救世ノラヴドール~俺とセクサロイドの気ままな旅~ 作:こもれび
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名前:ゲッコー
種族:ヒューマン(神化)
Lv:65
体力:320
知力:220
恩恵:
属性:なし
スキル:自己再生、魔力感知、HP自動回復、
魔法:
体力:255
知力:240
速力:270
守力:210
運:91
名声:150
魔力:1,999
経験値:40,000
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俺は脱出の間際に確認した、ゲッコーのステータスを、激しく揺れつつ疾走する竜車の荷台で思い出していた。
やはりとんでもないアビリティー数値で、特に魔力が半端ではない。
この数値は上級魔術師である、緋竜の爪のシャロンの数値を大きく上回るもの。
それも、単なるレベル差ではありえない値で、桁が一つ違うほど。
どう見ても武闘派脳筋な見た目だったのだが、この理由はひとつしかないだろう。
まさか、ここでこの名前を拝むことになるとは。
恩恵は精霊や神様の特権かとも思っていたのだが、どうやらそうではなかったらしい。
賢者と言えば、大昔の魔竜戦争で活躍した五英雄の一人であったはずだし、あの痴女……じゃなかったか、神を辞めた元精霊神、オルガナも口にしていた。
しかも俺をその賢者と間違えていやがったしな。
あの時は、賢者なんて大昔にいた魔法使いの一人くらいの認識だったけど、どうやらこの現在にも影響力を持って存在しているのは間違いなさそうだ。
そいつがあのゲッコーに力を与えていた。
そう考えるのが自然だし、奴が持っているあの魔法、
というか、この世界、
火魔法や光魔法にも単属性の爆発系魔法がある上に、あの青じじいも使っていた属性複合のとんでもない魔法も存在している。威力だけなら青じじいが最強かもしれないけどな。
まったく、爆発狂ばっかりなんだな、この世界は。どんだけ爆発好きなんだよ、まったく。
それにしても
オルガナの話しぶりからして、彼女とは敵対関係にあるようだけれど、この大陸の人類を救った五英雄でもあるし、そもそも同一人物なのか? 確かヒューマンだったわけだが。
普通の人間が300年以上生きられるわけがないのだけどな。
どんな再生医療を施したところでせいぜい150年が限界で脳細胞の全てが自壊するし、脳細胞の全てを電子頭脳に置き換えたとしても、今度は代謝不全からの思考演算暴走で人格は崩壊する。
人の脳の機械化は何百年も研究されているが、これは多分永遠に成功することはあるまい。というかしても禄なことにはならないだろうしな。
人間の意識は肉体に依存している故に、肉体から切り離されればやはり死ぬということなのだ。どんな強靭な意思の持ち主であっても、機械の中で肉体と同様の意識を保つことが出来た者はいままで一人としていなかったし。そりゃそうだろう。
人間なんて裏も表もあって、良いことも悪いこともひっくるめて上手く頭の中で妥協しながら自分で納得しながら日々生きているのだ。
聖人君子みたいな奴でも、鼻をほじったり、股を掻いたり、人に言えないような癖の一つや二つあるわけで、機械化された途端にその恥と折り合いをつけられなくなるのは自明の理。なにしろ全部が明るみに出る上に、不都合だと削除しようとすると、そいつのアイデンティティの大半が消滅してしまうことにもなるからな。
ほんと、自分の脳みその中を全てを明らかにされるなんて、耐えるかどうか以前に、軽く死ねる。
そうまでして長生きしたいとか、ほんと正気を疑うよ、俺は。
まあ、チャレンジした無謀者は何百万人もいたわけだけどな。永遠の命とか、マジでバカばっかりだよ。
おっと逸れまくったな。
つまりは普通の人間がそんなに長生きできるわけがないということだ。
ただし、この世界には長寿の人種もいる。
エルフやドワーフなんかは数百年から数千年、それ以上生きるというのだからもはや俺の常識は通じないのかもしれないわけで、その賢者ってやつも、実はエルフが人間のコスプレをしていただけとすれば簡単な話なんだが、もしそうならよほどそいつは捻くれているってことか。
ううむ。
「紋次郎ってば!!」
「おわぁっ! な、なんだ!?」
耳元で大声で名前を呼ばれて心臓が飛び出すんじゃないかってくらい驚いた。
声の主はヴィエッタだが、何もいきなりこんな大声で叫ばなくても。
「もう、さっきから何度も呼んでいるのに、なんで返事してくれないの? 無視しないでよ」
「はあ? 何度も」
「うん、何度も」
ちょっと怒った感じのヴィエッタの顔、なんだよ初めて見たな。
どうやら思案に集中しすぎてまったく聞いていなかったようだな、俺は。
揺れる竜車の中には、目の前にヴィエッタとその向こうにオーユゥーン達、それとハシュマルその他の騎士連中が大勢乗っている。
この竜車ってやつは本当にデカイからな、小型の貨物船の格納庫くらいの広さはあるから、こんなに乗っていてもまだスペースがあるのだ。すげえな竜。
「悪い、少し考え事してたんだよ」
「少し? 全然少しじゃなさそうだったけど?」
「そうか? まあいいじゃねえか。で? なんだって?」
そう促して見れば、ヴィエッタは背後を一度振り向いてから言った。
「ええと、だからさっきからみんなで話していたことだよ。さっきのゲッコーっていう人のことと、王様のこと。ハシュマルさんが聞きたいって言ってるじゃん」
当然だがそんなこと知らない。だって聞いてなかったからな。まあ、それは俺の都合か。
「そうかよ。ええと、まず王様のことだが……」
「あ、その前にね、ウーゴくんが謝りたいんだって」
「ウーゴ?」
誰だっけ?
とか思っていたら、俺の前に歩み出てきたのはアレックスと一緒にいた男の子の一人。
彼は目を伏せたままで泣きそうな顔で立っていた。
その隣には目を釣り上げたもう一人の男の子の姿。
ほらさっさと言えと背中をばんばん叩いているわけだが、おいおい、そんなことされたら余計何も喋れなくなるんじゃねえか?
ウーゴくんはおずおずと口を開いた。
「え、ええと……その、ご、ごめんなさい。ぼ、僕……」
ウーゴは口ごもっているが一応謝罪をした。
そういえばこの子って何をしたんだっけか? はて。
思い出そうとしていたところで彼が続けた。
「僕、あの隠れ家のことを言わなければ教会のみんなを殺すって脅されてたんだ。だから仕方なくて……」
いよいよウーゴくんは目に大粒の涙を溢れさせてしまったわけだが、ああ、そういうことだったか。
俺は一度ハシュマルを見て、何も反応していないのを確認してからウーゴくんへと言った。
「あのな、別に気にすんなそんなこと。アジトがバレたのはあのおっさんたちが隠すのが下手だったからだよ。お前のチクリ一つで潰れるようなら、大した集団じゃなかったってことだよ」
「なんだとっ!!」
「貴様、我らを愚弄するのか!!」
何人かの騎士が剣の柄を握り込みながらバンと立ち上がったが、当然の様にハシュマルがそれを抑えた。
「やめろ。大したことを言われたわけではない。それに言われても仕方なかろう。現に我らはまだ民衆を救えてはいない」
「くっ……」
「し、しかしっ!!」
まだ息巻いている兵士に向かってハシュマルはひらひらと手を振ってみせ、そしてこの話はもう終わりだと宣言した。
ウーゴ君はといえば泣きながら何度もごめんなさいを連呼していたわけだが、それをシオンがよしよしと頭をなでてアヤしていた。
さすが大家族出のコボルティアン。子供の扱いマジうまいな。
っていうか、お姉さんスキルだよなそれ。ちょっとショタとか入ってないよな。健全な子供をそっちへ引きずり込むなよな。
シオンは、ん? と無邪気な微笑みを俺に向けたあと、隅っこの方へとウーゴくんともう一人の子供、ナツを引っ張っていった。
うーん、心配だぜ。
「さてと大将。確か……もんじろうとかって言ったな? あんたにはまだ詳しく聞いていなかったから教えてほしいんだが、国王陛下は本当にあんたが救い出したんだよな。ご無事でおられるんだな?」
そう淡々と切り出したハシュマルに、俺は一つ頷いて見せた。
「ああ、本当だよ。どうせ聞いているんだろうが、アレックスたちの孤児院というか教会に放り込んでおいたよ。まあ、王様だってことは言っていないんだが、具合の悪いジジイって扱いで看病してもらっているだろう」
「おのれ貴様、陛下に対してなんという無礼!! そこへなおれ!!」
またさっきの兵士がそう吠えたが、ハシュマルは今回も涼しい顔だ。
「かまわん。今は平時ではない。陛下のご無事を確認するほうが先決だ。もっとも、貴殿がアレックス殿下のもとに陛下をお連れになったのは僥倖だった」
「は? 僥倖? なんでだよ」
俺がそう尋ねれば、ハシュマルはニヤリと笑った。
「あの孤児院は俺が殿下を匿うために偽装して作った施設でな。 中にいる修道士たちはすべてこの俺の部下よ」
「へえ」
きちんと確認したわけではなかったが、そういうことならほぼ安心だろう。
まさか、知らぬ間に王様の世話をしていたとこなったら、後で相当驚きそうだけどな。虐待とかしてなきゃいいけど。ま、ニムもいるし平気だろ。
ハシュマルは俺を見て笑った。
「そういうわけだからな。このあと陛下をお迎えしてから一気に行動に移る」
「行動? つまり王都の奪還……ってやつか?」
俺の言にハシュマルは大きく頷いた。
「陛下と殿下の御身、御旗は我が方にある。そして潜伏した約3万の部下たちの戦の準備もほぼ完了した。となれば、後は売国の逆賊、エドワルド、クスマン両殿下を討ち滅ぼし、この神聖エルタニア皇国を再び蘇らせるのみ!!」
「「「「おおっ!!!」」」」
「うおっ!?」
ハシュマルの檄に呼応して周囲の連中まで一斉に声を上げたせいで、俺はひっくり返りそうになったところをヴィエッタに支えられた。
というか、ヴィエッタやオーユゥーンたちもその威勢にちょっと引き気味だ。
俺はハシュマルへと向き直した。
「つまり……このまま戦争……するのか? その……アレックスの兄貴たちと」
その俺の言葉に、ハシュマルは一瞬目を細めた。
だが、特に動揺も見せないままに静かに言った。
「アレックス殿下もお覚悟の上の話だ。殿下は両兄殿下のみならず、陛下のお命の犠牲もやむなしとまでご決意なされていた。我ら忠臣はただ君主たるアレックス殿下をお支えするのみ。それこそがこの国を守る唯一の方法なのだからな」
そう言い切ったハシュマルの瞳にはまったく動揺の気配はない。これは彼らにとってはすでに決定事項であるのだろう。
アレックスを立てて、この国を救う。
この大義は何よりも優先すべき事項なのだ、彼らにとって。
このためだけに心血を注いできたのだろうし、きっと賛同する多くの人々の気持ちも、これ以外に救われる道はないとハシュマルと同様に、結論に達してしまっているのだろう。
だが……
これは悪手だ。
もし何か手違いが生じれば、たちまちに計画は瓦解し、再起は不可能、絶望的だ。
それも分かった上での決定なのだろうけどな、関わるのは、その三万人の兵士と巻き込まれるこの国の数十万の国民……
おいそれと捨ててしまっていい人数ではない。
それは、この前オルガナが言っていたように世界が滅亡するとしてもだ。
一か八かで全員死なせて良いわけがないのだ。
「おいお前ら、ちょっと待てよ……」
一つ考え直させようと俺は声を掛けようとしたとき、大きな振動とともに竜車が止まる。
振られてよろめいた俺は、見事にオーユゥーンとヴィエッタに抱き止められたわけだけど、くっそ、こいつら平気そうにしやがって。よろめいた俺がバカみたいじゃないか。
「もんじろうよ、さあ着いた。我々の指導者に合わせよう」
ハシュマルが巨大な竜車の扉を押し上げつつ跳ね上げると、俺を振り向いてそう言った。
「指導者?」
「ああ、我々を導いてくださる偉大な予言者だ」
ただそれだけ言ってさっさと竜車を降りるハシュマル達。
俺達もその後に続いたわけだけど、なんとなくそこに居るやつのことは察しがついてしまって、それも次の瞬間には現実のものになった。
竜車のタラップを降りた先、そこには一人のフーデッドローブ姿の女性が立っていて、俺を見た瞬間に凍り付いてしまった。
やっぱりおめえかよ。
「なっ! なっ! なんであなた達がここにくるの?」
「よおオルガナ、久し……くねえな、少しぶり」
口をあわあわと開閉しているオルガナは完全に驚愕しているわけだが、こいつ本当に元女神か? もう少し威厳だしとけよな、ただでなくても背が低いんだから。
「なんだ、もんじろう殿はオルガナ様とお知り合いでしたか。これは奇遇」
「いや、お知り合いというか、俺の知り合いの知り合いという程度なんだけどな」
ノルヴァニアの友達だしな、まあ知り合いと言えなくもないということでいいな。
そう思うことにしてふと見上げてみれば、どこかで見たような巨大な石の建造物が。あれ? これ最近見たな。しかも何度も。
とか、そう思っていたところに、なんとなく予感していた奴の声が聞こえてきた。
「おやおや、これは皆さまでございましたか。またお会いできて嬉しいです」
そう柔らかい声を掛けてきたのは、青い衣装のイケメン。
「ヒューリウスさんかよ。ここはアマルカン修道院だったか」
「ああ、そういうことだ」
俺のつぶやきにハシュマルがそう返す。
そして、部下たちに声を張り上げて、二言三言何かを命じると、再び俺を見た。
「潜伏している我々の支援を申し出てくれたのが、このカリギュリウム系神教のヒューリウス殿たちだった。ヒューリウス殿たちは反逆の罪を覚悟の上で協力してくれていたわけだ。だからな、俺達はなんとしてでも王都を奪還してこの国を建て直さなくてはな」
そう語気を強めるハシュマルに俺はため息が出る思いだった。
こいつはもう少し冷静そうなおっさんに見えていたんだが、どうやらもう走り出して止まれなくなっちまってるようだ。
列車なんかで良く例えられることだが、大量の荷物を積んで走り出した貨車ほど、止めることは困難になる。
もはや勢いだけで突っ張りし続けて、障害物だろうが、線路がなくなっていようが、そのまま突っ込むことになるわけだ。
まさに今ハシュマル将軍はその大量の荷物を引っ張って走り出した状態に違いない。
これはまずそうだな。
だから俺は、さきほど言いそびれた俺の考えをハシュマルへと伝えようとしたわけだが……
「あのよう、ハシュマルのおっさん。ちょっと俺は思うんだが……」
「あれあれあれ? なんだご主人もここにきてたんでやすか。これは探す手間が省けましたよ」
「は?」
聞きなれた声がして振り向けば……
修道院の表の大階段に、力なくだらんとして動かなくなった大男を肩に担いだニムと、その脇で真っ青に疲れ切った顔をしているアレックス君。それと、修道士姿の男性に担がれたやせ細った王様の姿があった。
他にも、修道女やら子供たちやらもわらわらといたわけだが。
「クスマンとかっていう子供狙いの変質者が来たんで、ボコっておきましたよ。どうぞ褒めてくれていいっすよ」
と、あっけらかんというニム。
ううんと唸った大男の頭は垂れ下がっていて、ニムが階段を昇るたびに、ガンガンと石段に額が打ち付けられているわけなんだが。
おい、それ皇子……
ちらと見れば、ハシュマルとオルガナ、ついでにあくまで笑顔ではあったけど、ヒューリウスの顔がひくひくと痙攣していたのだった。