救世ノラヴドール~俺とセクサロイドの気ままな旅~   作:こもれび

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第三十二話 ノロイ

 いったいあのステータスはなんだ……

 と、そう不思議に思っていたら、フードの男ゲッコーが徐に俺へと視線を向けてきた。

 

「……【鑑定眼】……を使用したか……、貴様……」

 

「は? ちげーよ」

 

 まったく違う。俺が使ったのは『解析(ホーリー・アナライズ)』だしな。それにしても良くわかったな、まるっきりの戦士タイプだと思ったけど、意外と体内のマナのコントロールにも精通しているのか。

解析(ホーリー・アナライズ)』の魔法は、相手のマナに触れて、それを変質させることで使用者の脳へとデータを送らせる通信魔法の一種だ。当然マナが動くわけだから、気が付く奴が当然気が付く。

 だけど、こいついったい何を勘違いしていやがるのか、前にも誰だかが鑑定眼がどうのこうのと言っていたけどな、そんなスキル俺は持ってねえし、そもそも魔法で事足りるんだからそんなの気にすることもないだろうに。

 

「……やはり……貴様が【勇者】……」

 

「だから、ちげーって……」

 

 そんな俺の言葉にはお構いなしに、この野郎、おっさんの剣を跳ね上げてから、一気に俺へと躍りかかってきやがった。

 あまりの速さに、ハシュマルのおっさんも即応できず、剣を払いあげられた格好でこっちへと視線だけを向けてきていた。

 

「お兄様!! 御下がりくださいまし!!」

 

 言うや否や、オーユゥーンが俺を突き飛ばす。

 そして、レイピアを正面に構えて、ゲッコーへと高速の突きを繰り出した。

 いや、だめだろ、それはいくらなんでも。

 オーユゥーンのレベルは25。確かに、その辺の冒険者と比べたって相当に強いわけだが、こいつのレベルは60オーバーだ。ダブルスコアでも届きやしない。

 この世界の身体能力は訓練の上に少しづつ上乗せされていく普通のそれではない。

 レベルが一つ上がるごとに、その筋力や瞬発性などが格段に跳ね上がるのだ。

 そんな中でのこのレベル差。

 もはや、アリと象ほどの差がそこにあるのだ。

 

「ふっ……」

 

 息を吸って高速で突き入れるオーユゥーンに対し、ゲッコーはそれをすり抜け残像が残るほどの速度で剣を振るった。

 

「……ノロマめ……」

 

 その刹那、俺は全身を切り刻まれ倒れ伏すオーユゥーンの姿を幻視した。

 それは当然だろう。だって、こいつ滅茶苦茶強いもの。

 あー、

 準備しておいて良かったぜ。

 

「ぬ……」

 

 オーユゥーンへと剣を振り下ろしたその瞬間、ゲッコーはあり得ない角度で上方へと逃れた。

 おお、こいつなかなか良い感してやがるぜ。

 奴が居たその足元……

 そこには当然俺が仕掛けた、『泥の地面』と、『土の手』が生えてきていた。

 もう一歩踏み込んだ瞬間、そのタイミングに合わせて展開した泥に足を取られると同時に、両脇から生やした4つの土の手で奴をわしづかみにして、後は殴る蹴るの暴行を加えようとか思っていたのだが……

 おっと、まだ終わりじゃないぜ。

 飛び上がった奴へと、今度は室内のあちこちから、超高速で土の針を打ち出した。

 それらは奴を追尾するかのように四方八方から奴の身体を抉る勢いで襲い掛からせる。

 

「……むぅ……土魔法……か」

 

 その通り、俺お得意の土魔法だ。

 なにしろ、俺には無限に土のマナを供給してくれる、女神っぽい奴を宿したヴィエッタが仲間にいるのだ。

 これを有効に使わない手はない。

 だが……

 

「紋次郎? もう少し強めに揉んでいいんだよ?」

 

「だから揉んでねえから」

 

 俺は、俺の左側に身体を凭れかけさせているヴィエッタの左乳に、なんというか手を当てるというか添わせるというか、触れないぎりぎりのところに手を翳しているわけだが、そこにヴィエッタがウリウリと自分の胸を押し当てて来やがる。

 はっきりいって、名誉棄損だ。俺は揉んでねえ。

 くそ、魔法を使うたびにおっぱい触らせようとかしているあのくそオナ女神め。今度全身拘束してどっかの狭いところに放り込んで、もう手出しできねえようにしてやるぞ。

 あれ? なんか急に身体に流れ込んでくるマナの量が増えたような……ま、気のせいか。

 

 俺はもう遠慮なく土の槍を射出し続けた。

 これはもう弾幕ゲームの様相だ。逃れる術はないはずだった。

 だが……

 

「くそ……全然当たらねえ」

 

 奴は高速のその土の槍のことごとくを躱し続けた。躱してそして、すでに射出され終わった槍をへし折りつつ、こちらへと少しづつ近づいてきやがるし。

 そう、槍と言ったところで結局は土だ。

 魔法の効力で硬さを維持するのはほんの一時だけ。

 奴はそれの効果の切れるタイミングも計っているようで、折れるようになった瞬間を狙って槍衾をかいくぐり続けた。

 

「お兄さん、ここは退こうよ。兵隊さんたちもみんなもう下がってるよ」

 

 そうシオンに言われ、俺も少し後退してみたが、いかんせん相手が元気な上に速すぎる。逃げようにも、油断が無さ過ぎて今の体勢を変えることが出来なかった。

 奴はじりじりと距離を詰めてくる。

 

「シオン、マコ。俺とヴィエッタは良いから、早いとこオーユゥーン連れてと後ろに下がれ」

 

「で、でも……」

 

「早くしろ、じゃないとオーユゥーンのやつが……」

 

 言いつつチラリとオーユゥーンを見る。

 こいつ実はさっきからまったく動こうとしていやがらねえ。

 土魔法をぶっぱなそうにも、オーユゥーンが邪魔でじつは結構気を使って避けていたわけなんだが……。

 何があったんだ? と気になって顔を覗きこんでみれば、奴にしてみては珍しくも顔を真っ赤にしてまるで鬼のような形相で震えていやがった。

 こ、こいつ……なんでこんな時にこんなんになってんだよ。

 

「お、おい、オーユゥーン? 無理しねえでいったん退けよ」

 

「よくも……」

 

「は?」

 

 オーユゥーンが突然顔を上げて奴へと叫んだ。

 

「よくもワタクシに『ノロマ』などと……牛人(タウレリアン)は決してノロマなどではありませんわ!」

 

「はい?」

 

 突然のオーユゥーンの激昂に思わず変な声がでちまった。というか、なに? ノロマ? 

 それがなんだってんだ?

 別にオーユゥーンはノロマでもなんでもないし、むしろ相当速い部類だろう、実際に。

 だというのに、なんでいきなりブチキレゃってんだよ。

 

「な、なあ、オーユゥーン」

 

「絶対に許しませんわ!」

 

 ひぃっ!

 あまりの剣幕に思わず俺の方がびびっちまった。

 というか俺の背後に近づいたシオンとマコが慌てて口を開いた。

 

「わわわ、オーユゥーン姉のスイッチ入っちゃったみたい! こうなっちゃうとわたし達じゃどうしようもないよ」

「はあ? スイッチだぁ」

「そうだよ、クソお兄ちゃん! オーユゥーン姉の種族の牛人の人達って、基本結構のんびりしているというか、おっとりとしているというかで、動きがノロ……」

 

 瞬間、オーユゥーンの方からとんでもない殺気が放たれたような感じがして、マコは真っ青になって小さな悲鳴をあげる。

 それを見て、シオンが続けた。

 

「お、おしとやかな人が多いんだよ、牛人って! でね。オーユゥーン姉はそのせいで嫌な思いもたくさんしたんだって。だから、あんな風に直接いわれると、一気にヒートアップしちゃって」

 

「そ、そうか……」

 

 オーユゥーンなりのコンプレックスをつつかれたってわけね。こいつ、なんでもそつなくこなすから、特に何もないのかと思っていたけど、そんな訳なかったか。

 誰だって、思い出したくもない嫌な思いでのひとつや二つあるもんだものな。

 俺なんか、今までの人生すべて白紙にしたいくらいなんだけど。

 

「だけどよ、今のはちょっと違わないか? あいつめちゃくちゃ強いからな。圧倒的に強い相手になに言われたってしかたねえだろう」

 

 そう言ってみたのだが、シオンは真っ青になって首を横に振った。

 

「前にオーユゥーン姉を買ったレベル40の上級冒険者が、服をゆっくり脱ぐオーユゥーン姉を見て、『やっぱり牛人はゆっくりッスねー』とか言った直後、両手両足切断された上に、口で紐をくわえさせられたままで4階の窓から吊るされちゃったの、オーユゥーン姉に。あのとき、もうちょっと発見が遅かったらあの人間違いなく死んでたんだよね。オーユゥーン姉怒るとホントに怖いんだよ」

 

「おい、その冒険者、ヨザクって名前だろ」

 

 シオンはなぜか黙ったまま、にんまりと……。

 ああ、さいですか。

 俺は……

 こんなことしながらも、ヴィエッタのおっぱいからマナを吸い上げつつ、奴へと土魔法を放ち続けていた。

 ほんとなんなんだ、このシチュエーションは。

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