救世ノラヴドール~俺とセクサロイドの気ままな旅~   作:こもれび

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第十九話 来訪者【クスマンside】

 まあ、これでこの国と王都の現状はほぼ把握できた。

 この国の現状を端的に表そうとすれば、『沈む寸前の船』、『大病で死にかけた人』、そんなところだろう。

 盗賊組合(シーブズギルド)とかいう犯罪者の巣窟的な場所ではあるけど、この国ではある意味『避難場所(シェルター)』としての意味合いが強いともいえる。すでに破綻したこの国にあってはそんな犯罪組織であっても、害よりも益の方が多いということでもあるのだろうな。

 

 俺はすぐさまニムを使いに走らせて、オーユゥーン達をこのアジトへと移らせた。

 そして全員がそろったところで現状確認。

 今のこの王都の状況と、これからの展望をその場の全ての人間に伝えた。

 一応触れておくと、盗賊組織の隠れ家は、ここのほかにもたくさんあるようだが、ここが本拠地であるらしく、広大な地下空間にかなりの数の人員が存在していた。

 ざっと200人ほどか。

 中にはただのホームレスのような連中もいたが、これだけの頭数はそれなりに使いみちがあるとピート君へとなるべく詳しく指示を出した。まあ、この野郎、俺の話を超イヤイヤ聞いていた感じで、これで本当に大丈夫かよとも不安になったが、その後バネットに連れられて二時間ばかりいなくなっていたピート君は、戻ってくると同時に超俺に従順になった。紋次郎の兄貴!! とか言ってきやがったしな! 本気でやめろよ、お前みたいな怖い弟マジでいらねえよ。

 

 と、そんな感じで盗賊どもがわたわたと忙し気に動き始めたところで、俺はヴィエッタやオーユゥーンを集めて、俺達の部屋に宛がわれた少し広めの部屋に移って話を切りだした。

 

「で、準備の方はどうだ?」

 

 俺とニムがバネットを探しに来ている間、オーユゥーン達に準備させていたことを訪ねてみれば、シオンもマコもヴィエッタもみんな明るい笑顔になって鼻を膨らませて頷いた。

 

「もうばっちりオッケーだよ、くそお兄ちゃん!! ここはマコたちにお任せ!!」

「うんうん、なんか私も気分盛り上がってきちゃったよ!!」

「でも、本当にいいの、紋次郎? 私たちがこんなことしちゃって、後で怒られない?」

 

 そう不安げに聞いてきたヴィエッタへと俺は即答した。

 

「いいんだよ、まったく問題ねえ。というか、むしろ思いっきり盛大に遠慮なくやれよ‼ それこそ王都中の連中が目を見張るくらいな感じでな! ()()は任せたからな、オーユゥーン」

 

 そう言ってから俺は、奥の鏡の前で長い若草色の髪を結いあげるオーユゥーンへと視線を送ると、彼女は妖艶に微笑んだ。

 

「ええ、お兄様のご期待に応えさせていただきますわ」

 

 

   ×   ×   ×

 

 

「ふぅ……」

 

「ぁあ……クスマン殿下ぁ……幸せにございますぅ……」

 

 大きく息を吐いたクスマンは、その巨躯にしがみついた女を注意深く引き剥がすと、そっとベッドへと寝かせた。そこにはすでに息も絶え絶えの無数の女たちの姿が。

 疲れ知らずの益荒男(ますらお)である彼ではあったが、さすがにこの人数を相手することは応えたのか、大きく息を吐く。

 だが次の瞬間には、目の前に横たわる、今の今まで性を貪ってきた複数の女達へと愛おしい眼差しを向け、その快楽の余韻を妨げないようにと静かにその部屋を後にした。

 サッと水を被り身体の汗を流した彼は、召使の女からタオルを受け取るとすぐに身体を拭き、そして詰襟白装束の皇子としての正装に着替えた。とはいえ、巨漢である彼の身体に合うような服は早々ないのだろう、その服も随所が彼のボリュームのある筋肉によって盛り上げられ変形し、きちんと着こなしているにも関わらずどこか粗野めいた雰囲気を漂わせてしまっていた。

 だが、彼はこのような風体をむしろ好ましく思っていた。

 自ら鍛え強化したこの身体は自身の誇りそのものであったし、そのような肉体に憧れて身体を委ねてくる女達の欲望そのものが彼を満足させていたのだから。

 

 いつものように自信に満ち溢れた様子のまま、しかしいつもとは違う今の状況に彼は少なからず戸惑いを覚えつつ彼は侍女を伴って自室を出る。

 予定通りであるならば、もうとっくにこの王城を後にしている時間であったはず。だが、その計画は狂い、その後のスケジュールも未だ立ってはいないまま。

 そして更に『狩り』ときた。

 今更ここにいたって、再び狩りをすることに何の意味があるのか、その手間を思い彼は眉を顰めた。しかし……

 彼の兄がそう指示した以上、それを行わないわけにはいかない。

 しかたがない……そう諦め、彼は目的の場所へと向かって歩みを進めた。

 

 その時だった。

 

「クスマン皇子殿下、大変にございます!!」

 

「ああん?」

 

 一人の官吏が廊下の先から慌てた様子で現れ、そしてクスマンを見止めて急ぎ足で近寄ってきた。そしてなんとかバランスを崩しつつも慇懃に頭を下げた。

 

「いったいなんだってんだよ?」

 

 急に現れた男の官吏のその無様な様子に、クスマンは苛立たし気に声を掛ける。官吏はそれに怯えつつも、声を振り絞るように進言した。

 

「お、表に……城の表に……『ドムス君主国』のあ、『アルトリア姫君』の御一行が御到着為されておられます」

 

「はぁ?」

 

 クスマンはその官吏の言葉に思わず素っ頓狂な声を上げるも、すぐに冷静になって官吏へと言い放った。

 

「なんでこの時期に、あんな遠方の大国ドムスから姫がわざわざ来るってんだよ。そんなわけねえだろうが。そんないい加減な戯言に踊らされてるってなら、てめえの首も刎ね飛ばしちまうぞ」

 

「ひ、ひぃっ!!」

 

 管理はあまりの恐怖に腰が抜け、その場に崩れ落ちそうになるも、なんとかそれに耐えて更なる情報を皇子へと伝えた。

 

「そ、それが……姫付きの筆頭騎士を名乗る長身の女性騎士の言葉に寄りますと、『今回婚姻することになられた姫君が禊の為に神教聖地への礼拝に赴く旨の報せを、半年以上前から何度も送っているにも関わらず、なんの返事もないとは何事か! ことと場合によってエルタニア王国へドムスの国威を見せねばならぬ!!』と、そう語気も荒く宣言いたしまして、そ、そして彼らは200騎からなる、あ、あの『重装歩兵』を伴って、す、すでに王城前で隊列を組んでいるのであります!!」

 

「なんだと!!」

 

 流石のクスマンもこの言には驚愕した。

 なにしろドムスが誇る『重装歩兵』といえば、この大陸において最強を誇る陸上兵団の代名詞でもあったのだから。

 魔導金属(ミスリル)超硬度金属(アダマンタイト)の二つを融合させたそのフルプレートメイルは、それ自体が強化魔法の術式を付与されたマジックアイテムであり、上位魔法を用いても傷をつけることは不可能。さらに、その重装歩兵に選ばれた兵それ自体が、魔法薬物によって強化された強化人間(ブーステッドヒューマン)であり、レベル30相当の身体能力、反射神経を持ち、様々な剣術、槍術、魔術を操り、そして死に瀕するような痛みにも耐えられる、まさに戦う為だけに特化された兵なのであった。

 そのような怪物を引き連れた存在が、すぐ目と鼻の先にいると?

 俄には信じがたいことではあったが、クスマンはそれを確認しようと慌ててバルコニーの戸を開き、そしてそこで竜車を取り囲むように整列したあの重装歩兵の姿を確認してしまった。

 

「ちっ」

 

 思わず舌打ちした彼は、背後で慌てる官吏へと怒鳴る。

 

「兄者はどうしたんだ!? なんと言ってる?」

 

 そのあまりの剣幕に及び腰になった官吏が震える声で答えた。

 

「そ、それが……エドワルド様は数刻前に打ち合わせの為に他領へと赴かれたご様子でございまして……で、ですからワタクシめはクスマン様にご一報をと……」

 

「ちいっ!!」

 

 再び舌打ちしたクスマンのそのいかめしい形相に官吏はいよいよ震え上がった。

 だが、そんな様子はすでにクスマンの目には入っていない。

 彼にとってこの王国のことなどすでにどうでも良いことであった。本来であれば、もうすでに国を出ているはずであったのだから。しかし今はまずかった。

 どのような状況であるにしろ、今の自分の立場はこの国の代表者の一人。ここで何か失態を侵せば、それこそ自分の身の破滅に繋がりかねない。

 しかもその相手があの東の大国ドムスであれば、もうただの冗談ではすまない。

 クスマン達を庇護下に置く大陸最大の大国ジルゴニア帝国をもってしても、強力な軍事国家であるドムスとは事を荒立てることはできないのである。戦えば双方が滅ぶことさえありえる、それくらいの相手なのである。

 それを思い、冷や汗を流したクスマンではあったが、ここで少し冷静さを取り戻した。

 確かに神教の信徒……特に王族での話を持ち出せば、結婚の儀の際にこの聖地エルタバーナへと来訪し禊をする習慣は確かに大昔からあった。

 それに相手の言い分はあくまでこちらが礼を欠いたことについてのものだけ。送った報せの返事がないままに月日が流れたことでこのような態度に出ているのだ。

 ここ最近のことでいえば、国内各地で確かに『異変』は起きていたのだし、その報せを持った使者というのも、その異変に巻き込まれて『いなくなって』しまったとも考えられる。

 いずれにしても、内容としては大したことではないことだけは確かだと思い至った。

 

「そうか……なら……」

 

 クスマンはそれほど慌てるようなことではなかったと理解し、安堵すると同時に官吏へと伝えた。

 

「おい、ではこうそいつらへ伝えろ。『国王が病に伏せっているため、対応が遅れたことを深くお詫びする。病床ではあるが、国王自らが姫君への面会を希望する』。以上だ。すぐに国王と客たちへこの旨を伝えて謁見の準備をしろ」

 

「は、はい!! わ、分かりました。で、でも宜しいのですか? 国王陛下は相当にお弱りになられてお出でですが」

 

 そう問われクスマンははんっと鼻で笑った。

 

「いいんだよあのじじいは。目上の客が来れば具合の善し悪しなんて関係なく自分から動くに決まってるからよ。それよりも……」

 

 クスマンは今度はにやりと笑って官吏へと顔を近づけた。

 

「その長身の女騎士って奴は美人かよ?」

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