救世ノラヴドール~俺とセクサロイドの気ままな旅~ 作:こもれび
「おまえっ!! い、今何と言った!!」
「は? だから、倒したって……アンデッドと金獣をな」
「た、倒しただと!? だれがっ!!」
「だから俺らがって言ってるだろうが」
そう俺らだ。
死者の回廊のアンデッドの殆どを倒したのはニムで、キングヒュドラにとどめを刺したのはヴィエッタ。それは間違いはない。
俺だって、使徒だかなんだかっていうあの人形みたいな化け物と、イケメンちょび髭のべリトルにとどめを刺したわけで、まったく活躍していないわけじゃないしな。レベルはひとつも上がらなかったけれども。
俺が腕を組んでそう言い放ったのを、床にころがりつつ見上げてくるクスマンは暫く茫然となって口を開いたままだったのだが、少しして肩を小さく揺らしながら、くっくっくと笑い声を上げ始めた。
なんだよこいつ、まったく信じていやがらないな。
「お前よぉ。何を口走るかと思えば、そんな戯言を。いいか? 人類を滅ぼす『魔王』の配下たちと、世界そのものを喰らうという終末の獣の話をしているんだぞ? それを言うに事欠いて、倒した!! 倒しただって!? くはは。こいつはお笑いだぜ。下らねえ妄想垂れ流しやがって、この馬鹿が」
そう言って、笑いが止まらなくなっているクスマンだが、それを見ていた一同が今度はこの俺のことを訝しい目つきで見つめて来やがった。
おいおい、こいつらもめちゃくちゃ疑ってるのかよ。
「ご主人!! 全部妄想だったんすか!?」
「あほか! てめえもいただろうが。なに、他人事にしようとしてんだよ」
「でしたでした!! えへへ」
えへへじゃねえ、この馬鹿垂れが。
能天気に笑うニムを無視して俺はクスマンを見下ろした。
「お前が信じようが信じまいがどうでもいいけどな。少なくとも、この街にアンデッドも金獣ももう来ねえよ。アンデッドは文字通り今は骨の残骸になれ果ててるし、金獣も細胞が自壊して、それこそ骨も残っているかどうか。それと、そいつらを嗾けようとしていたべリトルとかいう奴も殺したからな。とりあえず今すぐあれを全部復活させて攻めてくるとか、そういうことはねえよ。多分」
そう多分だ。
魔法のあること世界で、絶対ということはあまりない気がする。何しろ死んですぐなら生き返らせることも可能だしな。俺の知らない未知のパワーで、あのアンデッドの大群や、金獣キングヒュドラが完全復活しないとも限らない。
まあ、ほぼあり得ない話ではあるだろうけどな。あんなのが何度も復活できるようなら、この世界はとっくの昔に塵芥になっているだろうから。
そこまで言った時だ。
クスマンはその表情をこわばらせた。
そして、小さく口を動かした。
「べリトル……だと? まさか……お前、本当に」
なんだよ、べリトルの名前で反応しちゃうのか。あいつそんなに有名人だったのか?
「ああ、まあなんだ。別に殺そうと思っていたわけじゃねえんだが、あいつがあんまりにもしつこかったもんでな。放っておいたらどこまでも追いかけてきそうだったから止むを得ずってわけだ」
あのターバン野郎はこともあろうに金獣を蘇らせやがったからな。
大銀河連邦裁判所に起訴されたら、その事実だけでも死刑確定なわけで、今回は私刑になってしまったけどこれについて俺は無罪確定だ。金獣災害関係の殺し合いについては、超法規的措置がまかり通るからな。
俺達が処分した金獣の骸が存在する以上俺の言い分は絶対だ。
いずれにしても、そのことで俺がこの皇子様からとやかく言われる筋合いはねえ。
そう思い、クスマンの顔を覗き込んでみると、やつは真っ青になって項垂れた。
「ま、まさか……魔族を……できるわけがない……あの、異形の魔人を……」
「はあ? お前は何を言ってんだ?」
そう声をかけてみれば奴はがばりと顔を上げた。
「き、貴様はいったいなんなんだ! なんで俺と兄貴の計画を知っている? なんで魔族のことを知っている? なんで、アンデッドを、終末の獣のことを……」
「ぶはっ! き、汚ねえな、唾飛ばすんじゃんねえよ! 誰が知るかよ、お前らのことなんか! だいたいな、巻き込まれてんのは俺の方なんだよ。魔族だ、魔人だ、アンデッドだ? 神だ、精霊だ、精霊神だと、お前らが勝手に俺にいろいろ押し付けてきてるだけじゃねえか!」
「まあ、ご主人が勝手にちょっかい出しているって言えなくもないっすけどね」
「うるせいよニム! 暇つぶしに手を出しまくるのはお前のほうだろが」
「でしたでした」
「つまりどういうことなのだ?」
俺とニムの会話に割って入ってきたのは王様だ。
ここに来て出た話に理解が追い付いていないようで、その顔は焦燥感が漂っていた。
それは、アレックス君や、ハシュマルのおっさんやその部下の騎士たちも同様の様で、考え及ばず、もはや何一つ声を出せないでいる感じだった。
俺はここで出た話を一気に頭の中でまとめ上げる。
それから、ここにいる悩まし気な顔の連中に向かって教えてやることにした。
「つまりだな、ここにいるクスマンとエドワルドって二人の皇子は、アルドバルディンのアンデッドと金獣たちを使ってこの世界を滅ぼそうとしたってことだ。理由は良く分からんが、多分何かの『私怨』からだろう。あの魔族のべリトルか……その仲間にそそのかされてその気になったわけだな。魔族って奴はマナを操る得体の知れない存在で、連中はどうやら『使徒』って奴を蘇らせようとしていたわけだが、使徒は複数いるらしい。その中の第四使徒って奴を俺は破壊したんだが、おそらく、今回のこの皇子様たちを操った理由もその使徒と……それと奴らのボスである魔王の復活……その辺と関係があることのように思う。でなければ、わざわざべリトルたち魔族がこいつらに金獣とかの話をするわけがないからな。話は全て繋がっているわけだ。『使徒』、『魔王』……『勇者』、『賢者』、『聖戦士』と『救世主』がやっぱり関係しているのだろうな。『ワルプルギスの魔女』の最期、世界滅亡の引き金ともされる魔王の存在と、それを防ごうと立ち回っているそこのオルガナ。お前のせいで『世界から失われた七つ目の魔素』と残された精霊神達の今の状況と、この世界の今の現状を再度確認をしてだな……ん?」
顔を上げてみれば呆気にとられた面々の顔。
俺はそいつらを一通り見回したあとで聞いた。
「どうした? 何かわからないところでもあったか?」
そう尋ねてみると、その場の誰もが口を開かない。
みんなぽかんとした顔になっていた。
「どした?」
そうもう一度声をかけると、今度はこの部屋の入口に立っていた枢機卿のヒューリウスが柔らかく微笑んで口を開いた。
「そのう……紋次郎様のお話があまりに突飛すぎて、皆様理解が追い付いておられないのだと思います。私もなのですが」
「そうか? そうなのか、うーん」
言われてみれば、俺はここに来るまでに全て体験しているから分かっていることでもあるけど、こいつらは見たわけではないし、スグに理解できないのも致し方ないのかもしれない。
だけど、これ以上簡単には説明なんて出来ないしな。
そう悩んでいた時のことだった。
『きゃはははははははははは! やっとよ。やっと追いついたわ、ダーリン!』
「誰だっ!!」
天井の方から反響するように女の声が響く。
それとほぼ同時に、剣を引き抜いたハシュマルの部下たちが一斉に立ち上がった。
『あらあら、本当に物騒なのねぇ、あたしはただ……ダーリンと逢瀬をしたかっただけなのにぃ」
だんだんと声が明瞭になったかと思うと、俺のすぐ目の前、大きな円卓の上に女が座って俺を見下ろしていた。
まだ他の連中の多くは上の方を見ていたわけだが、俺とニムだけはその女のことをまっすぐに見ていた。
「あ!! ボンテージ痴女の人!!」
「誰が痴女よ!!」
ニムのコメントに速攻でツッコミを入れるボンテージ女。
そんな彼女に向かって、早速俺は呪文の詠唱に……
「ちょまっ!! 待って!! 待ってよ、待ってください。お願い待ってダーリン!! もう嫌!
「知らねえよ、そもそもお前が先に俺に難癖つけてきたんだろうが。俺に話すことはねえよ、はい、お帰りはあちら。それとも上にするか?」
「だから嫌だってば!! 本当にあなたに会いたくて来ただけなんだってば!! ね、なんでもするし、なんでもしてあげるからぁ。ね? ダーリン、おねがいぃぃぃ」
ボンテージ女はその肢体をくねらせながら豊満な身体で俺に抱き着いてきやがった。
が、飛びつかれる寸前にニムが俺の襟首をつかんで持ち上げたもんで、女はそのまま床へとダイブ……転ぶかと思いきや、くるりと小さく回って床に着地していた。
「抜け駆けはだめっすよ? 抱き着くなら、まずはわっちらの了解をとってからです」
「もぅ、いけずぅ」
「なんで、お前らの了解が必要なんだよ」
「ワッチが一番ってことっすか?」
「ちげーよ、近寄ってくんな暑苦しい」
抱き着こうとしてくる二ムを押しのけると、俺を見上げていたボンテージ女がぱんぱんと尻を叩いてスックと立ち上がった。そしてくるりと向きを円卓の方へと向けた。
ヒールが高いせいもあって本当に背が高いこの女……背だけならクスマン皇子と良い勝負なんではなかろうか?
そんな奴は、自分の胸に手を当てながら言った。
「一応自己紹介しておくわね。はじめまして、私の名前はスペリアネス。人は私のことを破滅の魔女なんて呼んだりするのよ、失礼しちゃうわよね。でもいいの、もう気にしないから。だぁってえ、まさか、私をこぉんなに弄んじゃう男がこの国にいたんだものぉ。ねえ、私と『結婚』しましょうよ。そしたらいくらでも貴方に尽くしちゃうからぁ。まずは貴方の『敵』を皆殺しにしてあげるわ」
「「「「「「「「は?」」」」」」」
しなをつくって俺へと熱い眼差しを送ってくるボンテージ女のその発言に、床に転がるクスマンも含めて、その場の多くが大口を開けて絶句した。
「おっと、ここで新嫁候補爆誕っすか!! いったいご主人は誰を嫁にするのかっ!!」
「うるせいよニム。嫁、関係ねえだろが」
小指を立ててマイクパフォーマンス風に身を乗り出していたニムの頭をぺチリと叩いくと、ニムは「あうち!」と叫んで頭を押さえた。
円卓に居る一同は茫然としているが、床に転がっているクスマンだけはそうではなかった。
怒りの面相のままに血管が破裂しそうなくらいに真っ赤になって、全身の筋肉を漲らせている。
「て、てめえ。俺達を裏切るっていうのかっ!」
「あら殿下。私は好きに人を殺して良いって言われたから了解してあげただけで、一度も仲間になるなんて言っていないわ」
「このやろう……ぶっ殺す!!」
たわわな胸を持ち上げるように腕を組んだスペリアネスが、ツンと顎を上げてクスマンを見下した。
「ほほほほ……やれるものならやってごらんなさいな。所詮あなたなんて夜の性処理要員程度の価値しかないのだから」
「ぐぅおおおおおおおっつ!!」
笑うスペリアネスの言葉にクスマンがタングステン鋼簀巻きのまま海老ぞりになって暴れ出した。まったく脱出できそうな気配はないのだが、巨漢で暴れまくっているせいで、地響きがひどい。壁沿いの棚から飾ってある花瓶や置物が転がり落ちてきそうだ。
っていうか、ひょっとしてこいつら、が、がががが合体ずみなのかよ!?
なんというか、そういう男女の関係なのかと一度理解してしまうと気恥ずかしくて直視できなくなるのはなんでなのか。
「それはご主人が童貞だからっすよ」
「だから人の思考を読むじゃねえよ。ってか、分かっても口にするな」
「はーい」
ニムの軽い返事にもはや怒りもわかないままに俺はにこやかに俺にすり寄ろうとしてくるスペリアネスに言った。
「ならお前、そこの空いている席に座れ。なんでも俺の言うことを聞くんだろ? そう言ったよな」
「ええ、もちろんよ!」
「んな!? も、紋次郎どの?」
驚愕するハシュマルやその部下たちのことはガン無視して、俺は空いていた俺の隣の椅子を引いく。
彼女は頬を紅潮させたまま俺の方を向いて座った。
「こっちを見るな。前を向け」
「い、や」
むふふんと鼻息軽く拒絶した彼女のことも無視して俺は改めて席について口を開いた。
「さて話を戻そうぜ。この際な、お前らの言い分なんかどれもこれもどうでもいいんだよ。今問題なのは、この国の人たちを助けるにはどうしたらいいかってことだけだからな」
俺がそう言えば、突然その場の全員が口を開いた。
「そのためにエドワルド皇子とクスマン皇子を倒さなければならないと言っているのだ!」
「エドワルド兄がお前らを皆殺しにするに決まっている!」
「ええ? 貧民なんて何人殺したってかまわないじゃなーい!」
「国王陛下に玉座を返すのだ!」
「私の命を持って償……」
「民を守るのが第一……」
「ワイズマン、お前の言など……」
「うるせー!!」
俺がそう怒鳴った瞬間、隣の席のニムがすっと立ち上がった。
それを見て、みんなが一気に静まる中、ニムは人差し指をピッと立ててにこりと笑った。
「じゃあこうしましょう。みんなでこの国を壊しちゃいましょうよ。どうせもうぐちゃぐちゃなんですから」
「え?」
何を言っているんだこいつと、全員の目が語っていた。