゃおうと思って」

 

「買い物?」

 

「茶葉よ。ちょうど切らしていたから、買いに来たの」

 

 そう言って、霊夢は脇に置いてあった紙袋を取り出した。恐らく、中に茶葉が入っているのだろう。

 

「……ああ、だから茶屋にいるのか」

 

 時代劇のせいで休憩所の印象が強いが、茶葉の販売所も兼ねているのだ。いや、集客のために休憩所を提供していると言った方が正しいか。

 

「……で、ついでに団子を食べていると」

 

 優と霊夢の脇に置かれた皿に目を落とす。くしが置いてあるということは、すでに団子を食べ終えたということだ。

 

「いいじゃない。茶葉を買いに来たら、団子を楽しむものよ」

 

 霊夢は悪びれもせずに言うと、美味そうに茶をすすった。

 

「いや、茶屋の慣習は知らんが……というか、優も食べたのかよ」

 

「美味しかったよ、モチモチしてて。モチ米の本来の甘みが活かされてた。ここは良い茶屋だね」

 

 優は感慨深そうに頷く。

 

「それはよかったな……じゃなくて、代金はどうしたんだよ。霊夢のおごりか?」

 

「いや、タダにしてもらえた」

 

「タダに?」

 

 それはまた、どういった事情で。

 

 その時、茶屋の店内から、お盆を持った若い女性が現れた。明るめの和服に身を包んでいる。実物は初めて目にするが、茶屋娘だろう。

 

「お待たせしました。小豆、みたらし、きな粉の3本串になります。お茶は熱くなっていますので、火傷にご注意くださいませ」

 

 茶屋娘は、縁台に座る魔理沙の脇にお盆を置いた。

 

「お、待ってました」

 

 魔理沙は喜々として団子に噛りついた。

 

 どうやら、俺が到着する前に、団子を注文していたようだ。

 

 茶屋娘は店内に戻るのかと思ったが、なぜか優と霊夢の前に回る。

 

「お客様、新しいお茶を淹れましょうか? もちろん、純粋な奉仕ですので、お代は頂きません」

 

「あら、そうなの? じゃあ、頂こうかしら」

 

「それなら、お言葉に甘えて、オレも頂こうかな」

 

 優と霊夢が頷くと、茶屋娘は嬉しそうに答える。

 

「かしこまりました。それでは、空いている皿と一緒に、いったん湯飲みを回収いたしますね」

 

 茶屋娘は皿と湯飲みを回収すると、また店内へ戻っていった。

 

「あれ? ここの茶屋って、追加の茶って無料だったか?」

 

 魔理沙は怪訝そうに、優と霊夢に尋ねた。

 

「ううん、そんなことはないわよ。ただ、今回は特別に無料にまけてもらったのよ。団子の代金もね」

 

「なんだそりゃ。霊夢お得意の脅迫でも使ったのか?」

 

「止めなさいよ、人聞きの悪い……。単に、優のお蔭よ」

 

「優の? 何をやったんだ?」

 

「……娘さんに気に入られたんじゃないの?」

 

 霊夢は不得要領な答えを返した。

 

 俺も気になったので、優に尋ねてみる。

 

「優。お前、何をやったんだ?」

 

「何を……て、特に変わったことは。ただ、思ったことを言っただけだよ」

 

「思ったこと?」

 

 俺が詳しく聞き返す前に、店内から茶屋娘が戻って来た。

 

「お待たせいたしました。淹れたてのお茶をお持ちいたしました」

 

「あら、ありがとう。悪いわね」

 

 霊夢は、湯飲みの載ったお盆を茶屋娘から受け取った。

 

「こちらをどうぞ、優さん」

 

 茶屋娘は優の名前を呼ぶと、優にも湯飲みの載ったお盆を差し出した。

 

「ありがとうございます。――ここのお団子、美味しかったですよ。すごくモチモチしていて、なんだか癖になる触感で。また機会がありましたら、立ち寄らせてもらいますね」

 

「はい! ぜひ、立ち寄ってください。他にも美味しい味付けの団子がありますから、色々と試されてください」

 

 茶屋娘は嬉しそうに言うと、そそくさと店内に戻っていった。

 

「……はーん、なるほど。そういうことか」

 

 魔理沙は事の真相を察したのか、急にニヤつき始めた。

 

「そういうことね。聞いてよ、魔理沙。私が店内で茶葉を買っている最中、優ったら、茶屋についてベタ褒めだったわよ。すごくいい香りとか、和風の雰囲気が落ち着くとか――娘さんが華やかで良いねとか。あと、茶屋の主人に対して、素敵な看板娘さんですねって」

 

「うわぁ……そんなことを言っていたのかよ。まるで人たらしだぜ」

 

 魔理沙は、好奇の視線を優に送る。

 

「実際に、そう思ったからね。相手に素敵な点があるんだったら、黙っているよりも、相手に伝えた方がいいと考えているだけだよ」

 

 優は『たいしたことじゃない』と言わんばかりの態度だ。気遅れた様子が感じられない。

 

「そんなもんだから、主人と娘さん、嬉しくなっちゃったみたいで。今回は優の初めて来店だから、今後も御贔屓にってことで、今回のお茶と団子の代金をタダにしてくれたのよ。一緒にいた私としては、役得ね」

 

 霊夢は上機嫌に言った。

 

 なるほどね……。要は、茶屋の主人と娘に気に入られたってわけか。

 

 優はオタク気質な奴だけれど、妙にコミュニケーション能力に優れている。初めての相手でも物怖じしないし、相手の長所を見つけるのが上手い。しかも、それを遠慮なく口に出来る自信を持っている。いわゆる、人好きする性格なのだ。

 

 ただまあ……優の会話内容から分かるように、やたらとボケに走りたがる性格でもある。それが災いして、ある程度の交友を持った人は、優の会話の奇抜さに驚かされることになる。初めの頃は好かれやすいが、その後にどうなるかは、相手次第というわけだ。

 

 ……つーか、あの娘さん、俺のことを無視していったな。優や霊夢の隣に立っていたのに、客と認識されなかったのだろうか。ちょっと悲しい。

 

 まあ、もともと注文するつもりは無いから、冷やかしに思われるよりはマシか。

 

「それにしても、あの茶屋娘、ただ気に入ったってだけの様子じゃなかったぜ。優さん、なんて名前で呼んでたぞ」

 

「あ、それは私も思った。私のことは名前で呼ばなかったのに、優だけ名前呼びだもん。私の方が常連なのに」

 

 霊夢と魔理沙は、何やら乙女好みの妄想をたくましくさせている。

 

 まあ……あの娘さんの気持ちも、分からないではない。気に食わないが、優は顔が良い方だからな。初対面の女性が相手なら、好感度がうなぎ上りになる。なんだかんだ、学校でもモテていたしな。

 

「……あ、そうだ。優、紫さんからの預かり物だ」

 

 俺は3円が入った財布を取り出すと、優に向かって放り投げた。

 

「ん、なにこれ。財布?」

 

「紫さんから俺たちへの軍資金だ。中に3枚の1円札が入ってるぞ」

 

「1円札? 1円札……ああ、そっか。霊夢の買った茶葉が5銭だったから、600円として……だいたい1万2000円くらい?」

 

 優は、幻想郷における1円の価値に、素早く気付いたようだ。

 

 さすがに、頭の回転は早いな――訳の分からないボケを連発できるだけはある。

 

「察しが良いな。紫さんは、1円が1万円相当と考えていいって言ってたぞ」

 

「だよね。うわー、これが1円札なんだ。初めて見た。1円なのに大量に買い物できるって、なんか不思議だよね」

 

「分かる。この財布の中に3円が入っているって思うと、駄菓子すら買えないって錯覚に陥るからな」

 

 俺と優にとっての3円は、うまい棒ですら買えない金額なのだ。

 

「なに、外の世界だと、1円って安いの?」

 

 霊夢が不思議そうに尋ねてくる。

 

「ああ。外の世界だと、なんと言うか……1円が最小単位だからな。幻想郷の感覚だったら、10分の1厘か? そんなもんなんだよ」

 

「へぇ……。外の世界だと、1毛が1円の扱いなんだ。意外だわ」

 

 霊夢は感心したように言った。

 

 ……1毛? 1厘の10分の1って、1毛って言うのか。

 

 あれ、でも紫さんは、厘の下の貨幣単位は無いって言っていたぞ。俗語だろうか。

 

「なあ、霊夢。颯の奴、紫から駄賃をもらうときに、真顔で最初に15万円を要求したんだぜ? 笑えるだろ」

 

 魔理沙は俺のことを指差し、愉快そうに言った。

 

「15万円!? あはは、なにそれ! 一生遊んで暮らしても使い切れないような額じゃない。立派な屋敷でも立てる気なの?」

 

 つられて、霊夢も大笑いした。

 

「ぐっ……! うるさいな、仕方ないだろう。その時は、幻想郷の貨幣観念を知らなかったんだから」

 

 現代人が幻想郷にやって来たら、誰しも1度は引っ掛かる罠だ。俺は悪くない。

 

「……あれ? 颯と魔理沙、途中で紫に会ったの?」

 

「ああ、会ったぞ。ついさっき。もういなくなっちゃったけどな」

 

「なーんだ。紫が来ているなら、とっちめてやろうと思ったのに」

 

 霊夢は不満気に言った。俺たちの世話を押し付けられる形になったことに、文句を言いたかったのだろう。

 

「まあ、紫の件は、後でいいわ。……ところで、颯と優は、この後はどうするの? ひとまず人里には来たけれど、仕事と住む場所を探すんでしょう?」

 

「それなんだがな……。魔理沙によると、丁稚奉公みたいな働き方は、まずいそうなんだ。俺と優は、長くても20日くらいで切りあげて帰るつもりだから、奉公先に歓迎されないんだそうだ」

 

「ああ、そうなの。……それもそうね。となると、どんな仕事があるのかしら。魔理沙は、何か良い案は思いつく?」

 

「あー……そうだな。丁稚奉公が駄目だったら、何が得意かによるんじゃないか? 即戦力になるんだったら、雇い主にしても、色々と話が早いだろう」

 

 俺と優の得意なこと……か。

 

「優だったら、あれだ、絵を描くのが上手いよな。漫画を描いて売れるくらいだし」

 

 18禁の同人誌だが。まあ、絵が上手いことに変わりない。

 

 優は思案顔になって答える。

 

「漫画か……。幻想郷で漫画の技術を活かすとなると、似顔絵とか新聞の挿絵とか、そんな感じになるかな。たぶん、漫画の文化は無いだろうし……。霊夢、魔理沙、漫画って言葉は知ってる?」

 

 霊夢と魔理沙は、首を振ってみせた。どうやら、まだ漫画の文化は存在しないらしい。

 

 そう言えば、幻想郷の住人って、何が娯楽なのだろう。漫画も無ければ、ゲームソフトも無いよな。いつも何をして余暇を過ごすのだろう。

 

「じゃあ、ひとまず、優は絵の技術を活かす方針として……俺がどうするかだよな。正直なところ、これと言って趣味とか無いんだよな」

 

「うーん……颯の得意なことか……」

 

 優は腕を組んで悩み始める。

 

「……無いね」

 

「諦めるな。きっと何かあるぞ」

 

「颯のことは、颯自身が1番知っているじゃないか」

 

「その俺が思いつかないから、困っているんだろう」

 

「だったら、オレが思いつくわけがないでしょ」

 

 ですよねー。

 

「無趣味で無能か……見損なう余地があったぜ」

 

 魔理沙はボソリと呟いた。

 

「魔理沙、やめろ。俺の傷口を抉るんじゃあない」

 

 心の出血多量で死んでしまう。

 

 今度は、霊夢が口を開く。

 

「でも、何も取り得が無いってことはありえないわ。寝て起きてご飯を食べる生活を何十年と送っていたわけではないのでしょう? 働くなり学ぶなり、何かしていたはずだし」

 

「そうだな……。学ぶと言えば、学校には通っていたけどな」

 

「学校って、どんな場所?」

 

「えっとな……幻想郷でも通じる言葉でたとえるなら、同年代の書生が通う学問所って感じだな。国語とか数学とか、色々なことを学ぶところだよ」

 

「それだわ」

 

 霊夢がビシッと指を差した。

 

「書生が通う学問所――つまりは寺子屋よ」

 

「寺子屋?」

 

 寺子屋というと……昔の学習塾みたいなところか。

 

 確かに、塾講師みたいな感じで、勉強を教えることは出来そうだ。幻想郷の文化水準を考えるに、そこまで進歩した学問は学んでいないはずだ。俺の学力であっても、充分に講師として通用することだろう。

 

「人里にも寺子屋があるって、聞いたことがある。どこにあるかまでは知らないけれど……聞き込みしていけば、すぐに見つかるはずよ」

 

「霊夢、妙案だ。ありがとう。寺子屋……探してみる価値はあるな」

 

「寺子屋だったら、オレも働けそうだね。勉強なら、特に不自由していなかったし」

 

 優も乗り気の様子だ。

 

 寺子屋の講師なら、優も一緒に働ける。なにかと好都合だ。

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