救世ノラヴドール~俺とセクサロイドの気ままな旅~   作:こもれび

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第三十五話 事件が起きている会議室(前編)

 急に現れたニム達一行に、騎士連中をはじめとした多くがあ然としてきたわけだが、最初に冷静に動いたのはハシュマルだった。

 将軍はすぐにヒューリウスへと部屋の準備を依頼すると、他の部下へもテキパキと指示を出して、王様やアレックス君達へと、修道院内に入るようにと促した。

 その際、王様を背負っていた男にも何やら耳打ちしていたが、直後男がカチコチに固まってしまったことからして、真実を教えられちゃったか。

 ご愁傷さま、同情するよ。

 

「もんじろう殿も同行願おうか」

 

 そうハシュマルに言われ、まあそうなるわなと、俺は頭を掻いた。

 

「分かった。俺もいく。だけどその前にだ、お前ら先走って戦のの準備しているみたいだけど、それはやめとけ。少なくとも、話し合いが終るまでは」

 

 それにハシュマルは怪訝な顔をした。

 すでに準備は終わっているのは分かっているが、先走ることだけは止めなくてはな。

 どうもこいつらは重大な勘違いをしているようだし。

 

 ハシュマルは一度王様の方を向いてから、思案気な眼差しのままに俺を見て言った。

 

「そうだな。事態は急変しているからな。作戦の再確認というわけだな」

 

「うん……? まあ、それでいいや」

 

 俺が適当にそう答えるとハシュマルはまたもや部下たちへと何かしらを告げる。とりあえず先走って動くなとでも伝えたのだろう、先に立って修道院内に入って行った。

 

「じゃあご主人、ワッチらも行きましょう」

 

 とんとんと俺をつついてきたニムの肩には、相変わらずぐったりとなっているデカいクスマン皇子の姿が。

 身体をくの字に折っているのだけど、だらんとした腕と足のつまさきが地面にほぼ着いてしまっている。

 身長2mくらいはあるんではなかろうか、マジでデカい。

 

「お前な、いくらなんでもその扱いひどすぎないか?」

 

「え? 別にいいんじゃないっすか? この人いきなりワッチのおっぱい揉もうとしてきたんすよ? まだご主人にもあんまり揉んでもらったことないですのにムカツクじゃないっすか」

 

「いや、あんまりも何も、揉もうと思って揉んだことねえだろうが」

 

「じゃあ、今から揉みましょうか!! ヴィエッタさんとかオーユゥーンさんとかばっかりずるいっすもん!」

 

 と言いつつ胸を逸らして迫ってくるニム。

 

「や、やめろよ。俺をおっぱい好きの痴漢みたいに言うんじゃねえ」

 

「違うんすか!!」

 

「なんでそこで、そんな驚愕しました!! みたいな顔をするんだよ!! ちげーよ。俺は紳士だよ常に」

 

「つまりいつも先に放出して賢者タイム持続ってことっすよね‼ わかります!! おかずの提供はいつでもしますから遠慮しないでくださいね!」

 

 開いている手をギュッと握って俺へと熱い視線を向けてくるニム。いったい何を言いやがるんだこいつは。

 

「さっきより酷くなってんじゃねえか! ああ、もういいや! さっさといくぞ」

 

「へーい」

 

 俺は、オーユゥーン達に少し待っている様にと告げた後で、気のない返事をしたニムをともなって神殿内へと入った。

 

 

   ×   ×   ×

 

 

「陛下、部下に動揺させまいとしたことであったとはいえ、陛下への非礼、なにとぞお許しください」

 

 その円形の部屋へと入ると同時に、ハシュマルとその部下達が一斉に跪いて、王様へと頭を垂れた。

 そうされた王様はといえば、先に入っていたヒューリウスが用意した赤い椅子へと腰を下ろし、背筋を伸ばしたまま彼らを睥睨していた。

 これだけを見れば、とても具合の悪いとは思えないのだが、実際は歩くことすら覚束ないほどに衰弱しているのだ。気力がとんでもないとしか言いようが無い。

 

「貴公は確か、カーゴロード伯の……」

 

「はっ!! カーゴロード伯爵領私兵団団長、ハシュマル・グリーンヒルにございます。おみしり頂き恐悦至極」

 

「いや、かしこまらずとも良い。私は今、なんの身分もないただの老人ということになっておるようだしな」

 

 と、言ってちらりと俺を見る王様。

 その瞬間、ハシュマルがとんでもない殺気の籠った目で俺を睨んできたのだが、いやいや、そんな目で見るんじゃねえよ。俺だって好き好んでこの王様を拉致したわけではないんだから。

 そう冷や汗を掻いた俺のことを思ってかどうか、王様は口を開いた。

 

「それに、今の貴公らの君主は、アレックスであろう。ならば、私になんの気をつかう必要もない」

 

「しかし……」

 

「もうそいつに関わらなくていいよ、将軍」

 

「殿下!! いや、それでは……」

 

 畏まって口ごもるハシュマルに冷たく言い放ったのはアレックス君だった。彼は、目を細めて王様を一瞥だけしてぷいと顔をそむけた。

 おいおい、なんだその反応は?

 お前、王様の子供じゃねえのか? 

 パパン、会えてうれしいよじゃねえのかよ。

 そう思っていたら、ニムがこしょこしょと耳打ちしてきた。

 

「ご主人。どうもアレックスさんと国王様には何か確執があるみたいですよ」

 

「どんな確執だよ」

 

「さあ? それはワッチもしりませんけど」

 

「理由が解んなきゃ意味ねえじゃねえか」

 

「いやそうはいいますけどね? ご主人が出てすぐにそこの変質者が壁壊して飛び込んできたんですよ? 何もお話しする時間もなかったんですから多めに見てくださいよ」

 

 と、親指でくいと、部屋の隅にひもでグルグル巻きのまま転がしてあるクスマン第二皇子を指さすニム。

 だから扱いが雑すぎんだっての。

 

「貴公ら、すまぬが時間がないのでな。すぐに席についてくれ」

 

「あ、ああ。すまん」

 

 ハシュマルに言われ見回してみれば、他の面々は既に着席ずみ。

 俺と二ムも慌てて手近な椅子へと腰をおろした。

 

「ほら、ご主人がもたもたしてるから怒られちゃったじゃないっすか」

 

「うるせいよ、お前のほうだろうが」

 

 まったく、自分のこと棚に上げて何でもつっかかってくるんじゃねえよ。

 俺は二ムを横目に見ながら、改めてテーブルを見た。

 大きめの長方形の机の一番上座と思しき所には王様の姿が。

 で、俺と二ムは一番下座なわけだが、正面にアレックス君がいる。

 なんだこの配置。とりあえずリーダーなら王様のとなりに居ればと思うのに、こんなに離れて座ったということは相当王様が嫌いということか。

 なんだ? 反抗期か?

 では、王様の脇はと言えば、ハシュマルとヒューリウス、それにハシュマルの部下と思える眼光するどい騎士が5人座っていた。うん、こっちは相当な体育会系っぽいな。

 それとその脇には、オルガナがフードを深く被ってちらりちらりと俺を見ながら小さくなってちょこんと座っていた。

 なんでお前はそんなに怯えてんだよ。

 

 がたりと音がして、そっちを見れば、ハシュマルが立ち上がって王様へと頭を下げているところだった。

 そして言う。

 

「さて! 時は満ちた。すでに陛下の御身は我が方にあり、賊の片割れ、クスマン皇子殿下もこの通り手中にある。今こそ己の私欲によって国を牛耳る逆賊エドワルド第一皇子殿下を誅するとき! おのおの方! 出陣である!!」

 

「おお!!」

 

 なんだその掛け声は! 赤穂浪士かよ。

 もはや、作戦確認もへったくれもあったものではない。

 一気呵成に兵を鼓舞するだけですぐにでも飛び出そうとしているハシュマルへと、俺はありったけの声で叫んだ。

 

「ちょ、ちょっとまてよ!! だからまだ行くのは早いと言ったろうが!!」

 

「何をいうもんじろう殿。もはや我らに一刻の猶予もないのだ。今まさに多くの民が飢えに瀕して息絶え続けている。即断即決。今こそ悪を葬る好機よ」

 

 そうだそうだといきり立つ兵達だが、俺はそのあまりのむさ苦しさにやられそうになるのに耐えつつ、続けた。

 

「だからその前に確認だと言っているんだよ。ちょっとは落ち着けよ」

 

 部外者が余計なことをとさらに息巻くハシュマルの部下たちだったが、その人物の一声で一瞬で落ちつきを取り戻した。

 発言したのはとうぜんこいつだ。

 

「言ってみればいい、紋次郎殿。貴殿の考えとやらをな」

 

「ふん」

 

 王様が静かに言ったのを聞いたアレックス君が、鼻を鳴らしてそっぽを向いた。

 いや、俺は見ていたんだが、王様とほぼ同じタイミングで何を言おうとしていたよな。つまり被っちまって恥ずかしかったってとこか。まあ、見ていなかったことにしてやるよ。

 

「ご主人、今アレックスさん、もろ被りでしたよ」

 

「うるせいよ」

 

 空気読めニム。

 俺はニムの頭をわしゃっと押し込んでから口を開いた。

 

「あー、お前らは国を救うと言うが、何から国を救うんだ?」

 

 俺がそう言った瞬間に、ぽかんと口を開ける騎士たち。

 その顔は何か呆れた感じであったのだが、次第と怒りの面相へと変化しはじめていた。

 いや、おこるんじゃねえよ。

 

「貴様、いったいなんの話を聞いていたのだ! 我らの敵はいまやエドワルド皇子殿下ただ一人!! 皇子殿下を排斥し、陛下へと親政を取り戻すことが目的ではないか!!」

 

 目的ではないか!! って息まかれたってそんなこと俺は知らねえよ。

 っていうか、そもそもそれが目的ってんなら……

 俺は頭を掻きつつ、どう話したものか思案してから、声に出した。

 

「なあ、お前ら……『賢者(ワイズマン)』の事を知っているか?」

 

「|賢者『ワイズマン』……? なんのことだ?」

 

 ハシュマルの部下の一人が怪訝な顔を俺へと向けてきた。

 同時に、オルガナも目を見開いてこっちをみていたわけだが。

 まあ、その反応か。知らないというわけね。

 

「じゃあ、今度は『魔王』のことはどうだ? 東の魔王とかの巨獣のことじゃねえぞ。世界を終らせる『魔族』の王、魔王のことふぁ。だったら『勇者』のことはどうだ? 魔王を討ち滅ぼす勇者のこと。ん? どうだ? 誰か知らねえか?」

 

 俺がそう口にすると、その場の全員がただ黙って訝しい瞳を俺へと向けてきていた。

 だから俺はオルガナへと言った。

 

「お前な……なんで、お前の仲間のはずのこいつらが、魔王とか勇者のことを知らねえんだよ。お前はそのことがあったからこの国でこいつらに援助していたんじゃねえのかよ」

 

 そう言った時だった。

 

「黙れ賢者(ワイズマン)!! わ、私はもうお前には二度と騙されない!!」

 

 そう言って、ローブを翻したオルガナは、手に白銅色の杖を振り上げて俺へと突き出していた。

 そして口中でなにかの呪文を呟き始めた。

 俺はだから、すぐに二ムへと目配せをしたわけだが、それよりも早く二ムは動いていた。

 

「おっと、オルガナさん、それはないっすよ。ご主人ヴィエッタさんたちのおっぱいがないと、本当に何も出来ないただのオナニストなんすから、いきなり魔法は止めてくださいよ」

 

「言い方!!」

 

 ニムがオルガナの背後からぎゅうと抱きしめるようにして持ち上げて、両手を万歳させたままで動きを封じた。

 それを見た騎士たちが全員、がたがたっと椅子から立ち上がって剣を引き抜いたわけだけど、俺はそれにかまわずに言った。

 

「悪いが俺は賢者(ワイズマン)じゃねえよ。そもそもお前らの目的なんか興味も無かったんだ。だけどな、俺はある奴から『この世界が滅亡するからなんとかして欲しい、オルガナを助けて欲しい』と頼まれたからここに来たんだ。だから少しは俺の話も聞けよ」

 

「オルガナ様を助けて欲しい? だと。いったい誰に頼まれたと言うんだ?」

 

「ノルヴァニアっていう土の……オルガナと同じ精霊神にだよ。あ、オルガナは『元』精霊神だったか」

 

 ハシュマルに聞かれそう答えた瞬間、場が静まり返った。

 王様も含めた全員が一様に驚愕していたわけだが、最初に口を開いたのはやっぱりハシュマルだった。

 

「オルガナ様が……『精霊神』様? そ、そんなことが……」

 

 わなわなと震えるハシュマルに続いて、少し青ざめて口を開いたのはヒューリウス君。

 

「ま、まさか……、異教に伝わる、古代天地創造の神、『七大精霊神』ということなのですか? この世界にいきわたる『六種類のマナ』の産みの親にして、マナの化身とされる伝説の神々。神教において禁忌とされた異神が実在していたと……いや、まさか……」

 

 ん? なんだか驚き方が半端ではない気がするのだが……

 別にこの世界はファンタジーなのだし、精霊の恩恵だって貰い放題なのだから、神様がいたっておかしくはなかろうに……? そう思いつつ二ムに抱きしめられたままのオルガナを見れば、彼女は顔を真っ赤にして俺を睨んだ。

 

「ワイズマン!! おまえはなぜいまそんなことを暴く? なぜノルヴァニアの名を騙るの? お前はそうやってまた人々の心を惑わせて混沌へと落とそうとしているだけではないか!! きっとノルヴァニアの理力も貴様によって……くっ……許せない!! 私はお前を許さない!!」

 

「はあ? 騙るも何も、ノルヴァニアはそこにいるじゃねえか。この部屋の外にいるぞ! お前精霊神辞めて、目が腐っちまったんじゃねえか?」

 

「まだ言うか!! この外道!!」

 

「ちょっと、待て! お待ちください! 精霊神とはどういうことなのです? 世界が滅ぶとは? 魔王とは? 勇者とは?」

 

「…………っ!?」

 

 そうハシュマルに尋ねられて絶句するオルガナ。

 こいつがなんで黙っていたのかは、分かっている。

 明日世界が滅びますと言われて正気でいられる人間はまずいまい。

 少なくとも取り乱すことは当然で、人によっては発狂してしまうかもしれない。もしくは全く信じないか。

 どちらにしても、世界が終わりますなんて吹聴するような奴の話なんか素直に聴くやつはいないということだ。

 だからオルガナは自分の胸に破滅の運命をしまいこんで、彼らにとっての当面の目標に絞って援助を行ったということだろう。

 国を取り戻すという大義こそが、彼らにとっての希望だったのだろうから。

 

 けどな……

 

 そんなのは優しさでもなんでもない。

 ただ、諦めているだけだ。

 

 結局破滅が待っているんだからな、だったら無理矢理にでも一蓮托生させるしかねえだろ。

 そもそも俺だって良く分かってねえんだからよ。

 

「あのなあ、これを俺の口から話しても何も説得力はねえだろうけどな、とりあえず聞きな。この世界はもうじき滅びる運命なんだとよ。間もなくこの国で魔王が誕生して、その力で人類は滅亡することになるらしい。だが、それに抗う存在として勇者がいるってことで……他にも、救世主だとか、聖戦士だとか、さっき言ってた賢者(ワイズマン)だとかがいるってことで、俺はこの話を、ノルヴァニアって言う土の精霊神を自称するやつから聞いてな、そんで元精霊神のオルガナが、その破滅から世界を救うべく頑張ってるからそれを助けてあげて欲しいと俺は頼まれたんだよ、その夢の中でな。ま、そういうことなんだが、理解したか?」

 

 何一つ包み隠さずに話した俺に向けて、ハシュマルの部下連中はいよいよ怒り心頭と言った表情になって睨みつけてきた。

 

「おのれ貴様!! いったい何をほざくかと思えば、そのような戯言を!!」

「世迷い事で我らを誑かせるとでも思ったか!!」

 

 ほらこれだ。まったく信じてくれやしない。

 

「ご主人、それワッチが聞いても頭おかしいんじゃないかって疑っちゃいますよ」

 

「まあ、お前に言われるまでもなく、俺自身みょうちきりんな話をしている自覚はある」

 

「自覚症状のある嘘っすか!! いい迷惑っすよ!」

 

「うるせい! 誰が嘘を吐くか!」

 

 再びニムの頭をぐりぐり押し返していると、ハシュマルと王様が比較的落ち着いた表情でオルガナを見ていた。そして、口を開いたのは慌てた顔になっていたアレックス君だ。

 

「オルガナ様! 今のあの男の話は真実なのですか?」

 

 彼女へ詰め寄ったアレックス君に、オルガナは困惑気な顔をして見せた。

 それから、何かを言おうとしているのか、口を微かに動かすのだが、言葉は全く出てこない。

 うーん、こいつもどこまで話していいのか悩んでいるってことなのか?

 もういっそ、全部話した方が楽なのによ。

 

 そんな時だった。背後から笑い声が聞こえてきたのは。

 

「くっくっく、くくく。くはははは」

 

 足元の方から聞こえてきたのは、男の笑い声。

 そう、声の主は、簀巻きなって床に転がる大男、クスマン皇子だった。

 奴は、堪えるように体を震わせて笑っているのだが、もともとデカいせいか小声もデカい。

 

「くくく。お前ら、いったいなんの話をしているかと思えば、そんな話かよ。何を今更そんなこと……くくく。ばーか。お前らはそんなことも知らねえで、俺や兄貴に歯向かおうとしてたのかよ。とんだ間抜けどもだ。くははは」

 

 その笑いにハシュマルの部下たちは剣の柄に手を当てたままで向き直る。

 クスマンは笑い乍らも縄を解こうとしているのか、余裕の笑みのままでぎしぎしと身体に力を込めていたが、まったく縄が解けずにそのうちに余裕の表情ではなくなってきていたのだけども。

 いや、その縄は無理だと思うぞ。何しろ、俺が土魔法で拵えた、タングステン鋼で編み込んだワイヤーだからな、そのワイヤー一本でも数トンの重さに耐えられる。編み込んであるんだからもう人間に切断は無理だと思うよ。

 

「クスマン……兄。今の話はどういうこと? 兄たちは何を知っているんだ?」

 

 少し冷や汗を垂らし始めていたクスマンだが、今の声に動きを止めてそっちを見た。

 

「アレックスか。お前、生きていたんだな」

 

「…………」

 

 その声にアレックス君は沈黙する。

 ん? 生きていた?

 どういうことだ?

 何か死んじゃうような病気にでもかかっていたのか? アレックス君は。初耳なんだが。

 何もしゃべれなくなってしまったアレックス君。

 クスマンは再びその顔に笑みを浮かべて話し始めた。

 

「まあいいさ。今生きていたって関係はねえ。どうせ死ぬんだからな、お前らは。いや、お前らだけじゃない。この国の人間は全員な。揃いも揃って間抜けばかりの役立たずの罪人ども。お前らは死ぬことこそが救いなんだ。死ね! とっとと死ね! 全員死ね!! くはははは」

 

 その哄笑に、全員が固唾を飲む。

 この男が何を言わんとしているのか、本当に理解できなかったから。

 ほんと、何を言いたいんだ、こいつは。

 

「あのなあ、皇子様よ。罪だ救いだ言っているけどよ。お前はいったいなんの話をしているんだ?この国の人間全員死ねだ? その中にはお前だって含まれるんじゃねえのか? お前は皇子なんだから」

 

 それにクスマンは俺を見上げつつ言った。

 

「間抜けがここにもいやがる。ばーか。殺す側の俺が含まれるわけねえだろう。もっとももし死んだとしてもそれまでだってくらいの覚悟はとうにできている。間抜けに言われるまでもなくな」

 

「ああ、そうかよ。だがよ。そんな簀巻きで何をどうしようってんだ? お前さっき二ムにコテンパンにのされてそうったんじゃねえか。負け犬の遠吠えにしか聞こえねえよ」

 

「ふん。俺のことはどうだっていいんだよ。もうエドワルド兄貴が動いているし、そもそももう終わっているんだ。『死者の軍団』と『終末の巨獣』がすでに動きだしているんだ。もう間もなく全員死ぬ」

 

「あ? 死者の軍団って死者の回廊のアンデッドのことか? で、終末の巨獣って金獣のことだよな、キングヒュドラとヘカトンケイル? それ悪いけど、もう全部倒しちゃったんだが」

 

「は?」

 

 クスマンがにやけたまま変な声を出した。


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