救世ノラヴドール~俺とセクサロイドの気ままな旅~   作:こもれび

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第十八話 異常な王国

「け、賢者……ワイズマン……」

 

 オルガナがそんな言葉を口にしながらぷるぷる震え始めたので、俺はもう我慢の限界だった。

 

「二ムてめえマジでふざけんなっ!! 誰が賢者だ誰が‼ それにオルガナてめえもだ! さも驚きましたバリに人を賢者扱いしようとしてんじゃねえよ!! ぜーんぜん童……こ、拗らせてなんかねえんだからな!!」

 

「童貞拗らせて賢者になっちゃったんすか? じゃあ、仕方ないっすよ!」

 

「ちげえって言ってるだろうが!! てめえが拗らせてんだよ話をややこしく!!」

 

 ニムがさもおかしそうにケラケラ笑いながら、またもやそんなふざけたことを宣いやがる。この野郎、俺をこけにしないと気が済まない病気にでもかかってるんではなかろうか?

 

「ま、冗談はさておき、今のご主人の話は全部本当ですよ? オルガナさん」

 

「冗談だって言っちゃったよ、この子は」

 

「当たり前っすよ!! ご主人の童貞はワッチが貰うんすから拗らせる必要なんかありません!! 安心してワッチとしっぽり行きやしょう!! ね、ご主人?」

 

「い、行くわけねえだろうが、何言うに事欠いてそんなこと言い始めてんの? 話すり替えてんじゃねえよ!」

 

「もう、この流れは、『う……ん?』とか返事しちゃって、言質取りましたからねー!! 的な感じで押し倒して良い展開じゃないっすか!! はあ、もう空気読みましょうよ」

 

「なんで俺が悪いみたいになってんだよ!? マジでぶっこわすぞ!!」

 

「バ、バネットの姐さん……この人達って普段からこうなんですかい?」

 

「だいたいこんな感じだよ? 気にしたら負けだよ」

 

「は、はあ……」

 

 なにやらピート君までもがため息を吐き始めたんだが、おいおいいい加減にしろよ、人にコケにされるほどムカつくことはねえんだからな!!

 と、いきり立っていた時のことだった。

 

 バンっとテーブルをたたく音が聞こえたかと思うと、そこにはスッと立ち上がったオルガナの姿。

 なんだなんだとそっちを見てみれば、緊張した面持ちで俺へと語りかけてきた。

 

「あ、あなたが『ワイズマン』だったのね……? それに気づかずに私から接近してしまったなんて……」

 

「は?」 

 

 なんのことだと、その文言に想いを巡らせはじめていたのだが、オルガナが焦った口調で続けやがった。

 

「でもそれなら全部理解できる……こんな茶番を催して、こんな風に目論んで、また大勢の人たちの不幸を見て楽しもうとでもしているの!?」

 

「はい?」

 

 とりあえず何かを言おうとは思ったのだが、滔々と語りつつ涙を流し始めてしまったオルガナになんて言っていいのか上手い言葉が見つからない。そもそも内容がまったくピンとこず、何を言われているのかが分からなかったから。

 

「それはなんのことだよ?」

 

「もうあなたの言葉に惑わされたりなんかしない。絶対にあなたの好きにはさせない。それじゃあ」

 

 と言いつつ、彼女は足早に部屋を後にしてしまった。

 それがあまりにも鮮やかな退出だったもので、声を掛けるタイミングを失してしまった。というか、なんなんだあの素早さは! あっという間にしかも自然に目の前から去ったぞ。

 

「本当になんなんだいったい……」

 

「ご主人オルガナさんに何をしたんです? あの感じだと相当ひどい事した風ですけど? まさかヤルだけヤッて捨てたとか!?」

 

「や、ヤるわけねえだろうが!! 言い掛かりだ!」

 

「でも、ご主人様良いの? オルガナちゃんあのまま行かせちゃって」

 

「良いも悪いもねえだろ? 出ってったのはあいつだからな? まあ、聞きたいことはあったわけだがあの様子じゃすぐには話さなそうだしとりあえずは保留でいいだろう」

 

 聞けたわけじゃあないが、要はノルヴァニアの話のすり合わせをしたかっただけだ。

 あの反応からして当たらずも遠からずって感じだったから、ほぼ目的は達成できたともいえるだろうしな。

 

「あ、バネットさん、オルガナさんのことは大丈夫っすよ。オルガナさんのパーソナルデータはワッチがもう取り込みましたからね。この王都の範囲くらいでしたらフルタイムで居場所特定できますから」

 

「ふーん、二ムちゃんってやっぱ凄いんだね! そりゃ私も見つかっちゃうよね! あはは」

 

 さも感心したとでもいう感じのバネットは爛漫に笑っているから、俺は今度は標的をピート君に切り替えた。

 

「んで、お前らのことだ。盗賊なんて名乗ってるみたいだが、大方元農民とか、食うに困った連中とかの寄せ集め何だろう?」

 

 そう聞いてみれば、ピートは表情を強張らせて言い返してきた。

 

「な、なんでそう思うんだよ? んなわけねえ……」

 

「あ、そういうのいいから。ここに来てからいろんな奴のステータスを確認してみたんだけど、スキルで『農作業』とか『狩猟』とか『商売』とか、そんなのを持ってるやつも多かったからな。もともとは盗賊じゃなかったってことくらいは察しがつくさ」

 

「て、てめえ『鑑定眼』のスキルをもってやがるのかよ!?」

 

「はあ? 『鑑定眼』? ちげーよ俺が使ったのはただの魔法だよ。『解析(ホーリー・アナライズ)』。知らねえのか?」

 

「そ、そんな魔法あるのかよ? おいおい、『鑑定眼』だってただでなくてもレアスキルなんだぞ? ステイタスカードにも記載されない内容まで確認できるって代物で、あのスキル一つで一生遊んで暮らせるって話を聞いたことがあるんだが」

 

「ふーん。『解析(ホーリー・アナライズ)』なんて大した魔法じゃねえのに、なんで使わねえんだろ? まあどうでもいいけどよ、要はお前ら普通の仕事がなくなって盗賊に身を落としたって連中がほとんどなんじゃねえのか?」

 

 そう、聞いてみれば、ピート君はうっと苦しそうに呻いた感じになり、バネットはおおーと拍手を始めた。

 

「凄いねご主人様。ホントどうしてわかるの? その通りだよ」

 

「あ、姐さん……何も俺らからそれをばらさなくても」

 

「言ったろピート。ご主人様なら本当になんとかしてくれるからさ、ここはもっと頼っていいんだよ」

 

「うう……」

 

 バネットにそう諭されて、呻いていたピート君が漸くその口を開いた。

 話は簡単だ。

 このエルタニア王国の各地で様々な飢饉や疫病が発生し始めた当初、その各地の領主は私財を擲って自領民の救済に動いた。だが、どれだけの時間をかけても一向に飢饉は納まらず、次第と各領主たちの財は減少しついには財政破綻してしまう領も現れ始めた。

 当初は国からの支援もあったようで数年間は領民も耐えていたようだが、一向に回復しない状況の中で、各地で暴動や一揆が繰り返し発生するようになり犯罪が多発、飢饉に見舞われた領地は一気に荒廃した。

 職や住処、家族を失った人々は流民と化し多量や他国へと流出することとなり、被害に見舞われなかった他領は、治安の悪化を防ぐべく流民の流入を制限し関所を封鎖。

 そして結果、多数の難民が溢れるとともに、各地の山や林間に盗賊が住み着く現状が生まれた。

 

 これが今から約10年前の出来事。

 

 悩むまでもないことだが、食うに困った連中が山や森に住み着き、そこで盗賊化したということだろう。話を聞くに、この国の特に西方域に領地を持つ貴族たちの領が飢饉に見舞われ、荒廃することになった様子。

 その後のことだが、盗賊を討伐するという名目で、国は何度も聖騎士団を派遣し、そこに住まう者たちを殺戮してまわったり、また流民が犯罪を犯すことがないようにと、反抗的な流民の収容施設も作られ、そこに強制収容された者も多かったのだという。

 そして、ここに来て国は、隣の敵国でもあるギード公国にも救援の名目で出兵させ、自国領土である西方域の各地に出城の建設を認め、やはり盗賊狩りを随時行っていたのだそうだ。

 

 難民たちの中で、各地の山林に逃れた少しは腕に覚えのある連中が盗賊として落ち延びた後、国が行った政策は難民の保護ではなく、盗賊団の討伐と、犯罪行動の抑制のための流民の強制収容。

 もうね、やってる内容が恐怖政治のそれにほとんど近くて、はっきりいって胸糞悪すぎなのだが、それでも盗賊化した人々は辛抱強く耐えつつ生きてきた。

 そんな中で各個バラバラで滅ぼされることを待つだけであった盗賊たちが集まったのが、この秘密組織『盗賊組合(シーブズギルド)』であったようだな。

 立ち上げにはバネットやオルガナも関わっていたようだが、要は襲撃目標をこのギルドで一括管理し、拾得した金品を管理分配する業務をここが受け持つことになっていたということらしい。

 当然のことだが、彼らは根っからの盗賊ではない。だから当然その分配先には、戦うことが出来ない女、子供、老人たちも含まれ、各地で潜伏しているそんな同郷人たちへと物資も送っているのだそうだ。

  

「なるほどな……どうもこの国には、何が何でもこの国を滅ぼしたい奴がいるみたいだな」

 

 話を聞いていた俺がぽつりとそういえば、バネット達が興味津々に聞いてきた。

 

「ご主人様もやっぱりそう思うの? 私たちを殺したいってことなのかな?」

 

「まあ、常識的に考えればそこまでするわけは普通はないんだけどな。なにしろ、国からすればそこに住んでいる国民はお客さんだ。そこに暮らしていれば税金がもらえるわけで、税金があるからみんな潤った生活を送れるわけだしな。でも、やってることを聞いてる限りは、とりあえず国の先行きなんか考えてる風ではないな」

 

 ということになる。

 どう考えても国の連中よりも、この盗賊ギルドの連中の方がやってることはまともに思える。

 確かに人から金品を奪ったりもしているが、このギルドの連中は住民の保護に動き、国の連中はそんな犯罪者の撲滅にのみ動く。

 これだけを見れば、どこにも建設的、生産的な話は存在しない。もはや行政は破綻している状況といえた。

 

「お前らも分かっていることだと思うけど、飢饉が起きた領と起きなかった領があんまりにもはっきりしすぎているだろう。作為的なものがない方がおかしいくらいの状況だと思わないか?」

 

 そう言ってみれば、ピート君は大きく頷きつつ答えた。

 

「まったくてめえの言う通りだよ。謎の病気が蔓延したあの時、最初に大量の死者が発生した領の領主たちは、どこもかしこも『反戦主義』を掲げてたんだ。要はギード公国との和睦をしようと考えていたわけだな。西の領地の殆どは戦争になればその領民の多くが駆り出されるし、戦費も多く出すことになるからな。俺もあの頃は子供だったからうろ覚えだが、大人たちはよく戦争回避の集会を開いていたよ」

 

「うん、ピートの言ってるまんまだよ。あの頃西方地域はどこも賑やかでね、商売も盛んになっていたから反戦機運が高まっていたんだよね。そんな中でいきなりあの飢饉だったからさ、あのころはみんなコロコロって死んじゃって本当に大変だったんだよ」

 

 そう気楽に話すバネットだけど、内容は本当に最悪だ。

 もしこれが俺の考えの通り人為的なものであるとするなら、これ以上の悪辣非道はないだろう。

 そしてピートが言った。

 

「今まではそれでもなんとかやってこれたんだがな、ここにきて聖騎士の連中の動きがどんどん活発になっていて、また仲間がどんどん捕まるようになったんだ。このまま盗賊狩りが進めば、俺たちがかくまってる人たちもみんな干上がって死んじまう。そろそろ本腰を入れてなんとかしなくちゃいけないんだが、聖騎士連中は腐っても国軍、俺たちみてえな半端もんじゃあやっぱり敵わなそうなんだ」

 

 ま、そういうことだろうな。

 だから俺は言った。

 

「とりあえず、ここまでの話全部ムカつくからよ、なんとかしてみるか」

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