救世ノラヴドール~俺とセクサロイドの気ままな旅~   作:こもれび

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第二十話 アルトリア王女殿下

「アルトリア王女殿下の、おなぁりぃ~~」

 

 その掛け声とともに王城の重厚な門扉が解放される。そして内堀に架けられた巨大な跳ね橋の上を、幾人かの従者を引き連れて悠々と渡っているのは、白銀のドレスに身を包んだ美しい女性。亜麻色の髪を頭頂部で結いあげ櫛を差し、楚々とした振る舞いのままに進むその姿に、見つめる人々はほぅっと溜息をついていた。

 しかし、彼らの心を虜にしたのはそれだけではなかった。白銀の君が引き連れている3人の亜人と思しき従者達もまた、見目麗しい存在であった。

 一人は頭に大きな帽子を被った、世話係と思しき小柄な金髪の少女。大きな愛らしい瞳の美少女であった。

 一人は美しい赤髪で丸眼鏡を掛け、手に分厚い書物を抱えた知的な美人。美しい文官であった。

 そしてもう一人は長身の女性剣士。碧髪に、髪の色に合わせたかのような若草色の軽鎧に身を包み、腰に使い込まれたレイピアを帯びた凛々しいその姿に、男性のみならず女性達もまた黄色い歓声をあげていたほどであった。

 そんな一行の背後、跳ね橋前の広場にも、別の意味で人々の視線を釘付けにする存在があった。それは女性たちの美しさとは対極の存在。鈍色に煌めく無骨な甲冑たちがそこに整然と整列しているのである。その数200。

 その手には長大な斧が握られ、全員がそれを宙へと掲げているのだ。

 まるで時を止めたように微動だにしない彼らのその様子に、見ている者達は強烈な圧迫感を得ていた。

 見守る彼はそこにある存在のことを理解していた。

 

『ドムス重装歩兵部隊』

 

 直接見たことが無いにしてもその噂だけは誰もが聞いたことがあった。

 その名前は大陸全土に轟いているといっても過言ではなく、また同時に彼らに纏わる説話の数々も知らない者はなかった。

 彼らは別名、『死神』とも呼ばれていたのだから。

 どこの戦場であっても、彼らが敗れることは決してなかった。

 出会ったが最後、戦うことになってしまった相手は、必ずその命を散らすことになる。

 彼らこそ、軍事国家ドムスが誇る、まさにこのアトランディア大陸最強を欲しいままにした精鋭中の精鋭なのである。

 ある意味そのような戦闘部隊と出会えたことは、絶世の美女とも言える異国の姫君との邂逅よりも衝撃的な出来事であったのかもしれない。

 こうしてここエルタニア王国王都エルタバーナにおいて、大陸第二位でもある軍事国家最強部隊のお披露目が図らずも行われることとなった。

 

 さて、そのような民衆の喧騒の中、王城へと進んだ姫一行は、数人の大臣によって出迎えられ、そして国王の待つ謁見の間へと案内される。

 そしてその部屋へと入れば、そこには正装で床に傅く国王アレクレスト・エルタニアの姿が。

 病床にあり、死期も近いのではと噂された国王のそれではなかった。精悍な顔付きのままに礼をする彼の姿からはとても病に冒されているとは想像することはできなかったのだから。

 彼は片膝を着き、丁重に王女を上座へと誘うも、王女はそれを固辞し、そして口を開いた。

 

「丁重なもてなし、痛み入ります。アレクレスト・エルタニア国王陛下。この度は当方の使者に不手際があったにも関わらず、このように我が身を受け容れて頂けたこと、まことに感謝いたします」

 

「勿体なきお言葉にございます、王女殿下。ところで……この老骨、幾度かドムス国王陛下にお目通りさせていただきましたことがございますが、アルトリア王女殿下のお話をついぞ伺ったことがございませんでした。大変ご無礼かと存じますが、王女殿下の御母上様のお名前だけでもお聞かせいただけないでしょうか? いえ、私の無知を恥じての御尋ねにございます。ご婚礼なされるという慶事にあって知らないであっては、聖地を預かる国王として最大の恥にございますゆえ」

 

「え? えっと……こほん」

 

 そう問われた王女は背中をピンと伸ばすと、その怜悧な瞳をそっと開き、跪くエルタニア王をまっすぐ見つめて一言で言い切った。

 

「バネットです」

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